The NEXT for Force Detonator   作:みそしる

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Third Singer編、本来は1話だったので分割して正解だった気しかしません


Third Singer -Next Stage

 

 "投槍"のフラーレン。レジェンダリア最強の槍使い。

 暴走した彼の襲撃により"斧凍"アックスを失った王国決闘六位、"仮面騎兵"ライザー。

 そしてライザーを守るべく、"弓晴手"ニャロラインと"強弓"シスルが立っている。

 

「ライザー……だったよな。お前に依頼、任せていいか?」

 

「依頼?」

 

「ああ。『デトネイターの調査・対応』。

 あたし達の受けた依頼だったけど、そうも言ってられなさそうだ」

 

 弓矢へのチャージスキルを片時も止めることなく、視線を"投槍"に向けたまま。

 険しい顔で、"強弓"シスルはそう言った。

 

「迷惑もかけたからな。そっちはお前らに任せとく。

 代わりにこいつはあたしらが()()()()する」

 

「な、待て!すぐに俺の仲間もやってくる。全員で戦った方が」

 

「ちょせえこと言ってんなよ。わかるだろ。

 こいつを相手にするなら遠距離型だ。近接型なら最低でも馬鹿げた対応速度か防御力、不死性のどれかは要るぜ。

 そんなやつあたしでもそうは見ねえよ」

 

「そ、れは」

 

 ライザーの脳裏に決闘最上位者(トップスリー)の顔が浮かぶ。

 "無限連鎖"フィガロ、"断頭台"のカシミヤ、"化猫屋敷"のトム・キャット。

 自分が何度挑んでも勝てない彼らならば、おそらくは参戦する意味がある。

 逆に言えば今のライザーたちにはないのだと、自分でも理解できてしまった。

 

 相性も悪いが、それ以上に規格として力が足りていない。

 頭打ちしてしまっている。超級の域には程遠い。

 だから『デトネイター』を求めたのだ。現状を打開できる、何かを。

 

「そんな顔すんなよ。あたしも移動速度とか遅いしな。適材適所だ、うまくやろうぜ。

 あたしらがこいつに勝って、お前らが『デトネイター』を手に入れて。全部解決して、パーティーでも開いて。最高の気分で終わるために、今は泥に潜って暴れるタイミングだろ!」

 

「……ああ! そうだ、立ち止まってはいられない……なッ!」

 

 ライザーはタイミングを見計らい、街に向け離脱した。

 後方から飛んでくる槍の圧を無視してひた走る。

 やがて、同じく飛んで来た矢が槍を撃ち落とした。感謝して街に戻る。

 

「この事態、想像以上に進行している。最速でこの事件を解決しなければ!」

 

 どれだけの質、どれだけの量の敵が生まれてしまっているのか。一抹の不安を仮面の下に隠して。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、どうします?シスルちゃん」

 

「当然勝つ」

 

 ライザーが街に向かって去ってから、ニャロラインは問いかけた。

 "強弓"シスルは勝利を断言する。この勝ち気も彼女の武器だ。

 苦笑するニャロラインを横目で見る。

 

「やることはわかってるよな?」

 

「勿論」

 

 矢を連打し撃ち落とし続けるニャロラインとは対照的に。

 シスルの弓からは一度も矢が放たれていない。

 だが時と共に、矢と弓を包む虹の光が限りなく輝きを増していく。

 

 彼女のエンブリオ、【光彩轟弓 インドラダヌシュ】の効果はシンプルだ。

 第一に、五種の強化スキルがある。

 《追尾》《分裂》《威力強化》《弾速強化》《射程強化》。

 それぞれの効果はさほど大きくなく、同時使用数も最大で二種。

 それを補うスキルがある。

 

 第二スキル、《チャージ・レイ》。

 番えておく時間が伸びるほど、比例的に強化スキルの効果を強める。

 二重強化時は上昇率が1/2になるという欠点はあるが、それを補って余りある力だ。

 十分な力を溜めきった彼女の矢は、五種の性能全てにおいて超級職奥義も上級の必殺スキルの効果も遥かに凌駕する。

 なにより、彼女の武器は()()であるために。

 全ての上級職の中で理論上最大の火力増強を行うことができる。

 

「《威力強化》×《追尾》、加えて《五月雨弓矢(・・・・・)》」

 

 超級職奥義級に威力を高めた矢を天に放つ。

 一撃防ぐことも困難な火力の矢は上空でシスル本人でも視認できない"投槍"の姿を捉え、追尾機能により軌道を曲げる。

 その直前に、【強弓武者】の奥義、《五月雨弓矢》の効果が発動する。

 

 天上にて、破滅の矢が()()()()()()()

 

 その矢は決して早くはない。しかし馬鹿げた威力を持ち、追尾機能により一点を目がけ殺到する矢の群れは、人の技より災害に近しい。

 (五月雨)の名を冠するそのスキルを、"強弓"はそんな矮小なものかと嗤う。

 

「―――"大雪崩"」

 

 五月雨ならば傘を差せばいいが、人に雪崩は防げない。

 "強弓"シスルが得意とする殲滅攻撃が"投槍"に迫る。

 

「―――」

 

 耐久性能がそう高くない"投槍"にとって致命を遥かに超える一撃の百倍。

 その脅威を目前にして、暴走する"投槍"は変わらず槍を投げた。

 並のマスターであれば一撃で命を削り切る投槍。それが輪をかけて強大な矢の膨大な攻撃力によって何もできずに蒸発する。

 

 威力特化の彼女の矢を打ち落とし続けることができる者などほとんどいない。

 敵リソースが多いほど派手に爆散させる力を持ち、神速の連射を可能にしている隣の女ぐらいのものだ。

 一対一であれば撃つ前に殺されたとしても、撃ててしまえば話は変わる。

 それだけの力が弓使いのNo.2、"強弓"シスルには存在し。

 "投槍"のフラーレンもまた、槍使いの頂点としての(テクニック)を発揮する。

 

 この戦いが始まってから初めて、槍の投擲が止まった。

 手持ちの槍は手首のスナップで一回転し、"投槍"本人の頭を掠める。

 宙に舞う髪の一本を"投槍"は槍の先端に斬らぬまま絡めた。

 そのまま投げる。一見してなんの意味もない行為に思われた。

 だがその槍の直撃で、矢の一本が爆散した。

 

 その結果を見て、シスルも己の技が破られたのを理解した。

 

「―――相変わらずトンデモやりやがるな」

 

 追尾系の攻撃はこの世界に数多く存在する。

 故にその対策も数多い。

 例えば従魔や周囲の生命を使った生贄戦法(ガードベント)

 例えば一度限りの身代わり武具(【救命のブローチ】)を使った防御。

 ライザーが"弓晴手"相手に使った分身防御も正攻法の一つだろう。

 

 そうしたものを持たないものが対応する場合、有名な手法が一つある。

 自分の肉体そのものを使った追尾切り。

 切り離した腕をぶつける、接触した部位を切り離す等が多いが、真に一流の使い手ならばもっと低コストの手段を使う。

 

 ―――すなわち"髪の毛"。

 切り離した直後の髪はごくわずかな間のみ生体反応を有し、デコイとして機能する。

 

 追尾効果を持たせたが故の欠陥。

 敵への直撃で全リソースを使い切ってしまう追尾付与を責めることはできまい。

 この数の攻撃を1人に向けるためにはそうするしかなかった。

 

 しかし果たして己の髪を槍に巻き、そのまま敵に当てられる者がどれだけいるか。

 まして百の矢が地に落ちる前に全てを墜とすことができるだろうか。

 

 他の誰にできなくとも、"投槍"ならばそれができた。

 

 投擲速度が加速する。

 巻く。投げる。巻く。投げる。巻く。投げる。巻く。投げる。

 巻く投げる巻く投げる巻く投げる巻く投げる巻く投げる巻く投げる巻く投げる巻く投げる巻く投げる巻く投げる巻く投げる――――――。

 "強弓"が数分をかけて仕込んだ矢が数秒と持たない。

 技巧一つで弱者の努力を踏み躙る。

 "強弓"でさえ弱者に分類してくる頂点(No.1)の傲慢さに、今更だとシスルは吠えた。

 

「そう来ると……わかってんだよ!」

 

「ケヒヒヒ……その通りですねェーーー!!」

 

 ニャロラインが嗤う。"投槍"の手が埋まった今が好奇だ。

 "投槍"に伍する速度で連射する。狙いは当然遠方の"投槍"だ。

 姿が見えずともこれまでの槍が飛んできた方向から位置がわかる。

 何度となく戦ってきた強敵であるならば、ニャロラインの勘は外しようがない。

 

 数秒と経たず百発を撃ち落とす。

 恐ろしい連射速度だが、"投槍"にとっての百発は"弓晴手"にとっての百発でもある。

 遠方故にニャロラインの矢では敵に届くまでやはり数秒。

 この数秒で自分と敵の間に飛翔する矢を溜めに溜める。

 "強弓"の矢を落とし切る間に放たれた神速の百矢に対応が間に合うわけがない。

 

 シスルは内心安堵する。正気の"投槍"であれば見抜き分裂を始める前に落とされる可能性もあった。

 狂気による強化の弊害を狙う賭けに勝った。豪胆さが彼女の強みの一つだ。

 

 そして2人の射手が矢と槍を連打するこの瞬間、"強弓"も座して見ているだけではない。

 切り札を追加する。

 

「《虹の光は雷霆の如く(インドラダヌシュ)》―――」

 

 番えた矢がこれまでとは雲泥の速度で虹の光に包まれる。

 それが【インドラダヌシュ】の必殺スキル。

 多量のMPSPを支払うことで、量に比例して《チャージ・レイ》の強化速度を大幅に上げる。

 下級職で【生贄】を取っていた分を丸ごと注ぎ、引いた弦を足で器用に抑えながらアイテムボックスから液体注射器のような道具を取り出した。

 

「―――《カードリッジロード》、2(イスナーン)!」

 

 装填された薬液を変更して二度首筋に打ち込む。

 

 かつて彼女が手に入れた特典武具、【魔抽薬器 ヘタイローリンデ】。

 魔力を抽出したカードリッジを作成し、装填することでポーションのCTを無視して魔力を回復できるその力は、魔法系超級職でない彼女が必殺スキルを使う上で問題となるMPの不足を補ってくれる。

 

「《チャージ・レイ》、《弾速強化》×《拡散》―――"月光"」

 

 月の光の如く弱く、しかし光の如く神速にして多重なる矢が"投槍"を狙う。

 

 天からは雪崩の如き極大の追尾連弾。

 ニャロラインからは高速にして巧緻なる百矢。

 シスルからは面制圧する神速の分裂矢。

 

 この全てを受けることは尋常な手段では不可能だ。対応するなら二種の極限が要る。

 "万丈無敵"と称される超級の如き反則的無効化性能。

 "物理最強"の名を冠する超級の如き圧倒的な速度と耐久。

 どちらも"投槍"にはない。放たれた時点で詰みだ。

 

 故に、"投槍"は槍で己の首を搔き切った。

 

「自殺……!?」

 

「―――いや、マズいですねェ!」

 

 遅い。

 "弓晴手"の矢は届くまで遅く、"強弓"の矢は放たれるまでが遅く。

 "投槍"の髪を一本一本槍に巻き一本一本槍を飛ばして一本一本矢を落としていく手法では、それらと比べてもなお遅かった。

 

 しかし神域の技巧持つ戦士であれば。

 狂気の中でも最善手を更新することができる。

 

 首から溢れ出る大量の血が空に舞う。

 そこを目掛けて"投槍"の槍が一本投げ込まれた。

 接着の短縮。それだけではない。

 如何な技法か、音速を超える槍の衝撃波に()()()、血液が空の矢群の鏃、一つ一つに直撃する。

 そして爆散する。血液も生体反応により追尾を終わらせる対象の一つだ。

 

「―――ありえねえ」

 

 シスルが呻く。

 数度の投擲が終わった時点で天に残っていた矢の全てが爆散した。

 残るはまだ届いていない"弓晴手"の矢と放たれていない"強弓"の矢のみ。

 

 宙に溢れた血液を一投で吹き飛ばし、あまつさえその一粒一粒を遠方の小さな矢に当てる。

 なんらかのスキルを用いたのか。ただの技巧で為したのか。

 神域ならざる身ではそんなことさえ判別できない。

 対処されたという結果のみを理解できる。それ以外を許さぬ神秘技巧。

 

「うーん、工夫は素晴らしいのにあんまり心が輝いてないですね。惜しい」

 

 "弓晴手'は射るのを辞めない。だが百矢に遥か届かなかった矢の量では押し切れない。

 既に打った矢を対処した分"投槍"は押し込まれ、そこからは拮抗し続ける。

 

「あたしの分はどうすんだよ!」

 

 半ばヤケクソで放ったシスルの矢。

 本来であればもっと押し込んだ上でトドメとして打つはずだった矢は、しかしタイミングを合わせて撃たれた投槍の衝撃波によって片手間の一撃で薙ぎ払われる。

 速度と数を稼げば威力に欠け、威力と追尾に加え奥義を用いても速度は上がらない。

 それがチャージ速度を爆増させてもニャロラインに勝てないシスルの致命的欠点だ。

 

「つーかなんであいつは首切って死なないんだよ!高位回復ないなら死ぬだろ人間なんだから!!」

 

「常人に比べればENDが高い分頑丈なのもありますが、あれは切断面が鋭利すぎて回復薬かければすぐ繋がっちゃうやつの類似例でしょうね。

 あの人、投槍の才能がありすぎて槍の扱いも神域ですから」

 

「ぐッ、これだから神域の天才は―――ん、あれ、今薬使ってたか?」

 

「使った槍の一本が持ち主に回復効果を齎すものだったりしたんでしょう。変わった槍を集める趣味があるそうです。親近感がわきますね」

 

「なーるほど。ならすぐ投げてんだから回復時間は一瞬だろうしHPはたいして回復してないな。

 問題は今のを何回やればHPを削り切れるかか。あー数えたくもねえ!」

 

「同じ攻防、次は通じなさそうですし気をつけて」

 

「わあってるよ。記憶の維持力は低そうだからどっかで使い回す。

 次はタイミング合わせて必殺5本分相当の"閃光"で削ってみるか……?」

 

(この程度の工夫、どんだけ通じるのかね。

 エンブリオのスキルをフルで使ってるってのにまともなスキル使ってない奴にあしらわれてるんだから嫌になってくるってもんだ)

 

 攻防を再びニャロラインに任せ、戦術を考えながら内心ため息をつく。

 シスルもそうではあるが、エンブリオによって威力を補強できるマスターは装備で金を消耗することなく狩りで稼げる。

 だが余った金で希少だがさほど強くない装備を集め、そのちょっとした能力を必殺に変えることができるのは真に技巧に優れる者だけだ。

 

 今も続けられている別次元の攻防を見る。

 風を纏った矢が大気との空気抵抗で軌道を変えながら光を捻じ曲げ幻惑していたが変化を見抜かれ神速の槍で撃ち落とされる。

 飛翔する槍が爆炎を生んで複数本の矢の軌道を変えようとし、狙いを見抜かれ先んじて潰されしかし生まれる爆風の影に隠れ襲う爆風衝撃無効化の槍をあえて無視し放たれた同種の矢をフラーレンが投槍器でいなしてニャロラインが天空に放っていた矢にぶつけていく。

 攻防に打ち勝っても得られる優位はごく僅かだ。その僅かを互いに積み重ねようとして一秒に膨大な量の工夫を仕込んでいる。

 

(あたしも才能には自信あったけど、こいつらはなんなんだよ!)

 

 <闘弓大会>準優勝という経歴が物語るように、シスルも弓使いとしての腕は高い。

 エンブリオが優れていることなど第六の戦闘型なら前提だ。

 その上で技巧と立ち回りで決まる。その点においてシスルの射撃能力はセンススキル以上のものがあり、戦闘思考も優秀なものがある。

 決闘ほど開始距離が近くなければ前衛後衛問わず上位の準超級相手でも勝利しうるし、技巧は熟練のティアンにも劣らない。

 

 だが目の前の二人はステージが違う。

 神域。【(ザ・ワン)】に比肩する技巧。

 「適切な【神】が空位なら確実に選ばれる」と現役の【神】にも認められる極限の戦士。

 こいつらがシスルの鼻っ柱を何度へし折ってきたことか。

 

「思い出したら腹立ってきた!おいニャロライン、こいつ殺したら次お前だからな!」

 

「え、できます?どっちの意味でも」

 

「やるんだよ!なんかいい案出せ!」

 

「ワタシの倒し方をワタシに!?」

 

「たりめーだ!一番詳しいだろお前が!」

 

「け、ケヒヒ、ケヒヒャヒャッ!」

 

 ニャロラインは弓の扱いが怪しくなりそうなほどに笑ってしまう。

 これを大真面目に言い、この状況でも勝利を目指せる。

 限界に挑み、限界を突きつけられ、それでもなりふり構わず諦めずに進もうとする。

 泥に塗れた蓮、地を這いずる虹。そこにのみ宿る輝きがある。

 

(これだからこの女は見ていて愉しい)

 

 精神の昂りによりニャロラインの射撃速度がまた一段上がった。

 

「いーいでしょう!まずはこの男から仕留めますよ!」

 

「最初からそんぐらいやる気出せっての!」

 

 強大な敵を相手にして、最後まで二人が諦めることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 街に戻ったライザーを二人が迎える。

 うっすら妙な空気が流れているのをライザーは感じ取ったが、それを聞く前に駆け寄ってくるウェーブに声をかけられる。

 

「ライザー!無事だったか」

 

「俺はどうにかな。代わりにアックスが」

 

「そこは仕方ねえ。俺がいても大差ないってか、ニャロラインの時点で詰んでた可能性が高いぐらいだ。あんま気にすんな」

 

 ウェーブの自虐的な慰めを受けてもライザーの顔は硬いまま。

 

「あの"投槍"、尋常じゃない使い手だった。

 ウェーブ、お前から見て二人で足りるか?」

 

「ニャロラインはイカれてるがとんでもなく強い。

 シスルも無視できない強さがある。コンビネーションも悪くない。

 その上で勝ちの目が十分あるのが"投槍"だ。俺にも読めねえ」

 

「……そうか」

 

「助けに行こう、とは言わないでくれよ。

 心の底から賛同してえが、俺達が邪魔になるわけにも無駄に死ぬわけにもいかねえんだ」

 

「わかっている。ひとまずは―――」

 

「へえ、お困りかい?」

 

 二人はぎょっとする。

 ライザーにとっては会ったことのない相手だったが、ここまで接近されて気配に気づかないのは久しぶりだった。

 ウェーブも驚く。別れたつもりの相手だったからだ。

 

「ライズ・ライム!?ライブの後始末はどうしたんだよ」

 

「もう終わったっての。アタシは仕事が早いんだ」

 

「あたしが話した。強そうな知り合いに心当たりないかなと思ってね」

 

「チェルシー、そうか」

 

 いつのまにフレンド登録を済ませていたのか。

 彼女の手の早さと立ち回りのうまさは探偵のウェーブを凌ぐところがある。

 

「んで、助っ人が欲しいんだろ?オッケー、アタシが行ってやるよ」

 

「い、いや話聞いてたか!?

 槍使い最強と弓使いのトップ2の戦闘だぞ、割って入れるのは一握りも一握りだって。そもそもお前戦闘は」

 

「知ってる知ってる。元々"投槍"には興味あったんだよな。

 戦闘でのアタシのメインウェポンも槍だからさ」

 

「……戦闘、ねえ。そういや気になってたんだ。お前、メインジョブはなんだ?」

 

「秘密」

 

 ウェーブも、そして決闘ランカーのチェルシーも。

 初めて会った相手には《看破》を使うクセがついている。

 だが彼女のジョブもレベルもわからなかった。

 看破妨害の装備。戦闘に慣れた者なら着ける者は少なくないが。

 

(顔も隠してない歌手が使うもんか?)

 

 【歌手】系統の上級職、或いは超級職かもしれないと思っていた。

 接近戦には向かないジョブだ。

 それでもマスターなら或いはがある。純戦闘用のエンブリオならば、或いは。

 

(このレベルに歌に人生を注いでる奴がか?)

 

 わからない。パズルのピースが足りないような感覚。

 違和感を掴むことはできても飛躍した推理を的中させる才能がないウェーブでは解答に辿り着けない。

 

 走り出す前の準備運動を始めるライズ・ライムの前にライザーが真剣な顔で立った。

 

「君が誰かは知らない。シスル達を助けてくれるならありがたい。

 だが"投槍"は超超音速の投擲手だ。君にそこまでの対応速度はあるのか?」

 

「おいおい、アタシは歌手だぞ?まずバッファーとして貢献しようとしている可能性を疑えよ」

 

「む、そうなのか。確かにそれなら無意味とはいえないか」

 

「説得されんの早いなライザー!明らかにバッファーとして貢献しようとしてるやつの台詞じゃなかっただろ!?」

 

「お、バレたか」

 

「いいよ、ライザー、ウェーブ。口で言ってもしょうがないでしょ」

 

 ずっと黙っていたチェルシーが口を開く。

 三人の視線が集まると、静かに斧を構えているチェルシーの姿があった。

 剣呑な姿に思わずウェーブの口から悲鳴に似た叫びが漏れる。

 

「チェルシー!?」

 

「構えて、ライズ・ライム。

 彼が本当にカシミヤの類似系だと言うなら、あたしぐらいはあしらえないと話にならないよ」

 

「おいチェルシー、いくらなんでも……」

 

 ウェーブが割って入ろうとして。

 真剣のように張り詰めた空気を放つチェルシーの圧に足が止まる。

 

「ごめんね。今あたし気が立ってるみたいだから」

 

「いいぜ、ダチの頼みぐらい聞くさ。

 あんま人に見せる機会もなかったし、本邦初公開ってな」

 

 ライズ・ライムがチェルシーに近づく。

 瞳には友の本気を受け止めようとする意志が宿っていた。

 覚悟を見て取り、ライザー達も一歩退がる。

 

「無理はするなよ」

「任せたぜ」

 

「おう」

 

 声かけに短く首肯して、ライズ・ライムは無手でにじり寄る。

 斧の間合いまで三歩、槍の間合いまで一歩のところで足を止めた。

 寄らば斬らんと言わんばかりのチェルシーの圧が伝わってくる。

 

(いーい気迫だ。さっきより鋭いな。これだからたまに()りたくなる)

 

「来ないの?」

 

「ああ、いま届かせる」

 

 胸の中央に下がっていたペンダントを掴んで息を吸い込む。

 観客三人の舞台(ステージ)にて再び歌が奏でられる。

 その瞬間、ペンダントが強く輝いて。

 思わず、チェルシーは踏み込んでいた。

 

「……!」

 

「これで、証明には足りたかい?」

 

 振り下ろしたはずの斧が槍に受け止められている。

 上級カンストの腕力による全力の振り下ろし相手にぴくりともしない。

 なによりその太陽のように美しい槍が、チェルシーの目にあまりにも輝いて見えた。

 

 諦めたように首を振って、チェルシーは斧を収めた。

 

「……気をつけなよ」

 

「わかってる。またライブ、聞きにきてくれよ」

 

「機会があったら、ね」

 

 チェルシーを置いて、ライズ・ライムは去っていった。

 歌が聞こえる。美しく、しかし美しいだけではない。

 それは戦場の歌だ。戦場に踏み込む者の歌だ。

 失ったものを数えるのではなく、悲嘆に沈み込むのでもなく、前に進み為すべきことに挑む者の歌。

 百の言葉より雄弁に、ライズ・ライムは友の背を押していった。

 

 

「……あたしたちも行こうか」

 

 己の足を止める全てを吹っ切って、チェルシーは顔を上げた。

 迷いもある。悩みもある。苦しみもある。

 だとしても、ここで止まることをよしとしない。

 それは友の歌によって引き出された、チェルシー自身の強さの一つだ。

 

「らしくなってきたな。ああ、やってやろうぜ」

 

「多くの者に託されている。

 俺達の手でこの馬鹿騒ぎを終わらせよう」

 

 ライザーとチェルシーの旅。

 アックスのライザーの旅。

 二人の旅が四人になって、残るは三人。

 終わりが近いことを、三人の誰もが感じていた。

 

 




この物語もそろそろ終盤戦です。もう少しだけお付き合いください
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