待ち人来たりて【完結】   作:焦げうさぎ

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神戸新聞杯
映像で見ましたが、あの最後の追い上げ凄いですよね


神戸新聞杯 〜最後まで駆け抜けて〜

 9月14日、小雨の降る阪神競馬場。11人のウマ娘の姿がそこにはあった。

 神戸新聞杯 芝2000メートル

 マチカネフクキタルにとって新たな門出となるレースであり、絶対に負けられないレースでもあった。

 

「マチカネフクキタル、ずいぶんと成長したと思わないか?」

 

「ああ、東京優駿の時と比べてずいぶんと筋肉をつけてきている。それになんだか纏っている雰囲気が違うな。前はなんだか重荷を背負っているような感じだったのが、晴れ晴れとしてる。心身ともに完璧な仕上がりになってるな」

 

 フクキタルの姿を見た観客から口々にその成長を驚く声が出てくる。この夏合宿でフクキタルは飛躍的に成長した。特に末脚、フクキタルの最大の武器を重点的に鍛え上げ、最後の追い上げでフクキタルに並ぶものはないと言えるほどになっている。それだけでなく、レースを走り切るだけのスタミナ、序盤のレース運び、終盤のコース取りなどもレース直前までトレーニングをして仕上げてきた。

 

「サイレンススズカも負けてないぞ。マチカネフクキタルに負けず劣らず成長してるように見える」

 

「前々から強いと思っていたがけど今日のレースはさらに強くなった姿を見せてくれそうね」

 

 サイレンススズカへの観客の評価も高かった。もともと強かったサイレンススズカが更に強くなったのだ。後ろのウマ娘を置き去りにするその足はさらに速く成長しているだろうと。

 

 

 

 

「こんにちは、フクキタル」

 

 レースへ向かう直前の地下バ道、サイレンススズカとマチカネフクキタルが対面していた。

 

「こんにちは、スズカさん」

 

 このレースの一番人気のスズカと二番人気のフクキタル、人気ではスズカが勝っているもののどちらが勝ってもおかしくない。どちらが勝利するのか、今日のレースの観客の興味はそこに注がれていた。

 

「今日こそスズカさんに勝たせてもらいますよ!絶対に追いついてみせますから!」

 

「ええ、先頭で待ってるわ。フクキタル、あなたが来るのを。だけど、私も負けるつもりはないわよ?」

 

 フクキタルとスズカ、どちらもやる気は絶好調の様だった。

 

「行きましょう、フクキタル。私たちの勝負の舞台へ」

 

 

 

 

 

『各ウマ娘、準備が整いました』

 

(お姉ちゃん、トレーナーさん、見ててください。私の走る姿を)

 

 黄色のクローバーの髪飾りを触り、フクキタルはスタートの姿勢をとる。

 

『スタートしました。11人がこれから第1コーナーに向かっていきます』

 

 そして、レースが始まった。

 

『内からキタノチュウガエリが行きますが、外からサイレンススズカが行きました。一気に先頭に行きます!』

 

 スタートからスズカは前に出ていき、先頭をとった。ここからどんどん飛ばしていき、ゴールまで駆け抜ける。彼女の得意の走りだ。

 

『サイレンススズカを先頭に二番手はキタノチュウガエリ、三番手にテイエムバレット。その後は5人ひと塊、キヌノセイギは最後方で待機です』

 

 第一コーナーを抜けたところでサイレンススズカを先頭にした三人と残りの八人の集団に分かれる。マチカネフクキタルは集団の中でも後方につき、自分のペースで走っていく。

 

(やっぱり、スズカさんが先頭に行きましたね。でも、ここで焦ったらだめです。勝負を仕掛けるのは最後の直線、それまではスズカさんのペースに惑わされないようにしないと)

 

 レース前にトレーナーと決めた作戦、スズカの走りに焦らず、周りが焦ったとしても自分のペースで走り、最後の最後に後方から一気に追い抜くというものである。この作戦のためにフクキタルは決して、ほんの一瞬でもスズカのペースに焦ってはいけない。プリンシパルステークスと夏合宿での模擬レース、そのどちらもほんの少しの焦りでペースが乱れ、追いつくことが出来ていない。そのペースの乱れはすぐにフクキタル自身が気づき、修正するのだが、その時点でフクキタルがスズカに追いつくことはできない。

 

『サイレンススズカが飛ばしていきます。リードは三馬身くらいと広がって2コーナーから向こう正面へ』

 

 順位に変動がないまま2コーナーを11人は駆け抜けていき、先頭、中団、後方の三つに集団が分かれる。フクキタルは後方の一段の中でも後ろ、キヌノセイギに半馬身差の後方二番手に付けていた。

 

「今のところ焦ってる様子はない。このままいくよ、フクキタル」

 

 ここまでは作戦通りに走っているフクキタルにトレーナーは声援を送る。問題はこの後だ。

 

『向こう正面を抜けて第3コーナー、サイレンススズカのリードはおよそ四馬身。順位は変わらないままレースが進んでいます。後ろの娘たちはこれから仕掛けていくことになります』

 

「ここから追い上げる!」

 

 マチカネフクキタルの後ろにいたキヌノセイギが一気に追い上げ、中団に迫る。

 

「行かないと!」

 

「はあああああああ!!!」

 

 それに合わせるかのように他のウマ娘たちも加速を始めた。

 

『キヌノセイギがスピードを上げ、後方から一気に中団へと接近してまいりました!ですが、マチカネフクキタルは相変わらず最後方です』

 

 周りのウマ娘たちがどんどん先に進んでいき、フクキタルは後方に取り残される。

 

「まだだぞ、フクキタル...!」

 

 だが、フクキタルの仕掛けどころはここではない。あと少し、最終コーナーを越えた先が彼女の仕掛けどころだ。

 

(わかってます、トレーナーさん。周りの皆さんがスピードを上げて不安ですが、大丈夫です。ここを越えた先で一気に仕掛けます!)

 

 フクキタルのペースは少しも乱れていない。周囲に惑わされることなく、自分のレースができている。

 

『さあ、サイレンススズカが先頭で直線に入ります!』

 

「ここです!」

 

 スズカが最終直線に入った瞬間、フクキタルは大きく外へ出た。最後の直線、邪魔するものは何もない。目指すべきは、遥か先にあるスズカの姿。ここからフクキタルの最大の武器の末脚で一気に追い上げていく。

 

「幸運が来ます、来てます、来させます!」

 

『大外からキヌノセイギ!マチカネフクキタルも外をついて上がってくる!』

 

 夏合宿で鍛えたその足でぐんぐんと加速していく。芝をえぐり、地面をしっかりと踏み込んで。

 

『残り200メートル!先頭は変わらずサイレンススズカ!強い強い!三馬身、四馬身差!』

 

(やっぱり、スズカさんは強いです。最初から最後まで先頭に立って。でも、私だって!)

 

「まだまだいきますよ!!!」

 

 200メートルを過ぎ、二番手の集団を追い抜いたところでフクキタルはさらに加速する。空気を切るように、速く、もっと速く。

 

『マチカネフクキタルがどんどん詰めてくるが、その差は二馬身!一馬身!半馬身!』

 

 最終直線まであれほど遠かったスズカの背中が今、フクキタルの目の前にある。

 

「追いつきましたよスズカさん!」

 

「来たわね、フクキタル!」

 

 レース前の約束通り、フクキタルはスズカに追いついた。そのフクキタルを見たスズカはどこか嬉しそうにさらにスピードを出す。

 

「でも、負けるつもりはないわよ!」

 

「私だって負けませんよ!」

 

 フクキタルもそれに負けないように最後の数十メートルを駆けていく。

 

「「ああああああああ!!!!!!」」

 

『マチカネフクキタルとサイレンススズカ並んだ!そして、マチカネフクキタルかわしてゴールイン!!!』

 

 そして、最後の最後でサイレンススズカを抜き、マチカネフクキタルはゴールした。

 

「はぁ...はぁ...」

 

「ぜぇ...ぜぇ...」

 

 ゴールを駆け抜け、すべてを出し尽くした二人は大きく息を吐き、呼吸を整える。

 

「はぁ...はぁ...おめでとう、フクキタル」

 

 提示板を指さしながらスズカはフクキタルに称賛の言葉を贈る。その表情は悔しそうでありながらも晴れ晴れとしている。

 提示板に表示されるのは4-8-7-5-6の数字、そして着差の1と1/4バ身。

 

「ありがとうございます!スズカさん!」

 

 フクキタルはそれに笑顔で返事をした。

 

「あなたの末脚、凄かったわ。夏合宿の模擬レースの時からさらに強くなって。私もまだまだ頑張らないと...次は私が先頭でフクキタル、あなたに勝ってみせるから」

 

 スズカはそう言い残すとフクキタルから離れていった。

 

「私もまだまだ頑張ります。次のレースも絶対にスズカさんに追いついてみせますから!」

 

 離れていくスズカの背中にフクキタルは宣言した。

 

「やりましたよ、トレーナーさん!私勝ちました!」

 

 そして、勝利を宣言するように右手を上に掲げた。

 

「やったね、フクキタル...!」

 

 それを見たトレーナーは涙ぐみながら、右手の親指を立て、前に突き出した。

 

 歓声に湧く会場を雲の隙間から漏れた薄日の光が照らしていた。

 

 

 

 

 

 




続きます
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