スズランに転生しました……え、キヴォトスですか? 作:香月燈火
とりあえず導入部分です。我らが光は最高です。
ちなみにブルアカもアークナイツもリリース勢です。
「──ん……」
アルコールと、その他薬品が混じるような匂いに違和感を覚え、目が覚めた。
身体を起こすと、どうやらそこは見慣れた自分の部屋ではなく、まるで何処かの学校の保健室のような部屋のベッドにて寝かされていたようだ。
「ここは……?」
何処だろう、と続けようとしたところで、ふと、違和感を覚える。
果たして、自分の声はこんなに高かっただろうか。いや、それ以前に、身体の感覚も、何かよく分からないものがムズムズするような、とにかく変な感覚がさっきからずっと残っている。
よく分からない違和感に疑問を抱きながら、目線を下に落として……。
「はい?」
白い入院着の上に置かれている、自分のものにしてはやけに小さく幼い手に、目を点にする。手を少し動かしてみる……やはり見間違いなどではなく、この小さくて可愛らしい、いかにも女の子のものとしか思えない手は、自分の手であったようだ。
「もしかして……!」
恐る恐る、下腹部のとある部分へと手を伸ばす。
結論から言うと、それはなくなっていた。やはり自分が想像していた通り、成人男性であったはずの俺は、恐らくまだ年若いだろう女の子の姿へと変化してしまっているらしい。
それだけではない。他の差異も一通り確認してみたところ、なんと、俺の腰の辺りから、狐のような尻尾が生えていたのである。しかも、9本もである。おかげで、背中の後ろは窮屈なことこの上ない。
そして、丁度備え付けてあった鏡を見て、自らが成り代わってしまった存在を理解してしまった。
まだ幼いながらも、将来は間違いなく美人になること間違いなしの、可愛らしい顔立ち。後ろ髪を編み込んでおり、前髪の一部だけが毛先まで白くなっている、黄金色の髪。何よりも特徴的なのが、やはり狐のものと思しき大きな耳に、左肩部から生えている、結晶のような何か。
「スズラン……?」
酷く困惑した様子で、鏡に映る自身を眺める狐の少女。
アークナイツというゲームでは非常に高い人気を誇る我らが光。そんな彼女に、俺は成り代わってしまったようだ。
「ということは……ここは、ロドス?」
改めて自分が置かれている現状を理解して、愕然とする。
もしここがロドスだったのなら、少し前まで日本で平和を享受していたただの一般人にまともに生き抜けるとは思えない。
というか、そもそも今の俺にアーツって使えるんだろうか。 スズランって、どんな攻撃するんだっけか……ゲームシステムがタワーティフェンスものだというのもあって、正直アニメに出てないキャラの戦い方については不鮮明な所が多いんだよな。
いっそ、ここで試してみるか? なんて考えていると、扉の方から2回、ノックの音が聴こえてきた。
「入りますよ」
「あ、はい」
声を聴くに、どうやら女の人らしい。急な来訪につい声が上擦ってしまったが、変に思われないだろうか。
なんて思っていると、入ってきた人物を見て、再度硬直する。
「起きていたんですね。意識ははっきりしているようで、なによりです。貴女を見つけた時は、かなり怪我が酷い状態でしたから」
感情に乏しい表情に、青と白の制服。ショートで切り揃えられた白髪からは二対の角が伸びており、何より特徴的なのは、頭上に浮いている輪っかのような何か。
何処からどう見ても氷室セナやんけ!?
ロドスじゃなくてキヴォトス!? なんで!?
「あの……大丈夫ですか? 先程から、反応がありませんが」
「 ご、ごめんなさい! 少し、ぼうっとしていたみたいで……!」
ずっと黙りっぱなしだったせいで、不審がられてしまった。
「そうですか……まだ疲れているのでしたら、後でお話を聞かせていただいても問題はありませんよ?」
「いえ、大丈夫です。私も、今の状況を少しでも把握しておきたいんです」
実際は疲れているとかじゃなく、単にあまりにも理解出来ない状況の連続にただ頭がパンクしているだけなのだが、そんなことをセナが知る由もない。
それに、俺が言っていることは本心でもある。俺の今の身体にはヘイローがなかったのを考えると、スズラン、ひいては今の俺が外の世界からキヴォトスにやってきたのはほぼほぼ確定とみていいだろう。
ただ、それなら何故スズランの姿で俺はここに飛ばされたのか、この身体に前の意識……つまり、スズラン本人の意識は存在していたのか。
何より、セナが言っていた、傷だらけだった理由は明確にしておきたい。その為にも、ひとまず今の状況を理解しておくべきではないだろうか。
というか、ナチュラルに喋り方がスズランっぽい女の子口調に出来ているのは、今の身体にでも引っ張られているからなのか?
「そうですか……本当は、私としてはした、患者にあまり無理をさせたくはないのですが、今回は貴女の意志を尊重することにしましょう。とはいえ、あまり長い質問を行う予定はありませんので、あまり気を張らなくても良いですよ」
やはり、セナってゲヘナの割にはまともな性格だよなぁとつくづく思う。ちょいちょい物騒な言い間違いはするし、ちょっと強引な所はあるけれど、ゲヘナの中ではもはや絶滅危惧種と言ってもいいレベルの常識人枠ではあるので、助けられたのが彼女で良かったとつくづく思う。
「ありがとうございます。でも正直、私もあまりよく分かってなくて……」
「問題ありません。分かることだけを話して戴ければ結構です。では──」
それから何処に住んでいるのか、学園には通っていないのか、何故怪我をしていたのか、何故ヘイローを持っていないか、などの、本当に簡単な質問の応酬が続く。
とは言ってもやっぱり答えられることはほとんどなく、唯一まともに答えを返すことが出来たのは名前と出身地くらいしかなかったので、結局お互い分かったことは無いに等しいのだが。
おおよそ数十分、現状のすり合わせと、ついでにキヴォトスがどういう場所なのかの説明を聞かされる。どうやらセナは現在2年生らしく、時系列的にはまだブルアカの本編が始まる1年ほど前であることが分かったのは収穫だった。
テラほどではないとはいえ、キヴォトスだって美少女版GTAなんて言われるくらい治安の悪い世界観だから、こんな俺がまともに生きていけるのかは正直かなり心配ではある。
テラの種族も、キヴォトス人と負けず劣らず身体能力や耐久能力は高いからなんとかやっていけるとは思いたいものの、テラだと銃ってかなり珍しい武器だからなぁ……。
「それにしても、キヴォトスの外からやってきたとは……道理で、ヘイローがないわけです。ですが、スズランさんはこれからどうするつもりで?」
「そう、ですね……」
正直、何も決めていない。いや、選択肢がないというのが正しいか。
そもそも、俺はこの世界では本来存在しないはずの人間であり、シャーレの先生のように招かれた訳でもないため、身分というものを持っていない。
この世界での一般的かつ代表的な身分と言えば、何処かの学園に所属することによって得られる学籍ではないだろうか。学籍さえあれば口座を新規開設したり、スマホの契約であったり、あとは働くことも可能なんだろうけど、あいにく俺は学園に所属しているわけではない。どうやったら戸籍を取ることが出来るのかも分からないし……。
「セナ、入るわよ」
と、そこにまたも来訪者が。しかもこの声は……。
「ヒナ? 何故ここに?」
「例の、所属不明の子に用があって。それで、貴女が……?」
思っていた通り、やってきたのはゲヘナの風紀委員長、空崎ヒナだった。いや、まだ2年生のはずだから委員長ではないのか。そのせいか、まだ原作ほど疲れているようには見えず、目の下に隈も見当たらない。
そんな、未来の重要キャラが何故俺に? と戦々恐々としていると、ヒナは俺と目を合わせるなり無言でじっと目を合わせてきた。
……えっ、何これ怖。
「あ、あの?」
「……! 失礼。多分貴女のことだと思うけど、用事があってきたの」
ヒナから用事? 正直なところ、心当たりはない。
一度セナの方を見るが、顔を見る限り彼女にも心当たりはなさそうだ。
「聞いてないのですが?」
「それは、そうでしょうね。私だって、ついさっき
そういうヒナの表情は、まさに面倒だったとばかりに辟易といった様子をありありと表している。
改めて、ヒナは俺と顔を合わせて真剣な表情に戻ると。
「どうやら、連邦生徒会が貴女を気にしているみたい。だから、一緒にサンクトゥムタワーまで着いてきてもらえる?」
──面倒事は続くものらしい、なんて、内心溜め息を吐きながらそう思うのだった。
次回、実は時間飛ぶ。