The NEXT for Force Detonator 作:みそしる
俺達はそれまでの苦労に比べ驚くほどあっさりと、製作者の居場所を突き止めることに成功した―――」
「いや全然あっさりじゃなかったよね!?」
ウェーブの唐突な独白にチェルシーがツッコむ。
ライザーも仮面で隠しきれない疲労を見せながら同調した。
「戦闘に次ぐ戦闘だったな。特にあの暴走した"剣幕"と森を守るために出てきた"輝環砲台"の弾幕勝負に巻き込まれた時は死ぬかと思ったぞ。お前が回復スキルを使えなかったら確実に後に響いていた」
「あれはチェルシーが短時間で二人の動きを読み切ってくれたから掴み取れた勝利だった。流石決闘ランカーだ。
まあいいだろ、結局半日で着いたんだからあっさりで」
「探索が早くて正確なのは助かったけど、街中で警察犬よろしく這い回ってひと騒動起こした男に言われても釈然としない……」
「自警団の説得に苦労したの、俺達だからな」
「わかってるわかってる。コンビネーションの勝利だ」
愚痴を聞き流しひたすらあっさりの到達を主張するウェーブに、二人は肩を寄せてヒソヒソ話す。
声がそんなに潜まってないのでウェーブに全然聴こえていた。
「これほんとにわかってると思う?」
「おそらくだが、レジェンダリアの奇人変人と組むのに慣れてしまい、他人がかける迷惑も自分がかける迷惑も意識しなくなってしまったんだろう」
「おそろしい、でもそれ以上に哀しいコ……日常がレジェンダリアだったはず」
「そりゃそうだろ。―――その辺でとっとと切り替えろ」
ウェーブはツッコミ一声、身を翻し目当ての館に向き直る。
「事件解決するんだろ!早く行くぞ!」
二人を置いて歩を進めるウェーブに、二人は慌ててついていく。
隣に危険地帯を備えた人気の少ない街。
そのはずれ、古びた洋館。ここに出入りしている男が『デトネイター』の作成者と思しき人物だ。
ウェーブはしゃがみ、錆びた格子門と地面に触れる。
「手入れはしてないな。ただし出入りの形跡はある。
それも年近く一人だけ。飛行系の奴が空から出入りしてない限り、ここにいるのは一人だけだろ」
「それも【探偵】系統のスキルか。こうしてみると便利なものだな」
「戦闘重視の
俺はエンブリオで戦闘力も探索力も用意できるんだが、それでも取る価値はある。
お前らも必要だったら呼びな、安くしとくぜ……っつーにはアルター王国は遠いか」
「気持ちだけ受け取っておこう」
ウェーブは探偵としてある程度の痕跡把握技能があるが、詳細はジョブスキルの方が正確だ。
とっかかりを知識と技術で割り出し、そこからジョブスキルで確認する。
異常な技巧を持たない一般的リアル技能保有者のスタイルである。
館に入る。三人の警戒とは対照的に罠はなかった。
警報のような仕掛けも一切ない。
それがいっそ不気味で、三人の警戒はさらに強まる。
「逃げたか?」
「いや、荷物片したって風でもないし、生命反応がこの先にある。
人が来ることを想定してない?来られてもどうにでもなると思ってる?
チェルシー、どう思う?」
「こんだけの事件を起こしておいて敵が来る警戒もしてないとは思いにくいけど。
この洋館の構造を見ても、守るために作られてないのはわかる。
案外、『何も考えてない』―――ってのが正解かもね」
「厄介なタイプだな。事態収束のための話ができるかどうか」
「最悪の最悪、ただの馬鹿でも開発者を監獄に送ればこれ以上の拡大は防げるぜ」
今後を気にするライザーに比べ、ウェーブは妥協の覚悟を述べる。
そうしたビターな解決を図ったことも数多くあるのだろう。
犯人からの情報があまり役立たないこともある。仕方のないことだ。
それでも可能なら円満に解決したい。その思いは三人一緒だ。
「ヒントぐらいは得られるといいが―――っと、次だぜ」
何も起こることなく一つの部屋の前まで着いた。
扉が開き、隙間から光が漏れている。
中からは鉛筆で書き記す音が聞こえてきた。
誰かがいる。
三人は顔を見合わせた。
目を合わせ、どう入るか決める。
ウェーブが先頭に立った。静かに隙間に足を差し込み、扉を人三人が通れるまで開ける。
反応はない。ウェーブがそのまま部屋に入った。何も起きない。
(罠もない。テリトリーなりの結界があるってこともない)
入るようジェスチャーで促す。チェルシーが続いた。
最後にライザーが扉の前で陣取る。背後からの奇襲に備える布陣。
だが、反応はない。
中には古ぼけた家具の数々。
そして扉の先に大きな机があった。
埃と痕跡を見ればそこにあっただろう家具をアイテムボックスに収納し、新たに机を置いたことがわかる。
とことん必要な物以外を雑に扱う性格が見える。
机に向かい、白衣の男が座っていた。
一心不乱に紙に何かを書き、時折頭を掻きむしり丸めて捨てる。
パブリックイメージの研究者や作家のような姿。
その男が『デトネイター』の製作者であるならば、ような、ではないのかもしれない。
「おい。……おい!てめえ聞いてねえのか!?」
「どいてウェーブ。こういう時はこうするんだよ」
あまりに反応のない男に業を煮やし、大声で呼びかけるウェーブにも反応がない。
自分の世界に没入している。そんな男に、チェルシーの対応は冷徹で過激だった。
水弾が男の後頭部を強打し、びしょ濡れにして強制的に冷やした。
これ以上ないほど海賊らしい荒っぽさに、ウェーブは呆れる。
「お前、普通攻撃から入るか?」
「気を使うような相手じゃないでしょ」
「だからってなぁ―――」
「なんだね君たち。強盗か?」
言い争いを始めそうになったところで声が割り込んだ。
白衣の男がこちらを向いている。
黒髪黒目、初期アバターを適当にいじったような歪な顔に、ありふれたデザインの眼鏡をつけている。
攻撃を受けたというのにとてもどうでもよさそうな顔をしていた。
「三割ぐらいはそうかもね。『デトネイター』、知ってるでしょ?
あれについて―――」
「なんだ君も欲しいのか?くれてやる、ほれ」
話の途中で男は小瓶を投げた。
ライズ・ライムが見せたものと同じ形状。
敵意のない突然の投擲に虚をつかれ、三人の対応が遅れる。
小瓶から液体が溢れ、中の石ごとチェルシーに降りかかる。
「ちょっ、うわっ!?」
咄嗟に顔を庇った大斧にかかって、そして。
黒い液体を浴びたチェルシーの様子が激変した。
「あ、ああ、ああああああ!!!!」
「おい、どうしたチェルシー!?」
「な、大丈夫か!?しっかりしろ!」
呼吸が乱れ、視線の焦点が合わなくなる。
自身の震える体を軋むほどに抱きしめて、チェルシーは狂乱に陥った。
顔の穴という穴から液体が溢れる。人から出るとは思えない声が放出され続ける。極寒の雪山にいる人間でもここまでとは思えないほどガクガクと震えている。
乱れた呼吸の中で叫び、酸欠気味になりえづき、苦しみながら常人より高いENDのせいで気絶もできない。
見るに耐えないチェルシーの姿から眼を離し、ライザーは白衣の男の胸ぐらを掴んだ。
こんな状況で、男の目には動揺のかけらもない。
「貴様、何をした!?」
「知ってるだろう、デトネイターの
「副作用、だと!?これがか!?」
ライザーは怒りとも恐怖ともしれない感情を抑えきれず叫んだ。
『デトネイター』を使ったと思わしきマスターを数多く倒してきた。
だがまさか、その全てがここまでの惨状を味わっていたのだろうか。
「プレイヤー保護はどうなってんだよ!おいチェルシー!」
精神への干渉がカットされるプレイヤー保護がまるで機能していないように見える。
仮に何らかの手段で保護を無視できたとしても、こんなことが許されるわけがない。
強い力で暴れるチェルシーをなんとか抑えようとしつつ、暴虐を躊躇いもせずに行った目の前の男をウェーブは睨む。
「まぁ少し待て。データからいってすぐに収まる。……ほら、見ろ」
少しずつ、チェルシーの動きが収まっていく。
荒れている呼吸が落ち着いていく。
「お、おお!正気に戻ったか!?どうした何を見た!?」
男を離し、チェルシーの目を覗き込んだライザーの顔が固まる。
狂乱を終えたその目には、ただ虚な殺意だけがあった。
「《天地逆転大瀑布》」
地から爆発的に水流が噴出する。
その勢いは抑えていたライザー達を吹き飛ばすにあまりあった。
隠れ家が吹き飛んでいく。多くの家具が水に押し流され、資料が舞い散る。
「チェルシー!! おいクソ白衣てめえ、ふざけんじゃ……」
この暴走を引き起こした男を殴らんばかりに振り返ったウェーブの瞳が、すぐに二度目の驚愕に染まった。
「あああああクソクソクソ!!また失敗か!!!
トップクラスの戦闘者からその辺のマスターまで試して、ここまで調整して他国の決闘ランカーに使わせてもダメだと!?ふざけるなよ!!一体誰ならこの『デトネイター』を使いこなせる!?」
ウェーブ達が思わず絶句するほどの怒り。
机や壁を殴り蹴るその手は自分の血に染まり、脚は軋みを上げている。
余裕を演じていた男は自分の体を現在進行形で破壊しながら暴れていた。
「な、なんだテメエ、いかれてんのか!?」
「ウェーブ、今はそれどころじゃない!」
水流の中でチェルシーが斧を構えていた。
ライザーはよく知っている。王国決闘第八位、"流浪金海"チェルシーの必殺スキル。
「先にこちらに対応せねば―――」
「《
また新たな激戦が始まろうとしたところで。
「もういい。今回も失敗だ」
沸騰していたはずの男が冷めきった声で何かのスイッチを押した。
カチッという音と同時にチェルシーの斧が吹き飛ぶ。
「暴走にもいい加減慣れたからな、爆破装置を仕込んでいた。それだけのことだ。……くそっ、これを使うことになるとはな」
上級のアームズを破壊し切るほどの火力の爆風。
苦々しい顔をする男をよそに、至近距離で爆風を受けたチェルシーは斧の破壊と同時に意識を失っていた。
「大丈夫か!?」
「……体は無事だ。取り付いた武器に威力が集中するよう作られていたようだな」
無傷とはとても言えないが、重度の傷痍系状態異常にかかっている様子はない。
その顔はまだ苦しんでいるが、起きていた時よりはマシに見えた。
ほんの少しだけほっとしたウェーブは、白衣の男の胸ぐらを掴む。
「てめえ、チェルシーに何をした!?」
「それが『デトネイター』だと呼んだな。失敗だとも。
―――説明しろ。なぜこんなことが起こる。『デトネイター』とはなんだ」
二人の戦士の煮え滾る激怒を前にしても、白衣の男はつまらなそうに鼻を鳴らした。
「ふん。俺は元々隠したことは一度もない。
聞きたいならいくらでも聞かせてやる。『デトネイター』の全てをな」
男はウェーブに投げ捨てるように首を離され水溜まりに落ちる。
尻餅を付き、跳ね上がる水で全身を濡らした状況でさえ、白衣の男は顔色ひとつ変えなかった。
『自分の惨めさはこんなことでは変わらない』と言わんばかりに。
―――この玉に入っているのは
―――誰の記憶か?誰だろうな。俺とて全てを知っているわけじゃない
―――はぐらかしているわけじゃない。俺はこの"痛みの記憶の集積"を複製しただけだからな
―――まず始まりに、【怨獄】の存在があった
―――そっちの探偵は知っているか。当然だな
―――かつて空間の永続的改変能力を使いレジェンダリア各地に特異な地を、或いは特異な空を作り続けたマスター
―――"世界造"を自称し、"侵神"と呼ばれた男が監獄に行くまでに残した負の遺産の一つ
―――入ったものが例外なく正気を失い、出た後も決して語らない現世の地獄だ
―――そう、
―――純粋な器物は入れるがなんの意味もない
―――あらゆる生物が、エレメンタルでさえもまともに過ごせない
―――怨念から生まれるアンデッドでさえ、あの世界では一歩も動けない
―――異常だろう?俺はその異常性に興味が湧いた
―――調査を重ねた結果わかったのは、あれは『入ったものの痛みを記録し』『入った者に記録した痛みの情報を与える』、たった二つの機構を備えた空間だったということだ
―――初めはモンスターを痛めつけたんだろう
―――ごく初期に入ったものによれば、単に拷問級に痛かった
―――だがやがて、その痛みは肉体的苦痛だけではなくなっていった
―――これも推測だが、誰かが痛みを味わうことで、似た痛みを味わった記憶を想起したんだろう
―――例えば『殴られた痛み』を味わうことで『誰かに殴られた過去』を思い出す
―――その過去が例えば『殴られるとともに大事なものを失った記憶』だったりする
―――その記録を味わった誰かは痛みだけでなく、『失った悲しみや怒り』も味わうわけだ
―――想起された記憶を読み取ることも、その記憶を与えることもプレイヤー保護には干渉しない
―――本来一過性のものであり、あくまで情報の挿入だ。本人の記憶や感情を書き換えているわけではない
―――肉体的な痛みと精神的な痛みを実感的な記憶として流し込まれる
―――蓄積された苦痛の種類が一定以上増えればあとは簡単だ
―――痛みのどれかに共感し、誰でも過去の苦痛を思い出すようになる
―――小さなものから大きなものまで、数百数千の負の記憶
―――それが一瞬で流し込まれるんだ。誰だってまともに思考できなくなる
―――そして再生産され続ける負の感情は尋常じゃない量の怨念を生み出す
―――怨念がアンデッドとなり、アンデッドさえ怨念を生み出す
―――だが強化され続ける怨念とアンデッドが何かを成し遂げることはない
―――誰も動かない世界では本能的反応さえ生まれることがない
―――故に"怨獄"。ただ罰と怨念のみがある終わりなき責め苦の地
―――話が少し逸れたな
―――ここまでは生み出された由来の話
―――ここからがそれがなぜ『デトネイター』となるのかの話だ
―――<エンブリオ>がどうやって成長するのか
―――そう、経験値などのリソースと使用者の感情を元に進化していく
―――現行最終段階、<超級進化>においては特に後者、『使用者の特定感情』がトリガーになる
―――これは何人かの<超級>が証言していることだな
―――つまるところ、あれは『感情を力に変える』機構を保有しているんだ
―――問題はその超級進化トリガーだ
―――どんな感情が求められるかは<エンブリオ>ごとに違い、ヒントもない
―――満たしやすい感情かどうかも関係ない
―――過ごしているだけで条件を満たせるやつもいれば、劇的な事件が必要なものもいる
―――
―――上級と超級の能力倍率は一説には100倍違う
―――100倍だ。それが運で決まる。まして10万を超えるプレイヤーがいて、現時点で満たせた奴は100人未満
―――倍率は1000倍以上だ。なあおい、これのどこに平等性がある!
―――超級職の先着一名設定も大概だったが、こっちはそれ以上だ
―――理論上装備品のステータス補正と装備スキルが極まれば無視できるあっちと違って、こっちはスキル効果を100倍にできなきゃいけないんだからな!
―――しかも仮にできたとしても、それを超級が使えば100倍の格差はちっとも埋まらない
―――許せるわけがない。MMOをなんだと思っている。どこがオンリーワンだ。何が無限の可能性だ
―――なに、落ち着けだと?私は冷静だ。私は……
―――そうだな、少し取り乱した。問題ない
―――そう、トリガーは感情だった。だが感情は意図的に生み出すのが難しい
―――特に負の感情ともなればな。ゲームで本気で泣けるか?
―――少なくともこのゲームのストーリーは感動性に欠けている。冗長さも多い
―――悲劇の悲しさを正面から味わえるマスターなど一握りだろう
―――強い絶望など最たるものだな
―――ゲーム内の何を失ってもそこまで絶望できん。我々は死なないしな
―――なるほど、確かに愛する者でも失えば違うが、自分で失うように仕向けてたらまず絶望できないだろう
―――そうだ。そろそろ察してきたな
―――【怨獄】に入れば、他者の感情をまるで自分のもののように追体験できる
―――とはいえこの実験は失敗した
―――考えてみれば当然だな。
―――膨大すぎる負の記憶に押しつぶされ、一つ一つの感情に向き合う時間がない
―――無論負の感情は生まれるが、かなり曖昧なものになってしまう
―――故に私は逆に考えた
―――マスターに入れても意味がないのであれば、だ
―――『<エンブリオ>にこの膨大な記憶を捻じ込めばどうなる?』と
―――そう、そのために作ったのが『デトネイター』だ
―――結論から言えば、私は
―――進化はなかった。おそらく持ち主との紐付けがあるんだろう
―――持ち主の感情でしか進化しない。想定内だ
―――だが元々感情に反応する武器だ。完全な無視もできなかったんだな
―――わずかにだが、エンブリオに
―――それはマスターにも同じ記憶を流し込むことで更に肥大した
―――バグとは進化の前段階。回路の構築の前の新規容量の増設
―――『新規にコードを書き込めるスペースが生まれた』とでも言おうか
―――問題は、ここに何を、どうやって書き込むか
―――肥大化したのは器だけだ。中身が入っていないのでは無意味
―――かといって中にリソースを注ぎ込んでも定着しない
―――定着しやすいリソースを用い、なんらかの効果を発揮させるようにするために、現実的なプロトコルは何か
「まさか……"
―――正解だ。驚いたな。怨念使いの知り合いでもいるのか?
―――元々怨念とこの記憶との相性は最高だ
―――加えて魔剣とは怨念の量により強化され続けるもの
―――わかるか、『強化され続けるエンブリオ』が誕生するんだ
―――これが『アームズの先』だ
―――『デトネイター』とはエンブリオにバグを引き起こし、怨念武器を作るための
話が終わった後も、ライザー達はしばし口を開けなかった。
チェルシーを傷つけたことへの怒りを一旦呑み込むほどに、その男の熱意と創意工夫に圧倒されていた。
やがて、ライザーが口を開ける。
「なぜ……対象をアームズに絞ったんだ?」
「絞るほどに効力は安定的に増す。基本原則だ。
が、アームズである必要性はさほどなかった。テリトリー以外の実体があるエンブリオなら理論上は可能だ。
だがガードナーには生体器官があり、チャリオッツやキャッスルは余計な機関が多い。
シンプルでなるべく小サイズの方が干渉しやすかった。
なにより、アームズは最も
生み出してやりたかったんだ。新たなる力を」
(こいつは、本気だ。
本気の善意で、そして本気の運営への敵意で動いている)
「だとしても……詳細も語らずに人を傷つけて、挙句に暴走する連中を生み出して、そんなことに正義があるとでも言う気か!?」
強くなろうとし続けているライザーは、男の中に自分の姿を見た。
強くなることを優先していなかったウェーブはそうは思わない。
この男は自分ともライザーとも違う。人を傷つけることへの躊躇いがなさすぎる。
その言葉を聞いて、ライザーも一つ気付く。
「そうだ、今の話には肝心な要素が欠けている。
お前の言うことが全て正しいとして、なぜ成功しない?
そしてなぜ暴走する?一時的にならまだしも、長時間に渡ってだ」
「……正直に言えば、この現象は完全に予想外だった。
だが調査した結果から類推することはできる。
おそらく彼らは他人の記憶ではなく、
「先ほど話にあった、『類似の痛みや感情を受けた過去を思い出す』という話か?」
「もっと悪い。なぜならこれは実在の過去じゃないんだからな」
ライザー達の頭に疑問符が浮かんだ。
同時にうっすらと嫌な予感がしてくる。
そんな彼らに残酷な答えを突きつけることを、白衣の男は躊躇わない。
「膨大な記憶がエンブリオと本人に注がれる。
本来なら受け止めきれない他者の記憶は、デトネイターとエンブリオを二重に経由することで細部の曖昧さを増した状態で本人の脳に届く。
味わえる感情だけが鮮明なままでな。
すると感情を自分のものと勘違いした彼らの脳が勝手に整合性を整えようとする。
―――
あらゆる状況、あらゆる過去における、最悪を超えた最悪の記憶。
これもまた、プレイヤー保護では防げない。
本人が自分自身の記憶を書き換えることを防げるわけがない。
仮に防げるとしてもしないだろう。それ自体がプレイヤーの思考への干渉になるからな」
「偽りの、最悪の記憶だと?」
「守れたはずの記憶は守れなかった記憶になる。
大切なものを一つ失った記憶は大切なものを全て失った記憶になる。
信頼を築いた過去を失う。何かを成し遂げた過去を失う。何かを得た記憶を失う。
信頼が作れなかった過去と、何も成し遂げられずに終わった過去と、何も得られなかった過去を、自分でも自分のものだと思えてしまう。
人は過去に支えられているんだ。それを全て失ったらどうなる?」
達成感は最高の教育である、という言葉がある。
子供は愛を注がれることで自尊心を満たし、それで初めて正しく成長することができる、という考え方がある。
出逢いは人を変える奇跡である、という表現がある。
だとすれば、全てを失敗したことにされた者の人格はどうなる?
「彼らに支えはない。彼らに守るべきものはない。
故に衝動に抗えない。『<エンブリオ>の衝動』に呑まれ肉体の支配権を失う」
「……はぁ!?エンブリオに、衝動!?」
「驚くべきことじゃない。エンブリオは例外なく生命体でもある。
ただしほぼ例外なく、その思考は人よりも劣等だ。
思考力もそうだが、人格が明確にあるタイプでも思考構造自体が弱く、成長性がない。
魔剣化により悪しき衝動を植え付けられてしまえばまず抗えない。
……こちらは想定できていたんだがな。強きマスターであれば抗えるはずだった。
結局エンブリオは
そしてそのマスターの意思を反映し、真の力が目覚める。その筋書きだった」
マスターの強い意思さえあれば成功する計画だ。
凡百が怨念に呑まれても強者であれば。
或いは強くなくても、精神的に適合する者がいるかもしれない。
そうして、多くのマスターが力に呑まれ、弱さに呑まれた。
「一種の武器使いのトップにして天才、"投槍"のフラーレン。
一種の武器使いを率いるリーダーにして求道者、"斧改"エディヴ。
一国の決闘で一度は頂点に立った戦士、"流浪禁海"チェルシー。
他にも大勢の者、見込みのありそうな者にもなさそうな者にも渡し、流し、使わせてきた。
誰一人、耐えられる者はいなかったがな」
「……お前自身はどうなんだよ。試さなかったのか?」
「この姿を見れば使ってないのはわかるだろう。
俺のエンブリオはアームズじゃない。実体などない」
「自分で安全を確かめられてないものを他人に使わせてんじゃねーよ!」
「手ずから渡した奴には危険性は伝えた。
流通させたものにも説明書を添付して……いや、やけになってからは量産と頒布を優先していたんだったか。すまん」
「すまんじゃねえよ!!」
「待て殴るな!私の耐久は低いんだ!」
(い、怒りに呑まれて容易に暴走する、王国で言えば
よくこれまで監獄に送られなかったものだな)
殴りかかるウェーブを止める気にもならず、ライザーは知人のことを思い出す。
彼女も怒りからカップルを狙って暴れ、最終的に街中で暴れて監獄に叩き込まれた女だ。
おそらくこの男も、この事件が終わったら監獄に送られるだろう。被害がデカすぎる。
なんならすぐにでも監獄に送ってやるとウェーブが息巻く。
「情報聞き出し切ったしもう監獄に送ろうぜ」
「そうだな、俺も同感だ。少なくともこれ以上の被害者抑制にはなる」
「待て待て、まだ私が死ぬわけにはいかん」
「お前は死ぬべきだろう」
「最低限お前の研究ぐらい練るべきだったな、命乞いをよ」
ポキポキと拳を鳴らしながら二人が近づく。
同情の余地も共感の余地もなくはない。
それはそれとして、生かしておく理由はない。
死を前に、白衣の男は不敵に笑った。
「傷ついた者達の回復と『デトネイター』の実用化を一挙に進める秘策がある、と言ったら?」
「…………ライザー、どう思う?」
「こいつの理論でうまくいったものはないが……内容が内容ではあるが……やはり殺しておくか」
「待て!話ぐらいは聞いていけ!」
不敵さはそんなに持たなかった。
「そもそもだ。何より先に私はデトネイターで傷ついた者達の治療を考えた。
それがデトネイターの制御に最も早く近づくんだから当然だな」
死なない程度にボコボコにされた男は腫れた顔でふてぶてしく座り込んでいた。
男を前後に挟む二人もひとまず話を聞く体勢になる。
「だが困難だった。同じく当然だが、マスターの心に直接干渉することはできない。
プレイヤー保護があるからだ。悪しき記憶を糺すことができない。
エンブリオに対しての干渉も似たようなものだった。そもそも意思が不完全な生物の衝動を操作する方法など、プレイヤー保護を抜いてもほとんどない」
「プレイヤー保護を迂回して人の心を傷つけているやつがよく言う」
「
「! じゃあ『良い記憶と感情』を大量に集めて注ぎ込めば!」
「過剰な負の記憶で塗りつぶされた記憶を過剰な善の記憶で塗り潰す、制御だけを考えるなら一つの案だな。
高確率で本来の人格を取り戻せなくなる副作用、答えのない矛盾の増大により精神が崩壊する可能性を問題としないならだが」
「おいライザー、やっぱこいつ殺さないか?」
「俺もだいぶ腹が立ってきたが落ち着け。聞き終わってからにしよう」
皮肉なのか素なのかわからない男の反応にウェーブはこめかみをピクつかせる。
殺意の提案に賛同する意思を人格者のライザーですら隠していない。
「人格への影響を最小限にするためには、一発で自分を肯定し、冷静に記憶を思い出せるようになる最初の一助となる記憶がいる」
「そんなもん……ねえだろ」
救われてほしいと心から思うウェーブも苦い顔で否定せざるを得ない。
あらゆる悪感情によりあらゆる記憶を改悪してしまっている彼らには本来『正しい記憶』の再挿入が求められる。
だがその記憶を今の彼らの脳から抽出することは困難だ。事前のバックアップがないのなら、できるのは真逆の成功汚染しかない。
この件に関しては時間の経過さえ役に立つとは限らない。
時間による記憶の劣化は平等だ。悪しき記憶が薄れる頃には押し込められた正しい記憶も同様に薄れてしまう可能性がある。
「一つだけあるんだよ。
彼らが偽りの記憶を乗り越えるためにただ一つ必要な記憶。
―――『
それさえあれば何もかもが変わってくる」
「は―――」
目の前の男の言葉を聞いて、二人は何度目かの絶句をした。
(ならばこいつが『デトネイター』をばら撒いていたのも
(その結果被害者を増やしまくってる!なんて傍迷惑な野郎なんだ!)
『アームズの先』を完成させること。
アームズのマスターを助けること。
そして、そのために無茶な理論を実現できると本気で信じて動き結果として傍迷惑を振りまくこと。
この男は最悪なまでに一貫している。
ライザーの喉から絞り出すように反論が出る
「それではまるでレーギャルンの箱だ。
開けられない箱を開ける鍵が箱の中にあるとして、それが何の役に立つ」
「どうかな。ライザー、これでも私は
「―――俺に?」
「てめえまさか、ライザーにまで―――」
「君の経歴は多少知っている。担い手を探す際、一定以上のマスターの情報は根こそぎ調べたからな。
君は―――言ってしまえば敗北者だ。
決闘上位ランカーまで上がった。そこまではいい。
だがその後も上がることができず、後進に抜かれ続ける。
"無限連鎖"に負け、"怪猫屋敷"に負け、"断頭台".に負け、"黒鴉"に負け、"骨喰"に負け続けている。
かつての王国クラン二位、<バビロニア戦闘団>の一員だ。そこまではいい。
だが【三極竜】に挑んで負けホームタウンを失い、その際の戦いで親しいティアンは全滅。オーナーを筆頭に多くのメンバーが抜けている。
それを悔いながらも、今日も変わらず決闘ランカーとしてこの世界で過ごしている。
そうだな?」
「っ、てめぇ!」
ライザーが反応するよりも早く、ウェーブが胸ぐらを掴む。
ライザーの過去を掘り起こし、その傷に塩を塗るような言動。
許せるはずがない。今再びの怒りが白衣の男に迫る。
そしてやはりその怒りを気に留めず、男は話を続けた。
「
「……っ」
「そんな君ならば……或いは負の記憶にも対抗できるかもしれん」
「いい加減にしろ!そうやって都合のいい推測を繰り返して!お前は被害者を出し続けてきたんだろうが!」
その思考はどこかギャンブル中毒のそれにも似ている。
『今度は勝てるはずだ』『これならいけるかもしれない』『これだけ注ぎ込んだのだから勝利しないと終われない』。
そう考えた者達は例外なく破滅してきた。
敗北続きの状況を変えるために必要なのは一発逆転ではなく、地道で確実な修正の積み重ねだ。
曖昧な推論で安易に挑戦を繰り返すこと自体が間違っている。
そんなことわかっているはずなのに、男はまだ繰り返している。
自分の研究が致命的に失敗していることを。
取り返しのつかない被害を産んでしまっていることを。
アームズのマスターを助けるどころか何の益も与えられず苦しめてしまっていることを―――受け入れられていないから。
「頼む、マスクド・ライザー。全てが終わったあと俺をどうしたっていい。
だが今は、今だけは、私の案に乗ってくれ。
「……お前」
ライザー達が彼と出会ってから初めて。
濡れた床に膝をつきながら、男は深く深く頭を下げた。
ウェーブは苦い顔で見る。ウェーブだってハッピーエンドを求めている。
この男だって救われるならその方がいい。
だがその救いに至るための道筋はあまりにか細い。
それを失敗した場合のリスクはあまりに膨大だ。
―――諦めるべきだ。そう結論づける。
「わかった」
その言葉はウェーブが銃を抜くよりわずかに早かった。
故にウェーブは止まらざるを得ない。
「ライザー、いくらなんでも」
「わかっている。俺もこれが愚かな選択だとわかっているんだ」
「だったら!」
ライザーが覚悟を決めているのが仮面の上からでもわかった。
それでも、ウェーブは止めようとする。
根拠があるならいい。わずかな可能性に賭けるならそれもいい。
だが狂人の妄言しか根拠がないなら自殺も同然だ。
『お前なら生き残れるかもしれない』と言われて崖から身を投げるなら待つのは死である。
もしライザーが英雄への憧れだけで動いているなら、存在しない可能性を信じているなら、主人公感に酔っているなら、殴ってでも止める気だった。
だが、画面の奥の瞳には、ただ重い責任感だけがあった。
「すまない。俺は―――俺にかけてくれた期待を無視できない」
期待に応える。それがライザーの
本気の期待を無視できない。諦められない。逃げられない。
例え、それに応えられないとわかっていても―――。
「悪いな。お前には面倒な役目を押し付けることになる」
「……っ、ふざけんな。そう思うなら俺にやらせるな―――負けるんじゃねえぞ」
ライザーが暴走したのなら、止めるのはこの場にウェーブしかいない。
その後の戦いもウェーブ一人に任せることになる。
それでも、ライザーは誰も呼ばず、ウェーブに託すことを選んだ。
この男なら自分を止め、自分の屍を越え戦い続けることができるという男の信頼。
ウェーブも迷い、惑い、ライザーを止めないことを選んだ。
ライザーのことを思うなら力づくでもここで止めるべきだ。
それでも止められないのは、一人の男が下した決断の尊重。
(それだけじゃねえか。
俺自身も『もしかしたら』と思っちまってるんだ。
この信頼できる不屈の男なら、ひょっとしたらって)
ウェーブの視線の先、ライザーが小瓶を受け取る。
緊張しているのが見てとれた。恐怖も。
「マスクド・ライザー。『デトネイター』を……アームズの未来を、頼んだ」
「……ああ。任せてくれ」
かけられた声と期待に応えるために、その緊張と恐怖を踏破する。
返した声には揺らぎなく、安心感を感じさせる。
英雄の仮面を被り、そのように振る舞うことができる。それ自体が英雄性の片鱗であると、ウェーブは知っている。
(それでも。"流浪金海"チェルシーも、"投槍"のフラーレンも失敗した)
彼らは英雄に相応しくないのだろうか。
そんなわけがない。
強靭な精神を持ち、優しさと強さを備えている。
そんな人間であろうと『デトネイター』には耐えられなかった。
マスクド・ライザーだけが耐えられる理由は限りなく少ない。
彼の行動が愚かなまま終わるか、奇跡を起こすか。
二人の男が見守る中、ライザーは小瓶を握り砕いた。
【ヘルモーズ】が液体を浴びる。
そして。
―――。
――――――。
――――――――――――。
『任せてください。俺達がこの街を守ってみせます!』
かつて一つの約束があった。
街に近づく怪物を前に、不安がる人々に交わした約束。
その中には彼の恩人の姿もあった。彼の友の妻も。応援してくれた子供も。
守らなければならないものを、かつて彼は失った。
『やめろ―――!』
彼らが無様に負けた後、誰かが記録した映像を見て、全てを失ったことを知った。
三頭竜の極光に街が包まれる。
巨大な街が一瞬で蒸発した。異次元の熱量。
それを成した竜の強大さも、もはやどうでもよかった。
ただ、己を責める。
己の弱さを。愚かさを。
『馬鹿だよな。<SUBM>に単一クランで勝てるわけないのに』
『あいつらが勝てるって言ったせいでティアン大勢死んだんだろ?クズじゃん』
『世界派気取っておいて恥ずかしくないのかね。俺ならもうログインできないわ』
誰かが囁く声がした。罵倒する声がした。呆れ返る声がした。
そのどれもを正しいと思った。
判断を誤り、期待を裏切り、約束を嘘にした。
それでも彼は立ち上がった。その理由は―――
(―――
立ち上がった男に期待する者などいなかった。
元々、
かけられた期待は常にクランと団長の功績によるものだったし、決闘ランカーとしても上には上がいた。
そんな中でも期待してくれた団長を失った男はアイデンティティを失い、ただ惰性でゲームを続けていた。
王国に再び訪れた危難、皇国の侵略。
退けるための戦争に参加し、負ける。多くの命が失われ、人々が嘆く。
また黒星が増えた。
そんな中、転機が訪れる。
優秀なルーキーによる王国の復権。その始まりとなるギデオンでのテロ。
この戦いにおいてもライザーは皇国から来た敵に真っ先に挑み、敗北を喫した。
その敵を誰かが倒したと耳にした。ライザーはいてもいなくても変わらない。
(また、何も成せなかった)
講和会議を罠にした皇国による王都へのテロ。
この時においても―――やはり。
(―――いや……何か)
何かがあれば、ライザーも役に立てたかもしれない。
超級進化。超級職。或いは
彼がずっと求め、一度として得られなかった何かがあれば。
無力感と徒労感が募る。
(何もない。俺には)
何も得られない。
わずかに得たものも全て失う。
そのように生きてきた。地を這いずる虫のような。干からびる前のミミズのような。
この脳髄を満たす光なき絶望感が、その記憶を証明している。
これまでの戦いの記憶さえ、次第に薄れていく。
(待て、俺は、何かを見て、憧れて―――)
記憶を遡る。記憶を遡る。記憶を遡る。
それは塗り替えられる記憶への無意識の拒絶反応であり、救いを求める走馬灯であったかもしれない。
これだけの絶望を味わって、ライザーの心はまだ折れ切っていない。
始まりの記憶。ライザーが戦い続け、諦めない男になった根源がある。
なんの変哲もない記憶だ。
朝、目が覚めた。のそのそと布団から這い出してリビングに行き、テレビを点ける。
(そうだ、この後)
ご飯の準備をしていると、仮面のヒーローの番組が流れ始める。
その日は偶然、いつもと違ってニュース番組のチャンネルになっていなかった。
番組も終盤。物語は佳境。
子供向けの作品だと思っていたその中で、人のために戦う男達。
命を背負い、希望を守り、勇気を輝かせ、絶望に立ち向かう。
悪を討つ不屈なる正義の味方。話を理解していなくても伝わる情熱。
その姿に憧れた。そんな過去があった。
だからこそ、ライザーは何度でも立ち上がる。
かつて見た英雄達ならば、こんな状況でも諦めない。
できることを探し、守るために戦い続けると、そう信じているから。
それを演じることが、この世界で貫くべき自分の
この時のライザーは将来の自分がそうなると知らず、ただいつも通りご飯の準備をする。
そうこうしているうちに番組が始まった。特異なスーツ姿が写り、幼少のライザーの興味を引く。
人生を変える出逢いが始まる。
「こらッ!何見てるの!?」
寸前に、声が割って入った。
ハッとする。母親が起きてきていた。
「そんなもの見て!ご飯に集中しなさい!これが終わったら塾にいくのよ!?」
「ご、ごめんなさい。母さん」
厳しい母だった。愛がないわけではない。彼女なりに子供を思ってのことだろう。
その上で、少年の心に無力感を与え続けるタイプの親だった。
この親のもとで暮らし続けたことで抑圧と逃避の心が生まれる。
今、
(待て!待ってくれ!俺は―――!)
塗りつぶされる記憶に意識が持っていかれる。
わけのわからないまま焦燥感に駆り立てられ、ライザーは手を伸ばした。
テレビの中のヒーローに、救いを求めるように。
光に向かって手を伸ばし、届きそうになって。
「―――はい。消したから、とっとと食べなさい」
(―――あ)
テレビが切られた。
光が消える。
記憶のライザーと母が家の外に出る。
母親の楽しくなさそうな顔。少年の苦しそうな顔。
普段のライザーなら決して見逃さない顔でさえ、もはやライザーの意識を引くことはなく。
光刺さぬ暗闇の中。
ライザーの意識はそこで途絶えた。
はい