The NEXT for Force Detonator   作:みそしる

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Third Singer -"Wandering Gold"

「負けたぜ。すげえ歌だった。

 ダンスにかけちゃまだわかんねえが、()は流石に負けを認めるしかねえな」

 

「だろう?」

 

 ウェーブの素直な敗北宣言を、ライズは自慢げな顔で受け取った。

 圧倒的に負けても嫌う気になれない。それだけ歌に魅了された証拠だ。

 

「つってもお前、流石にプロの歌手が街中で素人相手に勝負挑むのはどうかと思うぜ」

 

「いやアタシはアマだぞ。メジャーデビューもしてないし」

 

「へーアマチュア……アマチュア!?あれで!?!?」

 

 ウェーブは今日一番驚いた。チェルシーも唖然としている。

 必ずしも歌唱力が高ければ売れるというものでもないが、あの一曲には『これが売れないわけがない』と確信させるものがあった。

 単純なウェーブであれば、もしライズが「実は世界一位です」と言い出してもそれなりに信じただろう。

 嗜みとして流行歌を一通り聞いているチェルシーはそういえばと考える。

 

(確かにこの声と歌い方は聞き覚えがない。声が多少違うとしても、ここまでの歌唱力なら心当たりぐらいはあってもおかしくないはず。

 現実では歌えない……なにか現実の肉体にハンデでもあるのかな)

 

 その推測は概ね正解である。

 

 ライズ・ライムは生来()()()()

 それも極端に。具体的には、一曲歌えば必ず喉が裂け血を吐くほどだ。

 

 

『また血を吐いて喉が潰れてるじゃない!もう歌うのはやめなさい!』

『母さんもお前が好きだから心配してるんだ。せめてもっと声を小さく歌うとかできないか?』

 

『そんな気にするなよ父さん母さん。

 喉が潰れてもなんとかなるさ。

 それよりもアタシは思いっきり歌を歌いたい。知ってるだろ?好きなんだよ、歌うのが』

 

 声が出しにくい、というのは大きなハンデだ。

 大人でももちろんのことだが、子供の社会においては排斥されやすい特徴。

 それを抱えながらも明るく元気に、同世代の子供と仲良く過ごしていた娘のことを両親は誇りに思っていたが。

 その前向きさで自分の喉を潰してでも歌おうとすることにはいつも胸を痛めていた。

 愛する娘が血を吐いているのだ。気にしない方が難しい。

 ライズは夜中起きた時、両親が悲しげな顔をして話しているのを見たことがあった。

 

『あの子、恨み言ひとつ言わないのよ。

 十分に歌えない体で産んだのは私なのに』

 

『俺もその意味じゃ同じだよ。

 ……多分、本当に気にしてないんだとは思うが。

 まさか"本当に気にされない"ことで困るとはな……』

 

 両親なりに楽器を与えたり他の遊びに誘ったりしてみて、彼女もそれなりに楽しむものの、結局どこかで歌っていることが多発。

 それ以外の素行も成績もいいので周囲も止めるに止めにくく、本気で叱っても全くこりないので親も半ば諦めて将来のために声が出せない者向けの資料を集めておくようになった。

 

 

 歌うのが好きだった。

 言葉を使えなくなってもいいと、正気の思考で言い切れるほどに。

 例え神が歌うことを咎めているのだとしても、自分の胸から出たこの気持ち(答え)を裏切る気にはならなかった。

 

『歌手にはならないの?』

 

『いやぁ、書類と音源審査までは通るんだけどな。アタシが一曲歌うと喉潰れる話するとだいたい不採用になっちまうんだよな』

 

『瀕死の蝶と喉がいつ終わるかわからない歌手には触れたくない、ってか』

 

『こいつ蝶ってガラか?』

 

『この前器用に木登りして林檎捥いでたから猿にしとくか。声のいい猿』

 

『サメだろサメ。泳ぎ(歌い)続けないと死ぬし前焼き魚頭から丸齧りにしてたし』

 

『て、め、え、ら、よぉ〜!』

 

 自分で録音し配信サイトに流すという手もあったが、ちゃんとした機材はめちゃくちゃ高い。

 彼女が住む国では尚更に。

 安めのレンタル機材での生配信は初回の一曲後に血を吐いて視聴者をドン引きさせて終わった。

 『問題のあるコンテンツ』としてアカウントも消された。

 あっちゃーと頭を掻く彼女はこの後に及んでも明るく、しかしかすかに寂しそうに笑った。

 

『……諦めるかぁ』

 

 不幸中の幸いにして、彼女は別にそれほど歌手になりたいわけではなかった。

 彼女にある強い願いは歌うことだけだ。

 それをいろんな人に聞いてもらえればなお良いな、商売にしていけたら嬉しいな、という付随する気持ちは諦められた。

 

 

 そして、<Infinite Dendrogram>と出会う。

 

『これ、誕生日プレゼントよ』

 

『おお、もうそんな歳じゃないと思ってたよ。ありがと母さん』

 

『フルダイブ型VR、というらしい。

 詳しいことはわからないが、これを使えば()()()()()使()()()()、自分の喉を使っている感覚で歌えるんだそうだ』

 

『……!それって』

 

『話を聞いた母さんが必死に探して買ってきてくれたんだ。感謝して、ちゃんと現実の喉をいたわるんだぞ』

 

『もう、お父さんってば。休みの日に車出して遠くまで探してくれたのはお父さんでしょ』

 

『ちょっ、そういうのは言わなくていいんだって!今カッコつけてるんだから』

 

『―――ありがとう、母さん、父さんも。

 大事にするよ。絶対に、絶対』

 

 歌唱可能なダイブ型VRは既にいくつかやっていたが、<Infinite Dendrogram>はそれら以上のリアリティを持ち、彼女の歌唱欲を満たしてくれた。

 調子がいい日でも一日一曲しか歌えなかった頃の彼女はもういない。

 ハンデのないアバターの喉は常人並みの歌唱耐久力を実現し、そこからENDを上げ回復アイテムを使えば無限に歌うことができる。

 文字通り四六時中歌う生活はほどなくして収まったが、圧倒的な練習時間を手に入れた彼女はめきめきと実力を伸ばし、始める前と比べても雲泥の歌唱力を身につけていた。

 

 街中で歩きながら歌う。

 街の外で戦いながら歌う。

 コンテストに出場して優勝をかっさらう。

 そうこうしているうちに一部から流しの【歌手】として知られるようになり、今回のようにステージを用意してもらえるまでに成り上がった。

 

 

 ゲーム内で録音した音声を外部の投稿サイトに流せば、現実でも人気を得られるかもしれない。

 でもそうはしなかった。

 

「そんなことしたら、アタシがアタシを止められなくなっちまう」

 

 『アタシは配信で人気になったら絶対にリアルライブをやろうとする』という自分についての確かな理解があった。

 ファンの希望にかこつけるか。自分の欲望だけでやってしまうか。

 定かではない。だが"やる"ことは定かだ。

 

『感謝して、ちゃんと現実の喉を労わるんだぞ』

 

「わかってるよ、父さん。母さんも」

 

 衣食足りて礼節を知るように、好きなだけ歌えるようになって初めて彼女は親を慮ることを歌唱より優先できるようになった。

 だから彼女はあくまでこの世界の歌唱者であり、プロではないアマチュア。

 ただし最強のアマチュアだ。

 

 彼女に歌で勝てるとしたらこの世界の一流の歌手か、現実のトッププロぐらいなものだろう。

 

 

 

 そのあたりのことを話さず笑顔で誤魔化し、チェルシーに問いかける。

 

「さて、アタシに勝つ自信はあるかいお嬢ちゃん」

 

「……よく勘違いされるんだけど、あたしもう成人してるんだよね」

 

「「え!?」」

 

 童顔なチェルシーは実際より若く見られやすい。

 以前リーダーをしていたクランが20股男のせいで崩壊した時もひとりだけ『子供に手を出せないな』と避けられていたぐらいである。なお本人は童顔のせいとまでは気付いていない。

 ライズ・ライムはともかくウェーブも勘違いしていたことに怒ろうとして、『よく考えたらこの人も今日知り合ったばっかりなんだよね』と思い自制した。

 いつの間にかそこそこ付き合いがあるような気分になっていたが、実際にはかなり浅い相手である。

 

(二枚目半なのが効いてるのかなぁ)

 

 かっこいいところと間抜けなところをバランスよく保持しているため、好感度がほどよい。

 結果として距離を詰めるのが上手いのかもしれないと分析する。

 

 『やっちゃったなぁ』と顔を見合わせている二人を置いて、チェルシーはステージに向かう。

 

「確かに凄い歌だったし、かなりの踊りでもあったけど。

 勝ち目がないとは思わないね」

 

「……いいねぇ。魅せてくれるかい?」

 

勿論(yea)

 

 ステージに進む足取りは重い。

 今より観客が多い決闘の大舞台に何度も立っていた彼女でも、踊るためにステージに立つのは緊張する。

 

(顔、引き攣ってないといいけど)

 

 歩き出してしまえばもう手鏡を見ることもできない。

 そんな彼女の背に声が飛んだ。

 

「かましてこいよ、チェルシー!」

 

 ウェーブからの信頼と激励の声。

 あれだけのものを見ても戦友を心配せず、無邪気に応援してくるウェーブの声を聞いて、彼女は笑ってしまった。

 肩の力が抜ける。視界が広くなる。

 緊張が完全に失われたわけではない。それでも『きっと大丈夫だ』と信じることができた。

 彼女は元クランオーナーにして決闘上位ランカー。人の期待を背負って戦い、何度も結果を出してきた女だから。

 

 

 温まった場に現れた少女に観客の期待が集まり、その多くがひと目で惹きつけられる。

 彼女の普段の戦場に挑む強気な顔ではない、芸術を魅せる時の柔らかな微笑には、思わず恋をしてしまう、はっとする可愛さがあった。

 

「よろしくお願いします。―――"バレエ『海賊』"」

 

 

 

 ライズ・ライムに会場が魅了されていたあの時。

 ライズ・ライムの炎の如き豪快な踊りを見て、チェルシーだけは『勝てるかも』と勝機を見出していた。

 

 

「バレエか!なるほど、なるほどなぁ」

 

 訳知り顔で観客の一人が頷いた。

 

 本来、バレエとは長い物語を表現するものだ。

 複数人が協同し、一連の話を演じきる。その中の主役級によるソロパートを"Va.(ヴァリエーション)"と呼ぶ。

 チェルシーが今回選んだのもこれだ。『海賊』は中でも有名なものの一つである。

 

 ただし、原曲を知らないものがVa.だけ見ても物語は理解できない。

 あくまで一部分でしかないからだ。

 その点で言えば、一曲で物語を表現しきったライズ・ライムの歌には劣るだろう。

 

「うおっ、綺麗に跳ねるもんだ」

「緩急がいいね。ストップ&ゴーがうまく決まってる」

「私踊りだけならこっちの方が好きかも」

 

 だが問題ない。

 『ライズ・ライムの踊り』は決して、歌ほどに物語を表現していなかったからだ。

 

「あっちゃぁ、こりゃバレてたか」

 

 ライズ・ライムは頭を搔く。

 彼女は歌の天才だ。踊りも十分練習した。

 だが()()()()()()()()()()()()

 ダンサーとしての専門的教育を受けたわけでもない彼女では、歌に見栄えのいい振りをつけるだけでも精一杯だ。

 振り付けの完成度としては、流石に記憶が薄れている部分をアドリブで埋めているチェルシーと概ね五分。

 

(これがコンクール、審査員が経験者なら私の方が酷評されそうだけどね!)

 

 ほとんどの観客は原曲の踊りを全く知らないはずだ。

 であれば誤魔化せる余地がある。

 そう考えたチェルシーはウェーブとライズの歌を聴きながらどうにか見栄えのいい構成を作り上げていた。

 

 必死さを笑顔の下に隠し懸命に踊るチェルシーを見て、ウェーブは頬を緩めた。

 ほとんどの観客と違い、ウェーブはこの踊りに宿る必死さも感じ取っていた。

 その上でその踊りは美しく、可憐で、何より楽しそうだった。

 死力を尽くす決闘を楽しんでいる、普段のいきいきとした彼女のように。

 

「なんだよチェルシー、もっと自信満々になっていい良い踊りじゃねえか」

 

 

 振り付けは五分。では踊りの技巧についてはどうだろうか。

 チェルシーは十年近くバレエから離れていた。本来ならばリカバリーは困難に思える。

 ここでもまた、チェルシーには勝算があった。

 

(やっててよかった……()()()()!)

 

 王国に来てからのチェルシーは斧を使う前衛型だ。

 『思い通りに体を動かす』ということをずっとやってきた。それが踊りにも機能している。

 加え、ステータスも前衛型。STR(筋力)が比較して高いが、DEX(器用さ)とて定量ある。

 数百あればあれば常人の十倍の数値となる。肉体を精密に動かすには十分なほどだ。

 筋力も高いため動きに安定感もある。

 "近接戦闘の技をダンスに応用する"ことに関しては古く、剣舞文化等により証明されている。斧の動きでも同じことだ。

 

「いや、これは悩むなぁ」

「両方巧いと思うが、彼女の方が繊細さがあるかもしれん」

「踊り単体で見るなら、なぁ」

 

 そしてなにより、()()()()()()()()()()()()()()

 

(片手より両手の方が自由度が高い。歌を歌わない方が自由度が高い。

 そして、歌がない方が踊りに集中して見てもらえる)

 

 ライズ・ライムの歌は上手かった。()()()()()

 予想を遥かに超えたウェーブの歌に対抗するために、あまりにも全力で歌いすぎた。

 本人が事前に言ったようにダンスに支障はなかった。

 だがあれだけうまい歌に聞き惚れていては、付随する踊りの印象はどうしても薄れる。

 ライズが使ったテクニックを、細やかな動きを見てとれた者はほとんどいない。

 炎のような派手さは印象的だろう。だが時として目立つ豪快さは技巧に欠ける印象を与えてしまう。

 

(悪いね。あたしはお行儀のいい戦士じゃなくて悪辣さもある海賊なんだ。

 使える手はなんでも使うし、印象だって操ってみせる)

 

 純粋な技巧や感動だけで勝負するのではなく。

 素人審査員による審査の不正確さに付け込んででも勝つと決めた。その決断の結果を最後まで見終えて、ライズ・ライムは微笑み拍手を送った。

 歓声は二人より小さかったかもしれない。それでも、その後の投票結果は明白だった。

 

 

 

 

 

 

 三人は観客たちに一通り挨拶を終え、申し訳程度に作られていたステージ裏に戻る。

 同じステージを共有し、互いの歌踊に感動したからだろうか。

 三者三様の興奮が胸に残ったまま、笑ってお互いの健闘をたたえ合えていた。

 

()では負けたが―――()()の勝ち、だな」

 

「ありがとね。ウェーブがライズの力をあそこまで引き出してくれたから勝てたんだよ」

 

「何言ってんだ、お前が最高の踊りを踊ったからだろ」

 

「あーいや、そうでもなくて」

 

「―――いいや、アンタの勝ちだよ! 誇ってくれ」

 

 ウェーブの賞賛を素直に受け取れずにいたチェルシーを、ライズ・ライムも高らかに讃えた。

 

「どんなに策を弄しても、アンタ自身がちゃんと踊れなければダメだった。

 踊りに集中して見て貰えるってことは一個でもとちったらすぐバレるし、ミスの印象が残りやすいってことでもある。

 事前に練習することもせずに踊り切るのがどんだけ難しいかなんて誰にでもわかることさ。それをやりきったから勝った。だから間違いなくアンタの勝ちでもあるんだよ」

 

「だな。俺がやってたらめちゃくちゃ失敗する自信あるぜ。ぶっちゃけ俺の歌もそこそこやらかしてたからな!」

 

「その程度の技術でアタシに勝とうとは百年早い!って言うには技術以外が見事なもんだったな。

 気が向いたら今度三人でユニットとか組まないかい?歌と踊りはアタシが教えるからさ。才能あるって」

 

「それは流石に褒めすぎ!絶対あたしそこまでじゃないよ。

 でも、ありがと」

 

 二人の本気の褒めにくすぐったくなり、チェルシーは赤くなった頬を掻く。

 アイテム確保のための背に腹変えられぬ参加ではあったが。

 

(やってよかったかも。……いや、二回目はもうやらないけどね!)

 

 内心なのに誰かに宣言するように叫ぶ。

 嬉しさに舞い上がった心を少しでも落ち着かせようと、チェルシーは必死で表情を取り繕っていた。




多分デンドロでダンスバトルとソングバトルやったの俺が初めてだと思うけど、探せばいるかも(初めてだからなんだという話だが)
デンドロは自由なので急にダンスバトルとソングバトルをしてもいい。皆にもそう思ってほしいですね
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