拗らせ男のパルデア旅 作:わーい
「──バンギラス戦闘不能!! リザードンの勝ち!! よって勝者、ダンデ選手!!」
ズシン、と。ダイマックスが解除され、バンギラスの巨体がバトルフィールドへと倒れ込む。審判の宣告通り既に戦う力は残されておらず、その瞳はとても弱々しく、こちらに向けて謝罪するかのような形で向けられていた。
対するリザードンは身体中に傷を負い正に満身創痍、だが、決して地面に倒れ伏すことはなく、自らが勝者であることを誇示するかのように雄叫びを上げる。
「……お前は悪くないさ」
悪いのは俺だ、と。そう呟き、バンギラスをボールに戻す。バンギラスも、いままで倒れていった他のポケモンたちも、預かり所で吉報を待つポケモンたちも。あいつらは、みんな強い。それこそ、目の前のリザードンに勝るとも劣らない程度には。
ポケモン勝負において、当然ポケモンの実力というのは勝敗を左右する大きな要因になる。伝説ポケモンを使う幼児とコイキングを使うチャンピオンが戦っても流石に前者が勝つように、隔絶した実力差があれば、そこにトレーナーの実力が介在する余地はない。
だが。ポケモン同士の実力が拮抗していれば、或いは多少差がある程度ならば。トレーナーの実力如何で勝敗がひっくり返すことは容易。要するに、俺のトレーナーとしての腕が奴に劣っていた。それだけの話なのだろう。
「いい勝負だったな、ライト!!」
一応。今回のジムチャレンジにおいて、俺とダンデは双璧的な扱い方をされていたらしい。方や街にたどり着きさえすれば一瞬のうちにジムを攻略して見せた天才、方や要所で苦戦しながらも戦術で道を切り開いてきた秀才。同年代、チャンピオンカップの前にも幾度かバトルを重ねてきた、というのも、このライバル的関係の人気に拍車をかけていた。結局のところ、俺はダンデに一勝もできていないというのに。
どれだけ彼の手持ちをピンポイントでメタっても、どれだけ奇策を仕込んでも、どれだけ──。
歓声が俺の身体を包み込む。グッドルーザー、なんて言葉もあるらしいが、結局負けは負けだ。6-0の完封負けだろうが、最後の一体まで粘ろうが、その事実は変わらない。
"よくやった"、"頑張った"と。項垂れる俺の背中を押すかのように、慰めるかのように、これまでの頑張りを肯定するかのように。観客から声援が投げかけられる。随分と皮肉なものだろう。彼らが俺の背を押すために送った応援の言葉は、鋭利な矢となり俺の背中をズタズタに傷つけているのだから。
「……ああ。ファイナルトーナメントも頑張れよ」
やり切った、と。充実した表情を浮かべるダンデに対し、そんな、心にも思っていないてきとうな言葉を返し。伸ばされる手にこちらも手を重ね、握り返し、そして視界が暗転する──。
☆
「……またこの夢か」
どれだけ未練がましいのだろうか。もう何年も前のことになるのに、いまだにあの時あの瞬間の光景が脳内から消え去らない。忘れよう忘れようと努めてはいるのだが、こればかりはどうしようもないのだろうか。
「ぶい?」
「あー、大丈夫だ。俺は大丈夫だからそんな顔するな」
「ぶい!」
「違えなお前、メシ食いたいだけかよ……」
ふと、壁にかかった時計を見てみれば。なんと時刻は12時、立派な昼時である。幸いにして今日は休日、この学園に教師として赴任したは良いものの今期は授業を一切受け持っていない。果たしてそれでいいのかどうかは知らん。が、校長から何も言われないうちはまぁ、このままサボっていても大丈夫なのだろう。
改めて自分の社会人適性の低さを認識しているうちに、イーブイの飯の準備が完了する。持った皿を前に出せば、凄まじい勢いで食らいつく。
保護したての頃は人間の用意した餌など食べてたまるかとばかりに抵抗されたものだが。随分と懐いてくれたものである。
「……やることねえな」
特段、やることがない。実質的に生活保護ニートみたいなものなのでまぁ当たり前なのだが、本当にやることがない。
とりあえず飯食うか、と。パジャマをその辺に脱ぎ散らかして、買ってきたヨーグルトを取り出し、スプーンと共に机に並べる。さて実食、と行こうとしたところに、チャイムが鳴り響く。
「やっほーライト先生!!」
「……教職員の部屋を私用で訪ねるな。何回も言ったと思うんだが」
「いやー、明日から宝探しだからさ! 暫く学校留守にするし、挨拶しとこうと思って」
「聞けよ。……ああ、もうそんな時期か。つってもお前、やることねえだろ」
「それがさー、聞いてよ!! 最近私の家の近くに女の子が引っ越してきたんだけどね、その子がもう才能アリアリでさ! 勿論本気のポケモンは使ってないけど、真面目にやったのに負けちゃった! しかもその子がここに入学するんだから、もう運命だよね!」
「……マジか」
ネモは、それはもう強い。流石に当時のダンデと比べればいくらか劣るが、それでもそこらの地方ならばチャンピオンに辿りつけるのではないか、というぐらいに。新設されたアローラリーグであれば或いは直ぐにでも──いや、あそこはチャンピオンが伝説持ちとかなんとか言ってたから難しいか。四天王は他と比べて弱いらしいが。
ともかく。いくら手を抜いているとはいえ、ポケモンをもらったばかりの素人が戦って、ネモ相手にまともなバトルの形に持っていくことすら中々難しいのだが。件の新入生は、どうやら彼女から勝利を収めてしまったらしい。
「先生、私がいなくても朝ちゃんと起きなきゃダメだよ?」
「うっせえ通い妻かよお前は」
「……えっと、私、先生のことは──」
「告白してないのに勝手に振るな。……はぁ、言われんでも起きる。これでも大人だぞ、俺」
本日の起床時間は12時。面白いぐらいに説得力がないな。
「あ、後、校長先生から伝言。この後校長室に来るように、だってさ」
「お、とうとうクビか?」
「そんな感じでもなかったけどね。なんかニコニコしてたし」
「校長が人にクビを言い渡すことに快感を覚えるサイコパスの可能性」
「いや、ない……よね? うん、ないと思うよ。トップならわかんないけど」
「オモダカさん……」
いや。決して、オモダカさんは悪い人ではないのだ。ちょっとこう、強引なところがあるというか、人使いが荒いというか、ふとした時に浮かべる笑みが胡散臭いというか──怪しい要素しかないな。
あの海藻みたいな髪の毛然り、服装然り、初見で悪の組織と間違えていた頃が懐かしい。色々荒れていた俺を拾ってくれた恩人であるから悪く言いたくはないが、とりあえずアオキさんの使い方だけなんとかしてあげてくれ。死ぬぞあの人。
「ま、了解。そんで、お前は宝探し中何するんだ?」
「アオイ──あ、新入生の名前ね。その子のジム挑戦を追いかけようかなぁって」
「ストーカーか」
南無、とでもいうべきだろうか。こいつにロックオンされるととにかくしつこい、バトルを断ろうものなら翌日、また翌日、そのまた翌日と応じるまで永遠に付き纏ってくる。
これでコイツに勝とうものならなお悲惨だ。今の俺みたく部屋にまで押しかけられるようになる。朝6時にバトルの誘いをしに部屋のドアを叩きにくるな。
「あ、そうだ。この前遊びに来た時、置きわすれたやつが……」
「あ、おい、勝手に入るな──手遅れか」
俺は、朝飯、というか起床直後にしかヨーグルトを食べない。成人男性なのである程度量を食べなければならない以上、ヨーグルトよりもてきとうなレトルトのほうが色々楽だからである。ネモは、その事実を知っている。
加えて、脱ぎ散らかされたパジャマ。基本は朝晩、イレギュラーがない限りこの時間帯に飯を食っていることはあり得ないイーブイ。状況証拠だけで有罪を突きつけるには十分である。
「うーん……とりあえずミモザ先生に言うね?」
「マジでやめてくれ本当に頼む」
「ええ……」
10代前半の少女に土下座する20越えの成人男性。当然、ネモから降り注ぐ視線はとても冷たいものであるのだが。どうしても。俺のプライドをデデンネに食わせてでも、守り抜かねばならないものが、そこにはあるのだ。
tips ライトはミモザを非常に恐れている