待ち人来たりて【完結】   作:焦げうさぎ

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京都新聞杯は今では別の月の開催ですが、ここでは変わらずに菊花賞トライアルレースのままという設定で


京都新聞杯~光の指す方へ~

 晴れ渡る10月の空の下、12人のウマ娘が各々準備を整えていた。京都新聞杯、菊花賞へのもう一つのトライアルレース。神戸新聞杯とはまた違った強豪の出走するこのレースにマチカネフクキタルの姿があった。

 

「今回のレースは前回の神戸新聞杯のサイレンススズカのように、最初から後ろを突き放していく走り方をする相手はいない。その分、神戸新聞杯とは違って最後の直線での追い比べ勝負になると思う。フクキタルの末脚で走り切れば絶対に勝てるはずだから、最後まで油断せずにいこう!」

 

 ゲート入り前、ストレッチをして身体をほぐしながらフクキタルはトレーナーの言葉を思い返す。

 

(大丈夫です、トレーナーさん。今日の私も調子は絶好調ですから!)

 

 ゲートに入る前、ほんの一瞬観客席のトレーナーとフクキタルの目が合う。トレーナーの視線に答えるように頷き、フクキタルはゲートに入った。

 

「警戒すべきはメジロブライト。あの末脚はもしかするとフクキタルと同等、いや、それ以上かもしれない。だけど、彼女のこれまでのレースを見て分かった。メジロブライトはどこでスパートを切るかの判断がまだ完璧にできていない。スパートを切るタイミングが大事だよ、フクキタル!」

 

 観客席のトレーナー、その視線はフクキタル、そして警戒しなければならない相手のメジロブライトに向いていた。

 

 

『さあ、12人がゲートに入りました』

 

 菊の舞台を目指して走る12人、それぞれの顔には不安、期待、闘志などの表情が浮かんでいる。

 

『スタートです』

 

 バンッとゲートが開いた。ほんのりと菊の香りがする京都競馬場、ゴールを目指して12人のウマ娘たちが駆けていく。

 

「あ...」

 

 レースが始まった直後、観客から驚きとも落胆ともとれる声が上がった。

 

『おっと、メジロブライトのタイミングが合わなかったようです』

 

 11人のウマ娘が好スタートを切った中、メジロブライトのみが出遅れた。このメジロブライトの出遅れはこれまでも何度か見られたものであるが、これで彼女が一気に不利になったわけではない。最後の直線での末脚はフクキタルに負けず劣らずのものであり、油断はできない。

 

『注目の先頭争いですが、トーアシークレット、ダイチノペース、テイエムバレットの三人が競っています』

 

 トレーナーの予想通り、今回のレースは先頭争いをしているグループとその後ろに大きな差ができない。どこで抜け出すか。それがこのレースの勝敗を決めることになるだろう。

 

『おっと、マチカネフクキタルは今日は早い、5番手につけています』

 

 前に行くウマ娘が少ないこのレース、先頭を除いたほとんどが一つの集団となって進んでいく。フクキタルも前の方にいるとはいえ、後ろとの差がそこまであるわけではない。

 

「ここまでは特に問題ない。前を走るテイエムバレット達が後ろを離しているけど、あの様子だと最後までスタミナが持たない。やっぱり、最後の直線が勝負どころだ」

 

 観客席でフクキタルを見守るトレーナー。その目線の先ではレースが第一コーナーを抜け、第二コーナーへと進んでいく。

 

「ちょっと、きついかも...」

 

 そして、トレーナーの予想通り、3番手を走っていたダイチノペースの表情が苦しそうなものになる。後ろに迫るキヌノライコウに追い抜かれまいと必死で前へと進んでいるが、この様子では順位を落としていくだろう。

 

「アイツはもう駄目そうだな」

 

 ダイチノペースとキヌノライコウの後ろの集団、その先頭のキンイロリョテイはその様子を見てボソッと呟いた。キンイロリョテイ、気性が荒く、レース内外でのやらかしも多々起こしているが、その走りには光るところがある。彼女もまたフクキタルにとって警戒しなければならない相手である。

 

「オレもそろそろ前に行くか。見とけよ、トレちゃん!」

 

 じわじわとキンイロリョテイは前との距離を詰め始める。今日のキンイロリョテイはどうやらやる気のようだ。阿寒湖特別での勝利も影響しているのだろうか。

 後方集団の先頭であったキンイロリョテイが前に出たことで、後続のウマ娘たちもそれに続く。その中にはフクキタルも含まれていた。それによって第二コーナーであった差はすぐに縮まっていった。

 

(どこから、いつ抜け出すか、しっかり考えてコース取りをしないといけないですね)

 

 集団の中、フクキタルは考える。ここまで集団内での順位の変動は多少あれど、全体で見ると大きな順位変動はない。そして、フクキタルがいるのは集団の内側。神戸新聞杯のように外に出たうえで誰もいない直線を走り切るのは難しい。また、このレースは差しを得意とするウマ娘が多い。中途半端に前に出てしまっても後ろのウマ娘たちが前に出るきっかけを作ってしまうだけになる。

 

『第三コーナーの坂、ここにきてもメジロブライトは依然、殿です。メジロブライトはいつスパートするのでしょうか?』

 

 第三コーナーから第四コーナーへ。前と後ろに分かれていた集団が一つの集団となり進んでいくが、メジロブライトはこれまでのレースのようにスパートのタイミングをつかめていない。この遅れはメジロブライトにとって大きな痛手になるだろう。

 

(このまま進んでいいんでしょうか...)

 

 内を進むフクキタルも周りと同じようにスパートをかけたものの、ここを進むというコースが決めきれていない。

 

「フクキタル...!」

 

 フクキタルの浮かべた迷いの表情にトレーナーはこぶしをぎゅっと握る。このままコースを決めきることができなければフクキタルは集団に飲み込まれて前に出ることが出来なくなるだろう。だが、無理に前に行こうとしてもスタミナを無駄に消耗することになってしまう。

 

『先頭は依然としてテイエムバレット。おおっと、ここでキヌノライコウが良いところへあがってきた。マチカネフクキタル、内を進む』

 

『キヌノライコウは内へはいりましたが、メジロブライトは自分の道を進んでいく、大外からどんどん差を詰めていきます』

 

 コーナーを抜け、最終直線。それぞれがラストスパートをかける。メジロブライトは大外から前に誰もいない直線を進むようだ。

 

『キヌノライコウ先頭か、キヌノライコウ先頭! ブライトが、メジロブライトが外から突っ込んでくる!』

 

 最終直線に入ってすぐ、キヌノライコウが先頭に立った。だが、後ろとの差は少しもない。メジロブライトも外からその末脚で一気に加速していく。

 

「このままでは...!」

 

 一方のフクキタルは依然として前をふさがれており、抜け出すことが出来ない。

 

「...見えました! 私の進む道が!」

 

 このままでは駄目かという考えがフクキタルの頭をよぎったその時、まるで天からの助けのようにフクキタルは目に光が飛び込んでくるのを感じた。ほんの少し、前の集団に切れ目ができている。

 

「フクキタルー! そこだー!」

 

 トレーナーの声援を受けたフクキタルはコースを変更し、その切れ目に向かって一気に進んでいく。

 

『メジロブライト来た! キンイロリョテイも来る!』

 

「メジロ家の名に懸けて、負けませんわ~!」

 

「今日のオレはやる気十分だぜ、トレちゃん!」

 

 メジロブライトとキンイロリョテイ、レース前にトレーナーが警戒していた二人が先頭を争う形になる。だが、フクキタルも負けていない。

 

「絶対に、負けませんからーーーー!!!」

 

『プルスシンキ、内からマチカネフクキタルだ! また内からマチカネフクキタル、バ群を抜けてマチカネフクキタル先頭!』

 

 光の指す方へ進んだフクキタルはバ群を抜き去り、先頭に立つ。ゴールまで残り少しの距離、末脚で後ろを置き去りにしたフクキタルに追いつける者はいなかった。

 

『マチカネフクキタル先頭でゴール! 神戸に次いで京都も制した!』

 

 そして、その勢いのままフクキタルはゴールを駆け抜けた。その後にほとんど差がなく、プルスシンキ、メジロブライト、キンイロリョテイと続く。

 

『京都にも福がやってきました!』

 

 神戸新聞杯、京都新聞杯をマチカネフクキタルは制したのだ。

 

「今日もやりましたよ! トレーナーさん!」

 

 観客席に向かって手を掲げるフクキタル。それにトレーナーも手を掲げて応える。

 

「いいぞー! フクキタルー!」

 

「菊花賞もその調子でがんばってねー!」

 

 二つのトライアルレースを制し、次は本命、菊花賞。歓声を浴びながらフクキタルとトレーナーはそれぞれ菊花賞に思いを巡らせるのだった。

 

 




この後菊花賞ともう一話で終わりの予定です
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