The NEXT for Force Detonator   作:みそしる

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Second Quest

 

 そしてしばらく経って。

 王国決闘第八位、チェルシーはひどく疲弊していた。

 

「一つ目の都市に辿り着くまで何回襲われたっけ……?」

 

「つっても4,5回だろ。レジェンダリアの辺境にしちゃあ平和な方だぜ。暴走したやつもあの後は一人しか来なかったじゃねえか」

 

「無関係に3,4回襲われる方がおかしいんだけど!?」

 

 あまりにも妥当なチェルシーの叫びに、慣れた顔でウェーブが肩をすくめる。

 

「辺境でマスター襲うぐらいだと討伐の手も伸びにくい。

 それでいてこの辺に来るやつは最低限の実力あるから勝ったら儲かるし負けてもいい修行になるって話だ」

 

「ここ天地(戦闘狂大集合内戦地)だったっけ?」

 

「天地から来てるやつもそこそこいるぜ。

 戦闘関連の行動で性的興奮するレジェンダリア人もそこそこいる」

 

「いやな話!」

 

 チェルシーはウェーブとともに聞き込みがてら雑談していた。

 現地人のウェーブとアックスを二手に分ける形だ。

 チェルシーとしては同じ斧使いのアックスにも興味あったが、疲れたチェルシーを見かねたウェーブにバイクに乗せてもらった流れで組み分けとなった。

 チェルシーはぐだっとしながら彼のバイクと装備品を見やる。

 

「このバイク、多分エンブリオだよね。その銃は違うみたいだけど、それにしては似合いの独特なデザインだ」

 

「あー、元々俺のエンブリオはバイクとこのディスクなんだよ」

 

 銃にも刺さっていた円盤を見せる。

 ケースに覆われ一部だけを露出したそれは、見るものが見れば「PSPで使ったことあるわ」「PSPでしか使ったことない」「なんだったんだろうねこれ」と懐かしむだろう。

 

「力が込められてるのは本来ディスクの方だ。

 これをバイクのスロットに差し込むことで力を発揮できるんだが、この銃にもそのバイクスロットを模倣したスロットが埋め込まれてる。

 バイクよりは劣るんだが、『銃弾として放つ』って単純化してるおかげでそこそこ威力も出るわけよ」

 

「へえ、エンブリオの部分的な模倣か。

 レジェンダリアには随分腕のいい生産職がいるんだね」

 

「それが結局一番わかりやすいからな。

 唯一無二の武装を作りたくなるのも人の性だが、唯一無二を唯一無二じゃなくしたくなるのも人の性ってやつなんだろうぜ」

 

「そりゃそうだけどね。たいしたものだよ、本当に」

 

 エンブリオの模倣品そのもの以上に、それが一般的な行為として扱われていることにチェルシーは驚嘆と、少し警戒した。

 生産職のマスターは非常に儲けやすい。

 これは戦闘型のマスターにも言えることだが、モンスターを狩って得た素材は基本的にティアンでも獲得できる一方、向いたエンブリオにより唯一無二の加工をされた品の値段は青天井だ。

 

 加え、エンブリオの力は多少の工夫を誤差にする。

 工夫の価値が低く、簡易に稼げる構造。

 故にマスターの生産職はモチベーションを失いやすく、本気で生産に拘ることが少ない。

 

 もしその枠を越え、本気でより良い生産品を生み出し続ける風潮があるなら。

 それは生産における天地(蟲毒)に等しい。

 天地の決闘強者は決闘が盛んな王国と比べてもなお、1/2の順位に相当すると言う。

 天地10位なら王国5位相当。4位なら2位。つまり同格で倍以上の数の強者がいる。

 プレイヤーの総数ではそこまで膨大でない天地でもそれだ。

 初心者数が七大国家で最大のレジェンダリアが()()なれば。

 その果てにどれほどのものが生み出されるのだろうか?

 

(『デトネイター』、信憑性も上がってきたかな)

 

 

「そういや俺も気になったんだが、あんたって割と普通に水使いなんだな。"流浪金海"っつーぐらいだからもっと液体金属使いまくりだと思ってたぜ」

 

「あー、それね」

 

 少し悩む。

 チェルシーはあまり自分のことを明かすタイプではない。

 普段ならはぐらかすところだが、目の前の男には既に素直に能力詳細を答えてもらっている。

 ここで自分だけ拒否するのも申し訳ないという気持ちが勝った。

 

「あたし、元々グランバロアでも決闘やってたんだけど、当時はジェム(封魔法石)と水流操作で十分勝利できたんだよね」

 

 当時の名は"流浪禁海(クローズド・シー)"。

 船の破壊という勝利条件と当時の船強度、超級と超級職の少ない環境ではジェムを水流操作で相手の付近に送り込み起爆する戦法、そして彼女自身の戦闘勘の複合は最強に近かった。

 

 その後増えてきた強者に対抗するため超級職を得る旅に出て、かつてレジェンダリアでも屈指の強者たるティアンが流れ着いた王国に来たものの、結局今まで得られていない。

 

「王国決闘はジェムも使えないし水場じゃないからね。

 近接戦闘が増えて、対応したスキルも増えたってわけ。

 あのままグランバロアにいたら別の必殺になったかもね」

 

 液体黄金の大質量で押し潰す必殺は強いが、海水に沈みやすいため陸上のように津波にして攻撃することは難しい。

 至近にまで近づけば相手も沈められるが、当時の彼女は近接技術に欠ける。

 ジェム攻撃を抜けてくるほどの敵に至近まで近づかれていたら瞬殺である。

 

 本来陸上向きではない通常スキルと、海上向きでない必殺スキルを備える彼女のエンブリオは中途半端とも形容できる。

 だがエンブリオは一度進化すれば退化できず、進化数は限られている。

 理想的でなくても、無駄があったとしても、諦めて付き合っていくしかない。

 特典武具や超級職等の新たなる力。

 既に持つ力を工夫してできる技の追加。

 この世界における向上心とはそうしたものを追い求めることである。

 

 チェルシーの話を聞いて何かを考えたのか、ウェーブは重ねて問うた。

 

「なぁ、チェルシーさん。あんた、『アームズの"先"』ってどんな力だと思う?」

 

 チェルシーも考える。

 その由来や形状について考えても、力そのものについてはあまり考えていなかった。

 なにぶん情報がないのだ。適当な想像しかできない。

 

「能力の拡張という軸は間違いないと思う。

 ただそれは例えば装備補正の増加かもしれないし、スキルを強化したり増やすのかもしれない。

 何かを消費して一時的に強化するのか永続的に力を増すのかもわからない。

 あの暴走してる彼らも強くはあったけど、明確なリソース量の増加は感じなかった。あんまり参考にならなさそうだね」

 

「そうか、そうだよな。

 俺はこう思ってるぜ。テリトリーの"先"、圧縮操作は練度次第で圧倒的な効果を発揮しうる。100㎥結界を1㎥に絞るだけで100倍、超級エンブリオへの進化に等しい強化量だ。

 それに並んでアームズの先とも称する力が、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 それを聞いて、チェルシーは微妙な顔をした。

 

「んー、道理だね。道理ではあるけど……」

 

 理屈からすればその通りだ。最低でも10倍。普通に考えれば数十倍の強化ができないのなら、テリトリーの圧縮と並び称せるわけがない。

 しかしその理屈を通せるだけの力があり得るだろうか。

 

「そんなぶっ飛んだ強化、できると思う?

 一人に対する上級特化バフエンブリオでようやくの数字でしょ。

 『デトネイター』とやらが一人のマスターのことと言うならまだ理解はできるけど、それこそ『アームズの"先"』とは呼べないよね。

 不特定多数に同時に与えられる力というのは間違い無いと思う」

 

「暴走を制御することが条件でもか?」

 

「ん〜、ダメかな。条件だけじゃその数値は通らないよ。

 もっと確固たる力の源がいるはず。

 その軸で考えるなら暴走は副産物。

 結果として暴走()()()()()何かを使って、或いは選別の過程で暴走()()()()()、と考えた方が自然かな」

 

「そうか、いい考えだと思ったんだがな」

 

「いや、いいんじゃない?

 数値を仮定してそれを実現しうる手法から正体を探るのは悪くないと思う。

 ただちょっととっかかりがなさすぎるかな。せめて実物を拝めれば何かヒントでも」

 

 

「さぁさぁよったよった!噂の『デトネイター』、アタシに勝ったら一個プレゼントだ!次の挑戦者はどいつだ!?」

 

 

「「…………は!?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方その頃、"仮面騎兵"ライザーと"斧凍"アックスは。

 

「そうか、さっきの"斧改"は弟子のようなものだったのか」

 

「そう」

 

 意外にも、会話が弾んでいた。

 

「君の斧さばきは俺から見ても達人の域に見えた。

 今度手合わせを頼みたいぐらいだ」

 

「まだまだ」

 

「向上心があるな。俺もだ。

 俺達マスターはつい特典武具や超級職の獲得に頼りがちだが、まだまだ己の技で出来ることを増やせると思っている」

 

「加速スキルは応用範囲が広い」

 

「よく言われる。だが俺のエンブリオはあまり操作性に(リソース)を割り振ってないんだ。

 耐久性等にもリソースを分散させてる割にはかなりの速度を出せるんだが、それ以外はな」

 

「魔法系で操るのは?」

 

「エンブリオのブースターから出した推進風を魔法職で操る、か。

 試してみたんだがあまり効果がなくてな。

 ざっくりと全身に纏わせるぐらいが精々だ」

 

「そう」

 

「だが今の俺ならもっと工夫できるかもしれないな。余裕もあるし、今度ビルドの再構築にもまたチャレンジしてみるとしよう。

 他にも何かオススメのビルドはあるか?」

 

肉体強度(防御力)があるなら筋力上げてSTR挙動」

 

「む。確かに俺の戦闘スタイルは速度に頼っているところはある。

 もっと筋力任せの力強い動きを組み込んでみればまた変わるか。

 ありがとう、それも参考にしてみよう」

 

「頑張れ」

 

 ライザーの実直・真面目な性格が噛み合ったのか。

 言葉は短いが意外と問われれば答えるアックスにライザーの適応が早かったのか。

 ともすればチェルシーとウェーブ以上に二人の距離は縮んでいた。

 

「君の斧の技は俺たち決闘ランカーに近い、数多く対人戦闘を行った経験も感じられる。噂には聞いているが、それほどPKとの戦闘が多いのか?」

 

「それだけじゃない。斧使いの大会とか交流とかもある」

 

「ほう、それは興味深いな。

 王国でも似たようなことをやろうとしたことがあるがうまくいかなかったんだ。

 それがレジェンダリアでは行われているのか」

 

「公式決闘、あんまり人気ないから」

 

「あ、ああ、なるほど。それも噂には聞いている。

 能力が特定条件下に向きすぎているものが多く、相性で事前に勝敗がほぼ決まるんだったか。

 工夫の余地がないから参加人口が減り、勝敗がわかりきってしまうから観戦人口にも難がある。

 その分細分化されたジャンルに流れ込みやすい土壌があったわけだ」

 

「ルールも多少は気を使われている。

 気が向いたら見に来るといい。参考になる力もきっとある」

 

「そうだな、そうさせてもらおう。

 君もよければ今度王国の決闘を見にきてくれ。君にだって劣らない戦士が」

 

 和やかな雰囲気をぶち壊すように、爆発音が轟いた。

 

「今のは」

 

「どこからだ!?」

 

 再び音がする。先ほどより大きいその音は街の外、さほど遠くない場所から聞こえてきた。

 悪く考えるなら暴走したマスターか強盗の類か。

 無論試し撃ちや鍛錬の可能性もある。

 だが誰かが襲われている可能性があるのなら、黙っていられる二人ではない。

 

「外か、行こう!」

 

「うむ」

 

 バイクに飛び乗る。アックスが器用に後部に立ち乗りしているのを確認し、ライザーはエンジンをふかせた。

 

 

 

 

 

 向かった街の外には人影は一つもなく、しかし二人は気を緩めなかった。

 大地と草木の端々に、焼け焦げたような痕がある。

 戦闘の痕だ。

 

「違う。戦闘にはなってない」

 

「何?……いや、そういうことか。痕が焼け焦げのものしかない。

 マスターの能力は個々で多様。反抗したなら痕の種類が増えるはず。つまりこれはろくに抵抗できず一方的に殺害された痕跡―――」

 

 瞬間、矢が飛んだ。

 瞬きの間に五発。息もつかせず更に五発。

 木々枝葉を擦り抜け命中する上空からの曲射と側方からの直射。

 タイミングを合わせるため速い矢と遅い矢を織り交ぜ、敵の《危険察知》による反応をも加味した連射が、殺気一つ感じさせず撃ち放たれた。

 

 しかし、彼らも並ではない。

 

「《悪を蹴散らす嵐の男(ヘルモーズ)》!」

 

「ぬるい」

 

 ライザーはCTを終えた必殺スキルを躊躇いなく使い、アックスを拾って暴風と共に矢を吹き飛ばす。

 暴風を貫く数本の矢は抱えられたままアックスが叩き落とした。

 

(一本一本の威力は高くない。強い矢でも俺の装甲は抜けなさそうだ。

 速度もそれなりだがそれなり程度。なら単純な性能強化系じゃないな。

 まだ使ってないという可能性は低い。使うならあの奇襲が最大のチャンスのはず。命中条件か、戦闘経過時間関連か)

 

 ライザーが脅威への評価を考える間に、アックスは嫌そうな顔をしていた。

 この撃ち方には覚えがある。

 

 森の方を睨んでいると紅弓を片手にさげて紫髪の女が出てきた。

 自分が奇襲を仕掛けたことを忘れたかのようなにこやかなツラで、楽しそうに手まで小さく振っている。

 

「あらあら、活きのいい獲物さんたちですね」

 

 妙に響く高い声。

 その青紫に染められたシスター服と邪気のかけらもない笑顔を見れば、彼女を悪と疑うものはいまい。

 無論、既に襲われたもの達を除いては、だが。

 

「何者だ!なぜ俺たちを襲う!」

 

 ライザーが喝破する。

 今更外見に惑わされるようなヌルい環境に浸っていない。

 その女はにこやかに答えようとして。

 

「爆破。"弓晴手"ニャロライン・ニャレッジ」

 

 その言葉は、しかし彼の隣から聞こえてきた。

 

「アックス?」

 

「久しぶり、ニャロライン。会いたくなかった」

 

「あらあらアックスじゃない!久しぶりね!」

 

 虫を百匹ぐらい噛み潰したようないや〜な顔をするアックスとは対照的に、ニャロラインと呼ばれた女は砕けた口調になって笑みを深めた。

 

「けひひ……またいっそう強く輝くようになったわね……ワタシも嬉しいわ」

 

(今けひひって言ったか?)

 

「褒め言葉だけは受け取っておく。お前もまた強くなってそうで、全く嬉しくない」

 

 アックスから肺の中の空気を全て吐き出すくらい大きなため息が出た。

 その間も眼光はニャロラインからひとときも離されていない。

 アックスの強すぎる警戒心を感じ、ライザーも警戒を一層強くした。

 というかこの女が出てから外見以外、警戒を解く要素が一つとしてない。

 

「お前がここで人に対して爆発系の攻撃を行っていた……ということでいいか?」

 

「そうだけど、誤解しないでくださいね。

 よく誤解されるのですけれど、ワタシはなにも悪意があってアナタ達を爆破しているわけではないのです」

 

(悪意もなく人を爆破する奴の方が怖いんだが)

 

 彼女の眼には曇り一つなく、心から人を称える歓喜の光があった。

 あまねく衆生を認め導く、慈しみと尊重の念がある。

 逆に言えば距離感の近いアックスすら、本質的には他の人間と区分けしていないということだ。

 

()()()()()()()()()

 日々努力を積み重ね、少しでも前に進む。その心の現れが美しいのです。

 例えば大きな大会の会場で、自己新記録を更新した子。

 例えば小さな家の台所で料理の改善に成功した子。

 形は一つじゃない。でもその中でも一番輝くのが、()()なんです!」

 

「薄々察していたが最悪のオチだな」

 

「ワタシのエンブリオは相手の積み重ねが多いほど(レベル等保有リソースが多いほど)強く爆破させます。

 アナタのような方ならきっと大きく爆発できますよ」

 

「それを聞いて喜ぶと思っているのが一番気持ち悪い」

 

 ボロクソに言われながらもニャロラインには全く動じる様子がない。

 その心には愛が満ちており、その有様は信仰に殉じる聖女に等しい。

 感情のままの狂信ではなく、冷静にそれを正しいと思っている理性が感じられるのが、逆に最悪だった。

 

(レジェンダリア、心が強い(話を聞かない)異常価値観保有者が多いのかもしれんな)

 

 ライザーはかつて戦った相手(【蟲将軍】)のことを思い出しながら、ざっくりとレジェンダリアに対しての評価を下げていた。

 事実無根ではないため否定しにくい。

 

「俺達王国が言えた義理でもないが、こいつとっとと監獄に送った方がいいんじゃないか?」

 

「強い奴を優先する性情故」

 

「ああ、基本的にマスター(強い奴)にしか手を出さないのか。

 ……いや待て、レジェンダリアなら【妖精女王】がいるんじゃないか?」

 

「ワタシもそう思っているのですが、なぜかライブに当選したことがないんですよ。

 行幸の噂を聞いた時に限って近くで他の獲物を見つけて肝心の彼女は逃したりすることも多くて。

 あの人、爆破したら人生最高の輝きが見られると思うのですが。ティアンの方は爆破しても本人に見せられないのが残念ですよ」

 

「日頃の行い」

 

(なるほど、危険人物はファンクラブや活動運営者の方で排除してるのか。

 危険がないようにかなり事前に排除してるから未遂犯にも問いにくい。

 因縁づけるための余罪もないのだろう。これでか?)

 

 ついでに言えば素行も良い。

 彼女が爆破した者が落としたドロップアイテムもちゃんととっておき、保管して持ち主が言い出せば返すことにしているほどだ。

 なお自分を奇襲で爆破した相手に対し、自分のドロップアイテムを要求しに行くやつはほとんどいないため、けっこうな量が死蔵されている。

 

「ああ、安心してくださいね!

 アナタ達の爆破姿はちゃんと撮ってSNSに載せておきます。マスターならログアウト中に見れますよ」

 

「要らない」

 

「それに貴様にはできない。

 ここで斃れるのは―――貴様の方だからな!」

 

 テレビの向こうのヒーローのように見得を切る。

 何度となく繰り返してきたそれは、見栄えだけでない重みをも備えていた。

 ニャロラインによって歪められていた空気を引き戻すライザーの堂々たる宣言に、ニャロラインは嗤った。

 

「ケヒャヒャヒャヒャ、良い啖呵です。

 その気迫に相応しい輝きがあることをワタシとアナタで証明しましょう!

 見せてください、アナタたちの輝き……アナタズ・ザ・エクスプロージョンをねぇーーー!」

 

「なんなんだこいつは!!」

 

 二手に分かれ、二人はニャロラインに向け駆け出した。

 

 

 

 一人で二人を相手取る状況であってもニャロラインの笑みに変化はない。

 無造作に矢筒から矢をむしり取る。

 一本や二本ではない。一度に()()

 うち五本を同時に弓に番え解き放った。

 矢を撃ち放った弦が反動で奥から手前に戻った瞬間に更に五本を番える。撃った。それをひたすらに繰り返す。

 

「……!」

 

 ライザーは目を見張る。

 一度に五本を撃つ。狙っているようにまるで思えない暴挙は果たして過たず三本をアックスに、二本をライザーに直撃する軌道を取っていた。

 回避した先には二段目の矢が待ち、その矢への反応も織り込み済みで三段目が迫る。

 追尾スキルでもなければ多射スキルでもない異次元の弓術(リアルスキル)

 だが。

 それを受けるのが王国決闘六位、マスクド・ライザーであれば躱しきれる。

 

「スキルを使っていないことには驚嘆するが、それだけだ!」

 

 追尾スキルや多射スキル持ち相手であれば十分に経験がある。

 熟練の闘士であるライザーにとって、その攻撃はギリギリでも避けられるものだ。

 しかしギリギリの回避を強いられ続け、なかなか敵に近づけない。

 同時発射数以上に連射速度こそ厄介と捉える。

 

(あれもスキルじゃないな。弓使いの高STR(筋力)による高速駆動。

 それも器用に肉体損壊が起こらないよう繊細な制御がされている。

 弓を撃つという一動作に限るとはいえ、あの【破壊王】を思い出す)

 

 王国最巧の男の拳撃を彷彿とさせるならば、この女の技巧も尋常ではない。

 矢の速度自体はライザーより遅くとも、風で弾けない矢を混ぜられ先読むように撃たれながら、掠らずに避け続けるのは難しい。

 そしておそらくこの敵の爆破矢は掠るだけで致命傷だ。

 第六形態のエンブリオ、500カンストのレベル。

 強靭な盾にもなる己の肉体強度を、むしろ燃料として爆破されかねない。

 

 ライザーが王国決闘の強者であれば、この女もまた強者。

 この地で開かれる弓使い限定大会、<闘弓大会>における優勝者。

 レジェンダリアの弓使いに限れば()()の女である。

 

 その強さを肌身に感じながら、むしろ感じるからこそライザーは奮い立つ。

 

「俺の強度を無視できても、俺の速度は無効化できない。それが貴様の(<エンブリオ>)の弱点だ!」

 

 神速居合("断頭台")分身殺法("怪猫屋敷")を仮想敵として鍛錬を続けてきた。

 相手がレジェンダリア最強の弓使いであろうとも、片手間に負けるわけにはいかない。

 気合いに呼応するようにその回避が鋭さを増す。

 暴風を纏うように縦横無尽に天地を駆け巡り、掠らせることなく立ち回る。

 

(アックスは……無事か)

 

 視界の端に姿が見えた。

 ライザーと違い足が遅いアックスは、しかしライザーより多くの矢を相手に凌いでいる。

 鏃を避けて矢を切り落とし、落としきれない矢は連撃で作った積層氷壁で受け表面のみを爆破させる。

 その歩みはライザーより遅い。だが着実に進んでいく。

 故にニャロラインは双方を無視できず、力を分散して戦うしかない。

 

 ライザーは徐々に距離を近づけていく。

 音速を超えるライザーに客観時間で数秒かけさせただけでもたいしたものだが、この距離なら10秒もかからない。

 

 

「―――」

 

 この後に及んでも揺るがないニャロラインの笑みを警戒しながらも、その恐怖に囚われない。

 マスター同士の戦闘で後手に回るのは危険だ。

 単純な爆発型のアームズだと割れている今、時間を与える方がリスクになる。

 その判断はごく正しい。

 段階的な強化で致死半径に足を踏み入れさせた"改斧"と違い、この敵のやることは常に同じだ。

 ―――即ち、時間差の弓矢による誘導殺。

 

「っ、止まれライザー! ()()()()()!」

 

 アックスは戦いながらライザーの方をずっと見ていた。

 その声に反応できたのはライザーの円熟した戦闘経験の結晶である。

 

 AGIで動くことで無視していた空気抵抗をSTR(筋力型)機動によりかき集め、エアバックのようにしつつ全力で蹴り込む。

 巨大な空気抵抗が体を抑え、蹴り込んで解き放った風が暴風となって吹き荒れ逆方向への推進力を発揮する。

 隙を大きく晒す故に普段はやらない緊急停止だ。

 かろうじて止まる。だが前面の風を突き抜け矢が迫っている。

 その矢を恐れず、ライザーはアックスに問うた。

 

「これでいいんだな!?」

 

 矢はライザーに当たる軌道を取り、しかし当たる前に爆発した。

 暴風により巻き上がった土が矢を阻み、接触によりごく小規模な爆発を起こしたのだ。

 リソースの小さな土砂だ。爆発は矢を損壊させるほどではない。

 しかし明確に軌道が捻じ曲がり、装甲を掠めるが起爆はしない。

 

(爆破できるのは鏃と物体の最初の接触時のみか。妥当な制限だ)

 

 だが止まる必要はあったのだろうか?

 疑問に思うライザーの頭上、中規模の爆破が起こる。

 上方複数箇所から降り注ぐ爆圧は周囲の地を揺らした。

 

「……!?」

 

 咄嗟に上ではなく敵と仲間を見る。

 こちらに向け斧を振り終えたアックスの姿勢から、造った氷を斧で砕き飛ばしてきたのがわかる。

 頭上から来ていた矢を迎撃してくれたのだろう。

 だが爆破するまで気づかなかった。警戒していたライザーが、だ。

 

()()()()()か……!」

 

 眉を顰める。

 不可視の矢など弓手なら誰でも試す凡庸な手だ。

 ライザーも当然慣れているし、正面で向かい合ってならまず食わない。

 だが敵が使うのは複数本を同時に番える異形の弓術。

 出を悟りにくく、更にライザーが最高速を出すためブースターを最大稼働させてしまえば音は聞き取りにくくなる。

 視覚触覚とて僅かな風の流れを掴めるわけもない。

 いかにライザーであろうと目の前の敵と見える矢を警戒しながら不可視の矢に気づくことは困難だ。

 凡庸な力を必殺に変える弓の腕と戦術構築に敵ながら舌を巻いた。

 今のはかなり危なかった。アックスがいなければ詰んでいただろう。

 

(天に放った矢で狙う驚異的技巧、それ以上に巧みな組み立て。だが!)

 

 攻略方法はアックスが示してくれた。

 改めてライザーは暴風を纏い、身を深く沈め地を蹴り砕いた。

 

「《ライザー―――」

 

「おっと、これは……マズい」

 

 ニャロラインの顔に初めて冷や汗が流れる。

 

「土流―――」

 

 空を飛ぶのではなく、蹴り開く地に半ば埋もれるようにして滑り迫る。

 直線的な突撃に対し、ニャロラインもまた直線的に、矢をガトリングのように連打した。

 要塞の外壁であろうと数秒とかからず破壊しきる豪雨は、前面を覆う土砂を爆破しては更なる土に防がれる。

 土砂を最後まで抜けてもライザーに当たらず、当たっても鎧に阻まれる。

 多重防壁。アックスを真似しながらもアックスには真似できないライザーの技だ。

 

「素晴らしいッ!その輝きを……是非とも爆破したい!」

 

 この期に及んでニャロラインは歓喜した。

 アックスの方に割いていた矢をライザーに差し向ける。

 本数は倍以上。狙う範囲が絞れたことで連射速度は1.3倍。気合いで2倍にまで引き上げる。

 無理をさせたことで弓が悲鳴をあげ手から血飛沫が舞う。その飛沫が地に落ちるより早く撃つ。

 

「ケヒャヒャヒャヒャッ!!」

 

 四倍以上に高まった攻撃速度が遂にライザーを覆う土砂を吹き飛ばしきった。

 あと一歩。二射と撃てない距離。ニャロラインにとっては十分。

 番えられた五本の矢は狙い過たずライザーに直撃し、その体を確かに爆散させた。

 先ほどまでとはまるで違う、高リソースの存在を燃料にした爆破が耐性装備をつけたニャロラインの体すら震えさせる。

 一瞬何も見えなくなるほどの爆発。

 

「これでぇ……」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()姿()()()()

 

 ニャロラインが笑みを崩し、目を剥いた。

 

「バカな……!」

 

 手札を隠していたのはニャロラインだけではない。

 手品の種はライザーがかつて手に入れた特典武具。

 【双星輪 アルマ・カルマ】の装備スキル、《ダブルキャスト》は()()の作成。

 前面に出した分身に弓を受けさせ、爆散の隙に歩を進める。

 至近距離で高リソースの分身が爆散した被害は【救命のブローチ】で受け切る。

 この一瞬、この勝機を逃さないために、己の全てを注ぎ込んだ。

 

「―――キック》!!」

 

 豪速の蹴りが胸元に直撃する。

 その瞬間のニャロラインの動きに、ライザーは目を疑った。

 

「残念です」

 

 爆風に紛れた至近距離。弓を構え直しライザーに矢を撃つことはもうできない。

 故にニャロラインは足元に向け撃ち放った。

 

「……!」

 

 いつからだろうか。彼女の足元には高位金属の塊が落ちていた。

 自然に落ちているわけがない。いざという時のための仕込み。

 爆風を起こし離脱する、それだけのための。

 

 ライザーは焦った。

 足はまだ届いていない。

 矢の着弾と足の着弾、おそらくは矢の方が早い。

 

(バカな、この思考構造で逃げるのか!?)

 

 戦士であれば、本気でぶつかるときには必勝を誓う。

 一歩深く踏み込まなけれは勝てない瞬間がある。

 保険をかけては臆し敵の勢いに飲み込まれる。そういう状況が必ずある。

 先程のニャロラインの顔はその手の戦士の顔に似ていた。

 逃げることを考えてもいないような本気の熱量。

 目的(最高の輝き)を達成するために命も投げうてる狂信性と技巧への自負。

 あれだけの弓術を持ち、敵の本気と本気でぶつかり合うことに拘り、それでいて逃亡の保険を備えていることなど本来ない。

 

 故にそれは本人のものではない。

 弓を習った師の、射手にして狩人の冷徹な戦闘思考。

 【弓神(ザ・ボウ)】に就く達人の境地を習い一月でものにした彼女は、本来あらざる二つの思考を並列させている。

 

 それをこの場でただ一人、理解している者がいた。

 

 勝利がライザーの足先から逃げる。

 皮一枚で避け飛んだニャロラインが右を見やる。

 水色の投斧が音を遥かに越える速度で飛んできている。

 

 ライザーの渾身の突撃により、ニャロラインの注意はアックスから離れた。

 その時点でライザーの援護に回っても逃げられる。故にライザーに賭けた。

 この男ならばニャロラインを追い詰めてくれる―――己の出番はその後でいい。

 

「ケ、ヒヒヒ―――」

 

 ニャロラインの弓が斧に向く。

 ブレなくまっすぐ迫る斧の側面を撃つことはできない。

 刃に当たれば爆破できたとしても、先ほどのライザーより近い距離。

 接触した刃を基点に発動する凍結に己の肉体も巻き込まれるだろう。

 高速回転する斧の柄に、刃に触れさせることなく矢を当てることができるだろうか?

 ニャロラインでさえ確信は持てない。

 それでも奇跡を運命的に掴むつもりで矢を放とうとして。

 

「―――"閃光"」

 

 赤い光が閃いた。

 

 

 <闘弓大会>に優勝者がいるなら、当然に準優勝者も存在する。

 "弓晴手"ニャロライン・ニャレッジに次ぐと誰もが認める弓手。

 広大な射程、絶大な威力、超高の弾速を兼ね備えた全距離対応弓使い。

 "強弓"シスル。レジェンダリアでのみ知られている弓使いのNo.2(ザ・セカンド)だ。

 

 

 神速、としか言いようがない到達だった。

 遥か遠方より放たれた矢はライザー達の目に止まらぬ速度で斧と弓をまとめて横合いから吹き飛ばす。

 両者の武器が飛んだ。その結果だけが理解できる。

 

「……あ、シスルちゃんだ」

 

 ニャロラインだけが、結果と感覚から答えを導き出せた。

 ライザー達がその言葉に反応するより早く、何者かが駆けてきていた。

 矢が飛んできた方向から迫る者をアックスとライザーも認識する。

 

「くっ、新手か!?」

 

「あいつか」

 

 地を蹴りとばして加速する小柄な女。

 土煙の中でも燃えるように輝く赤い瞳と髪。

 金属の装甲を要所に備えた純白の和装。

 前衛の様相でありながら手に持つ弓は塗装前のような安い白。

 紅白の女は前衛戦闘職並の速度で走り込み、様子を伺うライザー達とニャロラインの間に割り込んだ。

 

(この強敵を含んでの二対二、先の手も二度は通じない、マズい。

 なんとか弓を拾われる前に畳みかけるか―――?)

 

 ライザーが動こうとし、アックスが悩みながらも追従しようとする直前に。

 紅白の女の拳が振り下ろされた。

 ()()()()()()()()()()

 

 

「いっッたァッ!?」

 

「またやらかしたなお前バカお前本当にバカ!

 人様に迷惑かけるなって何度言ったらわかるんだよ!!」

 

 

 その勢いのままニャロラインの頭を地面に擦りつけ自分も頭を下げる姿を見て。

 ライザーとアックスは全く同じことを思った。

 

((―――ようやくまともで平和的な奴と会えた))

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方その頃。

 チェルシーとウェーブは街中でダンスバトルと歌唱バトルに挑まされていた。

 

「…………なんで?」

 




ひたすらバトルさせてえ~という気持ちでこの作品は成り立っております
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