マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第99話 幕引き

 一層の清水の森で水着に着替えた俺達は、水上バイクに乗り狭間浅海(はざませんかい)にある出口のダンジョンゲートを囲んだ港まで戻ってきた。

 

 ゲート封鎖の影響だろうか、朝とは違って港にはほとんど人は見られない。

 ドーナツ状をした人工島の中央にある、海水プールの付近に待機していたマーメイドが俺達を見て安堵の表情を浮かべる。

 

「ギザード様、ご無事で何よりです」

「外の様子はどう?」

「それはもう大変なことになっていますよ」

「だろうね。さて、ここからが正念場だ」

 

 ギザードは両翼で自分の顔をパンパンとはたくと、キリッとした顔をして海水プールに飛び込んだ。

 俺達もマスクを付けてそれに続き、海中のゲートを潜ってダンジョンの外に出た。

 

 海水プールに沈んだ階段をゆっくりと(のぼ)って中庭広場の入口の真正面に躍り出た俺達を迎えたのは、ざわざわとした観衆のざわめきの声だった。

 

 中庭広場の海水プールの周囲はマーメイドの魔道士(ウィザード)達が張った結界で守られていて、その外は集まった野次馬でごった返していた。

 そして吹き抜けの上からは迷宮塔イーラの住人達がこちらを見下ろしている。

 

 結界を(へだ)てた向こう側、俺達のすぐ目の前に立っているのはグラサンを掛けたオーガやバードマンに護衛されている、赤い羽毛をした一人のハーピィ。

 イーラのダンジョンマスター、セシリー・イーラだった。

 

「母上、ご機嫌(うるわ)しゅう。あなたのギザードが帰ってまいりましたよ」

 

 水も滴るいい男がキザに挨拶をすると、セシリーはその美しい顔を歪ませて憎しみを(あら)わにした。

 

「ギザード、ギザード、ギザード! 愚かな息子……よくもこのイーラの伝統に泥を塗ってくれましたね! 今すぐそこから出てきなさい、その首を叩き落としてあげます!」

「ああ、そんなに怒らないで。化粧にヒビが入ってしまいますよ」

「私を馬鹿にしているのですか! こんなものをばら撒いたのはあなたでしょう!」

 

 怒りの余りに火の鳥と化したセシリーは、燃え盛る鳥足で足元に落ちていたギザードの写真が載ったビラを踏みにじった。

 

 中庭広場のあちこちに散らばっているその政治ポスターみたいなビラには大きく「イーラに新しい風を ギザード・イーラ」と書かれていた。

 ビラの下の方には「リザーブマスター就任記者会見 本日17時より迷宮塔中庭広場にて」とも書かれている。

 

 これは昼のゲート封鎖と同時にオーブリーの友人の新聞記者達がイーラ中にばら撒いたものだ。

 

 ギザードのリザーブマスター就任を広く世間に知らしめて既成事実を作り、衆人環視の中で母親を論破して政治的勝利を目指す。

 それが彼の考えた、血を流さずに代替わりを済ませる唯一の方法だった。

 

「馬鹿になどしてはいませんよ。僕はただ、このイーラの為に必要なことをしたまでです」

「必要? 私欲でダンジョンマスターになることの何が必要なものですか!」

「では僕以外の誰が代わりになれるというのです。オーブリーは自由を求めて出奔(しゅっぽん)し、残った妹達は母親から押し付けられた役割に苦しみ続けている……」

 

 フェニキス族の化身スキルは未熟な者が扱えば、その炎が自らを焼き傷付ける。

 火傷(やけど)しては魔杖(まじょう)で回復し、また火傷(やけど)する……辛い修行は魔力が尽きるまで続く。

 一人、また一人と脱落し、残ったのはギザードとオーブリーの二人だけだった。

 

 オーブリーの出奔(しゅっぽん)から9年が経ち、卵が産めなくなったことで自らの死期を悟ったセシリーはいなくなったオーブリーの代わりを求めて下の幼い娘達に拷問じみた厳しい修行を付け始めた。

 

 魔力が尽きたら終わりにするのが通常の修行だ。

 それでも途中で脱落する者が後を絶たない。

 でも、そこにマジックポーションがあったなら?

 

 ……心の弱い者は耐えられない。

 ギザードの妹達が限界を迎えるのは時間の問題だった。

 

「オーブリー! あの子さえ戻ってきたのならすべてが丸く収まるのです! あの子さえいなくならなければ……!」

 

 ダンジョンマスターとしての重責が一人の母親を狂気に(おちい)らせていた。

 (おきて)に依存し、固執(こしゅう)し、それを守る為ならば実の息子すら殺そうとする。

 その狂気はもはや、次代に引き継がせてはならない呪いと化していた。

 

「望まぬ者を人身供養に()べてどうするというのです! 母上はオーブリーを()()にしたいと、そうおっしゃるのですか!」

「……!」

 

 聖人とはすなわちダンジョンを憎み、ダンジョンを殺そうとする者。

 フェニキスと(つが)い迷宮塔イーラを創り上げた、天使ベリアルを殺した者。

 この世界で最も()み嫌われている者の名だ。

 

「母上、もういいでしょう。(おきて)など所詮(しょせん)は大祖ベリアルの死後に残された者達によって作られたもの、それ自体に大した価値などないのです」

 

 ギザードの聖人発言はかなりのクリティカル攻撃だったらしい。

 彼女の心情を現すかのように、その身に(まと)った激しい炎が静まっていく。

 

「ギザード、あなたはどうしてそこまで……」

 

 セシリーの問いに、ギザードはにこりと微笑んで答えた。

 

「僕はただ、子供達の将来の為により良い選択肢を残したいだけですよ。なにせ、このイーラには養わなければならない500人の子供が住んでいるわけですからね」

 

 そう言ってギザードは茶目っ気たっぷりにウィンクした。

 化身を完全に解いたセシリーは、俺達のすぐそばの水際(みずぎわ)に腰掛けて小さく手を振るテティスの姿を見つけてがっくりと肩を落とした。

 

「私の悪あがきもここまでのようです。テティス様を味方に付けた時点で、既にあなたの勝ちは決まっていたのですから……」

「母上……!」

「ギザード、あなたをイーラの次期ダンジョンマスターとして正式に指名します。私はダンジョンマスターの職権を濫用(らんよう)した責任を取って辞任しますから、後はあなたの好きにしなさい」

 

 セシリーはそう言い残すと、(きびす)を返して護衛を引き連れながら中庭広場を去っていった。

 一時は息子を憎み殺そうとした者にしては、あっさりとした幕引きだった。

 

 彼女も本当は心の底では理解していたのかもしれない。

 でもそれを認めるのが怖くて、不安で、だからこそ必死にしがみついたのだろう。

 重責から解放された彼女が去り際に見せた表情はとても穏やかなものだった。

 

 

 こうして母親と和解したギザードは、中庭広場の一角に設営されていた記者会見場で記者会見を行うことになった。

 

 ギザードはマイクの沢山乗ったテーブルの前にあるパイプ椅子に座って、集まった記者達から寄せられた質問に答えている。

 俺達はテティスと一緒に近くの関係者席に座ってそれをのんびりと眺めていた。

 

 質問の多くは今回のクーデター計画に関するものだったが、数少ない例外の一つにこのような質問があった。

 

「アモロ新聞社のオーブリーです。今回兄さ……ギザードさんは次期ダンジョンマスターに就任してこのイーラを主導する立場になったわけですが、今後の展望について何か考えていることがあればお聞かせ願えますか?」

 

 今回のクーデター事件の元凶がしれっと取材に参加していた。

 一応の決着は着いたとはいえ、余りにも迂闊(うかつ)すぎやしないだろうか。

 後で母親にとっ捕まってサブマスターにされても知らないぞ。

 

「僕は将来的に行われるサクレアのワールドツアーのコンサート会場の一つとして、この迷宮塔イーラに誘致したいと思っている。僕は大のサクレアファンでね、実は今回のクーデターも半分くらいはそれが目的なんだ」

 

 ギザードの爆弾発言で会場中に大きなどよめきが広がる。

 それも当然で、サクレアのワールドツアーが行われるという情報が開示されたのは今回が初めてのことだったからだ。

 

「サクレアのワールドツアー!?」

「それは本当ですか!?」

「情報源を、情報源を教えてください!」

 

 オーブリーの周りにいた記者達が事の真偽を確かめようと詰め寄せるが、それを周囲にいたガードマン達が抑えている。

 

「抑えて、抑えて……。僕もつい先日、友人から聞いたばかりの話だから詳細は知らないけどね。それでも、このアモロ共和国でサクレアのライブが行われる可能性は非常に高いものになると僕は考えている」

「それはなぜですか!?」

「彼女の恋人がアクアマリンに住んでいるからさ。みんなが知っている通りにね」

 

 彼の言葉に唖然(あぜん)とする記者達に、ギザードはパチリとウィンクしたのだった。

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