「青心寮……寮って言うよりアパートみたいだな」
「あ!沢村ぁ、こっち来たのか!」
入寮日当日、前にも会った沢村と鉢合わせた。
コイツ、マジでこっちに来たのか。ダメ元でお誘いを掛けて良かったのかもしれない。
関係ねぇか。普通に強豪校に興味が湧いただけだろうな。
「おう!皆の代表としてこっちで頑張る事にしたんだ!」
「お、良かったな」
皆の代表、か。そんな人間関係が築けていて羨ましいぜ。
俺は友達と、服従か闘争かみたいな関係だからな。
アイツらって、本当に友達なのか?正直違う気がする。
そんな事を考えながら歩いていると、沢村が乾燥させている服にぶつかった。
「うわっ!こんな所に干すなよ!」
「ここのルール的にはどうなんだろうな?」
まぁルール上アリでも、俺は干さねぇけど。
こんな所に干してたらさ、どう考えても盗まれるだろ。
沢村はキョロキョロしながら、何故か急に笑顔になった。
「野球漬け上等!クーーッ!そうだ、俺の部屋ってどこ」
「確か、俺と同じ305号室だぞ」
「へへっ、一緒か!にしてもよく覚えてんなぁ〜」
「けっこう暗記は得意なんだ」
沢村と一緒に歩き、部屋の前に付いた。
コイツは完全に緊張している。いや、俺もだけど。
「先輩達との四人一部屋の共同生活。名門つうからきっと、スゲェ人達なんだろうなぁ……何か緊張してきた」
「…………」
確かに名門だけど、三強の中では格下なんだよな。
沢村の理想が高過ぎないと良いけど。
___ガチャ
「恨めしや〜」
「ギ、ギャーーッッ!!出たーーッッ!!」
一瞬俺も、先輩達が乱闘でもしてたのか疑った。
頭に斧がぶっ刺さってて、血痕らしき物が頭に掛かっていたからだ。
見慣れているから直ぐに本物の血ではないと気付いたけど、驚かせ方が凝っててヤバいと思う。
「ヒャハハハハ!ドッキリ大成功!悪く思うなよ、俺も去年やられて腰抜かしそうになったからな!つか、もう片方は驚いてねぇのかよ」
「クオリティは高いけど、血が偽物っぽかったので」
「……まぁ良いや、青道野球部へようこそ。俺は二年の倉持、こっちは三年の増子さん」
増子さんは、よろしくと書いてある普通のプリント用紙を掲げている。どうしてこうなったのか、全然分からない。
『よ、よろしくお願いします』
「気にしなくて良いぜ!その人は昨日エラーして、自分から喋るの禁止してんだよ、意味分かんねぇ!ヒャハハ!」
「は、はぁ」
確かに意味分かんねぇわ。
なんでそんなの思い付いて、実行しようと思うんだよ?
まぁ初対面の先輩相手だし、もちろん言わねぇけど。
「そんなトコ突っ立ってねぇで、早く入れよ。そんじゃ始めっか、新入生歓迎ゲーム大会〜!!明日も練習早いんだし、早くやろうぜ!」
え、マジで?凄く面白そうじゃん!こんなフレンドリーな人達、今まで殆ど見たことねぇし!
こりゃ当たり部屋引いたか?!俺、普段は運悪いのにな!
「俺、負けねぇッスよ!」
「俺はゲームかなり得意なんすけど、手加減しなくて良いッスよね?」
「___負けたら一年、俺達のパシリなァ」
やっぱりそう来るか。まぁそもそもパシリ程度なら無条件でやるのが当然だし、別に良いけど。
でも俺、これって勝っちゃって良いのか?パシリが命じにくくなっちゃうけど。
「今、すげぇ怖い事を聞いた様な」
「気のせい気のせい!明日も仲良くやろうぜ!」
「うっす!」
……
マリオカートを八戦したけど、毎回俺が一位で、倉持先輩が二位だった。ちなみに沢村は、殆ど毎回最下位。
「伊川お前!強過ぎるだろ」
「いやまあ、対面では負けた事無いんで。別に普通にパシリはやりますけど」
「ヒャハハ!結果は結果だかんな!コイツを優先的にパシらせてやるよ!」
「イタタタ!ヒデェっすよ倉持先輩!」
色々なゲームをやって楽しみつつ、夜が更けて行った。
夜中の二時になった直後に残念ながらゲーム大会は終わってしまったけど、また機会があればやりたいな。
その後、俺は普通に復習勉強を始めた。
「沢村、起きろ、時間だぞ」
「うーん、あとごふんー」
「監督に目ぇ付けられるぞ!早く起きろ!!」
「あ!ヤベ!!助かった!!!」
沢村を起こして、朝の支度をさせてやった。全く、初日から遅刻するつもりか?
俺が起こさなくても先輩が起こしたかもしれないけどさ。
「ウエー、朝日が眩しい。つかお前ら起きてんのかよ」
「まぁ、三時間寝れば余裕なんで」
「伊川に起こして貰った!」
朝、遅刻ギリギリになって漸く先輩達が起きてきた。
強豪校なのに、時間の事とか考えないのが普通なのか?
グラウンドに出ると、グラサンを付けたヤクザ風の監督が仁王立ちしていた。
調べたから知ってたけど、やっぱ怖えぇ……!!
あんなのに目を付けられたら、高校三年間が終わるだろ。
「___監督の片岡だ。これで入部希望者は全員か」
『ハイッ!!』
「___順番に、自己紹介をして貰おうか」
「南中出身!竹本厚!希望ポジションはレフトです!よろしくお願いします!」
「宮川シニア出身、大島博!希望ポジションはショートです!守備には自信があります!」
「金丸信二!松方シニア出身!希望ポジションはサードッス!よろしくお願いします!!」
自己紹介が進んでいき、俺の前の沢村の番になった。
さっきまで眠そうにしていたのに、急に元気ハツラツという感じの顔になっている。
「赤城中学出身!沢村栄純!!エースになる男だ!!ワーッハッハッハ!!」
『……ふざけんな!!』
自己紹介じゃなくて事故紹介じゃん、こんなの。
ワザワザ初日から、先輩達と波風立たせなくてもさぁ。
はぁ、前の時もこんな事思ったな。
次が俺の番だよ、やだなぁ。絶対警戒されんじゃん。
前の俺の中学、関東圏内で一番治安が悪いって有名だし。
「ご、極亜久出身、伊川始。希望ポジションはキャッチャーですが、ショートも一応出来ます。打撃には自信があるつもりです」
『極亜久……??!』
やっぱり、ギョッとした目で見られた。
いや分かるよ、奴らは完全にグズだと思うし。俺含めて。
この空気の中で次に自己紹介する人は可哀想だと思うよ。
覚えて貰えないでしょ、俺の言えた事じゃないけどさ。
「陽光中学、小湊春市。希望ポジションはセカンド。兄の様な選手になりたいです」
「あの小湊先輩の弟か!」
「将来有望だな」
あれ、かなり注目されてるじゃん。何か凄い選手の弟か。
良かった!俺のせいで空気みたいになる人が出なくて。
こうして、これから同級生になる奴らの自己紹介と、俺と沢村の事故紹介が終わった。
俺の場合はどうしようも無いけど、沢村はもうちょい何とか出来なかったんだろうか?
と、その時は思っていた。
後々考えると、あれも沢村らしい自己紹介だったと思う。
俺と沢村と、ついでに他の人達も食堂に来た。
事故紹介をして遠巻きに見られてる余り物同士、ついでに一緒に回っている様な感じだ。
まあコイツの事は嫌いでもないし、別に良いけどな。
また騒動を起こしそうな所は面倒くさいけど。
「食事、必ず三杯は食べる事……?エゲツねぇな」
「ヴゥ゙、グルジイ。ウプ」
「おい待て吐くな!すぐ袋持ってくるから!!」
沢村が吐く前に、慌てて袋を持ってこれた。
全く、世話が焼ける奴だよ。
「オエッ。伊川、よく食えた、よな」
「普段は五分の一も食ってねぇけどな、詰め込んだら何とかなったわ」
「次、は……負けねぇ!ウップ」
「もう騒ぐな!また吐くぞ!」
それにしても、為せば成るって事か?普段は十秒ゼリーしか食ってないのに、俺よくご飯大盛り三杯も食えたよな。
「一年生!これから希望ポジションに付いての能力テストを行う!スパイクに履き替えて、Bグラウンドに集合!」
『ハイッ!!』
つか今思ったけど、周りの返事がマジで煩いな。
こんだけ声出さなくても聞こえるだろ。まぁスポーツじゃ、意外と掛け声も大事とも聞くけどさ。
「まず遠投だ。先に俺が投げる、心構えしておく様に」
『ハイッ!!』
___ガシャン!!
『うわああぁ〜』
「フェンス直撃?!」
「新入生は驚くよな。あの人は、プロ入り断って監督になったんだ!今でも現役バリバリだぜ」
そんな凄いか?別に俺も似たようなの出来ると思うけど。
まぁ選手じゃないって考えたら凄いか。
「次、沢村栄純」
「よっしゃ!俺もネットまで届かせてやるぜ!」
「いや、フェンスだからな?」
沢村、また変な事言ってるよ。
もうアイツのお家芸なんじゃねぇの、コレ。
「沢村伝説のぉ、始まりだぁ!!」
これはフェンスまで飛ぶかもと思った瞬間、察した。
ボールは勢い良く飛んでいき、急に鋭角に曲がったのだ。
「ブッ、アッハハハ!遠投で曲げてどうすんだっけの!」
「バカだコイツ!バカだ!!」
可哀想に、これは擁護出来ねぇよ。いや、うん。まぁ、これから先の活躍で汚名返上出来るさ。多分。
でも同情するよ、俺だったらかなり退部したくなるから。もしくはピッチャー辞めてポジション変えるかだな。
「次、伊川始」
「ハイ!」
笑い声が響き続ける中、次の人が呼ばれた。
てか俺の番か。沢村と同じく推薦入試組だし、妥当だな。
目指すのは、監督よりも高い所のフェンスに当てるって感じで良いかな。それなら文句ねぇだろ。
___ガッッシャン!!
「うわ?!スゲェ!!ナニモンだよアイツ?!」
「最近のヤンキー、マジ強えぇ!」
「倉持もスゲェしなぁ、マジでフィジカル強者が集まってんじゃねぇの?」
やっぱし不名誉な事言われるよな。嫌だなぁ。
そりゃそうだよ、ヤンキーやるなら肉体資本だし。身体が弱い奴から殺られてくからな、筋トレは欠かせねぇ。
「あー悔しい!俺はエースになりに来たのによ!!」
「ドンマイ。まぁその内、名誉挽回のチャンスはあるさ」
「遠投でカーブて、マジウケんだけど!」
沢村、表面上の反応よりも意外と凹んでるのか?
いやまぁ、あんな失敗したら泣き入れたくなる気持ちは分かるけど。あんなミス、噂が七十五日位は残りそうだし。
「クソッ、俺って真っ直ぐな球も投げられない奴だったのかよ!……伊川ァ!何かコツとかねぇのか?!」
「待て待て止まれ!首締まるから!!」
危ねえ、一瞬首絞められるかと思って反撃する所だった。
マジビビったわ、そういうのマジで辞めてほしい。
「コツも何も、そもそも基本的な投球方法が身について無いし、沢村は凄い関節柔らかいんだからそうなるだろ。
まずストレートの投げ方からじゃね?下手すると持ち味のクセ球が消えそうだけど、試行錯誤してくしかねーな」
身体の捻り具合とかを見りゃ、野球の知識が有る奴なら誰でも分かるだろ。
つかストレートなのに、毎回ボールを違う握り方してたらそうなるって。ホントに知識が無さ過ぎだろ、今時パソコン見りゃ乗ってるのに。
「頼りになるぅ!!流石キャッチャー!!」
「いや、普通に見れば分かるだろ」
「いや、見ても全然分かんねーよ!」
「え、マジすか」
この時、残念ながら倉持さんは節穴なんだろうと考えていたが、本当は違った。
俺だけが持つ異常な長所に、無自覚だっただけなのだ。
原作とは違い、沢村の遅刻が消えてます。