【完結】特撮ヒーローのライバル系カイジン、異世界に転生す。 作:ふくつのこころ
魔女エーデルワイスの下でアーサーとリリアーヌの修行生活が始まった。
まだ日も昇らない早朝に目を覚まし、魔力制御を覚えるためにエーデルワイスの館の敷地内にある川の水面を歩く修行の後に朝食を摂る。
その後に座学と実習を行い、昼食を摂った後に再開し、今度は体術の組み手を行う。
これにはエーデルワイスの狙いがあり、魔力切れがなによりも絶体絶命の危機である魔法使いや魔女の最後の手段と言える体術を奥の手とすることを目指したのだという。
そのため、最初の一週間はエーデルワイスの重要視している座学と基礎の体術でほとんどを占めていた。
一日の終わり、復習と称したひととき。
この日は初めて魔法を使う日で理論と体術だけの一週間から一転し、アーサーとリリアーヌの待ちかねた日だった。
「燃焼のバニシエール!火を出でよ!!」
中庭で標的としてエーデルワイスが用意した、木人形にリリアーヌが魔法を詠唱すると、開いた左掌から赤い魔法陣が展開されて火球が飛び出し、木人形を燃やし尽くす。
「手を開くことで放出するイメージに繋げたんだね、リリアーヌ。君はとてもセンスがいいと思うよ」
「はい、先生!」
リリアーヌとアーサーの中で特に目覚ましい成長を遂げていたのは、リリアーヌの方だった。
エーデルワイスはリリアーヌの魔法行使の才能を特に感じ取っていた。
勇者の血統によるものなのか、それとも、リリアーヌ自身のものなのか。
勇者には勇者だけが使える
教えればすぐに吸収する、スポンジのようなリリアーヌの才能は指導を行う者にとっては好ましいと言えるだろう。
「燃焼のバニシエール!火を出でよ!!」
アーサーもリリアーヌに倣い、魔法を唱える。
だが、リリアーヌのように魔法陣が出現するものの、ポッポッと音を立てて湯気が上がったかと思えば、火球は暴発し、アーサーの魔力を放出した右手が燃え上がる。
「わ、わぁぁぁ!?」
「ア、アーサー!?」
「リリアーヌ、近寄ってはいけない」
「癒しのエーリアス!!右手を癒せ」
アーサーが動揺すると、すぐに駆け寄ろうとするリリアーヌを制し、エーデルワイスが魔法を唱える。
エーデルワイスが唱えたのは、新弟子たちに唱えさせた炎の呪文とは別系統、ミズの呪文だった。
アーサーの燃え上がった手は消化され、火傷を残さずに治療を完了する。
「今のは君たちに唱えてもらった炎の呪文とは違う、水の呪文だよ。復習してみようか、魔法の基礎は用途を表す二つの言葉プラス、精霊の名前と結果、または目的を欠かさないこと。あと大切なのはイメージかな、アーサーは何かイメージはしたのか?」
尻もちをついてしまったアーサーの前にエーデルワイスはしゃがみ込むと、真っ直ぐ見つめる。
「……すぐにはでてこなかったです」
「簡単なものでもいい、魔法はイメージの力だ。上手くイメージできないと、先ほどの君のように暴発が起きてしまうからね。リリアーヌは何をイメージしたのかあるかな?」
アーサーが眉尻を下げながら落ち込むと、エーデルワイスはため息をついた。
魔法が上達するためには、想像力が必要となる。
同じ結果に至るまでにも、イメージ次第では、同じ魔法でも凄まじい力を発揮することとなる。
逆にいかに膨大な魔力を持っていたとしても、イメージすることができなければ、魔法をロクに扱うことができないのだ。
「火と言えば、明かり。明かりをイメージしました。火球を飛ばすのは、たいまつを振り回すようなイメージで」
「たいまつを振り回す?独特な発想だね。でも、明かりと言うのは良い感じだよ、それなら、イメージもしやすいし、土壇場で慌てることがない。大きなものを考えよう、とするよりは身近にあるものを最初にイメージするようになったほうがいいんじゃないかな?出力が大きいものをイメージすると、いかに魔法使いと魔女とはいえ、すぐに出涸らしになってしまうからね。……アーサーの課題はそのイメージだ。それができるまでは、先に進ませるわけにはいかない。よく考えて。リリアーヌは先に行こう」
リリアーヌの返答にエーデルワイスは変わってるな、と真顔で頷きつつも、及第点だと付け足した。
「先は、やらせてもらえないんですか?」
「基礎ができてないからね。逆に基礎ができれば、あとはすぐだ」
とりあえず、今日はこれで終わり。
エーデルワイスが手を叩くと、リリアーヌとアーサーはその後をついていった。
リリアーヌはアーサーに何か言葉をかけようと思ったが、うまく言葉が見つからなかった。
いまのアーサーに言葉をかけようにも、どんどん先へと進んでいる自分から声をかけられることはきっとアーサーを傷つけてしまうことだろう。
静かに修行風景を眺めていた、髑髏面つきのスライムの姿をしているデッドビートにリリアーヌは近づいた。
「小娘」
「スラリン、頼みがあるの」
「オレがか?」
「アーサーのこと、気にかけてあげて欲しくて。部屋、アーサーと同じだし」
リリアーヌは気まずそうにデッドビートに頼み込んだ。
リリアーヌの様子はデッドビートには懐かしい光景だった。
かつて、デッドビートが所属していた組織でも、このようなことがあったし、デッドビートの永遠のライバルであったグレイトマンの仲間からもデッドビートからグレイトマンに声をかけてほしいと頼まれたことがあった。
「……考えておいてやる」
「ありがとう、スラリン」
「リリアーヌ、スライム。何をしている?」
「すぐ行きます!」
「オレを抱えるな、小娘!」
とぼとぼ下を向いているアーサー、先を行くエーデルワイスがリリアーヌとデッドビートを呼ぶと、リリアーヌはデッドビートを抱えて後を追いかけた。
抱えられているデッドビートは少々怒鳴っていたが。
その後、アーサーとリリアーヌの間には段々と差が生まれていった。
アーサーは座学は問題なくこなすことができていたが、問題は魔法の実演の方だった。
魔力制御も上手くできないために水面に落ち、魔法も上手くできない。
それでも、アーサーは何度もイメージに挑戦した。
エーデルワイスはリリアーヌと合同で修行を挿せず、アーサー一人で魔法のイメージを掴む修行をさせた。
時折、エーデルワイスが訪れる以外はアーサーの様子を眺めているデッドビートと二人きりだった。
「魔法を使ってみるのって、こんなに難しかったのかなぁ」
時は経ち、既に二か月が経とうとしていた。
エーデルワイスもリリアーヌと対照的に進歩しないアーサーがいつ音を上げるのかと見守るだけで直接、才能がないとは決して言いに来なかった。
アーサー自身が希望し、エーデルワイスの一門の門戸を叩いてやってきたのだから。
炎を暴発させてしまい、アーサーは標的以外の材木を燃やしてしまったことで中庭にある井戸から水を汲み、すぐに消化した。
デッドビートから見ても、この要領の悪いアーサーには魔法の才能が見られず、運命共同体とするには“ハズレ”ではないかと脳裏によぎり始めていた。
「お前、才能がないんじゃないのか?」
「それ、いわないでほしいな」
「あの魔女も口にしないだけでそう思ってるだろ。多分だがな」
アーサーが掌に意識を集中させ、放出させるまでの一連の動作をデッドビートは見飽きたとばかりにため息をつくと、アーサーの魔力の放出が手首への固い刺激で止められる。
「アンタ、才能ないなら、とっとと帰ったら?先生と幼馴染のあの子の迷惑だっての」
アーサーが声をしたほうに視線を向けると、棍を手首の動きだけで回転させる長髪の少女がいる。
年の方はアーサーとリリアーヌより数個上と言ったところで、リリアーヌと同じくらいの美少女だ。
赤い胴着を着用しており、とても気分が悪いとばかりに眉を顰めている。
「アンタの
見下すような笑みを浮かべる、その少女はエーデルワイスをして性格が悪いと言われた姉弟子のイヴであった。
姉弟子のイメージはアーサー・ペンシルゴンです。