The NEXT for Force Detonator 作:みそしる
全部書き終わったわけじゃないんですが、『デトネイター』の真実とその次の回までは終わったので、是非そこまでは読んでほしいですね
というわけでお約束の歌唱ダンスバトル回です。お楽しみいただけると幸いです
少し、時間を遡る。
「さぁよったよった!噂の『デトネイター』、アタシに勝ったら一個プレゼントだ!
次の挑戦者はどいつだ!?」
「「…………は!?」」
街中を散策していたチェルシーとウェーブ。
道の先から聞こえてきたのは聞き捨てならない言葉であった。
二人の緩んでいた顔つきが変わる。
人混みをすり抜け寄っていくと、そこには一人の女が居た。
「さぁ―――このアタシ、ライズ・ライムに挑む奴はいるかい!?」
道を数本跨いでも雑踏の中聞き取れる、響き渡る
行き交う人が思わず目を惹かれる堂々たる立ち姿。
ゲームの内外問わず美人の知り合いが多いチェルシーも一瞬だけ目を奪われた。
(すごいな、"オーラ"がある)
陽光を思わせる金色の髪が風に靡き、赤い瞳に視線が吸い寄せられる。
両手首を飾る金の細い腕輪に、首から下がる血色のペンダントが妖しく輝く。
極彩色の服装に負けていない迫力と魅力。
『変な人』とは思わせず『不思議な魅力を持つ美人』と印象付ける力があった。
「へい美人の姉ちゃん。その勝負ってのはどこでやるんだ?
闘技場か? まさかここでってことはないだろうが」
ウェーブは物怖じせず話しかけに行く。
"凄い人間"には山のように会ってきた。
特にこのレジェンダリアには正負問わず印象の強い奴が集まるものだ。
今更魅力的な美人程度気にならない。嘘だ。お近づきにはなってみたい。
「いいやここでだ。わざわざステージも用意してあるだろ?」
「おいおい、第六戦闘型どころか第一だってこんな狭いところで戦ったら周囲が危ないだろ」
「おいおいはこっちの台詞だな。アタシがいつ戦闘するって言ったよ」
「え?」
怪訝な顔をするウェーブ達を相手に、ライズ・ライムは指を突きつけ言い放った。
「選びな、
ウェーブとチェルシーは顔を見合わせ、答えを返した。
「
「タイムよし、早めに戻れよ」
「どうする? ライザーさんとかダンスか歌上手かったりするか?」
「なんか昔の歌熱唱してるの聞いたことあるけど、競えるほどかって言われると……アックスちゃんはどうなの?」
「あの人アバターと現実の肉体の差がデカいせいであんま声出ねえぞ。動きもどっか違和感が出てるらしい。
正直俺にはわからん程度だけど本人は結構気にしてるからなぁ」
「ならあたしたちでやるしかないか……」
下がったチェルシーとウェーブは小声でこそこそしながら仲良く焦る。
ライズ・ライムは壇上でMCをして場を繋いでいた。目線を送るとウインクをかましてくる。
今のところ待ってくれているようだが、他に挑戦者が来ないとも限らない。
早めに決めた方がいいが、両者ともにまさかこんなところで己の芸術性を問われることになるとは全く思っていなかった。
当然そんなに自信はない。
友人とカラオケに行って点数勝負をするならまだしも見知らぬ群衆前での投票勝負だ。
評価基準がわからない。この町の流行がわからない。相手の技量もわからない。
だがうだうだ言っててもしょうがないと、ウェーブは腹を括る。
「しっ……かたねえか。俺は歌の方ならちょっとは自信ある」
「そうなの?ちょっと意外。実績は?」
「聞いて驚け、町内会素人のど自慢で優勝したこともある」
「微妙な信憑性」
「うるせえな!」
チェルシーは呆れた顔を作りながらも、ウェーブの勇気に感心した。
こんな大勢の見る場。しくじればずっとネタにされかねない。
まして相手はおそらく歌とダンスに自信があるシンガー。
町内会素人のど自慢の実績だけで挑むことなど本当はしたくないはずだ。
それでも堂々と、チェルシーを勇気づけるように先んじて名乗りを上げる覚悟に、チェルシーも覚悟を決めた。
「……しょうがないね。あたしも歌よりはダンスの方がまだいけそうな気がするし」
海賊帽を脱ぎ、長いポニーテイルをシニヨンに括る。
意外そうにウェーブが問いかけた。
「なんだ、お前もやるのか。実績あるか?」
「小学生の頃、ちょっとした大会で準優勝」
「へっ、町内会素人のど自慢ぐらいには信頼できそうだな」
「うるさいよ」
十年近く前の経験だけを武器に人前で踊る。
ましてチェルシーは上位の女性決闘ランカーとして名の知られた女だ。
ネタになる可能性で言えばウェーブよりもずっと大きい。
それでも踊ると言い切るのにどれだけの勇気が必要だろうか。
茶化しながらもウェーブはその覚悟に尊敬の念を覚えた。
(んー、あの二人はまだか。帰っちゃったか?そろそろ一回切り上げて……お)
MCの話題も尽きようとしている中、ステージに人影が差した。
二人組、チェルシーとウェーブの姿を見て、ライズ・ライムが目を丸くした。
ひと目でわかる、覚悟を決めた顔つき。
そして身に纏う、ライズ・ライムに負けない
アイテムボックスの中身をああでもないこうでもないと組み合わせた、二人の汗と涙の結晶である。
「待たせたな。俺が歌、こっちがダンスだ。
二対一だからって卑怯とは言わねえよな?」
「言わないでしょ、往来で不特定多数相手に堂々と挑戦者を求めるような人だよ。
これで退くなんてつまらないこと、まさかしないですよね?」
ウェーブ達は緊張も不安も隠し、自信満々の挑戦者に見えるようふてぶてしく笑う。
虚勢を張る彼らを見てライズ・ライムは目を瞬かせ、やがて楽しそうに笑った。
「いいねえ、やる気がある奴らは何人だって大歓迎だぜ。
そうだな、帽子の
アンタの歌とアタシの歌、アタシのダンスとアンタのダンス。
どっちか片方でもアタシに勝ったらアタシの負けだ」
「
チェルシーは『ハンデを用意された』と感じた。
遅れてウェーブも気づく。
歌と踊りのそれぞれに集中できる彼らに対し、一度に歌も踊りもやらなければならないライズ・ライムは明確に不利だ。
「ふぅん、随分俺たちに有利なルールじゃねえか」
「この方が観客の皆にもわかりやすいだろう?
それにアンタらの本職は戦闘だろうけど、アタシの本職は歌って踊ることだ。
ちょうどいいハンデさ。違うかい?」
「言うじゃん。こっちも言っとくけど、やる以上負ける気はないよ。
あなたの方が歌踊の経験は多いのかもしれないけれど、
三者の視線が絡み合い火花を散らす。
ステージ上の熱気が観客にまで伝わってくる。
一度高まった熱は準備の間も冷めることなく、観客たちにその後の歌を心待ちにさせていた。
敷設されたステージは簡易的なものだ。
歌って踊れる程度のスペースを作り、そこを少し高い仮設の床が覆っている。
音響設備も用意される。それは機械ではなくマジックアイテムによるものであったが。
勝負の前、一旦裏手に回ったウェーブにライズ・ライムからマイクが投げ渡された。
「このマイク渡しとくよ」
「おっさんきゅ。これもマジックアイテムか?」
「ああ。拡声機能以外に、
せっかくの対決がアカペラってのもしまらないだろう?」
「おお、そりゃ助かる!」
最悪こっちで買ったメジャー曲の演奏再生アイテム(当然プレイヤーメイドだ)を使うつもりだったウェーブはとても喜んだ。
最高に好きな歌を歌うのが一番強い。
最高に好きな英雄を真似て戦っているウェーブは、当然のようにそう考えている。
彼視点で最高の援軍を貰った彼は自信満々にステージに向かう。
「さぁ、いっちょやってやろうぜ」
群衆の視線はさまざまだ。
名乗り出たウェーブ達に期待している者、風体を見て前座だと思い期待していない者、しくじることを望んでいる者、見かけたイベントに内容もわからないまま好奇心を満たしに来た者。
確かなことは、ここで失敗したら致命的に場が冷えるということのみ。
それを理解しながらも、ウェーブの足取りに迷いや躊躇いはない。
戦いに踏み出す時と全く同じように、彼はステージという戦場に踏み出した。
「最前列で待っててくれたお前らも、道を通りすがっただけのあんたらも!
一曲聞いてけよ、"W-B-X ~W-Boiled Extreme~"!」
この世界でおそらく初めて歌われる曲が、観客に向け奏でられる。
独特なイントロに惹きつけられた興味を歌の評価に繋げてやるぜと言わんばかりに、ウェーブは本気で歌い始めた。
(え、ウェーブってこんなに歌えるの?)
チェルシーは驚嘆した。
所詮はアマチュアだ。技術はプロのそれに遠く及ばないだろう。
だが歌に感情を込め観客に伝える力が、観客の感情を引き出す力が素人離れしている。
ライズ・ライムも舌を巻く。
(おいおい、これで配信者とかでもないのかよ。勿体ないな)
その歌には"熱"がある。
歌うほどに気持ちを昂らせ、その熱が観客に伝播する。
そして高まった観客の熱を燃料にして、ウェーブ本人もどんどん調子を上げていく。
"武装探偵"ウェーブはかつて"ヒーローに憧れる少年"だった。
特に印象深いのが動画サイトで配信されていたある特撮作品。
当時の彼にその作品のテーマ性や深みが理解できていたわけではない。
それでも、そこには熱があった。
製作陣の『面白い作品を作ろう』という意志。
役者達の『最高の作品のために演じよう』という意志。
そしてなにより登場人物達の懸命に生きる輝きが。
当時の彼を、理解できないままに魅了した。
この<Infinite Dendrogram>という世界に訪れた時。
ウェーブは"彼"のようになろうと思った。
それはただ彼のように振舞うだけではない。
"彼"に自分が感じたものと同じものを、自分を見た誰かに感じてもらえるような存在になろうという、振る舞いだけを真似るよりずっと大それた目標。
初めの数日はこの世界に慣れるだけで精一杯だった。
一月かけて、ようやく真似事ぐらいはできるようになってきた。
数年かけて、今は少しだけ、その熱を伝えられるようになった気がする。
同じことだ。
歌を歌うのも、依頼を受けるのも、敵と戦うことも。
彼にとってはずっと同じことで、故にこそ、込められた"熱"は十分に伝播する。
それが彼が積み重ねてきた、確かに実った努力の結晶なのだから。
やがて曲が終わる。
観客たちの熱も次第に落ち着いていくのを感じた。
その熱が消える前にと、ウェーブは特大の感謝を声に乗せた。
「お前ら、最後まで聞いてくれてありがとよ!」
爆発的な歓声が上がった。
マイクを掲げて万雷の喝采を受ける。
その瞬間、確かに彼は"主役"だった。
ステージを降りて裏に回ったウェーブの耳に、ぱちぱちぱちと音が聞こえた。
拍手をしながらライズ・ライムが寄って来ている。
「やるじゃねえか。もっと技術鍛えればプロだって狙えるんじゃねえか?」
その声色には忌憚のない賞賛の響きがあった。
認められたことに鼻高々に、ウェーブはかなり調子に乗って返事をする。
「そりゃどうも。ま、今の人生もそこまで嫌いじゃないんでね。
それより今は勝負のことだ。ハンデなくすっつっても受け入れてはやれないぜ?」
「そんなつまらねえこと言わないさ。
それに、歌って踊るのは慣れてるんでね。そこまでのハンデってわけじゃあない」
挑発するウェーブに、軽い様子でライズは返す。
この熱狂を聞いても余裕に一切の陰りがないライズに、ウェーブはちょっとだけ不安になる。
(いや、いけるいける!俺過去一いい歌歌えてたって!
こいつがどんなもんかわからんがあの盛り上がり、プロ相手だってワンチャンぐらいは―――)
「どんだけやってくれるかなと思ってたが、こんだけいい歌を聞かせてもらったんだ。
アタシも本気で聞かせてやるよ、アンタが納得して負けられるぐらいの歌を!」
輝くステージに向かい、ライズ・ライムが歩を進める。
それだけで観客の視線が彼女に集まっていくのをウェーブは感じた。
気迫。熱量。存在感。その全てが、背を見るウェーブ達に不安を、観客達に期待をチラつかせていた。
「―――"UNLIMITED BEAT"」
始まりの一節目を聞いた時点で、ウェーブは『負けた』と思った。
「―――♪」
声の張りが違う。
声色に深みがあり、発音のキレがよく、込められた感情が過不足なく伝わってきて、ひたすらに圧倒される。
血が通った歌、とでも言うのだろうか。
ウェーブが実力以上を発揮してようやく成立したことを当然のようにやっていて、その上で土台となる
(すげえ、技術が伴えばここまで変わるもんか!?)
ただ技術的に優れているだけではない。
そこにあるのは感情を
余計なものを感じさせノイズを作らないように。伝えたい思いを汲み取りやすいように。一辺倒に押さず疲れも飽きもしないように。
組み上げられた歌はぼんやり伝わる"熱"とは違う、直接焼き焦がす"炎"のようで。
歌を聴く耳に、彼女を見る目に、高鳴る心臓に、記憶が焼き付けられていく。
("熱い"……これが本職の、本物の歌かよ!)
歌が先に行くごとにその気持ちは強まる。
ウェーブが"情熱"を伝えたとしたら、彼女が伝えているのは"物語"だ。
歌にかける想いと願い。
厳しい状況での苦悩。焦燥感と躊躇いの狭間に囚われていた少女が、仲間からの応援に励まされ、感謝と共に立ち上がる。
胸に溢れる絆、勇気、愛。強い意思が光に向かって進んでいく―――。
(うわ、潤んできた。そんなに露骨に泣かせる歌ってわけでもないのに)
チェルシーも上流階級の人間として、そして一般市民の一人として、様々に歌を聞いてきた。
その上で言えば、これは間違いなく
歌がうまいだけでは至れない。熱を伝えられるだけでも届かない。
才能と努力、感情と技巧に歌そのものが噛み合った
更に驚異的なのは、それを踊りながらこなしていること。
「すっげ……」
素直な感嘆の声が観客席から漏れた。
炎のように豪快なダンス。華麗さもさることながら、大きく手足を広げて回し、高く空に舞い上がっても声には一切の揺らぎがない。
肉体を動かすということは酸素を消費し肺や胃を歪めるということだ。
この世界の戦士は身体的に超人だが、それでも必ず声に影響が出る。
高い肺活量があろうと運動神経がよかろうと、自然に声に歪みが出る。
対抗策は
実際に歌いながら踊り、歪みを確認したら修正し、
どう動けばどう声が変わり、それを補うにはどう歌えばいいのか。
才人が修練を続けることで辿り着ける達人の域。
素人でさえ努力のほどを感じ取れる歌唱技巧がそこにはある。
歌と踊りが終わり、ウェーブの時をも遥かに上回る喝采が彼女を包む。
ウェーブやチェルシーもまた、全力の拍手を送っていた。
己の敵さえ魅了して、ライズ・ライムは己の才を示してみせた。
次回、チェルシーダンス回