The NEXT for Force Detonator 作:みそしる
ライザーさんって主人公向きだなと思います。心が強えんだ
草原に開く街道の上、追跡するウェーブの後を追う形でライザーのバイクが駆ける。
チェルシーも今回はライザーの後部座席に移っていた。
追跡の主軸であるウェーブの動きを軽くし、ライザー達が警戒と敵の迎撃を担う構え。
今のところそれは有効に働いている。
一方で、ライザーの顔は険しいままだ。
("弓晴手"や"投槍"クラスの敵が出てくれば今の俺達では厳しい。
少しでも早く察知し動けるようにしておかねば)
チェルシーが後部座席から顔を覗き込んでくる。
心配そうな顔をしているのがライザーからも見えた。
「考えてることはわかるけど、もうちょっと表情に気を遣った方がいいよ」
「俺はそこまでまずい顔をしているか?」
「そこは『
「…………ダメだな、君の言う通りだ」
仮面で覆われた頭を上から掻く。
適切な突っ込みが出ないほどに頭が回っていない。
敵への過剰な警戒。そしてここまでの戦闘での疲労が積もっている。
思えば今日は朝から今まで戦い漬けだった。それもどの相手も並の敵ではない。
決闘ランカーだろうと、いや一戦一戦に全力で向き合うことに慣れた決闘ランカーだからこそ疲労も溜まるというものだ。
(流石はチェルシー、元クランオーナーとして人をよく見ている)
視野の広さが違うな、とライザーは素直に認めた。
今のライザーは曲がりなりにも<バビロニア戦闘団>のオーナーとしての役割を正式に託されている。こういうところも学んでいかなければなと自省する。
眉間にしわを増やしていそうな雰囲気を感じ取り、チェルシーは少し呆れていた。
(まーた荷を増やしてそうな雰囲気……頃合いかな)
「ウェーブ!そろそろ小休止するよ!」
「オーケー!俺もちょうど言おうかと思ってたところだ」
「ライザーも、いいね?」
「……ああ。わかっている」
人が走り続けるには限界がある。
強敵との戦いを警戒するならば、なおさらコンディションを保つのは必要だろう。
街道を少し外れ、開けた平野でウェーブとライザーは休んでいた。
チェルシーは
実は何より自分がトイレに行きたかっただけなのでは、とは二人とも思っても言わなかった。
バイクに背を預け草むらに座るウェーブとライザー。
空を過ぎゆく雲を眺める。警戒を完全に捨てたわけではないが、気を休める時間も必要だった。
ふと、ライザーが問いかける。
「"投槍"、"弓晴手"、それに"斧凍"。彼女らがレジェンダリアにおける各武器分野のトップ、という認識で相違ないか?」
「ん?おお。そういや言ってなかったっけか。
それぞれ闘槍、闘弓、闘斧大会で優勝してる。
次点が"強弓"とか"斧改"とかだな。安定感と技巧でやや劣るが、競うジャンルによっては上回る部分もある。直接対決したら勝つのは基本トップの奴らだけどな」
「やはりか」
顎に手を当て考えるライザーを見て、ウェーブは首をかしげる。
「それがどうかしたのか?」
「
ライザーの体感において、彼女らは王国の決闘で言えば上位三位前後に入ってくる使い手だ。
そんな相手に立て続けに三人も遭遇している。
もしそれが、彼女らレベルの使い手が大量にいるからだとすれば。
勇猛なるライザーをして心胆寒からしめる話だった。
幸い、そこまでではなさそうだが。
「あの域の武芸者って意味じゃそうはいねえよ。
剣に一人、あとハンマーにも一人いるって前に聞いたな。
そんなもんだ。銃やら鎌やらにもいるかもしれんが、人数少ないから大会も開かれてないって話だしな。技量の詳細はよくわからん」
「五人、か。少ない、とはとても言えないな。
レジェンダリアには何かそういう強者を集める要素でもあるのか?」
「レジェンダリアだけ、ってわけでもないんじゃねえか?
マスターは多いんだ。一国に数万といる。
決闘やるのも討伐に力入れるのもクラン盛り立てるのも、皆が皆やるわけじゃない。
ランキングに乗ってない強者なんてどこの国にもいっぱい居そうなもんだぜ」
「……ふむ。一理あるか」
王国の強者はランカーが多いが、PK等は戦争前まで非ランカーもいた。
純犯罪者の<超級>が大量にいるレジェンダリアほどではないが、一時期は【犯罪王】ゼクスがそのポジションだ。
それにかつての王国決闘三位・クラン二位、<バビロニア戦闘団>オーナー。
ライザー達を率いた【剣王】フォルテスラも、今は無冠だ。
広く世界を見れば黄河最強の"至強無冠"にグランバロアの"比翼連理"。
特に"至強無冠"は黄河に飛来した<SUBM>の討伐で一気に有名になった男だ。
無冠の強者は<超級>でさえよく知られないまま各地に潜んでいる。
「うちはそういう奴らが出てきやすいようなイベントを開いてるだけ。
それでも
あんただって知らなかっただろ?」
「そうだな、そんな大会が開かれてることも知らなかった」
「他国で知ってるのは精々武器使いだな。
時々ツテから聞きつけてやってくる奴もいる。
さっき言った剣士最強、"水面"の睡蓮なんかも天地出身だぜ。
あいつが味方にいれば"投槍"相手にも楽なんだが。いないのはしょうがない。三人集まってただけでも奇跡的な集合だったぐらいだ」
「天地出身の最強剣士か。
しかし剣士と言うなら近接型だろう、"投槍"相手に勝てるのか?」
「あいつは純近接だよ。それでも一人で完勝できる」
ウェーブの言葉に満ちた確信に驚く。
"投槍"は射程距離まで含めればおそらく<超級>の中でも上位に準ずる戦力がある。
それを完封できる。ライザーの中の"水面"の想定が"物理最強"ぐらいに膨らんでいる。
「"斧凍"より強い"弓晴手"より強い"投槍"より強い"水面"、か。
とんでもない話だな」
「いやいやいやいや、あの辺は相性がデカいって!」
ウェーブはたまらず止める。流石にそこまでのインフレをしているわけではない。
「"水面"と"投槍"は相性も悪いんだよ。
多分まだ"弓晴手"の方が相性良い。
開始距離次第で"斧凍"だって勝算もある。
あの辺は個人戦闘型としてなら概ね同格だ」
「同格、同格か。……どうすればあそこまで強くなれるんだろうな」
つい口から抜け出てしまったその呟きは重く響いた。
疲れと気が抜けている環境。
それに親友というほど親しくもなく、他人と呼ぶほど遠くない男が傍にいる状況が、普段のライザーなら出さない言葉を引き出してしまう。
ライザーの思考がそこに追いつくより早く、ウェーブは遠くを見るような顔で喋る。
「"才能と努力、そして環境"」
それは端的で身も蓋もなく、非の打ち所がない結論。
だからこそその言葉を、ライザーはウェーブに似つかわしくないように思った。
「それはお前の知り合いの言葉か?」
「レジェンダリアじゃよく知られた言葉だよ。
俺が知る限り指折りに強い奴がよく言ってるらしい。
それを聞いて努力を始めた奴もいる。環境を変えようとした奴もいる。自分一人の強さを求めるのをやめた奴もいる。何も変わらなかった奴もいる。
どうしたのかは千差万別だ。それでも誰もがその言葉を前提として受け入れてる」
「才能、努力、環境か」
ライザーは努力してきた。競い合う仲間にも恵まれている。
だとすれば、今は才能の限界なのだろうか。
これ以上劇的に強くなることはないと言われているのだろうか。
そうでないとしたら、環境の問題なのだろうか。
彼のかつての仲間達のように王国を離れ、環境を変え、新たな可能性を探すべきなのだろうか。
少なくとも、劇的に強くなりたいならばそうすべきとも思ってしまう。
(だが、そうしたくないと思うのはなぜだろうな)
かつてのオーナーの帰る場所を残しておきたいのだろうか。
ホームタウンは既に滅び、ランキングにも乗らないクランを?
守りたい誰かがいるのだろうか。
恩義ある人たちは悪竜の極光に消えた。新たな地でも守りたい誰かを作れることをよく知っている。
王国の友人に未練があるのだろうか。
離れても友だと思っている。それはきっと自分から離れても同じはずだ。
そんなことを考えていると、普段はまず言わないようなことが口から出てくる。
「もし、無冠の強者がそれほど多いなら、俺達決闘ランカーはなんなんだろうな」
討伐ランカーはいい。彼らは怪物の討伐で国家に貢献している。
クランランカーはいい。彼らはそれだけ依頼をこなしている。
決闘ランカーは違う。ただ強いことだけがその地位の根拠だ。
今初めて考えることではない。元々思うところはあった。
クランランカーにも、討伐ランカーにも、決闘上位より強い者がいる。
決闘のトップ3はそれでも強大だ。各トップランカー相手に引けを取らない。
だがそれ以下は。準<超級>としてすらギリギリの自分は。
王国決闘六位という評価を背負い切れる人材だろうか。
まるで王国で六番目に強いようなことを言っているのに、本当は十八位に入れるかも怪しい自分は。
二度の戦争でもロクに貢献できなかった自分は。
なんのために、少なくない時間を使って決闘ランカーをやっているのだったか。
疲労から
「そりゃ俺の台詞だぜ。なんでライザーって決闘やってるんだ?
俺はてっきり
あんたも俺と同じく、試合での勝利には人並み程度しか拘らないタイプだろ?」
「なんで、なんでか。確かに決闘は好きだが」
それだけで続けたわけではなかった気がする。
「そうだな、始めたきっかけとかあるのか?
この手の答えって、意外と
(俺が、始めたきっかけ―――)
記憶を辿る。そう、それは随分と昔。
ヒーロースーツとバイクと共にヒーローとして戦っていたライザーはフォルテスラにクランメンバーとしてスカウトされて。
―――お前も決闘やらないか?
「そうだ、あの時」
忘れかけていた記憶が鮮明に蘇る。
ライザーがクランに所属してしばらくして。
悔しそうにしているフォルテスラの姿を見た。
「なにかあったのか?」
「ああ、ライザーか。ちょっとな」
「団長、またフィガロに負けたんだってよ」
「人がはぐらかしたことを人の目の前で言うんじゃない!」
わははは、と仲間が笑う。
フォルテスラはがっくりと肩を落とす。
この頃、後に決闘一位と三位になるフィガロとフォルテスラは頭角を現し、ともに決闘ランキングを登っていた。
そうなると直接対決も実現するわけで。
勝ったこともあるが、やはり負けることが多い。
それがフォルテスラの対フィガロ戦績だった。
「対応力・火力・敏捷・筋力、あいつはどれも優秀だ。
だがどちらかと言えばスロースターター。つけいる隙はある」
「それこの前も言ってたけど負けてね?」
「あと一歩!あと一歩なんだ!」
負けて悔しそうなフォルテスラがどことなく楽しそうでもある気がして、ライザーは不思議な気持ちで見ていた。
外野気分で見ていると、顔を上げたフォルテスラと目があった。
フォルテスラはさも名案を思いついたとばかりに目を輝かせる。
「そうだ!お前も決闘やらないか!?」
「お、俺か?」
当時のライザーはさほど決闘に興味がなかった。
そこに突然矛先を向けられて狼狽えてしまう。
「いや、なぜ俺が」
「ずっと思っていたんだ、お前のバランスのいいスペックは決闘向きだと。
弱点が多いほど順位を落としやすいのが決闘だ。
その点バランス型のお前は上位を維持するのに向いている。
速度に優れているのも良い。先手を取れるかは重要だからな」
「だからって―――」
「決闘はいいぞ、ファイトマネーもかなり入るし名も知られる。
競い合うことで見えてくるものもあるはずだ」
「―――まいったな」
勧誘に熱が入るフォルテスラとは対照的に、触れてはいけないところに触れてしまったかとライザーは後悔していた。
そそくさと他の面々が離れるのをうらめしげに見やる。
ファイトマネーのために見せ物として戦うのは目指すヒーローの姿ではない。
(その手の仮面ライダーもいないことはないがなぁ)
そもそも職業ヒーローはどちらかと言えば戦隊の役割である。
クランに加入したという意味では戦隊の一員となった自分ではあるが、やはり趣味ではない。
丁重にお断りの申し出を入れようとして。
「
「……しょうがないな」
するりと出たその言葉に、ライザー自身が戸惑った。
「本当か!ありがとう。そうと決まればすぐにでも闘士登録に行こう。こっちだこっち」
「ちょっ、そんなに引っ張るな!」
日頃見ないぐらい強引なフォルテスラに連れられて行く。
その時の自分は呆れながらも笑っていた。
(そうだ、あの時頷いたのは確か―――)
連鎖するようにもう一つの記憶も思い出す。
あれは決闘ランカーとして少しは名が知られてきた頃。
暮れの光の中を歩く。
その日、ライザーは敗北していた。
たまにあるエキシビションマッチ、当時の決闘一位"怪猫屋敷"トム・キャットとの試合。
個人戦闘型に対してめっぽう強い不死性を持つ彼に対し、ライザーは善戦するも力尽き負けていた。
「負けた、か」
目的もなく街を歩きひとりごちる。
今は少し、一人で歩きたかった。
決闘に参加するようになり、ライザーは対人戦闘経験を得て強くなった。
だからこそ見えてくるものがある。
自分の力の限界。自分を明確に上回る天賦の才の存在。
自分の現在と未来の位置がうっすら見えてくるようになる。
全力で努力したことがない者は自分の限界がわからない。
なんとなく「きっと勝てないだろう」と思って自分の可能性を狭めるか、「本気を出せば勝てるはずだ」と思い込んでずるずると落ちていくか。
そこに正しき成長と進路はない。
皮肉にもライザーの努力は最短で彼の限界を彼に見せ、次の選択時期に導いていた。
「どうするかな、俺は」
今のままでは、ライザーの強さはそう遠くないうちに頭打ちになる。
強くなりたいなら環境を変える必要があるだろう。
勝ちたいのならもっと策を練るべきかもしれない。
いっそ決闘を稼ぎの手段として割り切るという手もある。
決闘を辞める、ということも考えていた。
以前のように人々を助けることに徹するご当地ヒーローに戻る。
それも決して悪くはない。
そうしようか、とぼんやり考えるライザーの耳に声が届いた。
「ライザー! マスクド・ライザーだよお母さん!ちょっと行ってくる!」
「あっ、こら、早いんだからもう!」
繋いでいた母親の手をすり抜け、やんちゃそうな子供がライザーの前に来る。
その姿には見覚えがある。少し前からライザーの応援をしてくれている子供だ。
今日の試合でも最後まで応援してくれたことを覚えていたから、ライザーは少し申し訳なくなった。
「君か。どうかしたか?」
「?どうもしないよ。いつも通り試合の話とかしようと思って」
「そ、そうか。そうだな」
「今日の試合、惜しかった!トム、強いよね~~。
ライザー、なんか勝てそうな見込みある?」
「……俺から見ても厳しいな。勝ち目がない。
どうすれば勝てるのか。勝てるようになる目があるのか」
素直に現状を吐露するライザーを見て、子供は目を丸くした。
次いで眉が釣り上がる。無垢な怒りが現れていた。
「ダメだよそんなんじゃ!ライザーならそこは『次は勝つさ』って言わないと!」
「す、すまない。俺に君の期待に応えられる実力がない。情けない話だ」
「そ〜〜じゃなくて~~!」
勝手に勝てると期待して、勝てないと言われて怒る。
子供の癇癪としてはよくあることだ。
母親がいつ割って入ろうかはらはらしている。
それでもライザーは母親を制し、子供に正面から向き合おうとして。
「ライザーが
「……?すまない、よくわからない。俺は何をすればいいんだ?」
自分が考えていることと彼の考えが少し違いそうなことに気づいた。
子供もこのままじゃ伝わらないと気づいて、腕を組んでうーんうーんと唸る。
ライザーは言葉が出るまで急かさず辛抱強く待つ。
しばらくの後、考えながら子供は話し始める。
「ライザーはなんか……いつも『かっこよく見える』ようにしてるでしょ?」
ライザーはひやりとした。それはまさに英雄を演じるライザーの本質を突いている。
本物の英雄ではなく、だがヒーローであるかのように振る舞う。
それは一面的には虚飾であり、人によっては欺瞞と嘲笑うだろう。
「それがいいんだよ!ライザーを見てるとさ、なんか僕も『カッコつけていいんだ』って思えるんだ」
「……!」
だがこの子供にとって、それは尊敬と信頼の対象だった。
「僕もあんまりジョブ適正とかよくなくてさ。子供だからって話聞いてもらえないことも多いし。運動神経もよくないし」
『身の程を弁える』という言葉がある。
自分にできること。自分の才能。自分の社会的地位。
そういったものを十分に把握し、弁えて動くのは一般に美徳だ。
しかし正しいことがいつも人の心を救うとは限らない。
困難への挑戦。不可能の探求。身に余る勇気の行使。
叶わない夢に挑む誰かの勇姿が人を救うこともある。
「ライザーは僕より全然強いけどさ!実力以上になんか……かっこいいじゃん!
だから僕もさ、ちょっとくらいはカッコつけていい気がして、好きなんだよ」
「……そうか」
考えたこともなかったな、とライザーは心の中でひとりごちる。
困っている誰かを直接的に助けて感謝されるのではなく。
強い自分に評価が集まるのでもなく。
"強くあろうとする自分"で感謝されることがあるとは。
ライザーは一度上を向く。
まだ陽が落ちきっていない、混沌色に輝いている見事な空が見えた。
フッと笑って、少年を見てカッコつける。
「なら、まだまだ挑んでみるとしよう。
"化猫屋敷"トム・キャットはいずれ俺が倒す!」
「そうそう、そうでなきゃ!」
夕暮れの中、笑い合ったことを覚えている。
その後もライザーは決闘を続けたが、キャットに勝つことはついぞできないまま。
それでも決して諦めずに挑み続けた。
何年も勝てなくても。
後進の成長と共に順位を落としても。
今になっても、初心を忘れても、ずっとそうしている。
この時の子供は成長し、闘技場に来ることも減った。
今どうしているのかはわからない。
ライザーと彼はあくまで闘士とファンの関係でしかないからだ。
その事実を、しかしライザーは寂しいとは思わない。
関係が途切れても、記憶が薄らいでも、あの時のことが今の自分を作っているのは変わらないのだから。
そうして、ライザーは初心をひとしきり思い出し、あまりにも単純な答えを見つけて笑った。
ウェーブを見る。ライザーが過去を想起している間もずっと待ってくれていた戦友を。
自然と背筋が伸びる気がした。
「思い出した。俺は俺を信じてくれた者の
最初に俺に期待してくれた彼らはもういない。
でもまだ王国決闘六位、"仮面騎兵"マスクド・ライザーに期待してくれる人たちは大勢いる。
彼らのために俺は戦い続ける。『
そう、俺は人の期待に応えるヒーローだからな」
「へっ、いいじゃねえか」
ウェーブは隣のライザーの覇気が強まるのを感じていた。
気持ちの強さは必ずしも勝敗に関与しない。それは事実だ。
それでも、気が抜けていては勝てる勝負も勝てやしない。
強者に蹂躙され何もできずに敗北した経験を数多く味わってきたウェーブは、同時に最後の最後の気力による粘りが勝敗を決した経験も数多く重ねている。
故にライザーのメンタルが回復したことに内心安堵していた。
ウェーブ。チェルシー。ライザー。
この三人なら間違いなく、一番安定して強い戦力はライザーだ。
彼の発揮できる力の量が三人での勝敗に直結している。
おそらくはこの
そしてそれ以上に。
ライザーがこの国で嫌な思い出ばかり作らずに済んだことが嬉しかった。
思い入れの強いこの国に来た人には『色々あったけど良い国だったな』と思ってほしい。
それが自分に似た友ならなおさら。
「それで言えば、なぜウェーブはこの国で探偵をしているんだ?」
そんなことを考えていたので、ライザーの自分に対する言及への反応が遅れた。
「ん、おっと、俺か?」
「ああ。嫌なら無理に聞く気もない。
ただ友の過去のことだからな。興味がある。良い過去なら笑い合いたいし、辛い過去なら分かち合いたい」
「安心しな、嫌ってこともねえよ。あんたと違ってあんま前向きな話じゃないってだけだ」
「聞かせてくれ」
まっすぐに友情を語るライザーに嬉しさと照れ臭さを覚え、ウェーブは話し出した。
「なんで探偵をしてるかって言えば、そもそも俺はリアルでも探偵なんだよ。
子供の頃の夢でな」
「夢を叶えたのか。すごいじゃないか」
ライザーの感嘆の声に、複雑な感情のこもった言葉が返る。
「そうでもねえさ。月並だが、なりたかった自分にはなれなかった」
よくある話だ。なりたくて、努力して、なってみると思っていたものと違う。
特に探偵、空想と現実のありようが大きく乖離した職業なら尚更だ。
ウェーブの憧れた探偵のあり方をよく知るライザーはさもありなんと理解する。
二人で一人、街を守るヒーロー。ああなることは不可能に近い。
そう思っていたので、ウェーブの次の言葉に拍子を外された。
「俺はな。
「そうか、なるほ悪い今猫探しって言ったか?」
「ああ。ほら、ライザーも多分知ってるだろ?
"
「そりゃ知ってはいるが」
『そこ?』という疑問がライザーの顔の全面に現れている一方で、ウェーブはここではないどこかを見ながら熱く語る。
「猫探しってのは探偵がするべき仕事の究極さ。
困っている人のために苦労をかって出る。
意外と難しいことを見事にこなして笑顔にする。
そして何より、誰も傷つかない。これ以上に素晴らしい仕事があるか?」
「ないこともない気はするが……」
『お巡りさんが迷子の案内やお年寄りの手伝いをするのは世の中が平和な証さ』と子供に向かって語る人のようなことをごく真剣に発するウェーブに、ライザーは面食らった。
(面食らうが……間違いでもないか)
これだけ真っ直ぐに愛と平和の理想を語れる男は希少だ。
なぜこの男にアックスやシスルが信を置いていたのかもわかる。
この戦いと欲望に満ちた世界において、『人が傷つかない方がいいだろ』と迷いなく言える男はそれだけで信頼できる。
「でも今じゃGPSの装着が義務化されて猫の居場所は電子情報で管理されてるからな。
捨て猫もいない。それ自体はいいことなんだが、俺のやる仕事は浮気調査素行調査経歴調査浮気調査。
明かしたことでよくないことが起きることも少なくない。笑顔も滅多に作れない。誰かを傷つける仕事だ」
その言葉に倦んだ疲弊と、それでもその仕事をまっとうしようとするプロ意識を感じて、ライザーは否定しようとした口を閉じた。
自分の仕事に向き合っている人間が出した結論を安易に否定すべきではない。
その代わりに、黙って頷き、先を促した。
「自分で選んだ探偵って職業が嫌いになりそうな危機感だけはあってよ。
だからかな。このゲームを手に入れた時に、無限の可能性がどうたら言われて。
『じゃあ"なりたかった探偵"にもなれるかな』なんて思った。
それでなんとなく
「そうか。……後悔はしていないか?
この国は争いも多いんだろう。今回だって、人助けのためとはいえ戦い漬けだ」
「そうだな。でもまぁ、どこだってそんなもんだろうよ。
そんなもんでも、ここでの仕事は現実よりは愉快な結果にできる。
俺はそう信じてる。今回の仕事もな」
「余計な心配だったか」
「あんたのそれは思い遣りだろ。嬉しかったよ」
悲劇も苦難も絶望も、全て飲み込んで前を向いているウェーブの言葉を聞いて、ライザーは強い共感と尊敬の念を覚えた。
幾度も現実にぶつかり傷つき、しかし歪まずその度に立ち上がってきた
「"
「ん、なんか言ったか?」
「お前が
「そうか?あんたほどじゃないと思うけどな」
ライザーは直感していた。
この男の存在がこの事態を解決する
男が少しだけかつて共に戦った
かつて、ライザーを信じ、ライザーが守りたいと思った者達がいた。
<バビロニア戦闘団>オーナー、フォルテスラとその妻、薬師エーリカ。
ライザーの獲得した特典素材を元に強化鎧、【ヴァルカン・エア】を作ってくれた鎧鍛治、ゾラと工房の皆。
受け取った薬や鎧は誰かを守るために失われ、彼らもまた消えていった。
彼らのことを思い起こすたび、ライザーはかなしみと、強い覚悟を抱く。
『次こそは』『悲劇を止めてみせる』『自分と同じ想いは誰にもさせるものか』と。
「なあ、ウェーブ」
「なんだよ、ライザー」
「必ずこの事件を解決するぞ。俺達で……俺達
「……ああ!」
揺らがないタイプではなく、迷わないタイプではなく、迷いながらでも正しい道を進める善人。超級進化できないのロクなトリガーじゃなさそうですよね