The NEXT for Force Detonator   作:みそしる

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本日三回目の更新になります。いや…流石に2.7万字を1回で投稿するのは1話が長くなりすぎるかなって…


Third Singer -Genius

 ライズ・ライムはひとしきりにまにまと笑った後、懐から何かを取りだした。

 

「それで、『デトネイター』だったな。ほい」

 

「貴重品を投げるな!ってこれ、小瓶か?」

 

 投げ渡されたのは小さなガラス瓶。

 中には黒い液体と、更に黒い宝石のような結晶があった。

 

「なんだこりゃ。これが噂の『デトネイター』なのか?」

 

「実はアタシにもよくわかんねえんだよな。貰い物だし」

 

「は? 誰から?」

 

「そりゃアイドルの貰い物っつったらファンからだよ。決まってるだろ?」

 

 曰く。

 

 昨日開催した付近の町でのライブの後。

 渡された差し入れの中に、この小瓶と手紙が入っていたらしい。

 よく高価な差し入れをくれる熱狂的なファンからの手紙であり、彼女がアームズ使いなのを知っているため是非どうぞと記してあったそうだ。

 

「使わなかったの?」

 

 ごく自然なチェルシーの疑問に、ライズはバツが悪そうに頭を掻いた。

 

「いやぁ、アタシも試そうとは思ったんだぜ? でも説明書がなかったんだよ。

 お前らこれだけ見て使い方わかるか?」

 

「俺は全く分からねえな。チェルシーわかるか?」

 

「かけるのか飲むのか素材にするのか特定の工程が必要なのか。

 これだけだと確かにわからないね……」

 

 一つしかないから安易に使うのも勿体ない。

 かといって使わないで後生大事に持っているのも性に合わない。

 

「アタシのためにとファンから貰ったもんだ。

 適当に欲しがるヤツにくれてやるってのも売っぱらうってのも気が引ける。

 だからイベントを開いたわけよ。アタシがアタシのためにイベントの商品として"使った"なら申し訳も立つってもんだろう?」

 

「ファン思いだねぇ」

 

「歌手の鑑、目指してるんでね」

 

 冗談めかして話すライズの口調の端々に、隠しきれぬファンとの絆を感じてチェルシーは微笑んだ。

 

(ファンのの気持ちもわかるな。誠実なんだ、この人は)

 

 誰かの思いに誠実に向き合うこと。

 意外と難しいことだからこそ、自然に為す者への信頼と応援が集まって来る。

 

 自然と、チェルシーの視線は自分の隣の男にも向いた。

 

「……なんだよ、どうかしたか?」

 

「ん-ん、なんでもないよ」

 

 この妙に歌がうまい男も、いつかはもっと知られるようになるだろうか。

 共にステージに挑んだと自慢したいような気もしたし、今日の激闘の記憶をこっそり胸にしまい込んでおきたい気もした。

 

 チェルシーの感情に気付くことなく、ウェーブは不敵に笑った。

 

「まあいいさ。これだけあればどうにでもなる」

 

 自信満々に小瓶を手の中で揺らすウェーブに、チェルシーは首を傾げた。

 手がかりの一つにはなるだろうが、それ一つで事態解決に大きく近づく確信は彼女にない。

 

「調査組織に知り合いでもいるの?

 レジェンダリアだとWiki編纂部が活発なんだっけ」

 

「おいおい、俺を誰だと思ってるんだよ」

 

「町内会のど自慢優勝者」

 

「それはもういいって!」

 

 咳払いしたウエーブは改めて、帽子を深く被って格好つける。

 いかにも三枚目のやることだが、確たる自信のおかげで少しは様になっていた。

 

「俺は"武装探偵"ウェーブ―――【探偵】だぜ。

 残された物から人を辿るのなんざ、得意中の得意分野だ」

 

 "武装探偵"ウェーブに超越的な推理力はない。

 迷宮入りしそうな難事件の解決をさせたら彼を超える者はざらにいるだろう。

 

 だが、もっと地道な、地に足着いた調査であれば。

 彼はレジェンダリア、そして世界においても有数の探偵である。

 

「ここの近隣で貰ったんだろ? なら街三つも離れてなさそうだ。

 まあ任せときな、半日で突き止めてやるよ」

 

 

 不敵に笑うウェーブの耳に声が聞こえた。

 【テレパシーカフス】による念話だ。

 

「なんだよ今かっこついてたところだってのに。もしもし?」

 

 なにやら誰かと念話を始めたウェーブを見て、チェルシー達は肩をすくめた。

 意図的に三枚目を演じているところもあるが、素で三枚目になっているところが多すぎる男だ。

 

「面白い男だよな」

 

「もうちょっと落ち着きがあったほうがモテそうだけど」

 

「モテてほしいのか?」

 

「え?いや、そういうわけじゃ……いやモテてほしくないとかそういうことでもなくて」

 

「アタシは好きだせああいうヤツ。退屈しなさそうだしな」

 

「え!?」

 

 チェルシーはびっくりした。

 ライズを見て、ウェーブを見て、二人をじろじろと眺める。

 "武装探偵"ウェーブ。歌がうまくて誠実さと愛嬌があるのはいいところだが、調子に乗りやすくていささか間抜けさが強い気がする。

 こんな引く手数多な美人に好かれるほどではないような。

 

「……えー、男の趣味悪くない?」

 

「そんなにお高く止まっても楽しくないだろ。

 最低限の自己管理ができてりゃ、あとは一緒に過ごして楽しいかじゃねえ?

 それともあれか、白馬の王子様とか夢見るタイプ?」

 

「い、いやそこまでじゃないけど……」

 

 チェルシーはこれまで、あまり自分から誰かと付き合おうとはしてこなかった。

 一つには自己評価の低さだ。自分の童顔の受けの悪さをそれなりに味わってきた。

 告白してくる男も居ないでもなかったが、だいたい()目当てだ。

 同時に彼女は自立心を人並み以上に持っているし、自身の能力評価は低くない。

 必然として『男と付き合おうとする』選択肢の優先度が落ちるところがあった。

 『付き合うならよほどいい男じゃないとなー』という気持ちがなかったというと嘘になる。

 行き遅れやすい女の思考である。

 

「今どき、そんなに頑張って恋人とか結婚とか求めなくていいでしょ。

 一人で生きたってなんにも困らない時代なんだからさ」

 

「でもアンタ、実は恋人とか結婚とかに憧れがあるタイプだろ?」

 

「ぐっ」

 

「余裕あるうちに多少頑張った方がいいんじゃない?

 せっかく顔と性格良いんだし、真面目に探せば良さげな男の一人や二人捕まえられるぜ、多分な」

 

「二人捕まえたら問題でしょ。……うーん」

 

 腕を組み、眉間に皺を寄せ三秒ほど真面目に考える。

 戦闘系上級職の思考速度で結構考え、三秒で結論を出した。

 

「参考にしとく」

 

 保留という結論だった。

 

 ライズ・ライムの呆れ笑いを見ないように視線をウェーブに逸らすと、天を仰いでいるのが見えた。

 

「まいったな、こりゃ。どうしたもんか」

 

「お、念話終わった?どうかしたの」

 

「アックス達が襲われて、アックスが()()()

 

「……え、デスペナってこと!?」

 

「残念ながらな」

 

 酷薄にも聞こえるあっさりとした伝達はレジェンダリアでのマスターの死の軽さを表していたが、チェルシーはそれ以上にウェーブの顔が気になった。

 心の底からの困り顔をしているウェーブを今日初めて見た。

 急にダンスバトルと歌唱バトルを強いられた時より困っている。

 

「えーっと、とりあえずライザーは無事なんだよね。

 まず合流……いやその敵ってまだ生きてるの?アックスを倒すほどの敵なら事前に作戦とか考えておかないと。相打ちならまだマシだけど」

 

「生きてる……が、俺達は街でライザーを待つ。

 俺達が行ってもどうにもならねえ」

 

「え?」

 

 その言葉はチェルシーに衝撃を与えていた。

 短い付き合いではあるが、チェルシーは彼を信頼していた。

 頼れる男だと思っていた。諦めない男だと思っていた。どんな敵にでも戦える男だと思っていた。

 ()()()()()()()()()()

 

 苦しそうに、ウェーブは言った。

 

「お前らの国の決闘ランカーで例えるなら、あいつはおそらく"断頭台(【抜刀神】)"が近い。

 ―――よほどの相性か地力がない限り陽動にもならねえ」

 

 どんなに策を練ろうと。

 どんなに必死になろうと。

 どんなに折れない心があったとしても。

 

 半端な力では絶対に勝てない敵が山ほどいるのが、この世界の厳然たる現実であった。

 少なくとも、今現在においては。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時を戻る。

 割って入った"強弓"シスルは弓を叩き落とされた"弓晴手"ニャロラインの手を頑丈な靴でしっかりと踏み、頭をがっつり下げさせていた。

 

「痛い痛い痛い!何するんですかシスルちゃん!」

 

「今回はほんとこいつがひたすら迷惑をかけた!

 アックスも、そっちの……ライザーも!ちょっとログアウトして目を離した隙にここまでやりやがって……申し訳ない!」

 

「ま、まあ君が謝ることもないだろう。

 それにいくらなんでもそこまでしなくてもいいんじゃないか?」

 

「ん? ああ、初見じゃそう思うのも無理ねえか。

 こいつアイテムボックスに予備の弓持ってるからな。隙見つけたらすぐ撃ってくるし、下手したら矢をつかんで刺しにくるぞ」

 

「ケケケ」

 

「えへへみたいに言ってんじゃねえ」

 

 シスルは空いた足でげしげしとニャロラインを蹴る。

 襲撃された側とはいえ捕虜の虐待をよしとしない正義感がライザーにはあったが、会話内容が思ったよりロクでもなかったので放置することにした。

 アームズが失われても油断できる相手ではないと言われれば否定できない。

 

「あたしらは弓使い連合、<的撃ち(enemy shot)>からの依頼でな。

 連合所属の弓使いで『『デトネイター』を探しにいくぜ!』と息巻きに巻いた連中が片端から連絡が途絶えて暴走してるとかなんとかって話だ。

 その原因と思しき『デトネイター』の調査、対応。ついでに暴走者の始末。

 本来あたしだけの方がいいんだが、暴走してるってなるとな。

 下手に対応すると連合の名誉にまで関わっちまう。

 だから極めて遺憾なんだがこの戦闘力だけは連合トップのバカを連れて行けと連合長に泣きつかれてよ」

 

「こう言ってはなんだが、よく連合に参加しているな、その女が」

 

「弓使いの連合なのにワタシが参加しないことあります?」

 

「こう主張して参加するまで暴れたから参加させるしかなかった」

 

「こう言ってはなんだが、苦労してるんだな」

 

「やめてくれ。こいつを殺したくなる」

 

 ぐりぐりと手を踏みにじるとニャロラインが痛みで暴れ出す。

 と見せかけてうまく手を逃そうとする動きをしっかりと踏み止め片足で捻り上げていた。

 弓使いの割に妙に関節技の技量が高い。ライザーは少し感心した。

 

「で、あんたらも同じクチか?」

 

「そうだな。俺自身が依頼を受けたわけじゃないが、同行者がこの暴走事件を止めるために動いている。

 俺達もそれに乗っているかたちだ」

 

「"武装探偵"ウェーブ」

 

「あいつかぁ!なるほど、あいつがいるなら解決もそう遠くないな」

 

 ウェーブの名を聞いて彼女が喜ぶような顔をしたことにライザーは関心した。

 あまり素直に人を褒めそうには見えないが、そんな少女に手放しに認められるほど信頼されているのはなかなかだ。

 

「知り合いか。君から見てもそんなに優秀なのか?」

 

「あいつの推理力に期待したことはねえが、手がかりを手に入れた後の解決速度には目ん玉開かせるものがある。

 能力もそうだが、どっか引きがいいんだよ、あいつ。

 しっかしそうか、あいつの邪魔しちまうところだったか」

 

 シスルはニャロラインの頭を叩く。

 

「おいボケ女。お前あの手のレジェンダリアの味方の邪魔したらそろそろ指名手配受けて監獄行きだぞ」

 

「え、そうでしたっけ」

 

「行く前に五回ぐらい言っただろ、このすっとこどっこい!

 まっっっっったく、いつもこれだ。ま、今回はある意味助かったけどな」

 

 シスルは懐から何かを取り出した。

 抑えられている状態でなんとか首を曲げて見たニャロラインが嫌な顔をする。

 

「うげ、【契約書】ですか?」

 

「まともな状態じゃお前にこれ書かせられなかっただろうからな」

 

「シスルちゃん、私に勝てたことないですもんねー」

 

「…………」

 

「あっ痛い痛い痛い!やめましょうよ人の勝利を傘に着て普段勝てない相手にマウントとるの!器が小さいですよ!情けないと思わないんですか!」

 

「かなり思うがお前に関しちゃ必要経費だ」

 

 滅多に勝てない相手をここぞとばかりに痛めつけているシスル。

 どのタイミングで止めるか、ニャロラインの日頃の行いが悪すぎて悩んでいるライザー。

 なるべく視界に入れないようにしているアックスの中で、()()を一番にアックスが気づいた。

 

「―――ッ」

 

 気づくのと到達は同時だった。

 轟音がアックスの元で起こる。

 ライザーはかつて見た、ビルの発破解体の動画を思い出す。

 巨大なビルを一撃で破壊するための爆破に等しい、破滅的な大音量。

 

「っ、アックス!?」

 

「問題ない―――今はまだ」

 

 煙の中、土埃に塗れたアックスが出てくる。

 ギリギリだった。

 直撃の寸前、振りかぶっている暇がないと悟ったアックスは、最小の振りで攻撃力を稼ぐために寸勁にも似た体運用による一撃を放った。

 極小の溜めによる瞬間火力は飛んできた()をかろうじて止める氷壁を生み出す。

 止めた上でアックスの手元に強い痺れが残っているのが、先ほどの一撃の火力と、そうせざるを得なかった到達速度を現している。

 

「シスル、ッ」

 

 アックスはシスルに何事かを呼びかけようとして、止めて斧を振るった。

 否、呼吸さえ削って振るい続けている。氷壁を作り続ける必要がある。

 アックスの、あの"斧改"の強力すぎる猛攻を受け止め切った氷壁が。

 アックスが内部から生み出し続けなければ持たないほどに外から削られ続けている。

 そして何より、ライザーにはその攻撃を見ることもできない。

 

「な……なんなんだ、これは」

 

 これだけの攻撃を受けているのに《危険察知》も《殺気感知》も反応しない。

 百戦錬磨のライザーをして、経験したことのない攻撃だ。

 いや、一度だけあったような。

 

「嘘だろ、ここであいつが来るのか!?」

 

「シスルちゃん」

 

「ああわかってるよ!お前は早く弓を!」

 

 攻撃の正体に気づき、先程まで逃がそうとしなかったニャロラインを躊躇わず解放し弓の元に走らせるシスルに、ライザーは尋ねた。

 

「いいのか!?」

 

「こいつはアックスだけじゃ無理だ!相手が悪すぎる!」

 

 シスルが弓矢へのチャージスキルを発動し力を溜め。

 ライザーが届かない敵を探し。

 ニャロラインが懸命に弓に辿り着くその瞬間に、()()()槍が降った。

 

(間に、合え―――!)

 

 ニャロラインは悟っていた。

 同じ射撃型としての感覚として、横からの攻撃が陽動であることを。

 本命、或いは当然のバリエーションとして、自分なら上空に攻撃を飛ばしておき、降ってくるタイミングを横の攻撃と合わせ飽和させる。

 この手の戦法の厄介なところは明確な攻略法がないことだ。

 先手を取られた時点で、防げるかどうかは自分達の地力で決まる。

 そしてこの相手のこの攻撃では、彼女のエンブリオを使わずには防げない。

 

 だが神速の槍には及ばず。

 手の先が弓に触れた瞬間に槍が到達して。

 

 その槍が氷壁に阻まれた。

 

「アックスちゃん!」

 

「アックス!」

 

 アックスもまた、経験と直感によりニャロラインが狙われていることに気づいていた。

 そしておそらく、ニャロラインが間に合わないことも。

 故に斧を投げた。空中の槍を基点に発生した氷壁は後続の槍をも一瞬受け止める。

 

 その一瞬で事足りた。

 

「感謝しますよ、アックスちゃん」

 

 雷雨のごとく槍が降る。

 ニャロラインの手から放たれる矢がその全てを爆散させた。

 

 雨を相手に傘を差すのがまともな人間だとすれば。

 ニャロラインは雨粒一粒一粒を矢で叩き落とすこともできる。

 偉業にして異形、理外なる技を行使し、誇る様子もない。

 なぜなら彼女は"弓晴手"。いかなる天候も晴らす太陽の権化だ。

 

 

 そして。

 氷を生み出し続けることで横からの投槍群を落とし続けていたアックスは、斧を手放すことで当然の末路を迎えた。

 最強の斧使いはライザーを見て、微かに微笑む。

 

「ライザー、後はお前達が解決しろ」

 

「アックス……!」

 

 その言葉を残し、"斧凍"アックスが爆散した。

 自身を守ることを捨てた彼女を槍がぶち抜く。

 少女を貫きその先のライザー達を襲う槍をニャロラインが叩き落とした。

 そのまま二方面からの雨を一人で受け持つ。本気の彼女の連射速度は神速だ。

 回避しない(軌道を変えない)多数の敵を撃ち落とすことにかけて、彼女以上の者はそういない。

 

 またも庇われたライザーは歯噛みする。

 

「くそッ、なんなんだこの敵は!」

 

 アックスを釘付けにするほどの連射速度と威力。

 敵の姿が見えないほどの超射程。

 攻撃の姿が見えないほどの神速。

 先程まで彼らを苦しめたニャロラインと比べても上位互換に感じる超越的性能だ。

 その強大すぎる攻撃を味わって、ようやくライザーは思い出した。

 

(そうだ、思い出した。この感覚。

 戦争で味わった"轟雷(<超級>)"の電磁投射砲搭載戦車群(【電波大隊】)

 あれに準ずる攻撃性能だ!)

 

 数十キロ先の敵を狙い撃つ超射程で音を遥かに超えた砲弾を放ち、一瞬で戦場に集った王国の空中戦力四割を消し飛ばした超兵器。

 それもそのはず。使い手は当時所属していた皇国の超級でも指折りの強者。

 あれほどの同時発射数ではないにしても。

 "轟雷"【車騎王】マードック。あの男を思わせるほどに強い。

 

「まさかこいつも超級なのか?」

 

「はッ、そう思うのも無理はないかもな。

 でも違うぜ。それにこいつの性能に()()()()()()()()()()()()

 

「……? 何かの冗談か?」

 

 この世界で異常が起これば、なによりまずエンブリオの関与を疑う。

 ニャロラインでさえその火力はエンブリオによるものだった。

 この敵は違う、と苦々しい顔でシスルは語る。

 

「これは"投槍"だよ。知ってるか?

 オリンピックになってる素手の投擲とは違って、こいつの場合は投槍器(アトラトル)を使ってるけどな。

 そこに異能力はない。ただひとつ、こいつは潤沢なSTRを()()()に活かしている」

 

 理合い自体はニャロライン達と同じだ。

 神速の投擲。神技の射撃。

 だが弦の強度に縛られているニャロラインと違い、槍には力をフルで伝えられる。

 故に速い。故に強い。

 そんな子供でも思いつきそうな理屈を真顔で行使している。できてしまう。

 力の反動・制御に遠方の感知、数々の常識的ハードルを非常識な技巧で踏破する。

 もはやその存在自体が異能に近い。

 

「この敵の名はフラーレン。最大の戦績は<天妖獄事件>の解決」

 

 かつて、妖精郷の天を怪物達が覆ったことがあった。

 マスターの増加を含めた多要因による自然魔力の乱れが引き起こしたモンスターの大移動。

 縄張りが乱れたことで群れ同士の衝突が多発し、そこに便乗した悪意的なマスターによる襲撃事件(火事場泥棒)誘引事件(モンスタートレイン)が大量発生。

 犯罪マスター同士やモンスターを狩る者の中でさえ小競り合いが多発し混迷を極めた。

 ここ数年のレジェンダリアでは指折りに大規模な事件だったと言える。

 

 相次ぐ戦闘による参戦者の消耗、有志のマスターとティアンの連合により解決された案件であったが。

 

「UBMとマスターが勢力問わず入り乱れた同事件において、最もレジェンダリアの敵を殺した槍使い」

 

 レジェンダリアに槍使いは数多い。

 近接武器としては剣と並ぶ、使い勝手は剣を超える武器。

 正統派の使い手も邪道の使い手も、物理型も属性型も異常型も空間型も。

 どの区分けでも一流の使い手がいる。その上で。

 誰もこの"投槍"の使い手には及ばないと、そう呼ばれる最強の槍使い(スピアユーザー)

 

 

「"投槍"のフラーレン―――あたしの嫌いな、天才だ」

 

 

 

 




「これがやりたかっただけだろ」のキャラ、これがやりたかっただけで生まれた割にはそこそこいいキャラにできたと思ってるんですが、今回は初登場にして暴走敵役なのでいいキャラの部分を出せるかというと怪しいところです
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