ミカサがエレンに駆け寄って抱きしめている間、俺は密かに輪を抜け出して行動し始めていた。
俺がやらなきゃいけないことはエレンが生きていたことをみんなで喜ぶことじゃない…エレンに向けられる榴弾をどう処理するか考えることだ。別に俺が手を出さなくても物語は上手く進むが、これはまたとない曇らせチャンスである。
(キッツに刃を向けたら、どうなるんだろう!?俺は反逆者認定されて、殺されそうになるはずだ。あの子鹿のことだ。誰だろうと構わず声を張り上げるに決まってる。それを見たらミカサはどんな顔をするんだろうか!?他に考えつく良い方法としては、途中まで手を出さずに、榴弾が発射された直後に俺が屋根から飛び出して榴弾を切る。そしたら俺はみんなの目の前で爆発に巻き込まれる。俺の事を、エレンたちを守るために犠牲になった、そんな風に周りは考える。そして、ミカサはきっとこう思う。私は……守られてばっかだ…。……まじでいいな!!でも2番目の案はなしだな。この怪我でそれをするとなるとほぼ100で死んじまう。まだ死ぬには早い。ここは1番目で行くか。しかし、念には念を入れてだ。エレンに向かって撃つ大砲は把握している。もし撃ったとしてもあの大砲が暴発するよう適当になにか詰めとくか。)
周りのことは良く見えてるくせに、自分の命を顧みず、そして調査兵団以外には容赦のない(暴発したら近くで撃った隊員は怪我をするだろう)おぞましい案を平気で実行しようとするセイであった。
セイが居ないことに気づいたミカサたちも、とりあえずエレンを運ぶことにした。しかしエレンが巨人から出てきたところを大勢の団員が見ていたせいですぐにキッツに見つかる。
「イェーガー訓練兵、並びに同アッカーマン、アルレルト!今貴様らがやっている行為は反逆行為だ!貴様らの命の処遇を問わせてもらう!!下手に誤魔化そうとしたりそこから動こうとした場合は、直ちに榴弾をぶち込む!躊躇うつもりは、ない!!」
エレンはやはり巨人になっていた時の記憶が無いのか、キッツの言っていることに疑問符を浮かべていた。
そしてミカサやアルミンも一点を見つめて、絶望したような顔をしている。
それもそうだ。
なんせ俺は、キッツ率いる、エレン包囲部隊に紛れ込んでるのだからな!!!
そして俺のいる位置は、やつに手がすぐ届きそうなやつの真下である。だから当然ミカサやアルミンの見る方向にはキッツがおり、絶望を顔に浮かべてもキッツに対するものとして捉えられるが故、何ら違和感はなかったのである。
唯一の懸念点はあのバカ、エレンだ。アルミンやミカサは、俺が裏切らないことを信じているし、頭もいい。何らかの策があるのだろう、と触れないでいてくれるだろうが、あいつは違う。直情的なあいつは俺を見たら声を荒らげるかもしれん。そこに関しては完全な賭けであった。
「おい!セ―」
「(エレン!今セイの名前を口に出すな!…セイにはきっと作戦があるんだ!僕たちにできるのは、セイを信じることだけだ!」
アルミンの口の動きでそう言ってるのがわかった。
「率直に問う!貴様の正体はなんだ!!人か!?巨人か!?」
俺は周囲に便乗してエレンを化け物を見るような目で見つめてやる。身長からかってきた罰だ!!
「質問の意味が、わかりません!!」
「しらを切る気か……化け物め!もう一度やってみろ!貴様を粉々にしてやる!正体を現す暇など与えん!一瞬だ!」
「大勢のものが見たんだ!お前が、、巨人の体内から姿を現す瞬間をな!我々人類はお前のような得体の知れないものをウォールローゼ内に侵入させてしまっているのだ!たとえ貴様らが王よりさずけられし訓練兵の1部であっても、リスクの早期排除は妥当だ!私は間違っていない!今にもあの鎧の巨人が姿を現すかもしれない。今、我々は、人類存亡の危機の現場にいるのだ!わかったか!これ以上貴様相手に兵力も時間も割く訳にはいかんのだ!」
ぶっちゃけ、キッツの言ってることも間違っちゃいない。俺はこいつが嫌いで無能だと思っているが、もし人の言葉に耳を貸すような男であったなら有能であると認識を改めていただろう
エレンを殺せ!そんな化け物を生かしてはおけない!!そんな声が俺たちの中から聞こえてくる。
「私の特技は!!……肉を削ぎ落とすことです…。必要に迫られればいつでも披露します…。私の特技を体験したい方がいれば、どうぞ1番先に近づいてきてください…」
「なら俺が、その特技とやらを体験してみようかね。」
そう言って俺はみんなの注目を集めながら1歩だけ前に足を踏み出す。
「どうして…あなたがそちら側にいるの?…私たちを見捨てるの?」
俺は心が痛むが(嘘である)ミカサたちの敵であるかのようにひと芝居打つ。ここでキッツには対立していると思われた方が後々動きやすいからな。
「ん?いーや俺は見捨ててなんていない。だって、はなからそっち側にはついてねぇんだからよ。……俺はウォールマリアで、あの日、巨人を駆逐することを誓った。それがどうだ??…俺が復讐したい存在である巨人は……ずっと昔から俺の隣にいたんだぞ!!!!」
「ッ……………でも!エレンは―」
「どんな事情があろうと巨人は巨人だ。今、巨人であるという事実は変わらないんだよ!!!」
ミカサの顔は今にも泣き出しそうなほどぐちゃぐちゃだった。そこに俺は畳み掛ける!(ゲス野郎め)
「俺は規律に従ってエレンを殺さなきゃいけない。だからそこをどけミカサ!」
「……それは…セイの頼みでも…聞くことができない!でも私は―」
「キッツ隊長!エレンは規律のために殺さなくてはいけない。この私の考えは間違っているでしょうか!?」
「…いや、その通りだ!こいつは規律を乱す存在であるが故に今ここで殺さなくてはならない!……ところでお前は何者だ!私の班にお前みたいなやつは知らんぞ!」
「ハッ!訓練兵団28班班長、セイです!リコ・ブレツェンスカ班長殿に一時的にこの部隊に加われとの命を承っております!」
「それは本当かリコ!?」
「ハッ!本当であります!先程の防衛戦における彼の活躍は巨人討伐数43と目を見張るものでした!その彼がいたならば100人力、いやそれどころか1000人力でしょう!」
「おいっマジかよ!あいつバケモンか?」「訓練兵で43!?リヴァイ兵長でも訓練兵のときだったら出来ないんじゃないのかしら…」
そう、俺は裏工作としてリコに申し出ていたのである。実績を提示して、俺はエレンが許せない、どうか包囲作戦に加えて貰えないかと。この作戦は上手くいって今に至る。
俺が度々規律という言葉を強調するのはなぜか。そう、キッツ自身が言っていた敵前逃亡は死罪だ!を実際にあいつに適用してやろうと思っているのである。そんなに規律が大事ならお前も規律を守らないといけないよな^^
「では、エレンを殺す前にもうひとつ確認しておきたいことがあるのですが、よろしいでしょうか!」
「なんだ!言ってみろ!」
「キッツ隊長は、私たちが巨人と戦っている際、どこにいらっしゃったのですか!?実際に見ていないのであれば後ほど詳細を報告しようと思いまして、」
「ッ、それはっ…私は部隊を再編成するために内部に戻っていたのである!これは立派な隊長の仕事である!」
「では!キッツ隊長も規律を破っている、そう認識されかねないと存じ上げます!」
「どういうことだ!!私が規律を破っているだと!?」
「キッツ隊長は補給部隊の前でこう仰ったはずです。「敵前逃亡は死罪である!」と。キッツ隊長の内部へ戻るという行為は、街に侵入してきた巨人という敵に対しての敵前逃亡と見なすことが出来てしまいます!!ましてや隊長のことを、自分では戦っていないのに、この作戦の功労者を、多くの巨人に襲われながらも巨人を駆逐しようとしたやつを一方的に人類の敵と決めつけて殺そうとした、人類に仇なす反逆者である、そんな風に思う人が居かねません!」
「なッ!!!貴様!何が言いたい!!」
「だからこういうことです!…お前が砲撃の合図を送ろうものなら、送りたくても送れないような物理的に不可能な状態にしてやるって言ってんだよ。」
俺でなきゃ見逃しちゃうような変わり身のはやさに、みな呆気にとられる中俺はブレードを抜きキッツに向ける。我に返った包囲部隊のやつらは慌てて俺に向かって銃を構え直す。
「ッ!貴様!今貴様が何をしているのかわかっているのか!?これは人類に対する明確な反逆行為だぞ!私を殺せばどうなるかわかっているのか!?この場にいる兵士たちがいっせいにお前に向かって引き金を引くだろう!もしお前が何らかの術で生き残れたとしても俺の上にはピクシス司令が―」
「相変わらず図体の割に子鹿のように繊細な男じゃ。」
「ピクシス司令!?どうしてここに…!」
「ほれほれ、銃を下ろさんか。君も、もう大丈夫だからブレードをしまいなさい。」
「ですが……」
「では儂が命じよう。今!この場で!エレン・イェーガーに危害を加えたものはみな巨人の餌になってもらう!!それに儂も彼の話には聞く価値があると思うておるしな。」
俺が無視していた怪我の痛みがここでぶり返してきたのかよろけてしまう。そんな俺を見てそわそわしてるやつがいる。そう、ミカサだ。
「儂はこれからイェーガー訓練兵とアルレルト訓練兵の2人から話を聞こうと思っている。そこの彼はどうやら重症らしい、どれアッカーマン訓練兵、彼を医療班のところまで連れて行ってやりなさい。」
「ッ……ハッ!!!」
…………
俺はミカサに抱えられ、医療班の元へたどり着くと個室部屋での療養を言い渡された。運んでいる間もミカサは終始無言で、誰から見ても怒っていますと言わんばかりの不機嫌オーラを醸し出す。
個室にはいるやいなや置かれていたベッドに俺を放り投げ上に乗ってくる。
「痛ッ!けが人なんだからもう少し丁寧に扱ってくれよ…。……ミカサさんはどうして俺の上に乗っているんですかねぇ?おりてくださいませんか…?」
「……どうしてこんなことをしていると思う?」
「…俺があの大ケガで動いたから?」
「もちろんそれもある。…でも…大事なのはそれじゃない。…さっきもッ!あなたはまるで私たちの敵であるかのように振舞った!けど、最後には結局私たちのためにあなた一人でキッツ隊長に向かって刃を向けた!あの場で撃ち殺されてもおかしくなかった!なのに……どうして……どうして1人で抱え込もうとするの!?そんなに私が頼りないの!?私は強くなった!もう誰にも負けないほどに!……それでも頼ってはくれないの…?」
「…あの場を誰の犠牲も出さずに上手く収めるにはこれがベストだったんだ。結果俺は撃たれてないし、誰も死ななかった…。結果オーライだよ結果オーライ!」
「ッ私は、そういうことが言いたいんじゃない!これだけやってきても…セイ…あなたには伝わらないようだ。ならしょうがない。そう、しょうがないことなの…」
そう言いきると、ミカサの目から光が消え俺のまだ元気な方の右腕を片手で抑える。俺は力でミカサに少し勝っているはずなのに、まるで大岩を押してるかのようにビクともしなかった。
体はミカサに馬乗りに乗られてるせいで動かないし、左腕は骨折していて動かせない。右手も抑えられたのでもう俺の話術でどうにかするしかない!そう思って俺は必死に思いつくまま喋ろうとする。
さすがにいくら曇らせが好きといっても、ヤンデレのように手足を折られたり、そういう痛いのは嫌だった。
「ま、待てッ!ミカサ!話せばわかる!だからおち―」
チュッーーーーー!
そんな音がしたと思ったら視界がミカサで埋め尽くされていた。予想外の感触に俺は戸惑うが、はっきりと意識のある今では、人工呼吸の時とは比べるべくもない。まさにバキュームだった。
両手で俺の顔を抑え、俺の口の中でミカサが暴れ回る。息が苦しいと唯一動かせる舌でミカサにアピールするが、それすらも今のミカサを滾らせる興奮剤でしか無かった。
いつの間にか離されていた右腕で抵抗することも忘れ、なすがままに受け入れ数十秒が経ってミカサは唇を離す。ハァッ、ハァッ、と息を整えていると、
「…これでわかった?…私には…愛というものがよく分からない…。でも…あなたを見てると内から湧き上がってくる、この燃えるようなこの感情は、きっと愛なんだと思う…。だから、セイ!!…私は…あなたを……愛している!!私を置いてもうどこにもいかないで…!」
「ミカサ…」
俺は言いたかった。それは愛じゃねぇ!独占欲だ!と。でもここで否定したら今まで積上げてきたもの全てが壊れるかもしれない。おれは言葉を濁すしかなかった………
シリアスを無理やり路線変更しようとするセイくんなのでした。
まだトロスト区編続きます。