御幸一也が稲城実業に入学した世界線   作:いちごケーキ

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主人公気質

 

 

 

 

中学時代は先輩が相次いで特大の不祥事を起こし、3年間公式戦無参加。

別に対して野球に興味無かったから別に良いけどなんて思っていたのに、何故か青道高校からスカウトの人が来た。

 

 

「青道高校副部長、高島礼と申します。伊川くん、うちの野球部に来るつもりはない?」

「えぇ?」

 

本当に意味が分からない。俺のやっていた事と言えば、毎日部活に参加して一人で練習していた位しかない。

何やってても詰まらないなら、勉強の息抜きに野球でもするかと思ってただけだ。

確かに周りのやる気が無い状態の割に頑張ってはいたけど、スカウトが来る程の事じゃないだろ。

 

 

「青道高校って言えば、確か西東京の三強と言われてますよね。何で俺なんかをスカウトしようと思ったんスか」

 

いや、待てよ?もしかしたら入学金詐欺をしに来たのかもしれない。

ザコから部費を大量に出させて搾り取って、試合にも出させないみないな。

 

 

「練習試合、見たわ。弱小校相手とはいえ、四打席三安打一ホームランは素晴らしい成果よ。貴方のバッティングに可能性を感じたの」

「そっすか。で、金銭面の事を教えてください」

 

もし学費補助とか出てたら入っても良かったんだけどな〜、いやぁ残念ですって感じの雰囲気出しとこ。

向こうにも名門校のプライドとか有るかもしれないし、虎の尾を踏んだら面倒だ。

 

 

「君の実力なら、入学金免除で施設費免除も免除、授業や寮費なんかも免除されて、道具の一部提供もあるわ」

「マジすか!それなら入学します!」

 

棚からぼた餅で、タダ入学が決まってしまった。

これで大学費用がケチれたな!奨学金も、借りる額が減ってくれそうだ。

 

 

そんな事を考えていた俺は、知らなかった。

その場所で、生涯の親友になる男と出会う事になると。

 

 

 

 

 

 

「これから設備の案内をするわ。この子は長野県から来てくれた沢村くん、この子は都内に住んでいる伊川くん。同じチームに所属する事になる者同士、仲良くしてね」

「ウース、オナシャース」

「おい待てよ!俺は入学するなんて言ってねぇぞ!」

 

入学しないのに何で見学に来たんだよ、意味分かんね。

コイツとは短い付き合いになりそうだな。

 

 

 

 

 

 

全力でバットを振る球児、本気でボールを振りかぶる球児、激しく汗をかきながらも走り続ける球児。

青道高校野球部は、確かに本気の部活をする場所だった。

 

 

「あ、す、すげぇっ!」

「これが名門校か」

 

まぁ確かに本気でやってるのは見てわかるけど、こんだけ練習してこの程度とか才能なさすぎないか?

ぶっちゃけ俺の方が上手いと思うんだけど。

 

 

「これが我が校の誇るグラウンド設備よ。あっちには雨天練習場もあるし、選手の大半は寮で生活しているわ」

「べ、別にときめいた訳じゃねぇぞ!驚いただけだ!」

「あ、そう」

 

そういや、都内でこんなデカい土地を使うとか幾ら掛かってるんだろ。これは強豪校になってるのも頷ける。見渡す限りの選手がザコでもな。

 

 

「俺は感激しましたね、来年からこんな場所が使えると思うとワクワクします」

「そう」

 

まぁ別に、本当は感激なんてしてないけど。

偏差値の高い高校にタダ入学したいだけで、野球の施設なんてどうでも良いし。

 

 

「第一、こんな金掛けなくたって野球は出来るんだよ!どうせ選手だって、強い奴ばっか集めてんだろ。こういう何でも揃ってるエリート集団には死んでも負けたくねぇ」

 

えぇ?何言ってんのコイツ。強い奴集めて何が悪いんだ。

良い高校に入学するには、基本的に偏差値が高くなきゃいけない。そこが学力から野球力に変わっただけじゃん。

 

 

「確かに君の言う通り、うちの八割は野球留学選手よ。

でも、彼らは誰よりも野球が上手くなりたい言う思いで親元を離れ、能力を鍛え上げているの。

私は覚悟と向上心を持った選手達を、心の底から尊敬しているわ」

『…………』

 

覚悟ねぇ。親元を離れるって、そんなにキツい事な訳?

寮生活ってご飯も出てちゃんとしたベットもあるんだろ?

両親共におっ死んでるから、よく分かんね。俺的には寧ろ、アイツらなんか居ない方がラクだけど。

 

妙な無言タイムが嫌になって、隣の中学生を見た。

緊張した顔をしている。意外にも相当心に刺さった様だ。

俺の心にはイマイチ刺さらなかったけど、実は高島さんの演説はかなり良かったらしい。

 

 

衝撃を受けている沢村観察にも飽きてきて、俺は割と凄そうなバッターの先輩と強豪校の割に上手くないピッチャーの勝負を見始めた。

どうやら、バッターの先輩は怒っている様だ。

野球なんかに熱くなってバカバカしい、もっと建設的に受験勉強とかを頑張れば良いのに。

あ、ここ強豪校だった。

 

 

「ゴラ゛ァ川上ィ!なんじゃその球は、もっと生きた球投げんかい!こんなんでバテやがって、そんなんだからベンチにも入れんのじゃ!!」

「スミマセン!!」

 

「またかよ東先輩」

「ホント、目を付けた後輩にはトコトン厳しいなぁ」

 

どうやら例のバッターは、強そうな先輩に目を付けられているらしい。きっと陰湿な虐めも沢山あるんだろうな。

こわっ、あの人達には関わんどこ。

 

 

「やる気がないなら田舎に帰れドアホ!テメー位の投手ならうちにはゴロゴロいるんだからよ!!」

「やる気あります!」

「だったらさっさと投げんかい!!」

 

面倒な事に揉めだしている先輩達を見て、げんなりした。

 

 

「あ~あ、何か揉めてんな……って沢村どうした」

 

つい愚痴を零しながら隣を見たら、何故か沢村が先輩を睨みつけている。

 

 

「あの子のバッティングは見ておいた方が良いわ。

高校通算42本塁打を放った怪物、東清国。今年のドラフト候補生よ」

 

 

___カッキーン!

 

見た瞬間に分かる綺麗な放物線を描き、打球はグラウンドの外まで飛んでいく。やはり、川上さんよりは強い様だ。

まぁ多分、俺の方が強いけど。

 

 

「カーッ全然手応えあらへん!こっちまで下手になってまう!川上ィ、変われ変われ!誰かソイツつまみ出せ!!」

「ハァハァ、……えっ、ハァハァ」

「段ボールに詰めて田舎に送り返したれや!!ワハハハ、ワーッハッハッハ!!」

 

楽しそうにレスバしてんな。あの先輩。

まぁまだ暴力も出てないし、気にする程じゃねぇか。

 

 

「___何だよ、それ」

 

この声を聞いた瞬間、凄く嫌な予感がした。

 

 

「おい沢村、何す」

「あーんな身体でプロに行くってェ?!マッジで有り得ねぇ!!見て見ろよあの腹!おっさんじゃねーか!ダーッハッハッハ!!」

「ちょっと沢村くん」

「どう見ても40過ぎだろ?!!本当に高校生かよ?!」

 

止めようと思ったのに、止められなかった。

マジで思い切り良すぎだろ!この後の事なんて全っ然考えてねぇし!!主人公気取りか、辞めろ俺を巻き込むの!!

 

 

「誰やコラ。さっきから俺のチャームポイントを笑っとんのはァ!!」

「チャームポイントォ〜どう見ても短所だからぁ!!」

「すみませんすみません、俺関係ないけどスミマセン!」

 

「どーけオラァ!!」

「ちょ、東くん!沢村くんも早く謝って」

「スミマセンスンマセン、俺は何も言ってないです!!」

 

周りの生徒達を振りほどきながら、先輩がこっちに向かって来ている。

殴られても反撃する訳には行かないから、取り敢えずこっそり受け流しの姿勢は取っとかなくちゃな。

 

 

「何が野球留学だ。覚悟は向上心は立派かもしれねぇけどよ、ここじゃ力の有る奴は何言っても許されんのかよ。

練習に付き合ってくれた仲間をバカにして、その上田舎へ帰れだと?例え世間が認めても、俺が認めねぇ!

たった1人じゃ、野球は出来ねぇんだ!!名門と言われるこの学校じゃ、そんな大切な事も忘れてんのかよ!!」

「…………」

 

え、えっと、んん……確かにコイツの志は立派なのは認めてやっても良いけど、現実に即して無さ過ぎる。

強豪校は強さと年齢が全てなんだろ?多分。だったら、それに合わせるのが一般常識だろ。

 

 

「ごめんね東くん、この子田舎から出てきたばかりで何も分かってないの。

この子がピッチャーでそっちの子がキャッチャーなんだけど、せっかくだから本物のバッティングを見せて上げてくれる?」

「ああー、俺は別に良いッスよ。但し、このガキが泣き入れるまでマウンドから降ろさねぇけどなァ!」

 

ドラフト候補生から目を付けられるなんて災難だな。沢村の実力がどの程度かは知らんけど、多分負け続けるだろ。

つか、俺も若干巻き込まれてるし。勝っても負けても面倒くせぇ事になりそうだな。ウゼー。

 

 

「待てよ!俺は別に、こんな奴の胸借りたくねぇぞ」

「沢村くん。ここは野球のグラウンドよ。言いたい事があるならプレーで見せて貰える?ほら、早く着替えて来て」

 

 

 

 

 

 

俺と沢村で着替えて来て、取り敢えずキャッチングをする事になった。

 

 

「俺は硬球触った事ねぇんだけど、沢村は?」

「俺も」

「変化球は?」

「俺はいつでもストレート一本だ!」

「あそう、何か凄そうだな」

 

触った事はねぇ球だけど、別に違和感は感じねぇな。

これなら普段通りのプレーが出来そうだ。別に普段も、大して上手くないけど。

沢村のストレート一本勝負はキツそうだが。

 

 

「おい小僧、詫び入れるなら今の内だぞ。

___一度マウンドに上がっちまったら、何処にも逃げ場はねぇからなァ」

「何様だよ偉そうに、逃げ場がねぇのはテメェだっつの。ていうか、ぶつけられても文句言うんじゃねーぞオラァ!!」

「確かにありそー、あっすみません」

 

剛速球ノーコン選手とかだったら有り得るな。コイツ性格的にそんな感じがするし。そうなったらウケる!

いやでも、筋肉の付き方的にそんな感じは多分しねぇんだよな。意外と技巧派なのか?

 

 

 

 

 

 

先ずは投球練習で、沢村の球質を確認する。

それを知らねぇと、リードの組み立て様がねぇし。

 

 

___バシッ!

___バシッ!

 

球は遅いけど、妙なブレ方してんな。それに出処が見え辛くて、若干捕りにくい。変則派サウスポーって奴か?

見た感じだと肩関節と手首が柔らかくて、リリース直前に強力なスピンを与えられてるんだよな。

 

沢村は微妙そうな顔をしている。俺、取るのは得意な方だと思ってたんだけど、何か駄目だったか?

 

 

「そろそろアップ良いか?」

「ああ、うん」

「じゃあ東さん、よろしくお願いします」

 

遠くで見ていた先輩が、ドスドス近付いて来て嗤った。

やっぱ沢村が言う通り、太ってはいるよな。

 

 

「なんじゃいその球は、大口叩いた割には普通以下やないかい。こんなん軽く場外じゃ!!」

「流石はドラフト候補生の方ですね!俺は胸を借りる気持ちで頑張ります」

「おう、お前は弁えとるな」

 

多分この人、沢村の球質に気付いてねぇな。

上手く煽って、三振させられりゃ良いんだが。……って、何で俺は本気で勝ちに行こうとしてるんだ?

 

 

「高校通算42本塁打を放った怪物だと聞きました!東さんのフルスイング、楽しみにしています!」

「おおー期待しとけ。でもやる気あんのか?対戦相手にそんな甘い態度しやがって」

 

舐めてなんかいない。ブレ球はフルスイングだと打ち辛いから、そうしてくれる様に誘導してるだけだし。

まぁどっちかって言うと、この先輩よりも沢村に勝って欲しい気もするからな。

勝っても負けても面倒なのは変わらないし、もう適当になるしかねぇんだよ。

 

 

「ありますよ!それはそれ、これはこれって奴です」

「あっそ、食えん奴や」

 

多分この人はアウトコース高めが得意だな。

構え方、目の使い方。それと俺のカンがそう言ってる。

 

 

「何マジ顔になっとんじゃ!はよ投げェ!!」

「沢村〜、この人から無失点でアウト取るのは無理だって。その内取れんだろ位の緩い気持ちで行こうぜ」

「はぁ?俺は全身全霊で勝負するって決めてんだ!」

 

よし、何かよく分かんねぇけど沢村の力みが取れた。

これなら行ける可能性も1%位はあるかもな!

 

 

「だよな、そう言うと思ってたよ!___信じてるぞ」

「おうっ!」

 

 

___バシッ!

 

「ストライク!良いぞ沢村!次も頼む!」

 

インコース高め、良い感じに入ってストライク。コイツはマウンド度胸もありそうだし、次もほぼ同じコースだな。

もちろん、座る位置は微妙に変えるけど。

 

 

___カキーン!

 

「ファール!予想通り!良い球来てるぞ!」

「チッ!」

 

これで確信した。この先輩は、本気で沢村を舐めてると。

この一戦さえ凌げれば良いんだ。臭い所に投げさせまくって、挑発しまくってやる。

 

 

___カキーン!

 

「ファール!ストライクにはなんなかったけど!」

 

 

___カキーン!

 

「ファール!惜しい!惜しい!」

 

 

……

 

 

___カキーン!

 

「ファール!頑張れ沢村〜!」

「ノーコン野郎が……絞りづろうて敵わんわい!」

 

これで八球目。そろそろストライク取りに行くか悩むな。

 

にしても沢村、最初よりボールのキレが増してるよな。

俺のキャッチングが上手いお陰だったりして。

 

 

___カキン!

 

「ファール!」

 

眼ぇ輝かせてんな、沢村。それじゃワザとボールゾーンに投げてるってバレちゃうだろ。

よし___潮時だな、最後のストライク、取りに行くか。

 

全力の球を、ド真ん中に投げろ!

今の先輩なら、見誤って打ち損じる筈だ!!

 

 

___バシッ!

 

「ストライクゥ!バッターアウト!!」

「うわぁ、うわあ゙あ゙あ゙!!」

 

沢村がなんか叫んでる。

嬉しそうな悔しそうな、複雑そうな顔だった。

もしかしたら、コイツも青道高校に入学する事になるのかもな。何となく、俺はそう思った。

 

……つか、コレをストレートって表現するのは違くね??

今更だけど。

 

 

 

 

 

 

俺が家に送られる前に、高島さんと沢村を駅まで案内する事になった。普通に妥当な判断だと思う。

でも、沢村が無言なのが不気味なんだよな。

 

 

「今日の事は東くんにも良い経験になったと思うわ。プロ入り前に、もう一度謙虚になって欲しいと思ってたから。

東京ブロックは強豪渦巻く激戦区。努力し続けても報われる保証なんて無い。それでも!うちの高校でチャレンジしたくなったら言ってね。選択する権利は貴方にあるから」

「…………」

 

最初はトンデモナイ奴だと思ったけど、一緒に戦ったのは何やかんや楽しかったんだよな。

なんか俺も言うべきかな……俺なんかの意見なんて、興味ねぇだろうけど。

 

 

「俺さ、色々あって公式戦一回も出れてなくて、試合の楽しさなんて知らなかったんだけど

___お前と戦ったのは楽しかった。だから、もし沢村が青道に来たら一緒に頑張ろうな」

「…………」

 

バカバカ俺のバカ!やっぱ俺の事なんて興味ねぇじゃん!

何でこんな事言ったんだろ。

 

つかアイツ、絶対トラブルメーカーじゃん。

何で一緒に頑張ろうなんて言っちゃったんだろ?俺に得なんて一つも無いのにさ。はぁ、馬鹿な事言ってたわ。

 

どうせ青道には来ないだろうし、関係ねぇけどよ。

 

 

 

 




「一人で野球やるつもりか?」「最高のピッチングって奴は、投手と捕手が一体になって作り上げる作品だろ?」
という、沢村の心に深く刻み込まれる言葉が消えました。
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