市津菜月は、奥沢美咲に対して、こういう言葉を投げ掛ける。
「美咲さん」
「どーかしたの?菜月?」
「笑顔の意味を教えてください」
「はぁ?」
「あれだけ、こころやこころに笑え、笑えで、
本当にうるさいのです」
「それでか…うーん。でも、こころやはぐみは、
間違った使い方をしていないと思っている」
「そうですか」
「変な意味で変な時に使ったら、誰かを傷つける可能性もある」
「思っていた通りだ…」
「菜月は、どう思っているの?」
「笑って誰かが傷つける傾向を、どこかで見たことがあって」
「えっ?」
「笑って、笑顔になって、それも何も考えず。
或いは逆撫でして。嫌気を感じたことが何度もあった。
人の事を何も考えずに、これだから…」
「こころやはぐみのことを言っているの?」
「いえ、昔、会っていた人が、そういう人で、それを思い出したから。
それも、4人いた」
「4人!?」
「喋り過ぎた」
「…わかった。無理に言わなくてもいいからね…」
「…ありがとう」
「菜月の口から、その言葉が出るなんて、珍しいな…」
「お前。からかっているのか?」
「あーごめん。ごめん…」
「私は、どこで間違えた?」
「えっ?ひょっとして、悩んでいるとか?」
「いくら、悩んでも解決は出来ない。
答えを探すだけだ。解決しがたい時もあるが」
「意外と行動派…!」
「こころやはぐみに影響を受け過ぎたか」
「アハハ…あの二人と、薫さんもだけど、
あの三人はね…うん」
「こころやはぐみに、同じことを言ったら、
伝えたら、承知しない」
「わかった。今の事は絶対に言わないから」
菜月は若干、笑った。
(今、菜月、一瞬、笑った…?)
どういう訳か、菜月は花音に出会う。
「菜月ちゃん。どうかしたの?」
「笑顔の意味を教えてください」
「えっ?うーん、そうだね…」
と、花音が考え込む。
「菜月ちゃんは、何をした時に笑う?」
「考えたことはありませんし、感じたこともありません」
「私はね、千聖ちゃんと一緒に暮らしているけど、
その時が一番幸せ。私は千聖ちゃんとケッコンする約束をしているの」
「はぁ?」
と、菜月は唖然する。
「菜月ちゃんも、誰かといて、笑える人がいると思う。
美咲ちゃんとか!」
「美咲…まさかな…」
「美咲ちゃんが聞いたら、泣いちゃうよ?」
「美咲…笑顔…じゃあ、私は一体…」
「すぐには、答えは出てこないし、解決は出来ないから、
菜月ちゃんも、そこまで深く考えなくても、
いいんじゃないかな?」
「そうか…まさかな…」
「ごめんね…何か変なこと言っちゃって…」
「私も十分に変だと感じました…」
「菜月ちゃんは変じゃない」
「それなら、良いが…」
菜月は、その場を立ち去った。
結局、笑顔の意味は分からず仕舞いである。