Fate/Grand Order ‐Epic of Ensemble‐ Aチームと征く人理修復紀行   作:形のない者

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神秘泥棒のカルデア訪問

 それは空白の前日譚(プリクエル)

 

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 西暦2014年。某月某日。正午。人理継続保障機関フィニス・カルデア。

 この組織の若き所長オルガマリー・アニムスフィアは、薄暗い所長室でひとり、遠見の水晶玉を覗きながら爪を噛んでいた。

 

「────なんだって、貴女がここに……」

 

 堂々とカルデアの結界を破り、標高6000mの山を一歩ずつ着実に登ってくる侵入者。その人物は時計塔から封印指定を喰らっている魔術師で〈神秘泥棒〉の二つ名を持つ。彼女は魔術師というよりかは歴史家といった方が在り方が近く、著述家というには冒険家すぎて、物事の真実を見抜く才能は、かのロード・エルメロイⅡ世によれば“運命級”と評される。

 

 そんな彼女が一歩一歩着実に人理の未来を保障するカルデアに近付いてきている。理由は不明。突然の来訪に混乱する。時計塔時代、彼女と度々交流があったオルガマリーでさえ、この旧友の横紙破りには殺意の前に困惑を覚える。

 

「何が目的なのかしら……でも、考えられる可能性としては……」

 

 彼女が大胆な行動を取る時には、往々にして単一の理由が存在する。それは〈自分の好きな人を守りたい〉という純粋な動機。ただその一点だけが彼女の行動原理であることを、オルガマリーは長年の付き合いで知っている。

 

 だからこそ、彼女という“厄災の察知者”の来訪は、非常に喜ばしくない事案だった。

 

「いったい何が“視えた”っていうの? どうせ来るなら、お父様があんなことになる前に……」

 

 疾うに過ぎ去った希望(IF)を空想してしまい、オルガマリーは苛立つように席を立つ。

 

「空白の時代を追う女魔術師。過去視の大魔術を有し、その土地の過去の情報を蒐集することで、その土地の未来に起きる出来事を予測演算する。その精度は、予測より測定に匹敵し、実際“未来の自分の過去視を観る”ことで、疑似的な未来測定を施すことが可能。その遣い手の名は────」

 

 ────ソニア・ド・ヴァンディミオン。

 中世暗黒時代に突如として現れた“種としてのルーツを持たない”魔術師一族の末裔。例外級の例外。異世界からの来訪者。その魔術師は、今────水晶玉越しに、オルガマリーに向かって微笑みかけ、のんきに手を振っていた。

 

          *

 

「神秘泥棒がカルデアに目をつけた?」

 

 カルデアの廊下にて、ふたりの魔術師が対面している。

 かたやカドック・ゼムルプス。かたやオフェリア・ファルムソローネ。

 

「えぇ……たまたま管制室で会話を聞いてしまって。お怒りのオルガマリー所長がレフ技師を呼び立てていたわ。私たちAチームを招集して、今すぐ対策本部を立てるそうよ」

「対策本部……そうなると白羽の矢が立つのは君だな。この中で最も戦闘力が高い魔術師だし」

 

 どこか自嘲気味に笑うカドックの目のクマは深い。

 彼が日夜魔術の勉強と鍛錬に励んでいることを知っているオフェリアは、それを察して窘める。

 

「ちゃんと寝ているの? 根を詰めるのはいいけど、ここぞという時の体調不良は回避してね」

「……まるで委員長だな。心配しなくていい。そんな三流以下のヘマはしないさ」

 

「おや。あまり眠れていないようなら、私のリラックス効果抜群の紅茶はいかがかな?」

 

 華奢な靴音を鳴らして現れた青年は、キリシュタリア・ヴォーダイム。

 彼の登場にカドックは自然と応えるが、オフェリアはどこか緊張した様子で姿勢を正した。

 

「別にいい……と言いたいところだが、君らに注意されるくらいだ。考えておくよ」

「では昼食のあとに淹れてこよう。最近流行りのロックについて話し合おうじゃないか」

「アンタにロックが分かるのか……? 無理して僕の話に合わせなくていいんだぞ」

「いや、別にそういうつもりじゃないんだが……」

 

 その時、カルデア全体にオルガマリー所長のアナウンスが響き渡った。

 

『緊急招集。緊急招集。Aチームは速やかに管制室に足を運んで。神秘泥棒がやってくるわ』

 

「来たわ。行きましょう。カドック、ヴォーダイム」

 

          *

 

「あら大変! 早く行きましょう。ヒナコ、デイビット」

 

 カルデアの食堂に向かう途中だったスカンジナビア・ペペロンチーノたちは足を止め、行き先を管制室に変える。

 

「……ねぇぺぺ。神秘泥棒ってなに?」

「あら、芥ちゃんは知らない? えーっとね……色々と言われているけど……」

「宿命の女神ノルンの系譜に連なる魔術師。時計塔ではよくそう噂されていたと記憶している」

 

「それ、北欧神話の三女神? 過去と未来と現在を司るとかいう……」

「そうそう。で、女神になぞらえられる魔術師が、なぜ神秘泥棒なんて名前で呼ばれているのか」

「それは彼女が、魔術師の過去を見て、魔術の始まりを暴く所業に由来しているからだ」

 

「ふうん……よく分からないけど、今日は息ピッタリね。あなたたち」

 

 怪訝に思うヒナコだが、ふたりの事柄に興味はなく、すぐに目線を手元の本に戻す。

 

「うふふ! そう見えるかしら?

 ……もしかしたら私らしくなく……どこか期待しちゃっているのかもしれないわね。彼女は誰かの運命を容易く変えてしまう魔術師だから」

 

「……オレは異なる感覚を抱いている。おそらく神秘泥棒の狙いはカルデアの神秘を暴くことではない。仮にそれが含まれていても本命は別にあると見た。そう言える根拠は一つだけある。それは管制室に行けば自ずと分かることだ」

 

          *

 

 管制室にそろい踏みする面々。

 それは所長を始め、技師レフ・ライノール、医師ロマニ・アーキマン、技術部顧問レオナルド・ダ・ヴィンチ、管制室のスタッフ、Aチーム各位。

 

 全員の出席を確認した所長は、さっそく対策本部を始動させる。

 

「それでは、これより対神秘泥棒の緊急対策会議を始めます。現在、神秘泥棒は登山中。カルデアへの到着は一時間後と予測されます。敵の狙いは不明。ですが旧知の仲として、おおよその検討は付いています。おそらく彼女の狙いは、今から述べる二つの目的のうち、いずれかに該当するからです」

 

 厳粛な雰囲気の中、所長は侵入者の狙いを推測する。

 

「一つ、その二つ名の通り、我々カルデアが培ってきた一切合切の魔道・秘奥・技術の原初を暴き、我が物とするため。

 二つ、それを含んだ上で、我々カルデアの窮地を救うため」

 

 その時、呆ける声とともにベリル・ガットが口を挟んだ。

 

「おいおい。一つ目と二つ目でごっちゃごちゃじゃねぇか。敵の二つ名は神秘泥棒。狙いは神秘の簒奪。だっていうのに……どうしてカルデアの窮地が云々の話になるんだ?」

 

「それは……」

 

 所長が言い淀むのも無理はない。

 しかしデイビットだけは、端的に情報を開示した。

 

「ソニア・ド・ヴァンディミオンが“現代を生きる女神”だからだ。神話に登場する女神のように、彼女は自分勝手に振る舞い、気に入った相手を庇護し、気に入らない相手を排除する。無論、気に入られた相手が悲惨な人生を辿ろうと関係ない。女神は人を慈愛し、権威を誇るだけだからな」

 

 現代を生きる女神。彼女を知る者の中で、その表現を否定する者はいない。

 だが、ただひとり────ゆるふわっとした男性が手を挙げた。

 

「えーっと、あのぅ……恐縮なんですが、まず僕はその神秘泥棒の素性について、あまり知らないんですけど……」

「……だれか、このスイーツ系男子に説明してあげて」

 

 所長の眉間にシワが寄る。

 そこでカドックが一役買った。

 

「神秘泥棒として有名なソニア・ド・ヴァンディミオンは、魔術の歴史……魔術史の調査の為なら、平気でよその魔術師の過去を暴き、その魔術系統を修得する。言ってしまえば、“神秘の解体屋”と遜色ない魔術の大泥棒だ。中には彼女の姿を見ただけで呪詛を飛ばし、あるいはピストルを使ってでも殺そうとする魔術師が後を絶たない」

 

「なるほど。魔術師にとっては天敵というわけか。

 ……それでみんな、こんなに殺気立っているんだね?」

 

「あぁ。僕は自分の魔術を盗み見られることに危機感を覚えている。

 ……まぁ、見られて盗られるほど、大層なものは持っちゃいないけどね」

 

 カドックの説明が終わる。

 手を叩いた所長は、会議を再開した。

 

「とにかく対処の仕方さえ間違えなければ充分追い返せる相手よ。これはカルデアの沽券に係わる問題……チーム全員が一丸となって戦わなければ危うい状況。そういう事態と捉えなさい。

 ────特にキリシュタリア・ヴォーダイム。貴方が一番、自分の神秘を暴かれるのはまずいんじゃなくて?」

 

 ふいに所長は、意地の悪い笑みで問いかける。

 対するキリシュタリアは、今まで閉じていたまぶたをゆっくりと開けた。

 

「…………すまない。今だれか私を呼んだかな?」

 

「────っ!?」

 

 なんとキリシュタリアは立ったまま居眠りをしていた。

 所長は唇を噛み、デイビットが質問内容を代わりに告げる。

 一方、カドックは「僕よりそっちの方が疲れてるじゃないか……」と呆れ返っていた。

 

「睡眠不足か? まぁいい。かの神秘泥棒がカルデアに来るそうだ。お前はどう思う?」

 

「……ほう。彼女がこの地に目を付けるのは時間の問題と思っていたが……これは魔術戦も視野に入れておかなければ、ものの一瞬で裸にされてしまうかもな。マリスビリーも警戒していた相手だ。慎重を期して取り掛かろう」

 

「……ちょっと待って。裸ってどういう意味?」

 

 首をかしげるヒナコに対し、キリシュタリアが説明する。

 

「彼女の過去視により我々の正体を探られて、彼女の未来視により我々の将来を悟られる。人理の未来を保障する我々にとって、それは“お株”を奪われることにほかならない」

 

「あぁ、だから裸……でも、それほどの力を持った魔術師が本当にいるのね。まさか単身で、この施設の代わりを務めることが可能だなんて……」

 

 事の重大さに気付いたヒナコに対し、ペペロンチーノが同調する。

 

「だってキリシュタリアがいるくらいだもの。おかしな話じゃないわ。世界は広いってことね! まぁ私だったら、いまさら全裸にされたところで構うことないけど、アナタたちはそういうわけにはいかないものね? それは貴女も同じことじゃない? 芥」

 

「…………」

 

「────って、キャッ! ちょっと待って私いま自分が全裸にされても構わないって言っちゃったァ!? あららちがうのよ? 今のセリフは、あくまで比喩的な意味であって────」

 

 恥ずかしがるペペの弁解を遮るように、所長が机を叩いた。

 

「あぁもう! そんなことは見れば分かります! しばらくペペは黙ってて!

 ……さて、現状の理解と敵の素性確認は済んだかしら? ならばこれより具体的な対策の提案会を始めます。私としては、最初は交渉から。それが破綻すれば状況を見て戦闘を許可します。

 ほかに案がある者は挙手を────」

 

          *

 

 一時間後。ひとりの魔術師が山を登りきり、カルデアの正門ゲートに到着する。

 

「────ぷっはぁ! つっかれたー! 足が棒になりそうだわ……!」

 

 極寒の環境に耐え抜く礼装を脱ぎ捨てたソニアは、アジア圏から出立したここまでの旅路を思い返し、愚痴をこぼす。

 

「ったく、さすがは冠位の一角ね。予想はしていたけど、色々と妨害してくれちゃって……!

 最初はヘリで行こうと思っていたのに、なぜか私だけヘリの使用許可が降りないとか!

 じゃあ南極行きの船に隠れて密航しようとしたら、なぜかそこにカルデアの手先がいるわ!

 仕方ないから大西洋横断した時みたく、インド洋と氷海を泳いで渡ってきたけど……もう二度とゴメンだわ。覚えてなさい、フラウロス……!」

 

 ひとしきり恨みを吐き出したソニアは、さっそく正門ゲートに立つ。

 目の前には金属製の門。これが結界ならば、“結界破り”の異名を持つ彼女らしい仕事が始まるところである。しかし今回は友好的に、まず交渉から始めることにした。

 

「はーい? マリー? いるー? 貴女の友人が南極の山の頂きで寒そうに震えているんだけど、中に入れようとは思わないのかしら? あったかい紅茶くらいは振る舞ってもいいんじゃない?」

 

 その時、カルデアの外部アナウンスからオルガマリーの声が響いた。

 

『────久しぶりね、ソニア。いったい何しに此処まで来たのかしら?』

 

「訊きたい? 割と世界の危機なんだけど」

 

『……ということは、やっぱり知っているのね。なら、年代と地理を言い当ててみせなさい』

 

「────2005年。極東・冬木市」

 

『……っ。でも残念。場所は当たりだけど、年代は外れよ』

 

「カルデアの機材が観測したのは2004年でしょう? 私が問題視しているのは、それから一年後。その年に何が起こるか気にならない? ……ねぇ、腹の探り合いはよして、ここは情報交換と行きましょうよ。色々と手土産も持ってきているの。お手製の魔術礼装をね?」

 

『……………………』

 

 しばしの沈黙。やがて正門ゲートが開かれて、ソニアは入場を許される。

 

「礼を言うわ。正直ここで追い返されたら、割とどうしようもなかったから」

 

          *

 

 カルデアの食堂。そこでは重役の面々が一堂に会し、ひとりの魔術師を監視していた。

 

「手厚い歓迎ありがとう。キリシュタリア・ヴォーダイム。貴方の紅茶、凍えた身に染み渡るわ」

「気に入って頂けたなら良かった。しかし、この無礼は許してほしい。なにせアポなしの訪問だったのでね」

「ホントよ。皮肉はよして、さっさと本題に入ったらどうなの?」

 

 テーブルに着いて紅茶を飲むソニア、キリシュタリア、オルガマリー所長の三人。

 Aチームは対象がおかしな行動を始めた途端、迎撃する準備を万端にしている。

 一方、レフ、ロマン、ダ・ヴィンチ、食堂のスタッフは、それを遠巻きに眺めていた。

 

「そうね。体も温まってきたことだし、そろそろ本題に入りましょうか。まずは、私がカルデアに来た理由よね。それはもう単純明快! ────私を、カルデアの技術部員として雇ってほしいの!」

 

「────はぁ?」

 

 両手を合わせて頭を下げてきたソニアによる突然の懇願。

 一同は驚き、所長は目を丸くしていた。

 

「……ダメかしら?」

「いや、ダメって……────そんなの、当たり前でしょう!?」

 

 突如ヒステリーを起こすように叫んだ所長。

 

「技術部の人員なら間に合っています! あと、そんな冗談で話をはぐらかさないで! ソニアの狙いはなんなの!? 貴女が私の前に現れる時って、必ず私に何かが起きる時だもの! 絶対に企んでいることがあるはずよ! それを吐かない限り、カルデアの神秘は奪わせないし、ここから逃がしもしないわ!」

 

 怒涛の剣幕で叱られたソニアは、肩をすくめて紅茶を一口。

 

「私がマリーの前に現れる時は、マリーの訃報が耳に入ってきた時だけ。企んでいることはもちろんあるわ。貴女の死の運命を回避するためよ」

 

 堂々と言い放ったソニアは、懐からあるものを取り出す。

 一瞬、オフェリアとカドックが腰を屈める。だが、取り出したものがただの機械であると分かると姿勢を正した。

 

「そんな危ないものじゃないわ。カルデアのマスターの役に立つものよ。これは《英霊編成》っていう魔術礼装。あと、こっちは《概念礼銃》で、これは《概念掌握術式フォーマルグローブ》……ほかにもいろいろあるけど、どれも1個ずつしかないから、一式はそっちに譲るわ」

 

「────」

 

 ふとダ・ヴィンチが興味を示す。

 その視線を察したソニアは、カレを手招きした。

 

「あなた、サーヴァントよね? モナリザがサーヴァントになるわけないから……そうね……もしかして、史実のレオナルド・ダ・ヴィンチは男性ではなく絶世の美女だった、とか?」

 

「おっと惜しいね! 真名は当たりだが、経緯はハズレだ! 私は発明家にして芸術家だからね。美の追究をする以上、理想の美である「女性」になるのは当然の帰結なのさ!」

 

「……世界に名を残す芸術家って変人しかいないのかしら?」

 

 どれどれ、とダ・ヴィンチは礼装の効果や構造を検分。

 その見る目は真剣そのもので、徐々に顔の彫りが深くなっていく。

 

「……驚いた。私は万能の天才だが、君は才能を選べる天才だね。どこで英霊召喚の仕組みを?」

 

「そんなのひとつしかないでしょう。冬木の聖杯戦争よ」

 

「……えぇぇっ!?」

 

 ロマニ・アーキマンの素っ頓狂な声が上がる。

 その喫驚を完全に無視したソニアは、続くダ・ヴィンチの質問に答えた。

 

「では、なぜカルデアの発明のひとつ《守護英霊召喚システム・フェイト》との互換性があるんだい? あれは機密事項のはずだが」

 

「元は同じ冬木の聖杯から造られたんだから、互換性を持たせるなんて簡単よ。それより聞きたいのは、かの万能の人のお眼鏡にかなったかどうか。あなたほどの人物が、この施設でただサーヴァントの役目に徹しているとは思えない。きっと技術部のトップに座していると思うのだけど?」

 

「その通りだ。いやー、それにしてもこれはインスピレーションがそそられる作品だ! 芸術性がまったく重要視されていないところが非常に残念だが、その代わり機能性は保証されている!」

 

「ありがとう。身に余る光栄だわ。私も礼装作りには一家言あるから、これは一生ものの誉れになるわね。……あぁところで、その挿入口は拡張式になっていて────」

 

「はーいストップー!!」

 

 技術談義が盛り上がりそうなところで所長の声が入った。

 ソニアから魔術礼装一式を譲られたダ・ヴィンチは、それをさっそく工房に持ち帰る。

 かの偉人との対話を名残惜しそうに噛み締めたソニアは、おしとやかに席に戻った。

 

「こほん。失礼したわね。でも私の用事はこれで終わりよ? 本当に技術部に入りに来ただけだから」

 

「信用ならないわ。洗いざらい話さないなら尋問も辞さない」

 

「魔術用の自白剤でも飲ませようっての? あぁもう分かったわよ。私が信用ならない存在なのは自分が一番わかっているし……それじゃあお望み通り。一戦やらかせてもらうわ」

 

『────!?』

 

 ソニアの足元に転がった閃光手榴弾。

 それが落ちるより先に疾走していたのはデイビットだった。

 一拍遅れてオフェリアが飛び込み、カドックは一工程の防御魔術を行使。ベリルは運良く手に持っていたサングラスを慌てて掛ける。

 しかしペペだけは顔色ひとつ変えず佇立しており、キリシュタリアとヒナコは、そんなペペの顔を見て“何もしない”ことを選んだ。

 

 ────閃光。激烈な光が食堂という空間を蹂躙し、人間の網膜を焼き焦がす。

 

「キャッ!?」

 

 所長の悲鳴。

 それから数秒後────食堂の光は正常に戻り、ソニアは側頭部に銃口を突きつけられていた。

 

「……デイビット・ゼム・ヴォイド。本当に貴方の“読み”は恐ろしいわね。なんで撃たなかったの?」

「ペペの表情を見て敵意はないと判断した。しかし目的が分からない。閃光の間に何をした?」

 

「きゃっ! もしかして私ってば、けっこう信頼されてるー!?」

 

「…………嘘をついたら、そこの修験者にバレるわね。んー……そうだなー……────そうね。私は今、とても善いことを、したかしら?」

 

 ソニアは挑発的な視線を送る。

 対するデイビットは銃を下ろし、即座に対象を組み伏せた。

 

「ぐっ……!?」

「コイツの処遇はどうする?」

 

「っ……とりあえず離してあげなさい。私は別に、なんともないみたいだから」

「しかしコイツは確実に何かをしたぞ」

 

 それにキリシュタリアが頷く。

 

「あぁ。十中八九、所長に何かしただろうね。けど、きっとそれは彼女の言う通り“とても良いこと”だと思う」

 

「し、信じるのですか、ヴォーダイム……!?」

 

 キリシュタリアの身を守っていたオフェリアが狼狽える。

 

「信じるさ。彼女には途中まで本物の誠意があった。最後は自暴自棄になってこんなことをしてしまったが、それも込みで彼女の狙い通りなのだろう。とりあえずは所長。彼女の希望通り、技術部のひとりとして雇ってみてはいかがかな? 彼女の来訪はカルデアの窮地を意味している可能性がある。なら、その窮地が訪れるまでは、彼女を監視下に置くのが最悪の中の最善だと思いますが」

 

「……えぇ。私も同じ考えよ。でも技術部には入れないわ。そんなことしたらカルデアがこいつの好きにされちゃうじゃない! だから監視下に置きます。誰かソニアを独房に閉じ込めて! 彼女を24時間監視すること! あと散策の際は必ず技術部名誉顧問を付けること! サーヴァントが近くにいれば、無謀な真似もしないでしょうし」

 

 体の自由を奪われたまま立たされたソニアは、そのままデイビットに独房へ連れて行かれる。

 

「……ソニア・ド・ヴァンディミオン。これもお前の未来視通りか?」

「そうね……大体は。もしそうならどうする?」

 

「どうもしない。お前との決着はまだ先だ。おそらくお前が危惧する事態を解決した後が本番なのだろう。それまではカルデアでの生活を楽しむといい」

「えぇ。ぜひそうさせてもらうわ」

 

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