Fate/Grand Order ‐Epic of Ensemble‐ Aチームと征く人理修復紀行 作:形のない者
夜。嵐の海。荒れ狂う大波に乗って海賊船が飛び跳ねる。天地動乱の甲板。人間では歩くどころか這いつくばることすらままならず、船に固定された柱や柵に掴まっていないと嵐の海に放り出されてしまう。その状況下で、超人の部類は戦闘行為を是としていた。
魔術師ヤガスタシアと狂戦士ペンテシレイアの激突。互いに爪と牙を
一方の藤丸は何もできない。目の前で巻き起こる熾烈極まる死闘を見届けることしかできない。狂戦士アステリオスと剣騎テセウスの共闘。必殺の斧術と牽制の棍棒が交差して奮われる。対する狂戦士ヘラクレスは大斧を振り回しており、テセウスの牽制を封殺しつつアステリオスの一撃を紙一重で躱す同時、蹴り技で反撃までこなしている。
「あれが……!
冬木、オルレアン、セプテムと、三つの特異点を渡り歩いてきた藤丸だからこそ分かる。冬木では一度ヘラクレスと戦ったこともあるため分からないはずがない。ヘラクレスは明らかに理性を残している。言語能力や微かな冷静さを消失したのみで、大英雄として完成された身体操作技術は依然として健在。
さらにヘラクレスは宝具《
だというのに、なぜヘラクレスに攻撃のひとつも入らない。それだけ技量が離れているということか。否、それはおかしい。テセウスはヘラクレスに並ぶほどの英雄であり、その技量は一流だ。牽制に回らなければ確実に命中する。対するアステリオスは斧術スキルがCランクだ。技量においては平均的なサーヴァントより一段階劣る。
(────っ! そういう、ことか……!)
藤丸は思い込みを自覚して作戦を練り直す。そもそもテセウスの撹乱があっても、アステリオスの技量では当たらないのだ。ならば────
刹那、轟然と震撼する甲板の上で、一発の銃弾が暴風と豪雨を引き裂き、空間を捻るように直進。藤丸の左胸に命中する。
「──カハッ……っ!!」
嵐の海。そこには百隻を優に超す海賊船が揃っており、大乱闘を繰り広げている。事前の調査で狙撃を可能とするサーヴァントにはアタリを付けておいた。弓兵のアン・ボニー、ケイローン、アルテミス、オリオン、ダビデの五名である。そして現在交戦中の敵陣にはアン・ボニーがいる。彼女の狙撃だろう。
「命中ですわ。これでカルデアのマスターは始末……、っ!?」
弾丸が飛んできた方角に向かって、藤丸はニヤリと微笑む。右手には概念礼装《頑強》のカードを持っていた。既に行使済みのため、速やかにカードから光が失われる。
「防御系の限定礼装……! 狙撃を読まれていた……!?」
当然である。この大混戦。嵐の闇と動乱に乗じて、マスター暗殺を企てない者はいまい。おそらく騎兵フランシス・ドレイクの命令だろう。
────それはともかく、痛む左胸を抑えて、藤丸は決死の命令を飛ばす。
「アステリオス! テセウス! 役割を交代するんだっ!!」
『────っッ!!?』
藤丸からの命令が飛ぶ。すかさずアステリオスは牽制の一撃を放つ。テセウスは意味を考察する暇もない。硬直した直後には暴虐と蹂躙の死が待ち受けているため、一瞬でも動揺のせいで立ち止まることは許されない。咄嗟に必殺の一撃を放つ。
突然の役割交代。これにヘラクレスは対応しきれず、アステリオスの斧術は受け止めても、テセウスの棒術はみぞおちに受けた。が、傷一つない。攻撃が命中してもダメージが入らない。それでは意味がない。
かつてテセウスは短剣一本で、存在しない怪物を討伐した。それはどれだけ皮膚が固くても、岩のように硬くても、短剣を当てれば微かに
しかし、
「────しん、じろ……ッ!!」
「──っ!? アステリオス……!」
「■■■■■■■────!!!」
テセウスは知っている。自身の宝具《
藤丸は概念礼装《フォーマルグローブ》を装着。右手に白い手袋を嵌めて覚悟を決める。
「限定機能・
「……! ます、たぁ……? これ、は……っ!!」
霊着。それは魔術用語で、サーヴァントの霊基外殻に概念礼装を装備させること。Dランク概念礼装《技巧》は技量礼装であり、対象の技量判定にボーナスを与える。そのためアステリオスの斧術スキルはCランクからBランクに向上するが、それでもまだ足りない。大英雄ヘラクレスを相手取るためには
「まだだ……!!」
ならばと藤丸は、もう一枚の概念礼装《技巧》を取り出す。霊着させた上で、自らの魔力を使い、礼装を行使する。これなら一瞬だけ、アステリオスの斧術スキルはAランクまで向上するはず。
「アステリオス! 次の一撃で決めろ────!」
「────!! わか、った……!」
藤丸は白い拳銃──概念礼銃──を取り出す。上部の小口にカード型の礼装をセット。すると礼装は光となって消えて概念礼銃の中に吸収される。あとはアステリオスの背中に向かって照準を定める。が、荒れ狂う甲板の上では狙いが定まらない。
「くそっ……! カドック! 一瞬だけアタランテを借りたい……!!」
「っ……!? ──あぁ! それで勝てるならいくらでも貸してやる! その代わり、絶対に勝てよっ!!」
「分かった、ありがとう……! それで、俺の弾丸が外れそうになったら、矢で軌道修正してほしいんだ……! アステリオスに当てたい……!」
「聞いてたか、アタランテ……!」
「あぁ! 承知した!」
別の海賊船から跳んできたアタランテは、いったいどんな聴覚をしているのか。豪雨と爆音が鳴り止まない戦場で、しかと藤丸とカドックの会話を聞き取っていた。それもサーヴァントの力ゆえか。
そして藤丸は狙いが定まらぬ中、英雄の技量を信じて遠慮なく引き金を引いた。魔力火薬炸裂。反動で概念礼銃が跳ね上がる。空間を捻って直進する魔弾。突として大波の上に乗った海賊船が飛び跳ねる。魔弾が甲板に当たりそうになった刹那、アタランテの高速矢が魔弾の端に命中、軌道を変えた魔弾がアステリオスの背中に激突・技量効果が霊基に着弾して浸透する。
「────!! うおお、ぉおおおおおお……っっ!!」
その一撃、大英雄に匹敵する精密斧術。牽制は牽制の意味を成さず、必殺の一撃として振り下ろされる。すかさずテセウスが役割交代。懐に潜り込んで牽制の一撃を放ち、アステリオスの攻撃より先にヘラクレスの胴体に命中させる。
藤丸は“次の一撃で決めろ”と言った。それからテセウスは考察していた。そして、すぐに
ヘラクレスの大斧がテセウスを袈裟斬りにする。藤丸の言葉が聞こえていたのかは知らないが、再びの役割交代を読まれており、テセウスが牽制の動きをすることを知って合わせにきた。豪雨荒波に負けぬ大量出血が飛び散る。刹那、嵐の夜に落雷が落ちた。激発した稲光は甲板を打ち破りながら閃光を解き放ち、一拍遅れて雷鳴を轟かし、瞬間雨粒を吹き飛ばすどころか、乗っていた海賊船一隻を粉々に打ち砕いて両断した。
直後、周囲の者共の目が一点に集約する。豪雷の一撃が、ヘラクレスの胴体を輪切りにしていたのだから。両肩から両膝まで切断されきった肉体は、すぐさま十二の試練によって治癒されていく。だが確実に三回は殺した。今のは、それほどの大地転覆する破滅の一撃だったと、テセウスは確信する。
「はは……! やっぱり君は凄いよ! アステリオス……!」
「まだ、だ……!」
渦潮の底に落ちていくヘラクレス。
「あいつ……! 本当にやりやがった……!?」
マシュに抱かれて別の海賊船に飛び降りたカドックは目を見開く。
「先輩……! やりましたね……! ──カドックさん、これで当分の脅威は去りました! こちらも今のうちに趨勢を決めましょう! 先輩の活躍を無駄にはできません!」
「っ! あぁ、そうだな……僕だって、やってやるさ……! ──だがマシュ、なんかその言い方だと、藤丸が死んだみたいだぞ!?」
「え……!? あ、いえ、そういう意味で言ったわけでは、決してなく……!」
「わかってる。それより増援が来た。戦闘に集中しろ!」
「い、言いだしたのはカドックさん……! ──いえ! 了解です! シールダー、マシュ・キリエライト! 引き続き、がんばりますっ!」
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