【完結】特撮ヒーローのライバル系カイジン、異世界に転生す。 作:ふくつのこころ
リリアーヌにとっての懸念は、アーサーは果たして上手くやれているのかということだった。
エーデルワイスの元で魔法を学ぶようになり、その才能を開花させたのは幼馴染一人に重荷を背負わせてはならないというリリアーヌの思いだった。
一年経つことなく、属性の掛け合わせを習得できたのは、リリアーヌにとっては僥倖だったものの、心配があった。
「おや、二人が帰ってきたね」
中庭でエーデルワイスとのマンツーマンの修行中、魔法が使われたのを感じたエーデルワイスは嬉しそうに魔力を感知し、その発生源へと向かう。
帰ってきたのは、幼馴染とあのいけすかない姉弟子の二人だろう。
エーデルワイスを追い抜くくらいの勢いで彼の元へと駆けつける。
「おかえり、アーサー。その女、お前に何が失礼なことをしていないか?」
たっだいまー、なんて能天気に笑っている
着ている服は泥だらけ、ところどころに擦り傷や切り傷がよく目立つ。
エヴァーレインはアーサーをボロクソに言っている女、何かされたのではないかと勘繰ってしまう。
「ただいま、リリアーヌ。僕さ、新しいものを作れたんだ!リリアーヌみたいに上手く魔法は掛け合わせらんないんだけど、変身して、デッドビートの力を併せて、新しい魔法をさ」
「……本当、頑張り屋なんだから」
不意に抱きしめられたアーサーは、課外実習の成果を幼馴染にそういえば!と楽しげに報告する。
リリアーヌはあまり見たくなかったが、エヴァーレインを一瞥する。
エヴァーレインはアーサーより怪我が少なく、アーサーを囮にしたりしたのでは、という疑念が頭をよぎる。
こんな女のために頑張らなくてもいいのに、となりながらも、リリアーヌは静かにアーサーの話に耳を傾けた。
「さて、お待ちかねの採点の時間だよ。きちんと成果は出せたかい?エヴァーレイン、アーサー」
幼馴染二人の抱擁し合う光景を露骨に嫌そうな視線を送りつつ、年下のアーサーの道着の裾を小さく引っ張っているエヴァーレインに気づき、エーデルワイスは小さく笑った。
「そりゃあ、あたしがついてるからね。当たり前じゃない、先生?ヘンテコスライムとおとーとくんのコンビも、まあまあって感じだったわよ」
「へえ、イヴがそこまでいうなんてね。アーサーもよく頑張ってたんじゃないかい?イヴときたら、だいたい、ボロクソにいうだけ言ってフォローがないからね。やめていっちゃう子も多いんだよ」
「それは、先生の仕事じゃないの?」
あっけらかんと目を丸くする、エーデルワイス。
表情が少ない魔女が目をまあるく見開くと、人間らしさを感じられない雰囲気を放っており、どことなく、鳥類を思わせた。
「私の仕事は、そんなんじゃないよ?魔法を使うこと、魔法を教えること。なんなら、魔法の研究が本職まであるからね。生徒の喧嘩の仲裁だなんて、時間の無駄だよ」
なんて事をいう始末だった。
リリアーヌはアーサーから離れ、一刻も早く、ナーロウ邸に帰ることが選択肢として脳裏によぎるが、エヴァーレインとこうして帰ってきたアーサーの努力を無駄にしたくないという気持ちもある。
エヴァーレインが戦利品と言える品、瓶、腰布、枝らしいもの、さらにドラゴンの鱗を地面に並べ始めると、先ほどまで猛禽類の瞳から一転したエーデルワイスは吟味し始めた。
リリアーヌはもうアーサーから離れていたが、どうも、魔女は切り替えも早いようだ。
「じゃあ、君たちが取ってきてくれたのは、アシッドトードの酸の唾液、杖の材料になる妖精の住まう木から材料を得ること、獣人から腰布を得る、ドラゴンの鱗でいいんだね?信頼はしているけど、成果のでっちあげは私は許さないよ」
「そこはあたしもアーサーに見られていたし、アーサーもあたしがそんな真似したら、どうこう言うわよ。特にそこのスライム、そいつもうるさいだろうしね」
「いちいち、スライムを強調するな」
信頼して欲しいわね、とわざとらしく、拗ねた様子を見せるエヴァーレインからの振りにデッドビートは身体をぷるぷる、震わせて不満を伝える。
「アーサーも、でっちあげはないと言えるかな?」
「僕は魔法を学びに来たんです、先生。そんなこと、できませんよ。成果のでっちあげなんて」
「そう言うことならいいんだよ。昔、いたからね。そういうさ、成果をでっち上げるような馬鹿」
どうなったと思う、と想像させる余地を弟子の三人に与えることなく、エーデルワイスは確認して行った。
「全部あるね、リストにあったものは。私としては、どれか一つを達成できたら良かったんだけど」
エーデルワイスがドラゴンの鱗をつまみながら、不思議なものを見るのが半分、期待を超えてきたことに対する喜びがもう半分あった。
エヴァーレインは、ほら見なさいとばかりにアーサーを一瞥すると、リリアーヌに睨まれたので、ニヤニヤしながら視線を戻した。
「正直、これでイヴは合格なんだよね」
「お、じゃあ!?もしかして!」
「イヴはこれで修行は終わりでいいかもね。おつかれさま」
「っし!!これで、敷地以外でも魔法使える!」
「これ、免許皆伝のやつね。おめでとう、エヴァーレイン」
聞きなれない言葉と共にエーデルワイスが何かを呟くと、木材は杖らしいものへ変わった。
それをエーデルワイスがエヴァーレインに手渡した。
その形は手のひらに収まる、魔法の杖というべき代物である。
「魔法の杖なしで魔法を使わせたのは、制御を覚えてほしかったからだ。魔法はイメージで使うものだからね、一度でも経験していれば、あとはどうにでもなる。媒介があると、そっちに甘えがちだからさ。魔法使いは隊を組んで討伐なんてのもあるらしいし、アーサーと組んでもらったのを卒業試験にした。
改めてだけれど、イヴは卒業おめでとう」
「ちょ、ちょっと待ってください!!エーデルワイス先生!」
じゃあ、行ってくるわ、といつのまにか、魔法で身綺麗な格好をしてエヴァーレインは飛び出して行った。
貴重な館を離れてのアーサーの修行、それをいけ好かない女の卒業試験に使われたリリアーヌは納得がいかない。
「おや、どうかしたかい?」
「アーサーには何にもないんですか?」
「あ、じゃあ、アーサー。何か私に聞きたいこととかあるかい?」
「ちょっと休みたいので、食事摂りたいです。エヴァーレインは、あのまま飛び出したけど、僕、お腹空いたの……で」
言葉を言い終わる前にアーサーの瞼は重たくなり、意識を失ってしまった。
意識を失う前、アーサーを呼びかけるデッドビートとリリアーヌの心配そうな様子が見えた。
「おや、気づいたかい?」
意識を取り戻すと、ベッドの隣の椅子にエーデルワイスが座っていた。
ケープのついたローブを身につけ、編み上げブーツを履いて足を組んでいる。
目を覚ました弟子にため息をついた後、デッドビートは掛け布団にプルプルと乗り上げてきた。
「リリアーヌがあのあと、怒ってな。エーデルワイスがアーサーを労らない、と。いま、リリアーヌは食事をさせて、休ませてる。」
「そっか。リリアーヌにも、あとで言葉かけとかなきゃ。……先生、修行の期間は決まってたりするんですか?」
デッドビートに礼を言ったあと、アーサーはエーデルワイスに尋ねる。
エーデルワイスは首を振り、不思議そうな様子で魔法でナイフが勝手にリンゴの皮剥きをする様を眺めている。
「特に決めてないよ。というか、イヴは長かったからなぁ。そろそろかなと思っただけさ。少なくとも、数年は詰め込むことはあるからね」
カリキュラムを思い出すように、エーデルワイスは指折り数えつつ、楽しげに笑った。
まわりの女がヤバすぎる