御幸一也が稲城実業に入学した世界線   作:いちごケーキ

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付き添い

 

 

 

 

「じゃあ伊川!明日、俺に教えてくれよな!」

「おーよ、まぁ部活後に空いてる時間あったらな」

 

正直、俺は適当に返しただけだ。明日だって、部活の予定がギチギチに詰まっているだろうと確信しているからな。

まぁ、もし時間が有ったら付き合ってやるつもりではいるけど。別に沢村の事は嫌いじゃないし、それ位はしてやっても良いと思っている。

 

 

「そうそう。お前らには三年、正確には二年半もあるじゃねぇか。増子さん、最近帰って来るの遅いだろ。

あの人は三年生だかんな、後がねぇんだよ。今頃一人でバット振ってんじゃねぇのかな。この前の試合で、たった一度エラーしただけで、レギュラー外されちまったんだぞ」

「えっ……?!」

「あー」

 

レギュラー外されてたのか、運が無い人だな。まぁそれ位のミスで外されんなら、実力も足りないんだろうけど。

沢村は驚いてるけど、俺はそうとしか思わなかった。

 

 

「エースになりたい、四番を打ちたい、レギュラーになりたい、試合に出たい。ここに来た連中なら、誰だって思ってる事さ。けど!現実にはたった九つのポジションを、百人近くいる部員で奪い合わなきゃならねーんだ。

結果を残した物だけが生き残り、他の者は次のチャンスをただ只管待つしかねぇ。不安なのはお前一人じゃねぇよ」

「ゔ、グッ!」

 

沢村が、なんか苦しそうに呻いた。でも倉持さん、そこまで言わなくても良いんじゃね〜すか?

他の奴は知らねぇけど、沢村はエースになる男なんだし。多分、きっと、メイビー。

 

 

「ついでに、あんまチームメイトに迷惑かけんなよ!」

 

ホントにな。俺はこんな大人数の中、ベンチ入りなんて狙ってねぇから忙しくないし迷惑掛けられても良いけど、他の奴だったらキレてるだろ。

 

 

「明日。もしお前が起きてたら、ピッチングの基礎を教えても良いぞ」

「え、やった!やっぱ優しいな!伊川!!」

「別に、暇だから言っただけだっての」

 

あ~あ、苦手な社会科の予習学習するつもりだったのに、何言ってんだろ俺。

しょぼくれてる沢村を見たら、なんか口から出ちまった。

 

 

 

 

 

 

朝五時前、本当に起きて来た沢村に急かされていた。

 

 

「早く早く!時間無くなっちまうぞ!」

「分かったって!直ぐ教科書片付けるから!」

 

勉強と大切さを分かってねぇだろ、コイツ。

て言うか大丈夫なのか?俺達は確かに推薦で入学したけど、テストが無くなるわけじゃねぇんだぞ。

オツムの出来は悪そうに見えるけど、授業に付いて行けんのかな、沢村。まぁ俺は偏差値ギリギリ足りてるから、多分大丈夫だと思うけど。

 

 

「まずウォーミングアップだ。キツい練習の前には、しっかり怪我を予防しなきゃ行けねぇからな。真剣にやれよ。

腕を横に伸ばして反対の腕で引っ張る、肩周りのストレッチ。前足の膝を曲げ、太腿が床と平行になるまで腰を交互に下ろす、股関節のストレッチ。上向きになって両手両足を上げた後、交互に手足を伸ばす体幹のストレッチの三つをやるぞ」

「お、おう!」

 

なんか猫目になってんな、ウケる。こういう所が面白くて、色々邪魔されても結局憎めねぇんだよな。

 

 

「一個ずつ説明し直すし、最悪俺の真似してりゃ良いよ」

「分かった!」

 

 

 

………

 

 

 

沢村は始めてと思われるのに完璧に熟した。コイツ、何となくは知ってたけど身体が柔らかさ過ぎるだろ。

 

 

「スゲ〜、俺より柔らかいじゃん」

「フフン!そうかそうか?!俺の長所だもんな!」

 

すげぇ調子に乗ってるな、分かりやすい。

そういう所が、楽に関われる要因でもあると思うけどさ。

 

 

「次は両膝つきスローって練習だ。

目的は、上半身の正しい腕の振りを確認する事。だから、両膝をついてキャッチボールしよう」

「おう!!」

 

しったかぶってるけど、ホントは前適当に調べただけなんだよなぁ。確かに沢村よりは練習方法を知ってるけど、誰か他の人が教えてくれた方が効率的だと思う。

 

 

___バシ

___バシ

 

 

「うーん、手の平が前に出過ぎてるな。早く投げたいって気持ちが先行し過ぎてんだろ。ここはグッと堪えて、肘から出す様にしたら球速が上がるぞ」

「ホホゥ!!」

 

初心者だと本当にありがちなミスだよな。俺も昔、長期間失敗してたし。ソレに気付いた時は愕然としたよ。

 

 

___バシ

___バシ

 

 

「あれ、難しいな!」

「基礎動作って、思ったより奥が深いよな。地味だし面倒なのにやんなきゃ上手くなれねぇって面倒だ。どうする、暫くコレの練習するか?それとも他の練習もやるか?」

 

別の練習も色々知ってるけどさ。正直俺はプロじゃねぇから、基礎から固めろ位しか言えねぇんだよな。

誰か沢村に、教育係でも付けてやってくれねぇかな。

コイツはどう見てもベンチ入りは出来る逸材だし、ミッチリ鍛えといて損はねぇと思うけど。

 

 

「いや、まずはコレを極めてやる!」

「そっか、スゲェなお前。まあ俺は素人判断で教えてるし、他の人が教えてくれたらソレに従えよ」

「そうか?伊川が今んトコ1番スゲェ上手く見えるけど」

 

だろうな。俺も正直、実力では青道野球部の誰にも負けてねぇ気がするよ。選手全員を見た訳じゃねぇから、確信は全くねぇけど。

でもな、それとコレとは関係ねぇんだよ。

 

 

「実力と知識量は違げぇんだよ。俺はぶっちゃけ、割と才能ありきでやってるからな。

他の真面目な選手の方が、知識量は多いと思うぜ」

「そんなモンか!」

 

 

俺と沢村は、朝練が始まるまで両膝つきスローを繰り返していた。正直な所面倒だなぁと思いながら練習に付き合っていたが……このポジションをクリスさんに取られて少し嫉妬する事を、今の俺は知らない。

 

 

 

 

 

 

春季大会の前、バスに乗る前に、レギュラーの先輩達が円陣を組んでいる。

俺は何でか分からないけど、大体の同級生達は何が起こるか察している様だ。ワクワクと楽しそうな顔をしている。

 

そう言えば噂によると青道の掛け声はカッコいいらしい。それをやるんだろうなと気付いて、正直ちょっと俺もワクワクし始めた。

 

 

「俺達は誰だ」

『王者青道!!』

 

結城キャプテンが静かに問うと、威厳のある声で先輩達が答えた。うわ、確かにカッコいい。

隣の沢村を盗み見ると、コイツも輝いた目をしている。

 

 

「誰より汗を流したのは」

『青道!!』

「誰より涙を流したのは」

『青道!!』

「___戦う準備は出来ているか!我が校の誇りを胸に、狙うはただ一つ!全国制覇のみ!!行くぞオオォ!!!」

『オオオオオォォォ!!!』

 

全員が右手を掲げ、太陽を指差した。彼らの作り出した影が、まるで神聖な物の様にすら感じられる。

悔しいけど、素直にカッコいいと思った。悔しいけど。

 

 

「す、スゲェ!!」

「やっぱオーラが全然違うよ!」

「カッケー!!」

「俺、あの掛け声に憧れたんだよなぁ!!」

「クゥッッ!俺も早く一軍行きてぇ!!」

 

堂々とした態度で、彼らは歩いて行った。

倉持さんも、心なしかカッコよく見えなくもない。

やっぱ雰囲気って大事なんだな。普段はあの人、なんちゃってヤンキーにしか見えないのに。

 

 

「そろそろ行くぞ!試合を観戦したい者は、直ぐにバスに乗り込め!」

『ハイッ!!』

 

ゾロゾロと歩いて行く同級生達に続いて、俺も試合を見にに行こうとした。だが、沢村は動かない。

訝しんだ俺は、移動しながらも声を掛けようとしていた。

 

 

「何だ沢村ぁ、俺達の活躍見に来ねぇのか?」

「自分は残ります。こんな時にこそやらなきゃ、いつまで経ってもそっちには行けねぇっスから!」

「ケッ、この薄情モンが。まぁ頑張れや」

 

倉持さんは、そう言いつつも少し機嫌が良さそうだった。

確かに沢村が今回言った事は一理ある気がする。コイツ、馬鹿なんだか天才なんだか、分かったモンじゃねぇな。

本気で努力を続けて花開くのが、大輪だったら良いけど。

 

 

「伊川!お前も一緒に練習しようぜ!」

「それも良いな、そうするわ」

 

俺は先輩の試合観戦よりも、友人とのコミュニケーションを選んだ。別に正直、青道の勝ち負けとかどうでも良いしな。

て言うか、俺と沢村って友人で良いよな?知り合い位に思われてたらマジで泣きたいんだけど。

始めて出来た、本当っぽい友達なのに。

 

 

 

 

 

 

「おい。丹波さん、エース降ろされたらしいぞ」

「マジかよ、まぁ試合負けたしな」

「夏まで三ヶ月切ってるんだぜ。丹波さんがエースじゃないなら、誰がなるんだ?」

 

食堂で噂が聞こえて来た時、俺は正直、沢村にとってはチャンスだなと思った。

知らない先輩達が調子を崩してくれれば、コイツのベンチ入りは十分射程圏内だ。

 

倉持さんの言う通り、俺達には残り二年半もある。

今年は別に、負けてもノーダメージみたいなモンだ。試合の経験を積めるって意味で、凄くラッキーな話だと思う。

 

俺もさっさとスタメン奪って、沢村の援護をしなきゃな。……って、別にコイツの為にそこまで頑張る義理は無いか。程々に頑張って、学費無料の義理を果たす位で良い筈なんだ。

 

 

 

 

 

 

恒例になった練習を早く切り上げようとしたら、沢村に反対された。

普通に考えて、重要な戦いの前は早めに寝た方が良いと思うけど……って、もしかして知らないのかもしれない。

 

「知ってるか?明後日、一年のチームと二・三年生で試合するらしいぜ。結果を出せばベンチ入りも見えてくるかもしれないし、今日と明日は無理しない方が良いだろうな」

「えっ、本当か??!……でも俺は、まだ練習するぜ!ここでライバル達に差を付けて、エースナンバーを手に入れてやりてぇからな!!」

 

真っ直ぐな視線を向けられて、諦めた。さらば睡眠時間。

 

 

「しゃーねぇな、俺もトコトン付き合ってやるよ」

「良いのか?!でも今回ばかりは、ムリに付き合わなくても良いぞ!」

 

沢村って、人の事を考えたり出来るんだな。感心した。

コイツ、最初に思ったよりもかなり良い奴だよな。

俺みたいな、駄目だと思っても嫌われたくなくて止められない奴とは大違いだ。

 

 

「別に!俺の実力ならベンチ入りは出来るだろうから、ここで最大限の力を発揮しなくても良いだけだよ!」

「ワーッハッハッハ!自信過剰だな!先輩達の強さを知らんのか?!」

「お前こそ、俺の打力を知らないだろ。一番のアピールポイントなんだけどな」

「え゙、キャッチングが売りじゃねぇのかよ!!」

 

沢村はいつも元気だな、何か力を貰える気がするわ。

まぁ、体力は確実に奪われてるんだけど。

 

 

 

 




御幸が居ないので、原作より早めに負けてます。
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