喫茶クレイへようこそ   作:あづま

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幕間:十楠ナエのクリスマス

「クリスマス限定販売のローストチキンでーす!

 いかがですかー!」

 

「タチカワ特製オードブルはいかが〜!

添加物いっぱいで腐らないよ〜!」

 

「ヤバげな美味しさのバイオレット・フライドチキン!

 1個118円だよ!」

 

「フレデリカじゃないセムラだよ〜!

美味しいよ〜!」

 

 今日はクリスマス。華やかな雰囲気に浮き足立った生徒たちが街を埋め尽くす。それを逃すまいとD.U.の街には沿道の店の店員が繰り出しては宣伝を繰り返している。ある店は通りに大きなショーケースを出してスイーツを売り、またある店は焼きたての香ばしい匂いを通りに漂わせながらメインディッシュを売る。

 

 そんな中、喫茶クレイはといえば表に掛かっている札は理外の"CLOSE"。クリスマスのパトロールに駆り出されたヴァルキューレ生が、店の前で唖然とした表情でがっくりと肩を落としている。その後何か思いついたかのように薄暗い店内を覗き込むも、そこに店主のナエの姿はない。今度こそ諦めたのかヴァルキューレ生はトボトボと表通りへ戻っていく。

 

 一方そのころ、ナエは表通りの一角に出店を出していた。店頭に並ぶのはイルミネーションを受けて生クリームが照り、イチゴが彩りを添える一般的なイチゴのホールケーキ。客寄せはエンジニア部から強奪拝借してきた雷ちゃんが担当している。

 

 ウタハ曰く、「雷ちゃんの旗を振っての応援機能のテストをしていた時にナエが来て、その様子を見たナエは目の色を変えたかと思うと有無を言わせずに雷ちゃんを誘拐していった」という。なお、本人は誘拐ではなくちょっと借りただけと釈明している。

 

 閑話休題。出店の前では「ホールケーキ500円」「美味しいよ」と書かれた旗を振りながら客寄せをする雷ちゃんの物珍しさに当てられて足を止める通行人も多い。ナエはいつものミレニアムの制服に緑のエプロンというスタイルに、申し訳程度にサンタ帽を被って接客をしている。やってくる客は店舗の方には来たことのない客も多いが、中には見慣れた顔もちらほらと見受けられた。

 


 

「あら、ナエじゃないの。」

 

「にはは! ナエちゃんこんばんは!」

 

「ユウカさんにコユキちゃん。よければお一つどうですか? 帰ってノアさんと一緒にクリスマスパーティでも」

 

「そうね。せっかくだから1個貰おうかしら」

 

「ありがとうございます」

 

「いいんですか? また太っちゃいますよ?」

 

「またとは失礼ね! カロリー計算はかんぺき~よ」

 

「そんなこと言ってこの前体重計の前で絶望したような顔してたじゃないですかぁ!」

 

 

 

「うあぁああああーーなんでーー!」

 


 

「すいません。よろしいですか?」

 

「おや、以前店の方に来ていただいた正義実現委員会の。おいくつになさいますか?」

 

「そうですね……それでは10個いただけますか?」

 

「はい、10個ですね。5000円になります」

 

「おい、ハスミ。まさかそれ全部食べる気か?」

 

「そんなまさか! これは委員会の皆で食べる分で、私が食べるのは1ホールだけです」

 

「・・・・・・そうか」

 

「毎度ありがとうございました」

 


 

「マスターちゃん、こんなとこに居たの? お店に居ないからどこかと思ったよ」

 

「おや、クリスマスにもパトロールお疲れ様です。今日もどこかから情報を得られたんですか?」

 

「そうだよー。だけどお店に居ないなら仕方ないよねー。また今度出直すからその時はよろしくねー」

 

「はい、お待ちしております。よろしければまたパトロール終わりにでも寄っていただければ、差し入れというわけではありませんがいくつか融通させていただきますよ」

 

「おやおやー、マスターちゃんも悪い子だねぇ。警察相手に堂々贈賄とは」

 

「ふふっ、お互い様ですよ。いつも危険物を見逃してくれている警官さん?」

 

「そう言われると弱いなぁ。それじゃあまたあとで来るねー」

 

「お待ちしております」

 


 

「クックックッ……クリスマスケーキですか。たまにはこういうのも良いかもしれませんね」

 

「1つで5人は分けるのが面倒くさくないだろうか? マエストロがうるさそうだが」

 

「マダムの分はいらないでしょう。4等分なら簡単ですし」

 

「そういうこった!」

 

「ありがとうございました……?」

 


 

「やぁ」

 

「ウタハさん!? うちの子は渡しませんよ!」

 

「いや雷ちゃんはうちの子なんだけど……。それはさておき、ケーキを1つ貰えないかなと思ってね」

 

「エンジニア部の皆でパーティですか?」

 

「あぁ、コトリやヒビキも根を詰めているから息抜きにと思ってね」

 

「なるほど。それでは500円になります」

 

「じゃあこれで。ところで雷ちゃんなんだが返してはくれな──」

 

「ありがとうございましたー!」

 


 

 夜が更けていくにつれて在庫はどんどんと掃けていく。人通りも随分とまばらになってきて、周りの店舗も閉店作業を進めている。ナエは余った在庫をやってきたヴァルキューレ生に持たせ、雷ちゃんをエンジニア部に泣く泣く返却すると店に戻る。店に帰り着いたころには時計の針は0時を回っていた。

 

 本当なら本日の営業は行わない予定だったが、出店である人の顔が見えなかったことから使った機材の整理をしながら来店を待つ。時計の長針が1周、また1周した頃、ナエはうとうとと舟を漕ぎ始める。そうこうしているうちに外はだんだんと白んできた。そして更にしばらく経った頃、控えめに扉が開けられチリン、と軽くベルが鳴る。

 

 その音に反応したナエは目を擦りながら入口に向き直る。そこには待っていた人物の姿。一度伸びをすると椅子から立ち上がりぺこりとお辞儀をする。

 


 

「いらっしゃいませ。お待ちしておりました、先生」

 

 大人はクリスマスも仕事漬け。朝から晩まで真っ白な書類の山に赤い判を押し続けて、色合いは実質イチゴのショートケーキでは?と思考がショートしたのは0時を回ったころだったか。そんなこんなで仕事を終わらせた頃にはもう外は白み始めていた。

 

 クリスマスで賑わっていた余韻はどこへやら、しんと静まり返ったD.U.の街を歩く。向かう先は喫茶クレイ。仕事終わりの一服をしようと向かえば、一眠りしていたのであろうナエが眠そうな目を擦りながら出迎えてくれた。

 

 ナエはそのまま前のカウンター席を指差して着席を促してくる。素直に従ってその席に座ると、ナエは注文を受ける前から何かを作り始めた。何を作っているのだろうか、と疑問に思いながらも調理をしている彼女の邪魔になるかもしれない、と思い大人しく待っていた。しばらくすると目の前にアイスクリームの入ったカップと、コーヒーの入った小さな容器が差し出される。

 

「どうぞ、アッフォガート・アル・カッフェ……いわゆるアフォガードです。本当ならクリスマスケーキでも、と思ったのですが仕事で疲れている先生に生クリームは重たいかと思いまして」

 

「今の状況で生クリームは確かにきつかったかも、気遣ってくれてありがとう。それで、これは普通にコーヒーをかけて食べればいいのかな?」

 

「えぇ、特に変わったものではないので普通にコーヒーをかけて食べていただければ」

 

 少し湯気の立ち上るコーヒーをアイスに回しかける。コーヒーに触れたアイスが少しばかりとろけて、真っ黒なコーヒーの海に薄っすらと白い線が混じっていく。

 

 しばらくその様子を眺めると、スプーンを手に取りアイスを少し掬い取る。表面はコーヒーに当たってとろけているが、中はまだ硬さが残るアイスを口に含む。冷たいアイスと温かいコーヒーの温度の対比が面白い。また、コーヒーは苦味が強いものになっていて、甘いアイスとの取り合わせが絶妙だ。

 

 しばらくその味わいを堪能すると、ふと疑問に思ったことをナエに訊く。

 

「ところで、入店した時『お待ちしておりました』って言ってたけどもしかして待っててくれたの?」

 

「えぇ、今日は表通りで出店を出していたんですが、先生の姿が見えなかったので仕事なのだろうと思いまして。シャーレに差し入れに行っても良かったのですが、仕事の邪魔になっても悪いのでこちらで待っていました」

 

「私が店に来ない可能性もあったよね? それなのにわざわざ?」

 

「うーん……まぁ、そこは女の勘ということで1つ」

 

 そう言うとナエは微笑む。本当に彼女は私が来るという確証も無い中で待っていたという。しかも普段のように店を開けながら、ではなく椅子で仮眠を取りながら。その事実が嬉しかった。この優しさが疲れた身体に染みていく。

 

 しばらくすると、またスプーンに手を伸ばす。時間が経ったからアイスは半分近くが溶けてコーヒーと一体になっていた。溶け残った場所と、溶けたアイスの混じったコーヒーを同時に掬って口に運ぶ。コーヒーの温度も下がっていて温度差は感じられなくなっているが、アイスが混じって強い苦味が少し抑えられてまろやかな口当たりになって新しい味わいが口中に広がる。

 

 新たな味わいを噛みしめながら、スプーンを何度も口に運んでいく。気が付いた頃にはカップの中身は空になっていた。

 

「ごちそうさま。いくらかな」

 

「お代は結構です。私からのささやかなクリスマスプレゼント、ということで」

 

「え、いいの? ありがと──」

 

「と、いうのは冗談で。実は本当のプレゼントはこちらになります。どうぞお受け取りください」

 

 そう言うとナエは奥から少し大きめのラッピングされた箱を持ってきた。これは……と聞くと、中身は秘密です、帰ってから開けてみてください、と軽やかに笑いながら言う。高価なものではないのでご安心ください、と言われ受け取らないわけにもいかないので、お礼を言い落さないようにそっと受け取る。

 

「遅ればせながらメリークリスマスです、先生」

 

 扉を開けて帰宅の途に就く私の背中にそう声が掛けられる。ありがとう、ともう一度お礼を言いつつ、プレゼントを抱えながらシャーレに帰る。執務室に戻ってからプレゼントを開けると、中には真新しいコーヒーマシンといくつかの豆、それにおススメの飲み方が書かれたメモが入っていた。

 

 早速眠る前におススメと書かれた飲み方を試そうと、コーヒーマシンに豆をセットする。スイッチを入れるとコーヒーマシンは実に軽快な音を立てながらコーヒーを淹れ始めた。




本当はクリスマスに間に合わせるつもりだったのですが、イブもクリスマスもしゅっしゃ~で全く書き進められなかったので大遅刻です。
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