ポケットモンスター ソード&シールド ~サトシとユウリの二人旅~ 作:形のない者
早朝。いま少年とピカチュウは雄大な空を飛び、白い雲海を突っ切っていた。ゴオオオと豪快なエンジン音を鳴らして目的地に向かう飛行機。その機内で目を覚ましたピカチュウは目をこすり、隣の席で豪快ないびきをかく少年を見上げる。帽子を目隠し替わりにしており、口の端からはヨダレを垂らしている。いつものことだ。反対側には席はなく、代わりに窓がある。ツルツルのガラスに顔をぺたりと貼り付けたピカチュウは、白く霞む景色に目を細める。目下には水色の海。その遥か向こうには大地自然が広がっていた。
「ピ! ピカピ!」
尻尾を振るピカチュウは振り返り、少年の腕を揺さぶる。
「……ん? どうした、ピカチュウ?」
「ピカピ! ピーカチュ! ピカッ!」
窓の外を指さすピカチュウは、もう一度ツルツルの窓ガラスにほっぺをこすりつけて飛行機の向かう先を見る。それと全く同じ動きをした少年は、すぐにピカチュウの言いたいことが分かり、新たな冒険の舞台が近付いていることに胸を躍らせた。
「おおっ! あれがガラル地方かぁ!」
「ピカァー!」
窓にへばりつく少年は目を輝かせて、ピカチュウは笑顔で万歳する。そのとき機内アナウンスが《シュートシティ》への到着を知らせた。
「なぁピカチュウ。あそこには一体どんなトレーナーやポケモンがいるんだろうな……ワクワクしてきたぜ!」
「ピカチュー……!」
静かに燃える闘志。少年はニヤつきが止まらず、ピカチュウはギュッとガッツポーズを取る。
────というのも、この少年。「マサラタウンのサトシ」と言う。相棒のピカチュウと共にバトル&ゲットの旅をしており、ポケモントレーナーとしての修行を続けている。そんなサトシとピカチュウが目指す場所は“ポケモンマスター”の高み。
今回は新たな夢と冒険を求めて「ポケモンバトルの激戦地」と呼ばれるガラル地方にやって来た。
サトシは帽子をかぶって向きを直し、ピカチュウは腕から肩に登って、ふたりは旅立ちの準備を整える。
「あー! 早く着かないかなぁ! ガラル地方!」
「ピーカーチュー!」
†
ピカチュウを肩に乗せたサトシは空港の公衆電話からオーキド博士に電話をかける。電話が繋がると黒いテレビ画面に光が点いて、オーキド博士の顔が大きく映った。
「おぉサトシ! 無事にガラル地方へ到着したようじゃの。これから何をすればいいか、きちんと覚えているか?」
「えぇっと……あはは……」
頭の後ろをかいて愛想笑いするサトシ。オーキド博士はため息をつく。
「まぁそんなことだろうと思っておったわい。でなければわざわざ電話を掛けてこんからな。……ではサトシ。耳をかっぽじってよく聞いてくれ。まずブラッシータウン行きの切符を買い、列車に乗って、マグノリア博士の研究所を訪ねるのじゃ。そこでジムチャレンジの推薦状を貰うことで、ようやくポケモンリーグへの旅が始まる!」
「分かりました! オーキド博士! でも質問があります!」
「うむ! なんじゃ!」
「切符って、どこで買うんですか?」
「ありゃ?」
脱力するあまり白衣が肩口からずり落ちたオーキド博士は、ガラル地方の歩き方を知らないサトシにあれこれを教える。
「まぁこんなところかの。ではピカチュウ、サトシのことは任せたぞ!」
「ピッカァ!」
「ありがとうございますオーキド博士! それじゃあ行ってきます!」
「うむ! 良い旅をして来い! またなー!」
テレビ電話を切ったサトシは、さっそく肩のピカチュウとアイコンタクトして、空港の大広間から外へ出るため走り出す。
すると公衆電話の隣に佇む観葉植物からロケット団が顔を出した。
「どうやらジャリボーイ。今回はガラル地方のポケモンリーグに挑戦するみたいね……」
「あぁ。毎度恒例、ピカチュウ以外のポケモンは置いてきているみたいだし?」
「今がチャンスだニャー!」
「ソォオオオオオ! ナン────!」
『おまおまおまえしずかにしずかに! シィー……!!』
三本の観葉植物がバタバタと組み合って、いきなりボールから飛び出して叫ぼうとしたソーナンスを必死に押さえる。
その頃サトシは空港を出て辺りを見渡していた。切符を買う場所を探すため、まずは地図のある掲示板を探しているのだ。その様子を見つめる謎の人影と巨大な黒いポケモンは、大きな声で手を振ってサトシたちに呼びかけた。
「おーい! そこのピカチュウを肩に乗せたポケモントレーナー!」
「グフォウ!」
「え? なんだ?」
「ピカチュー?」
サトシたちが目にしたのは、厚着に身を包んだ壮年男性と、黒光りする鋼の鎧に身を包んだ鳥ポケモン。
「ここから列車でブラッシータウンまでは遠いぜ? だが、うちのアーマーガア・タクシーなら!」
「グフォアアアアアア!」
「────ひとっ飛びだ! どうだい? 空の旅は楽しいが、楽しいことってのはすぐに終わるもの……急ぎの用なら乗りな! ガラル交通者のモットーは、安全・快適・最速、だからなっ!」
大翼を広げて咆哮を上げるアーマーガアの背後には、四人程度の人間が乗れるサイズの巨大なゴンドラが鎮座していた。巨体のポケモンが巨大な乗り物を引っ提げて大空を飛ぶ乗り物なのだろう。それは少年心をくすぐるには十分すぎる乗り物だった。
「うおおおおお! 乗ります! 乗りまーすっ! ぜひ乗らせてくださーい!」
「ピカピカ! チュー!」
見知らぬ地方に来て最初に驚くのは、やはり文化。それも珍しい乗り物だろう。お金を支払ったサトシはピカチュウと共にゴンドラに乗り込む。それを遠巻きに眺めていたロケット団は冷や汗を流す。
「えっ。ちょ、これまずくない?」
「お、俺たちも早く乗らないと、置いてかれるぞ……!」
「い、急ぐのニャ! こうなったらゴンドラの後ろに引っ付くしかないのニャ!」
「ソォオオオオオオオオ! ナンス?」
物陰から物陰へ飛び付きながらコソコソと大急ぎで移動するロケット団は、ゴンドラの外側に捕まって身を寄せる。しかし彼らは知らなった。これから極寒の大空を数十分かけて移動することに……
「おっし! アーマーガア!」
「グフォオオオオオオオオ!」
ガゴン。と揺れるゴンドラ。アーマーガアの鉤爪は四人分と三匹の重量を覚えて訝しむ。しかし“その程度の重さ”に負けるアーマーガアではない。全力を振り絞り大翼をはためかせる。
「どうした? そんなに重いのか? お客さーん! まさかポケモン出してないですよねー?」
「えっ? いや、ゴンドラの中は、俺とピカチュウだけですけど……」
「あ、そうですかい。失礼しました。……んー。だとしたら、なんの重さなん……どわぁ!?」
全身全霊を込めてアーマーガアは飛び立つ。パートナーの運転手と、一人と一匹の客を乗せたゴンドラと、それに引っ付く謎の密航者を持ち上げるため空に向かって咆哮を上げる。そして密航者は大空の上で振り落としてやる。そんなアーマーガアの鳴き声を聞いてニャースは青ざめた。
「あ、あのポケモン、なんてこと言うのニャ!?」
「え? なにが?」
「どうしたんだ、ニャース?」
「ソォオオオオオオ! ナン────」
『シィー!!!』
ふと声が聞こえた気がしたサトシとピカチュウは背後の窓に振り返る。しかし窓から見えるのは空の景色。素早く窓の下に身を隠したロケット団は、厳しい姿勢で掴む手をこらえる。
§
「さぁお客さん! ここがブラッシータウンだぜ!」
朝露に濡れた花壇。花弁を巻き上げる噴水。香ばしい香り漂うブラッシータウンの広場に飛び出したサトシとピカチュウは真新しいものに目を輝かせる。
ひつじポケモン・ウールーの群れ。
ことりポケモン・ココガラの飛翔。
サトシとピカチュウは見たことのないポケモンに興奮する。
そしてゴンドラの陰では凍りつくロケット団が震えていた。
『あばばばばばばばばば……』
「こ、凍るわ……寒いを通り越して、凍る……!」
「や、やっぱり無茶だったんだよぉ……こんな薄着で、極寒の空の旅なんてぇ……! あばば」
「ニャーは今こおり状態だニャ……凍りすぎて、もう動けないのニャ……ニャばば」
「ソソソソソソソソソー……! ナナナナナンス……!」
ひと仕事終えたアーマーガアは自分のクチバシで翼を毛づくろいし、今日は一段と重いものを運んだと一息つく。
そのときブラッシータウンの広場に巨大な影が颯爽と通り過ぎた。強烈な風が吹く。サトシの帽子がふわりと飛ばされた。ピカチュウは慌てて肩から飛び降りて地を走り、地面に落ちる前の帽子を頭の上に乗せる形で回収する。
「ピカチュウ! ありがとな!」
「ピッカ!」
「でも……今のは……」
サトシとピカチュウは青い空を見上げる。
「ピカーチュ?」
「あぁ。確かに今のはリザードンだった。それに……」
大空を飛ぶリザードン。その背中には猛々しく仁王立つ一人の男の姿があった。まるで王者を思わせるマントをはためかせており、まっすぐ下町の方に飛んでいったのだ。
「すげぇ……あんなことができるなんて、もしかしてすっげぇ強いトレーナーなのかも! なぁピカチュウ、追いかけてみようぜ! もしかしたらバトルできるかも!」
「ピッカァ!」
そうと決まれば駆け出すしかない。その様子を見守っていたアーマーガアタクシーの運転手は声をかける。
「おいおい! ブラッシータウンに用事があるんじゃなかったのか!?」
「大丈夫でーす! 運んでくれてありがとうございまーす!」
「ピーピカチュー!」
善は急げ。ほとばしる情熱は止まらない。
そんな若いトレーナーと相棒のポケモンを見て呆れる運転手は、アーマーガアの大きな体に腕を乗せて寄りかかった。
「まったく道草か……まっ可愛い子には旅をさせよと言うしな!」
「グフォウ……!」
§
一方その頃。ハロンタウンのとある家庭にて。ひとりの少女が鏡の前に立ち、旅立ち用の服に着替えていた。髪の具合や服装の乱れを気にして時間が過ぎる。ようやく支度を整えた少女はスマホをポケットにしまってカバンを背負った。すると一階のリビングから母親の声が響いてくる。
「ちょっとユウリ~? 今日は大事な日でしょう? そろそろ出発しないと遅れちゃうわよ~!」
「わかってるー! いま行くからー!」
ユウリは最後に一個のモンスターボールを確認して大事そうにポケットにしまう。そして階段を駆け下るとリビングに顔を出して「ママ! ゴンベ! いってきまーす!」と元気よく手を振り、せわしなく外に飛び出した。
「ススゥ~?」
玄関先の植木鉢にはスボミーが埋まっており、陽の光を浴びて気持ち良さそうに光合成をしている。
「スボイチ。おはよう! 今日はあなたの妹と旅立つ日なんだ。見送ってくれる?」
「スボー!」
「えへっ。そっか。ありがとっ!」
にこやかに手を振ったユウリは、スボイチに手を振って玄関前の階段を下り、目的地に急ぐ。向かう先はお隣さんの家。そこには同い年のホップという少年が住んでいる。そしてホップの家の庭にはポケモンバトル用のフィールドが設けられていた。そこが待ち合わせの場所であり、既に二人の少年が揃っている。
「おはよう!」
「おはようユウリ! 走ってくるとはやる気充分だな!」
元気よく声を掛けてきた男の子はホップ。前向きな性格の熱血少年。
「遅かったね。いやユウリのことじゃないとも。チャンピオン・ダンデさんのことだ。まったくチャンピオンともあろうお方が遅刻とはね……今頃どこで何をやっているんだか」
やれやれと溜息をついて皮肉交じりに声を掛けてきたニヒルな男の子はマキリ。近所に住んでいる、ちょっと嫌味な少年である。
「アニキは方向音痴なんだ! 仕方ないだろ! でも、案外もう近くにいるかも……」
噂をすれば影がさす。三人の頭上を巨大な影が過ぎ去った。釣られて空を仰ぐと、太陽を覆う大きな影がバサッバサッと音を立てて風を起こし、一匹のリザードンがフィールドに降り立つ。その背中から飛び降りてきた人物は、ガラル地方において最強と謳われているチャンピオン・ダンデであった。彼はホップの兄でもある。
「やぁみんな。遅れてすまない。やはり目的地に向かうためにはリザードンの背中に乗るのが一番だね。まさかしばらく逆方向に歩いていたとは思わなかったよ。あはは!」
ダンデは腰に手を当てると空に向かって笑い声を上げる。
それを真顔で見つめるユウリ、待ちきれずワクワクするホップ、肩をすくめるマキリ。
三人の少年少女を眺めるダンデは過去を思い出すように目を閉じ、やがてまぶたを開くと腰に手を当てて背筋を伸ばした。
「では改めて自己紹介しておこうか。オレの名はダンデ。そこの君は……瞳の色からしてユウリくんだね! ホップからよく話を聞いているよ。なんでもすごいバトルをするそうじゃないか!」
「ど、どうも……」
「となると、そっちの子がマキリくんか! 君もホップから話に聞いているよ。かなりの勉強家らしいね!」
「よろしくお願いします」
ダンデは二人の顔と名前を記憶に刻み込むと、懐から三つのモンスターボールを取り出した。
「二人とも、いい顔をしている。それではさっそく、これから新人トレーナーとして旅に出る君たちに最初のポケモンを与えよう」
ダンデは三匹のポケモンを繰り出す。
それは黄緑色の子ザルポケモン・サルノリ。「キキーッ!」
それは赤白色のうさぎポケモン・ヒバニー。「ヒッバー!」
それは青色の水トカゲポケモン・メッソン。「メソソ……」
場に出てきた三匹のポケモンは思い思いの遊び場に走り出す。サルノリは木に登りバチで枝を叩く。ヒバニーは塀の上に飛び乗りジャンプして華麗に着地。メッソンは池に飛び込んで透明となり身を隠す。
「お~い。興奮して遊び出しちゃう気持ちは分かるけど、今はこっちに集中してくれ~!」
ダンデが声を掛けると三匹のポケモンは素直に集まってくる。もしかしたら彼らは遊んでいたのではなく、新人トレーナーに対して自分たちの出来ることを健気にアピールしていたのかもしれない。
対する二人の少年はじっと見つめて観察し、どのポケモンを選ぶべきか迷っていた。
「ははは! 大いに悩んで決めてくれ! ……ん?」
しかし一人の少女は、どこか諦めたような表情で、ほかの子に選択を促した。
「ホップとマキリはどのポケモンがいいの? 私はなんでもいいよ」
「ダメだぞユウリ! こういうのはちゃんと選ばないとダメなんだ!」
「やめろよホップ。彼女は
ユウリは答えず押し黙る。
その会話を見て聞いていたダンデは自分のあごひげをさすりながら「ふむ……」と首をかしげた。
「……ユウリくん。君は────」
ダンデが声を掛けようとする。次の瞬間、大きな少年の声が彼らを驚かせた。
「あ! さっきのリザードンの人だ! あのぉおおおお! オレとポケモンバトルしてくれませんかー!」
「ピーカーチュー!」
ブラッシータウンの方角から全力で駆けつけた一人の少年と相棒のポケモン。ぜえぜえと息を切らしてダンデの前に辿り着いた少年は、汗を流しながら目を輝かせて思いっきり面を上げる。
「オレはマサラタウンのサトシです! こいつは相棒のピカチュウ!」
「ピカッ!」
「オレたち強い奴を求めてこのガラル地方にやって来ました! さっきブラッシータウンで飛んでるリザードンの上に立ってた人ってあなたですよね!?」
「ピカピカ!?」
サトシの勢いに気圧される少年少女とポケモンたち。するとマキリはお腹をかかえてサトシを馬鹿にするような高笑いを上げた。
「あっはははは!」
「え? なんで笑うんだ?」
「だって、あのダンデさんにバトルを挑むなんて世間知らずにもほどがある! マサラタウンなんて聞いたことないし、いったいどこの田舎から出てきたんだ?」
「な、なんだと!」
「ビカァ!」
売られた喧嘩は買ってやるぜと言いたげに、サトシとピカチュウは腕と尻尾をあげてバトルポーズを取る。するとダンデが二人の諍いを制止するように大きな手のひらを突き出した。
「まぁまぁマキリくん。実はちょうど俺も血がたぎっていたところなんだ。そのバトル、受けて立とうじゃないか!」
ダンデとリザードンは視線を交わすと不敵に笑い、ダンデは帽子の位置を直して、リザードンは雄叫びを上げながら両翼を広げて空に向かって火炎放射を放つ。
「ホントですか!? やったー!」
「ピカピカー!」
ダンデはマントを翻すとリザードンと共にフィールドの端っこへ移動する。それに応じてサトシとピカチュウも対角の位置に移動を開始。三人の子供と三匹のポケモンはバトルを観戦できる場所に移動し、突然のチャンピオンバトルに困惑していた。
「みんな、最初のポケモンを選んでいた最中にすまないね。ただ俺たちのバトルを見れば、きっとビビッときて自分に合ったポケモンを選べるかもしれない。というわけで、よく見ていてくれ! 行け、リザードン!」
「リザァー!」
「行くぞ、ピカチュウ!」
「ピッカァー!」
両者、リザードンとピカチュウを繰り出して睨み合う。それを横から見守るマキリがホップに質問した。
「なぁホップ。君のお兄さんはあんなこと言ってるけど、本当はバトルしたくなっただけじゃないの?」
「そうかもしれないけど、アニキのバトルが間近で見られるんだぜ!? こんなの目に焼き付けるしかない!」
「……!」
呆れるマキリはため息をつく。対するホップとユウリは興味津々で、特にユウリはホップの言うことに賛成なのかこくんと強くうなずいた。
§
かくしてサトシvsダンデのポケモンバトルが始まる。
「っ……先に来ないなら、こっちから行くぜ! ピカチュウ“でんこうせっか”!」
「ピカァー!」
ノーマルタイプのタイプエネルギーを身にまとって白い閃光がジグザグと突き進む。それに対しリザードンはどっしりと構えていた。
「何もしない!?」
サトシの驚き。それと同時にピカチュウの攻撃がリザードンの腹部に命中した。
「……ガゥッ!」
「むっ……」
片目をつむったリザードンは、やや痛みに悶えた様子を見せる。その様子を見逃さなかったダンデはピカチュウの力量を推し量る。それからリザードンは腹を突き出して、ぶつかってきたピカチュウをなんと跳ね返した。
「ピカ!?」
「でんこうせっかが跳ね返された!?」
ピカチュウはサトシのそばまで引き下がる。ふとダンデは笑みをこぼすと帽子の位置を締め直した。
「サトシくん! ピカチュウ! 君たち……かなり強いね? これなら手加減なしでやっても大丈夫そうだ!」
「えっ……手加減? そんな、なめないでください! オレとピカチュウは強いですよ!」
「ピッカァー!」
しかしサトシもピカチュウも、今の攻防でダンデとリザードンの実力が相当高いことを理解した。
「ピカチュウ、こっちも全力で行くぞ!」
「ピカァー!!」
「させるか! リザードン“ドラゴンクロー”!」
「リザァー!」
大きく赤い両翼が広くはばたき、爆風を発生させて狭いフィールドを支配する。そしてピカチュウのでんこうせっかと同等と思われる速度で突っ込んできたリザードンの両手は、ドラゴンタイプのタイプエネルギーを身にまとっていた。
「“でんこうせっか”で“かわせ”!」
「ピカ!」
リザードンの猛攻。ピカチュウはそれを小回りの利くすばしっこい動きで翻弄する。
「────今だ! 後ろ!」
「ガァアアウ!!」
突然のダンデの指示。それに従ってリザードンは後ろを確認せずドラゴンクローを振るう。その一撃は、ちょうどリザードンの背後に回り込んでいたピカチュウの顔面に直撃した。
「ピカァー!!」
「そんな、ピカチュウ!」
ドラゴンクローの一撃を食らって吹き飛ばされたピカチュウはフィールドを転がって倒れる。だがすぐに体を震わせながら起き上がった。その黒い目には闘志がみなぎっている。
「俺のリザードンのドラゴンクローを受けて立ち上がるとは……君のピカチュウはガッツがあるな!」
「ピカチュウ! まだやれるか!?」
「ぴ……ピッカァ!」
しかし、このままでは負ける。ならば、どうすれば勝てるのか。サトシは考える。
(このダンデさんって人とリザードン、めちゃくちゃ強い……! こうなったら……)
「ピカチュウ! 相手は強い! 生半可な攻撃じゃきっと倒せない!」
「ピカ!」
「それなら玉砕覚悟で特攻だ! ピカチュウ“10まんボルト”を溜め込め!」
「ピッカァー!」
ピカチュウは十万ボルトを敵ではなく自分に向かって撃ち込む。すると周囲に動揺が走った。まずホップが叫び、マキリが呆れかえる。
「なんだって!? 自分に十万ボルトを溜め込むってことは、自分に電撃のダメージを与えているってことだ! あいつ何を考えてんだ!?」
「ピンチになって奇をてらう者は“策士策に溺れる”と言うよね……あの少年は頭が蒸発してる」
「……!」
周りになんと言われようと、ピカチュウはサトシの指示を堅く信じている。そこに疑いの余地は一片もない。全身にダメージを与えながら増幅する電撃。それが限界まで溜まりきった時────
「そして“でんこうせっか”だ!」
「────! ピッカァ!!」
全身に電気タイプの黄色いタイプエネルギーを身にまとったピカチュウは、今度はノーマルタイプの白いタイプエネルギーをも身にまとって高速の突撃を開始。それは先ほどのでんこうせっかより素早くリザードンに差し迫っていた。ジグザグに動く機動も残っており、軌跡の正体を掴ませない。
「っ! なんだ、あの変則的なスピードは!? まずい“よけろ”リザードン!!」
「ガウ……!?」
黄金と白銀に光り輝くピカチュウの突撃はリザードンの回避を許さなかった。激突。爆発。圧倒的なタイプエネルギーがフィールドを支配し、広がった砂煙が辺りを覆い尽くす。
「ぐっ……リザードン!」
「ピカチュウ!」
やがて砂煙が晴れる。フィールドの上には、片膝を突くリザードンと、仰向けで目を回すピカチュウの姿があった。
「ガウ……」
「ぴ……ぴかちゅ……」
「リザードン!」
「ピカチュウ!」
ダンデとサトシは自分のポケモンに駆け寄る。ダンデはリザードンの体力がかなり弱っていることを確認した。
「ピカチュウ。大丈夫か?」
「ぴっかぁ~」
「そっか。ありがとな。やっぱり技の反動で倒れちゃったか……悔しいぜ。最後の技、まだ
未完成。それは先ほどの10まんボルトとでんこうせっかを合わせた“わざ”のことなのか。その言葉を聞いた周囲にまたもや動揺が走る。
「あ、あの威力で、未完成だって……!?」
「そんなバカな……あのダンデさんのリザードンに片膝を突かせただと? ……ま、まぁ、それでも負けは負けだよね!」
「……ピカチュウって……かわいいだけじゃなくて……かっこいいな……」
ホップ、マキリ、ユウリは三者三様の感想を言い残す。その頃には、ピカチュウを腕に抱くサトシと、リザードンを後ろに連れ歩くダンデが、固い握手を交わしていた。
「バトルしてくれてありがとうございます!」
「こちらこそありがとう。サトシくん、なかなか強いね! 最後の一撃はかなりヒヤッとしたよ! あれはどういう技なんだい?」
「あぁあれは……まだピカチュウと修行中なので、秘密です!」
「そっかぁ残念だ。でも次に戦う時は
「────! はい! もちろんです! 絶対に完成させてみせます!!」
サトシとダンデは再戦を誓う。そこでユウリの大声が響いた。
「ヒバニー!」
「ヒバッ!?」
ユウリは地面に両膝をついて座り込む。それは小さなヒバニーと同じ目線の高さになるため。
「私、あなたにする! これからよろしくね?」
「……! ヒッバー!」
突然に呼ばれたヒバニーはびっくりしたが、ユウリの微笑みを見ると自分が選ばれたことを知り、嬉しがって何度も飛び跳ねた。
「おぉ! ユウリはヒバニーを選んだのか! それなら俺は……サルノリだ! お前に決めた!」
「キキ? ウキッキー!」
「それなら僕はメッソンとなるわけだが……実は最初から君にしようと決めていたんだ。僕はうるさいポケモンは苦手なんでね」
「メソソ……?」
三人の子供は、それぞれ自分のベストパートナーを選んだ。その様子を見守っていたダンデは微笑ましそうにうなずく。
「うん! どうやらみんな、自分だけのベストパートナーが決まったようだね! それなら次はバトルの腕前を見ておこうかな? 二対二のタッグバトルを想定していたんだけど……サトシくん。どうかな?」
「え、オレですか!? でもオレ今、ピカチュウしか手持ちがいなくて……」
「ぴかぴ……ピッカァ!」
ふとサトシの腕の中から飛び降りたピカチュウは尻尾を立たせて臨戦態勢の構えを取る。
「ピカチュウ! まさか、まだ戦う気なのか? ……よし! お前のやる気、受け取ったぜ! ダンデさん! オレたちタッグバトルやります!」
「はははそうか! 君のピカチュウは体力があるね! ガッツもあるし、これは将来有望だ!」
そうと決まればチーム分けをどうするか。サトシは三人を順々に見ていくと、不意にユウリがずんずんと前に出てきた。
「ねぇ、あなたの名前は!? 突然すぎて、ちゃんと名前を覚えてなかったの!」
「え!? お、オレはサトシだけど……」
「私はユウリ! それでサトシは、今までリーグとか出たことある?」
「リーグって、ポケモンリーグのことか? それなら何度か……」
「何度も出たの!? それじゃあ道理で強いわけだ!」
リーグ経験アリ。それを聞いたホップは「ふぉおおおお!」と勝手にライバル心を燃え上がらせて、マキリはやれやれと諦めたようにふてくされていた。
「なんだ、リーグ経験者だったのか。要は先輩トレーナーってことね。あの、ダンデさん。これはちょっと卑怯じゃありませんか? 実力差がありすぎますよ」
「なに言ってんだマキリ! リーグに出たことのある強い奴と戦えるんだぞ!? こんなの経験値にしかならない貴重なバトルだ! 俺は負けると分かってても受けるぜ! 絶対にサトシの強さを吸収してやる!」
「そうだよマキリ。ホップの言う通り! それにサトシのピカチュウは連戦になるから、かなり消耗してる。いいハンデになってると思うよ!」
ホップの上昇志向発言とユウリの叱咤が飛んだところで、ダンデが場を仕切る。
「どうやら強力なライバル誕生の瞬間……だな。それじゃあサトシとユウリ、ホップとマキリで分かれようか」
「オレはそれで構いません!」
「私は絶対サトシと組みたいです!」
「えぇ!? リーグ経験者とハロンタウン最強のトレーナーがタッグを組むだって!? そんなのヤベェよアニキ! しかも俺はマキリと組むなんて……こっちに勝ち目なしだって!」
「ホップ。さっき君、負けても吸収するとか言ってなかったっけ? あと僕がお荷物かのような発言はやめてくれないかな。心外だ」
サトシとユウリはフィールドの端に移動する。対するホップとマキリは互いに視線の火花を散らしながらフィールドの端に移動した。その中間にダンデが立って審判を務める。一方その頃リザードンは木にもたれかかって木漏れ日の中あくびをしていた。
§
かくしてサトシ&ユウリvsホップ&マキリのバトルが始まる。
「行け、ピカチュウ!」
「お願い、ヒバニー!」
「頼むぞ、サルノリ!」
「勝てよ、メッソン!」
四匹のポケモンがフィールドに繰り出される。バトルの先手を取ったのは────
「ヒバニー、サルノリに“たいあたり”!」
「ヒバァー!」
「サルノリ“ひっかく”で迎え撃て!」
「キキーッ!」
動きの速いヒバニーとサルノリがぶつかり合う。するとサルノリが吹き飛ばされた。
まずは動きの速いヒバニーとサルノリがぶつかり合う。するとヒバニーのたいあたりを受けてサルノリが大きく吹き飛んだ。さらにサルノリは頭から落下してダメージを負う。なんとか起き上がるが脇腹を抑えて咳き込んでいる。どうやら今のたいあたりは、サルノリのみぞおちや首に命中しており、急所に入っていたようだ。
「メッソン“はたく”────」
「メソソ……」
マキリは指示を出そうと思った途端、メッソンの様子がおかしいことに気付く。メッソンはバトルが怖いのか怯えており今にも泣き出しそうだ。それに気付いたマキリは歯ぎしりをして仕方なく別の指示を飛ばす。
「っ……くそっ。ハズレを引いたか……メッソン“なきごえ”! それならできるだろ!?」
「メ……メソソ~ッッッ!!」
「うわっ! 耳が! すごい大声だ!?」
「ぴ……ピカチュ~!」
「うるさい……!」
「ひ、ひばぁ……!」
ピカチュウとヒバニーは思わず耳を押さえる。そのスキをホップは逃さない。
「今だサルノリ! ピカチュウに“ひっかく”!」
「キッキー!」
「ぐっ……ピカチュウ! “根性”だ! “アイアンテール”で迎え撃て!」
「ピッ……カァアア!」
ピカチュウの尻尾が硬質化する。それは鋼タイプの鈍い光を放つ鉄色のタイプエネルギーで構成されていた。ピカチュウのアイアンテールとサルノリのひっかくが激突する。そのパワー勝負はピカチュウの圧勝だった。サルノリは何もできず吹き飛ばされる。
「キキー! きき……」
「あぁ、サルノリ!?」
サルノリは仰向けで目を回す。その様子を確認したダンデはジャッジを下した。
「サルノリ、戦闘不能!」
「サルノリ……!」
ホップはサルノリの元に駆け寄り抱き起こすと「よくやった」と礼を言ってすぐにバトルフィールドから走り去った。
「くっ……メッソン! お前、透明になれるんだろ!? それなら姿を隠して“はたく”だ!」
「め、メソ!? メソソ……!」
メッソンは透明になる。それにサトシとユウリ、ピカチュウとヒバニーは驚き、あちこち目を凝らして探すが見つからない。
「ひ、ひば……ヒバッ!?」
「あぁ、ヒバニー!?」
突然ヒバニーが叩かれたようにのけぞって尻餅を搗く。
「きっとメッソンの“はたく”を喰らったんだ! 気を付けろ、次はどこから来るか分からない!」
「う、うん……!」
サトシの言葉を受けて、ユウリは冷静さを取り戻す。
ピカチュウとヒバニーは背中を合わせて、互いの背後を守る。しばらく待つが、次の攻撃は来ない。
「このままじゃ膠着状態だ。どうする……そうか! ピカチュウ、フィールド全体に“エレキネット”!」
「ピカァ!」
飛び上がったピカチュウは尻尾から粘着性の電撃を飛ばして網のような電撃を広げる。それは小さなバトルフィールドならすっぽりと覆えるような大きさで降ってきた。
「ユウリ! すぐにヒバニーを飛び上がらせて────」
「ヒバニー! 高く飛び上がって! 広がるエレキネットより先に上へ行くの!」
「ヒバッ!」
サトシが助言するより前に、ユウリは的確な指示を下していた。ヒバニーは得意の跳躍力でエレキネットより上に飛び上がる。その時ちょうどエレキネットは最大まで広がっており、完全にバトルフィールドを覆い尽くしていた。
「なに!? そんなのアリかよ!?」
「────め、メソ……」
ふとバトルフィールドの中央にメッソンが姿を現す。なぜか透明化を解除したのだ。おそらく逃げ場のないエレキネットで倒されることを覚悟したのだろう。そのままメッソンは怯えて目をつむった。
「っ────待て、降参だ!」
「ピカチュウ! “エレキネット”を解除しろ!」
「ピカッ!」
ふわりとメッソンに覆いかぶさりそうだったエレキネットが突如、霧散するように消失する。
「……メソ?」
「ヒバ?」
感電すると覚悟していたメッソンは、なぜ自分が無事なのか分からず困惑している。着地したヒバニーも状況がよく分かってなさそうだった。そしてダンデのジャッジが下る。
「────ホップ、マキリ! 降参により敗退! 勝者、サトシとユウリ!」
「負けた……それにすごいコンビネーションだった……やっぱり強いな!」
「チッ……」
舌打ちしたマキリはメッソンに声を掛けることなくモンスターボールの中に仕舞う。
対するサトシとユウリは、胸に飛び込んできたピカチュウとヒバニーを抱っこしてバトルの勝利を労った。
「よくやったな、ピカチュウ! エレキネットの解除のタイミング、完璧だったぜ!」
「ピッカァ!」
「ヒバニー、よくエレキネットの上に飛べたね? えらいえらい!」
「ヒッバー!」
強者と弱者。勝者と敗者。彼らは次に何者になるのか。ダンデは咳払いすると今のバトルを振り返って腹を決めた。
「うん! どちらも申し分ない実力だ! 磨けば光るような可能性を秘めている! これなら推薦状を渡しても問題ないな!」
「えっ……アニキ。推薦状って、まさか……!」
ダンデは懐から三枚の推薦状を取り出す。それはガラル地方のジムチャレンジに挑戦するために必要なもの。それを配られたユウリ、マキリ、ホップは、目を輝かせて胸を躍らせる。
「うおぉー! すげぇー! それってジムチャレンジの推薦状じゃん! オレもこのあとマグノリア博士って人から貰う予定なんだ! あっ……ってことはみんなオレのライバルになるってことだよな!? くうっ~! なんかより一層楽しみになってきたぁ!」
「ピッカァ!」
一人と一匹が盛り上がる中、ダンデは聞き覚えのある名前を聞いて目を開く。
「マグノリア博士? そうか……サトシくんはあの人から……」
「え? ダンデさん、マグノリア博士と知り合いなんですか?」
「まぁね。それはさておき……三人とも。これから頑張れよ!」
ダンデの激励。リザードンも雄叫びを上げる。そのまっすぐな期待に応えるため、三人はそれぞれの野望を唱えた。
「はい!」
「言われるまでもありません」
「ぜってぇアニキに勝つ!」
新人トレーナーの始まり。サトシはそれを懐かしむような気持ちで見守る。
「それじゃあ俺はこれで。行くぞリザードン!」
「グォオオオオオオ! ────ッ!!」
「ん?」
ふとしたリザードンの異変。それに気付いたダンデはリザードンの腹部に触れて小声で話す。
「グルル……」
「痛むのか? お前が木の下で日向ぼっことは珍しいと思っていたが……そうか。それほどピカチュウの一撃は強かったか……」
「ガウ」
「問題ないって? ははは頼もしいな。しかも“楽しみ”と来たか。本当にそうだな。……さて、すぐに休ませてやりたいが、俺は知っての通り方向音痴だ。すまないが、ポケモンセンターのところまで最後のひとっ飛び、頼めるか?」
「グォウ!」
リザードンの背中に飛び乗ったダンデは颯爽と飛び去った。それを見送った一同はそれぞれの旅立ちを始める。ホップは一番道路に走りながら後ろに振り返って別れの手を振る。マキリもホップと同じ方角に歩き始めた。
「それじゃあ俺は一足先に行くぜ! またなユウリ! マキリ! そしてサトシ!」
「僕も先に行かせてもらう。こういうのは素早く行動してより多くの経験値を積んだ方が効率的だからね」
そうして取り残されたサトシとユウリは、互いの顔を見合わせる。
「……サトシは、行かないの?」
「あぁ……えっと。ピカチュウを休ませたいんだけど、近くにポケモンセンターとかないかな……?」
「それならブラッシータウンまで行かなくちゃいけないけど……ちょっと遠いよ?」
「だよなぁ……」
サトシはブラッシータウンからハロンタウンまでの道のりを思い出してうなだれる。ピカチュウを抱えたままあの距離を走るのは、かなりピカチュウの負担になるかもしれない。そう考えてサトシは思い悩む。
「うーん……でも仕方ない。ダッシュで行く! ピカチュウごめんけど、ちょっとだけ我慢してくれ……」
「ピッカ!」
「あ、待ってサトシ! それなら私の家に来なよ。回復道具とか一式揃ってるから!」
「え、マジで!? ありがとう!」
「すぐ近くだから付いてきて!」
走り出すユウリ。追いかけるサトシ。それに付いていくヒバニー。サトシの腕の中で眠りにつくピカチュウ。彼らはユウリの家に急いだ。
§
数分後。ピカチュウはユウリの家のリビングで、ユウリのママから極楽のブラッシングとマッサージを受けていた。そしてピカチュウの顔の近くにはオレンの実やオボンの実が転がっており、小さな歯型がいくつも付いている。しかもなぜかケチャップまであった。この家の朝食はオムライスらしく、それを見つけたピカチュウによって、ケチャップのフタに舐めた跡が付いている。
「どうピカチュウ? 毎日のゴンベの毛づくろいで鍛えられたママのブラッシングは気持ちいいかしら?」
「ぴぃ~……かちゅ~……」
「よかったなぁピカチュウ。至れり尽くせりじゃんか」
「ぴかぴ……ちゃ~……っ!」
/
ユウリが自室から戻ってくる。
そこでサトシは立ち上がり、威勢良く「また戦おうぜ! 次は負けないからな! へへっ!」と笑顔。
それにユウリは作り笑いで答える。
一方、ユウリのママは、ユウリがバトルをしたことに驚いていた。
そのことが気になったサトシは、ふたりともどうしたのかと問いかける。
しかしユウリのママは答えない。
するとユウリは「バトルすれば分かると思う」と語る。そして「サトシ、ちょっと部屋に来て」と誘った。
ユウリの部屋。
「その、これからすごく変なことを言うんだけど、自慢とか思わないでね……」
「? あぁ、わかった……」
それからユウリは、ヒバニーを抱きしめながら説明する。
「わたし、なぜかバトルすると、必ず“きゅうしょ”に当たっちゃうの……」
「急所?」
「うん。そのせいで、相手のポケモンをケガさせることが多くて……ダンデさんは“ユウリは豪運の持ち主なんだ”って言ってくれたけど……」
「……」
サトシは先ほどのバトルを思い出す。最初のヒバニーのたいあたりは、たしかにサルノリの急所に入っていた。まさか、あれが連続するのか? ユウリはうなずく。急所に入らなかった攻撃なんてない、最悪、ただの変化技でも、相手が勝手に戦闘不能に陥ることもある。要するに“運が良すぎて悪い方向に転がってしまう”のだ。
「だから、結果的に“この街では最強”になってるけど……それは、わたしの実力じゃなくて……」
「え? そうなのか? でも……運も実力のうちって言うだろ?」
「……!」
「ユウリ! それなら強くなろうぜ! ユウリが経験を積めば、必ず急所に当たる攻撃でも、相手にケガさせないバトルができるかもしれない!」
「……そうなの?」
「それはユウリが決めることだ」
ユウリは回想する。
幼少期、ママのスボミーやゴンベを借りて、ポケモンバトルをしたことがある。その頃は大人が相手でも圧勝していた。相手ポケモンが最終進化形でも関係ない。あの頃は“大人が手を抜いてくれていた”と考えていたが、今は違うと分かる。みんな真剣。みんな本気。それでもユウリは遊び半分で命令しただけで、命令を受けたポケモンは“最高の結果”を出してしまう。それが行き過ぎると、相手のポケモンをケガさせてしまい、自分もスボミーもゴンベも落ち込んでしまうことがあった。
あれからバトルする回数は少なくなった。それでも隠れた実力者として、よく親のポケモンを借りた同学年にバトルを挑まれることもあった。なるべく急所に入らなそうな技を命令する。それでも技は急所に入って、ユウリは勝利する。それの繰り返しで、いつの間にか最強の地位に。でも、そんなのは失礼だ。今まで手を抜いて戦おうとして、それで最強の地位を得るなんて、真剣に本気で戦っているトレーナーに失礼だと思った。
────それで、どうしようと思ったんだっけ。
なんだかんだ言って、ユウリはポケモンが好きだった。ダンデからポケモンをもらって、今こうして旅に出ようとしている。旅に出たい。それでもバトルなんかとは関係ない旅をする、つもりだったけど……
「……やっぱり私、バトル、好きかも……旅に出たらバトルなんかしない、バトルとは無縁の旅をするんだ、ってつもりだったけど────」
サトシとダンデのバトルを見て、胸の奥が熱くなった。
「サトシ! わたし、サトシと旅がしたい! 一緒に行ってもいいかな!?」
「え!? ……もちろんだ! ……でも、なんで俺となんだ?」
「サトシの実力なら、わたしとバトルしてもケガしない……そうでしょ?」
「!」
「信じても……いいよね? おねがい! わたしを鍛えてください!」
「……それはお互い様だ。いいぜ、そうなるとバトル三昧の旅になりそうだな!」
そこでサトシは、斜め上を見て考え事。
「そうなると、ユウリは本気で真剣に“最強になりたい”ってことなんだな!」
「……? サトシは、そうじゃないの……?」
「オレか? もちろんリーグでは優勝したいけど────オレは、ポケモンマスターになるのが夢なんだ!」
それは“最強になること”と何が違うのか。
どうやらサトシは、もっと大きな夢を持っている様子。
かくしてサトシとユウリは旅に出る。
「ユウリのママ! ピカチュウの世話、ありがとうございましたー!」
「ママ! いってきまーす!」
「いってらっしゃーい! ユウリー! サトシくんもー! ふたりとも気をつけてねー!」
『はーい!』
§
ポケットモンスター。ちぢめてポケモン。それはたくさんの謎を秘めた、ふしぎなふしぎな生き物のこと。
今、サトシとユウリとポケモンたちの、出会いと冒険と戦いの物語がはじまる!