The NEXT for Force Detonator 作:みそしる
どんな力も使いこなせるかは持ち主次第だ。
ならば分け隔てなく、皆に力を与えよう。
運と先着が決める格差など、認められるわけがないのだから。
『アームズの"先』に至るものは、誰だ?
<Infinite Dendrogram>「 The NEXT for Force Detonator 」
インフィニットデンドログラム―――それは、無限に広がる新たな
森林に開かれた道の上を二人乗りのバイクが駆け抜けていく。
爽やかな青空にふさわしい気持ちのいいツーリングと洒落込みたいところだが、実に残念なことに、空からは極太の光線が降ってきていた。
整えられた道の空は開けており、動ける範囲は限られている。
蛇行しながら全速力で走るバイクを何発目かの光線が捉える。
寸前に、黄金の斧が割り込んだ。
「スゥーーせいッ!」
振り下ろされた大斧が光を割り、砕けた紫の光が儚く散った。
鍛え上げられた戦士の技を誇る間もなく、追加の光線が次々に降る。
それを砕き、流し、受ける。その度に斧に強い衝撃が加わった。
それでもなお、受け続ければ押し負ける。それだけの威力が光線にはあった。
「ちょっとちょっとちょっとライザー急いで!もうそんなに持たないよ!?」
「わかっている! しのげチェルシー!」
金髪童顔。森林に似合わぬ海賊服の女。
アルター王国決闘八位、"流浪金海"チェルシー。
この世界に似合わぬ仮面と鎧にバイクの男。
アルター王国決闘六位、"仮面騎兵"マスクド・ライザー。
王国決闘上位の彼らがなぜ
その答えを知るためには数時間前に遡らねばならない。
「『アームズの"先"』だと?」
「そう。面白そうでしょ?」
決闘都市ギデオン。
闘士達の熾烈な戦いが日々繰り広げられる彼らのホームタウン。
チェルシーに誘われて、ライザーは手合わせしながら話を聞いていた。
「テリトリーの"先"、応用としての操作圧縮。
元々実体がない分スキル出力高めになりがちな
比べるとその手の発展形を持たず、特に実体の装備性能にもリソースを割きがちなあたしたちアームズ使いは不遇だった。
いや、あたしは不遇とか思ったことないよ?あくまで一般論としてね」
「いらん予防線だろう、ギア混じりの俺もそう気にしていないさ。
どちらにせよ簡単に極められる道ではないようだしな」
親交が深い決闘七位、ビシュマルがそれをモノにするために苦戦している姿を長く見てきた。
……まぁ、彼の場合元々高い火力を更に上げる必要性があまりなく、遠距離攻撃として実用化するという応用中の応用を目指しているために余計に苦戦している節もありそうだったが。
斧の攻撃を鎧われた両手で捌き、反撃のミドルキックを差し込む。
突如出現した水流がその勢いを弱め、戻しが間に合った斧の側面に激突した。
快音が響く。一歩も譲らぬ押し合いはライザーが後ろに飛ぶまで続いた。
「それで、アームズの"先"か」
「目覚めさせるには『デトネイター』って名前のものが要るんだって。聞いたことある?」
「……いや、ないな。おおかた古代の遺産かマスターの新造だろう。
何か他に情報はないのか?」
「この噂、元を辿るとレジェンダリアの北らへんに行き着くんだって。
だから多分その辺に知ってる人がいる……んじゃないかな」
目を逸らし、曖昧に語る。
チェルシー自身、怪しい噂だとわかっているが。
ただなんとなく、元海賊の勘のようなものが、逃してはならない何かを嗅ぎつけている。
「胡散臭い話だが、レジェンダリアには興味もある。
数日ならつきあっても構わないが」
ライザーにその手の勘はないが、力が欲しいのは彼も同じだ。
決闘の予定もしばらくは空いている。数日かけてもそう惜しくはない。
とはいえ、疑問もあった。
「なぜ俺に?
同じアームズ使いにしても、
「いやーリベンジ誓った相手を更に強化してもしょうがないじゃん?」
「俺もお前より順位上だし基本勝ってるだろう」
「いや、それもそうなんだけどね!今はジュリエットに勝ちたいのが一番なんだ」
それは熱意を感じる本気の言葉ではあった。
が、その裏に感じるうっすらとしたごまかしの気配にライザーは気づく。
「……お前、欲しいのは仲間じゃなくて
「ぎくっ」
「お前のところのクラン、そういえば解散してるんだったか。
レジェンダリアまで行くには時間がかかる。移動役が欲しい。
ジュリエットにずっと運んでもらうのは申し訳ない。それで俺か」
「情報あげたんだしいいじゃん!」
「ダメだとは言ってないだろう……次は最初から素直に頼めよ」
「さっすがライザー頼りになるぅ!」
「……やれやれ」
チェルシーの露骨な持ち上げに肩をすくめる。
ていよく利用された形になるが、求められれば断りにくいのもライザーの性だった。
空を見上げる。薄い雲に隠れきれない太陽が光を覗かせていた。
(さて、『アームズの"先"』に『デトネイター』か。
手がかりだけでも手に入れられるか、或いは)
それが数時間前のことだ。
その後荷物を整え山脈を越え、レジェンダリアに踏み込んで。
目的の地域北端に踏み入れた途端、光線に襲われている。
光の向こうには人影が見える。
逆光により明確には見えないが、槍持つ人型の姿が見えた、
槍先からは上級職奥義以上の火力持つ光線が次々飛んでくる。
類似のモンスターや装備は彼らも知らない。おそらくはマスターだろう。
「推定槍のアームズ使い……どっかで恨みでも買った!?」
「覚えがない! あの噂を信じて競合を脱落させに来たんじゃないか!?」
「こんな端も端で!?」
「大規模な侵入防止策、にもいささか広すぎるか!」
森が途切れ平野が広がり、道を太い河が遮る。
二人はバイク上で
長い付き合いだ、意思疎通は一瞬で済んだ。
「ここまでありがと!」
少女はバイクを足場に河に飛ぶ。
一瞬のみ少女の脚力+バイクの速度を合わせたジャンプは彼女をひととびで水面に届かせた。
水中に落ちず、水面を走る。
そこを光線が襲った。
「それじゃ当たらないかなぁ!」
軽やかなステップで華麗に躱す。
エンブリオの生む水流に乗り、海賊系の持つ海上歩行スキルで地上以上に走る彼女を捉えるのは、水面に浮かぶ葉を捉えるよりも難しい。
二手に分かれて減った光線ではなおさらだ。
チェルシーが回避に徹する一方で、ライザーは反撃に移っていた。
『―――《
バイクから飛び上がると同時、そのバイクが変形して全身を鎧う。
ライザーのエンブリオ、【ヘルモーズ】の必殺スキル。
バイクが鎧の強化パーツとなり肉体を強化する、強化鎧装変化スキルだ。
特に伸びるのは鎧としての強度、そしてその
そしてなにより、暴風を用いた
『
森林に舞い戻り、今度は道でなく木々の隙間をすり抜けるように飛ぶ。
飛んでくる光線は木々をへし折るが、旋風と化したライザーをまるで捉えられていない。
神速にして巧みな飛行軌道。
後方遠くを飛んでいた敵に辿り着くまで数秒とかからない。
チェルシーから完全に目を離し、下方のライザーに向け光線を連射する槍使いに突然、影がさした。
「……?」
「これで終わりだ」
聞こえてきたのは紛れもなくライザーの声。
いつしか後ろに回り込んでいたライザーが太陽光を遮ったのだと気づき敵が振り向くより早く、突風のごとき蹴りが胴体に突き刺さった。
『《ライザーキック》』
一撃でそのHPを削り切る。
カンスト上級職であっても、耐久型のスキル強化時でなければそれができる。
王国決闘六位、マスクド・ライザー。
本気の彼を相手にするならば、超級職の域に達した速度か耐久が必須である。
笑いながら片手をあげて出迎えたチェルシー。
ライザーは強化鎧装の解けた自身の手を思いっきり叩きつけた。
「へーい」
「おう」
勝利のハイタッチ。
筋力においてはライザーより高いチェルシーとのハイタッチは、全力でやらなければライザーの手が痛くなってしまう。
そんな考えを知ってか知らずか、チェルシーは楽しそうに笑っていた。
「初戦は快勝、だねっ」
「フィールドにも助けられたがな。あの距離でこの威力にあの連射速度。
開けている決闘のフィールドの方が苦戦した手合いだろう」
「だね。王国決闘なら……ビシュマルはきついか。あたしも必殺で迎え打てるし。
でも10位代ぐらいはあったんじゃない?」
「だな。昨今のレジェンダリアはPKとの戦闘関連で戦力の底上げが進んでいるとは聞いているが、それにしてもかなりの力だ。
こんなところで辻斬りをするような格じゃない」
「目的も結局よくわかんなかったねー。あたしたちは持続拘束スキル待ってないししょうがないけど。
どうだったライザー? 近くまで寄ってみてさ」
「そうだな」
口籠もる。
言葉を交わしたわけではない。戦闘自体はすぐに終わった。
だが、あくまでなんとなく。顔と振る舞いのなんとなくの印象として。
「……あまり正気には見えなかったな」
《フィジカルバーサーク》での暴走状態にも似ているが、違う。
意識が戦闘に向いていない。心の内に閉じこもり余計なことを考えている。それでいて敵への殺意に溢れており、近視眼的に敵を殺すために動いている。
強いていうなら【狂王】ハンニャの、スキルではなく素の暴走時に近いような。
「自分の心による暴走、ね」
チェルシーも考える。
ハンニャの暴走には
今回の敵もそうなのだろうか? 彼にしかわからない理由で自分たちに挑んできたのだろうか。
ここは欲望の国、レジェンダリアだ。ありえない話ではないかもしれない。
「うーん、ねえライザ、ッ!」
ライザーに向けていた視線を切り、川向こうを睨む。
隣のライザーも同じ方向を向いていた。
決闘ランカーならばわかる。闘争の気配だ。
応えるように人影が現れる。
黒い斧を両手に持つ、斧が小さく見えるほどの巨漢。
見える表情は明らかに正気を失っていた。
「どうやら次が来たようだな」
(黒い斧。そういえば先ほどの男の槍も黒かったような)
見に回った両者に対し、斧使いの行動はごく単純だった。
その手に握り締めた両斧をやや上空に向け
その速度は筋力相応に高く、しかしこの距離を瞬時に詰められるほどではない。
「ッ、なんのつもりだ!?」
(外しても機能するとしたら追尾型。だとしても上に投げてどうする?
これは合図で森や上空に伏兵がいる。可能性はあるか。必殺はすぐには使えないが、距離は早めに詰めた方がいい)
ライザーは考えを一度止め、最速で詰めにいく。
このぐらいの河なら
自分の強みは速度だ。下手に迷うより突き進んだほうがいい。
一方でチェルシーは最速で詰めるのをライザーに任せ、距離を詰めながらも思考を深めていた。
僅かひとときであったとしても、決闘ランカーであればそれができる。
(都合よく考えるなら正気を失っていて変なことしてる。
悪く考えるなら、例えばあれが陽動で本命の攻撃がある。高度な光学迷彩系だと私のビルドでは見抜きにくい。動きにフェイント入れつつ当たる前に仕留めるのが無難かな。
一番まずいのはあれに合理的な理由がある場合。例えば……空に誰かがいて、意識を外してたら全力で投げてくる。いやいやそれなら最初から持たせておけば警戒もされないでしょ。重力使いで、上に置いておいて後で高速で降らせる。そこそこありそうだけど二個だけだとなぁ。大量に降ってくるなら結構厄介だけど……うん、大量に降る?上空に一度上げて大量に降らせるって言ったら)
だが思考が何かに辿り着くより早く斧は落下を始め、その効果を発揮する。
「《五月雨弓矢:
【強弓武者】の奥義、天に放つ一矢を百の矢に変えるスキル。
の、改造。投げた斧を100の斧に変えるスキルにより、合計200の斧が降る。
ギョッとした二人は、しかしさほど余裕を失っていない。
確かに強力な攻撃だが、たかだか200の遅い斧。
上位決闘者たる彼らであれば、防ぐことも避けることもできる。
ここまでは。
「重ねて―――《ウィングド・リッパー改》・《オーバーテイク・ソニック改》」
全ての斧が超音速に加速し、内包する攻撃力に等しい衝撃波を放ち出した。
隙間の多く遅い裁断機のようだった斧雨が、瞬時に豪速の隕石へと変わる。
この凶悪極まる改造スキル連携によって、彼は"斧改"の通り名を得ていた。
「じょ、上級スキルの改造品三重発動!?」
「な、これは……!」
急激な加速に回避が間に合わない。
脅威度の判定を二重に誤らせる悪質なる初見殺しが両者を襲う。
(くっ、今は俺の必殺は使えない。ここは【救命のブローチ】を犠牲に一撃耐える、次が来るまでの隙で反撃を狙う!)
だがこの数と攻撃範囲。
当たる場所を選んだとして、果たして致命打を一撃に抑え込めるのか。
ライザーが分の悪い賭けに出ようとして、チェルシーは札を切った。
「《天地逆転大瀑布》!」
「チェルシー!」
「ここは必要なコストだよ!」
チェルシーとライザーの上方を、地より噴き出る瀑布が覆った。
しかし必殺スキルならざるスキルだ。これだけでは無傷とはいかないだろう。
チェルシーだけなら上空への防御範囲に劣る必殺スキルで確実に防ぐこともできたが。
(ここで万一にでもライザーを落とすわけにはいかない。
この敵は確実に二人で倒す!)
万一ライザーが落ちるより、二人のブローチが壊れるリスクを背負っても二人で戦った方がいい。
その判断はごく正しい。
「
「……は?」
敵の限界がこの程度であれば、の話だが。
「《トリガー・ハッピー・改造》―――《スロー・ハッピー》」
「四重起動ーー!?」
「ふざけ―――」
ありえないと考える反射的な感情を、ランカーとしての反射的な思考が否定する。
ジョブスキルの改造。
おそらくは改造スキルのストックと、四重発動。
それに特化したエンブリオであれば、確かに不可能ではない。
百の斧は自壊しながらも更に勢いを増し、衝撃波もまた数倍に膨れ上がる。
(斧を盾にすればギリ耐えられる? でもライザーと【
「気にするなチェルシー!こちらもどうにか……!」
バイクとスーツがジョブスキルにより暴風を纏う。
必殺スキルを使わない状態で、比較的に脆い
或いは、この敵が更なる火力の強化を図るか。
直撃まで1秒とないまま、両者は運を天に任せ。
「とばせ」
「あいよ!」
水色の流星が地を走った。
仲間の蹴りに乗り加速した身は地を震わせながら加速を続け、"斧改"の横をすり抜け、斧の到達より早くその身を届ける。
両者の目に、彼女はアンバランスな子供に見えた。
木肌を思わせる茶の髪・虹彩。木こりのようなグレーズボン。
かわいらしいブラウスと肌だけが色を抜かれたように白い。
小柄な身体に余る水色の
巨大な斧には似合わないポップな水色の配色が現実味を薄れさせ、間近に迫る危機に向け堂々と構える背中が幻想に浸らせない。
不思議な少女は澄んだ声で端的に告げた。
「いい水だ、借りるぞ」
「え、いやちょっと!」
チェルシーの慌てを意に介さず、少女は大斧を瀑布に叩きつけた。
天に響くような轟音が鳴る。
(え、音?)
本来、水に斧を叩きつけたとしてもさほどの音は立たない。
それが起きたのは彼女の叩きつけた大瀑布が、叩きつけた瞬間に大氷河に変わっていたからだと気付くのに、チェルシーをして1秒かかった。
「一撃でこれほどの凍結を齎せるのか」
ライザーもまた驚いた。
自分のところまで全て凍結させられた瀑布は尋常ならざる強度で斧の雨を弾いている。
この強度と凍結範囲。超級とまでは言わないが、上級の中では最高位に近い。
「っ、とと。相手が次の斧を用意する前に反撃しないと」
「そうだな、そこの少女!悪いが少し手を貸してくれると」
「不要」
無愛想に告げる少女にチェルシーはムッとした。
窮地を助けてもらったことには感謝するが、初見殺しに大ダメージを負わされそうになっただけで自分達が戦力にならないと思われては困る。
決闘上位は伊達ではない。
相手の攻撃を止められる主軸が現れたのだ。液体能力者として十分にサポートできる自信があったし、足手纏いになるほど情けなくはない。
何かを言おうとしたチェルシーの不満そうな表情を見て。
言葉が足りなかったなと思い、少女は少し付け足した。
「もう終わる」
黒斧使いの方で爆音がした。
大瀑布を氷壁に変え防ぎ切った少女の登場を受け、"斧改"は新たな手を求められた。
彼のエンブリオ、【改法造斧 シユウ】の効果は単純だ。
『自分が一度でも取得したスキルを、斧を対象にしたスキルとして改造・
《五月雨矢羽》は増やす対象を矢から斧に変え。
《
《トリガー・ハッピー》に至っては、「銃身へのダメージを増大させる代わり弾丸の威力を数倍にする」スキルから「斧へのダメージを増大させる代わり斧の威力を数倍にするスキル」になっている。
なんなら二本の斧も本物ではなく、オリジナルの斧を元に作られた
ストックするスキルの数に限りはある。
だがまともなストック型エンブリオであれば、余裕で三桁近くのスキルを保有できる。
斧をメインに戦うには十分すぎるほどの数だ。
その多様性はもちろんのこと、その気になれば膨大なバフの乗算により極大の火力を叩きつけられる。
普段からそうしないのはスキル数分コストが増大するからだ。
コスト回復スキルや軽減スキルはそうない。
後出しで火力を上げるのも初見殺しのためだけではないのだ。
更に火力を上げるか。否、それだけでは通じない。
かつて幾度となく敗れている
「《
斧が再び増加し、毒を帯び、姿を偽装し操られるように空に浮いた。
更にその姿と気配は本来の場所と別の位置に移され、完全破壊に至る攻撃を受けても数秒持つ。
スキルの執拗すぎる多重発動は回避さえ困難な攻撃を具現化する。
動きを止めている三人に向けて四方から襲わせた。
準超級であっても殺し得る攻撃。
「させると思うか?」
"斧改"の背を風が押した。
それが自然な風でなく、人が気配を消しながらも高速で動いたことで巻き起こった風だと気づいた時には、その背に銃が突き付けられている。
奇妙な円盤の差し込まれた、この世界には似つかわしくない機械式の銃。
『《フラッシュドライブ・"
「さぁ、お前の罪を数えな」
最初に風を感じさせた時、既に【ブローチ】は破壊している。
銃から発される音と共に瞬間的に込められた強大な力が銃口より出づる。
勝利を確認して一息つく。
不意打ちでさえなければ、容易には勝利できない敵だった。
もっとも勝利した男が考えているのはその強さや達成感ではなく。
「んー、正気じゃない奴に罪を数えさせるの、なんか間違ってねえか?いやあの人もやってたけど俺だとなんか違う気がするんだよな」
戦場に似つかわしくない惚けた言葉は誰にも反応されず、虚空へ消えた。
河を凍らせて越えた三人のもとに、"斧改"を倒した男がバイクに乗って合流する。
木こりの少女もその横にとことこ歩いていき自己紹介を始めた。
「災難だったな、ご両人。俺は"武装探偵"ウェーブ。こっちの嬢ちゃんは」
「"斧凍"アックス」
「あんたらも今経験しただろ。
こういう暴走マスターが今この辺で多発してる。
俺達はこの事件を追ってる。どこが原因かわからねえからとりあえず発生地域の中でアルター王国に一番近い北端まで行って、そこからしらみ潰すつもりだったところであんたらが襲われてるのに出会ったわけよ」
「なるほどな。俺は"仮面騎兵"ライザーだ」
「そしてあたしは"流浪金海"のチェルシー。両方決闘ランカーだよ」
「知ってるぜ、六位と八位だろ? イカしたビジュアルだったからよく覚えてた」
ウェーブのスタイリッシュな黒緑のバイクを携え、シャツにベストを合わせた姿はそれなりに様になっていたが、自然の中ではそれなりに浮いていた。
ついでに有名人に会ってうきうきしながら手持ちで一番カッコいい帽子を深く被っていた。ミーハーさが露骨に出ている。
(わざわざ着けてたヘルメットを外して帽子被り直してるの、ゲームなんだから最初からヘルメット着けなければいいんじゃ……根が真面目な人なのかな)
(いいバイクだ)
チェルシーたちが服装に気を取られてくれている間にギリギリ態度を取り繕い、ウェーブは真面目な顔を作る。
「あんたらは確か両方アームズ系混じりか。
じゃあやっぱ、狙いは噂の『アームズの"先"』か?」
「まあね。君らは狙ってないの?」
「強化フォームはあって困ることねえけど、最速で得るために探しに行くほどじゃないってところだ。
それよりはこの暴走事件だ。既に被害もそこそこ出てる。
まだティアンに死者こそ出てないが、傷ついた街は多い。早々に原因を突き止めたい」
(へえ、"世界派"の顔だね。思ったより地に足がついてる)
本気で心配している真剣な顔にチェルシーは評価を改め、ライザーは話の内容に気を引かれる。
「それほどに広がってるのか、この暴走とやらは」
「ちょっと疑問だよね。暴走って言ってもマスターでしょ?
この世界にいる間は身体を操られて話が通じないとしても、ログアウトして向こうで連絡取れば情報なんていくらでも集まるもんじゃないの?」
「取れないんだ」
"斧凍"と名乗った少女は、そこで初めて口を挟んだ。
口はすぐに閉じてしまったが、ウェーブが話を続けた。
「不可解なことに、倒されたマスターは全員口をつぐんでる。
もっと言えば全員連絡を拒否してるんだ。聞いた話じゃリアルの友人が家に行っても全然出なくて、学校や会社を休んでるやつもいるらしい。
身体操作で被害を出したってだけじゃこうはならない。
暴走したから傷ついてるってより、心が深く傷つけられたから暴走したんじゃないか……と考えるやつも少なくない」
「……本当に妙な話になってきたね」
事情を聞かされ、二人は逆に困惑を深めた。
プレイヤー保護に守られ、精神系の干渉が効かないマスターを、そこまで傷つけることができるものなのか。
トラウマ級の映像を見せられたとしても全員が引きこもるというのは腑に落ちない。
むしろ友人に愚痴ろうとする者だっているはずだろう。
連絡まで拒絶するというのは異常だ。
「あんま考えにくいけど、連絡を取れる連中が全員秘密主義者だったり恥ずかしがり屋だったりする?」
「知り合いだ」
「さっきの"斧改"は"斧凍"の知り合いだ。そこそこ親しくしてたらしい。
彼女から見ても態度が異常だったようだ。
身体が操られていたとしてもマスターには【自害】がある。知らん奴に襲いかかってまで躊躇うようなやつじゃなかった。
と、彼女は言っているんだ」
「うむ」
(自分で喋ればいいんじゃないか?)
(変な喋り方する子と縁が深いのかなあたし)
落ち着いた雰囲気の割には表情が固く口数が少ない。
現実とアバターの顔面がかなり異なる者にありがちな影響だとチェルシーは見抜いた。
(この形状に服装、やはりあのライダーの影響か?)
ライザーはウェーブのエンブリオの形状を見て平成ライダーのファンだと見抜いていた。かなりどうでもいい。
しかしそこはかつての王国二位クラン、<バビロニア戦闘団>を預かる身。
どうでもよくないことも考えている。
「情報が少なすぎるな。わからないことを考えても仕方ない。
わかるところから詰めていくために、一つ聞きたい」
「なんだ?大抵のことなら答えるぜ」
「今回の事件で暴走しているマスター。全員アームズ混じりだったりするか?」
「……!よく気づいたな。全員を確認したわけじゃないが、俺が知る限りそうだ」
「ライザー、まさかとは思うけど」
「『デトネイター』の噂と暴走事件、おそらく同時期だろう。
初見の事例が重なったんだ、疑ってみるのも無難だろう」
「確実とは言えねえぜ」
ウェーブは一応の忠告を入れる。
「レジェンダリアはいつだって混沌の土地だ。
変なことも新しいことも好き放題生まれてる。
今回の事例は単に重なっただけって可能性もある。アームズ使いはもとから多いしな。
ただ、俺も気にはなってた。アームズの先とやらを探しに行った知り合いにも連絡が取れないやつが多いんだ」
「やはりか。もう一つ、気になっていたことはあったんだ」
嫌な予感が当たり、ライザーたちがしかめ面をする。
「『デトネイター』の噂はある。出所も絞られているらしい。
アームズ使いという大勢力の多くが求める情報だ。
正直、本当にあるなら
だがお前の口振りからして、まだ誰も詳しい報告をしていないんだな?」
「ああ。ツテを伝っても肝心な情報は全然流れてこねえ。
どっかの組織が手に入れた、ぐらいは聞こえてもいいころなんだがな。
流れてくる噂といえば、どっかの組織のメンバーが暴走したって話ぐらいだ」
「それはもう答えでしょ、なんでそっち追わないの?」
「しょうがねえだろこの嬢ちゃんの協力を得るための条件が先に知り合いの"斧改"を追うことだったんだから。
俺一人で解決できる案件じゃねえし、こっちまで来たからにはローラーしようと思ったんだよ!」
「清々しいほど迷走してるね」
(探偵の割に計画性が低くて行き当たりばったりだな。
こちらとしてはそれで助けられたので文句を言う気はないが)
辛辣だが妥当な評価がウェーブに刺さる。
さほど悪くない顔の割に、頭を抱える間抜けな姿が不思議と似合う三枚目だった。
「ともあれ、お互いすべきことは一つのようだな」
「だね。戦力も確保できたところで、とっとと本丸に攻め込もうか」
「ライザー、チェルシー、いいのか?」
『勿論』
ウェーブの目が輝く。
本命を雇う条件を満たし、予想外の増援を二人得られる。
結果だけを見ればウェーブの迷走もいいところに収まったと言えるかもしれない。
「それとも、あたしたちじゃ不足かな?」
「んなことねえ、心強いぜ!」
「うむ」
王国より訪れた決闘上位ランカーが二人。
彼らとどこか似たバイク乗りと斧使いのコンビを連れて、レジェンダリアの奥地に進む。
レジェンダリアのアームズ使いを大規模に巻き込む騒動を収束させる、それが始まりの一幕だった。
ひたすらバトルがやりたくて始めたので、ひたすらバトルをさせたいところですね