魔将エスメルの英雄ごっこ   作:wakawaka

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計画とは崩れるものである

 魔将とは人類が勝手につけた俗称だが、私達もそれを気に入っている。

 

 ちなみに魔将とは魔物の中においてマザーにより特別に生み出される魔物である。数は12体いた。だが、S級と呼ばれる魔法少女達により既に4体の魔将が討伐された。勿論奴らにも相当の被害は出せたがそれでも魔法国家が建国されて以来、人類の最重要拠点と思われるそこを攻め落とすことはついぞ出来なかったのだ。

 

 よって私達は方針を変えて長期戦に出ることにした。元々私達はかなり人類を追い詰めている。そのため独自の巣を作り、長期戦をする準備をしていた。勿論魔物はマザーによって次々と生まれているためそうそう数で劣ることは無い。よって我々は兵隊蟻のように物資をマザーに提供し質と量両方の視点から彼女達を凌駕しなくてはならない。

 

 そして何よりたった一人の魔法少女でありながら我々を殲滅し得る存在、魔法少女「トキ」を暗殺、あるいは戦闘不能にしなくてはならないのだ。

 

 そこで残った魔将達で考えた作戦がこれだ。

 

作戦名 「楽園落とし」

 

 この作戦の要は、「魔法少女トキ」の暗殺の成否である。彼女が戦場にでれば魔将全員で掛かったとしても敗北の可能性が濃厚だ。

 

 彼女は「時の魔法」という反則な魔法を操る魔法少女だ。それに加えて、本人の魔力量も桁違いに大きくその上、魔法を使うことで自らの肉体を10代に留め続けることで永遠の魔法少女であり続けている。正直言って勝ち目が無いわけではないがどう考えてもこちらの戦力が持たない。奴は正真正銘の化け物だ。

 

 

 

 そこで我々はこの最強の魔法少女を倒すために5段階の行程を行ってきた。

 

 1段階目、魔法少女の数とその全員の能力の把握。

 

 このために魔法国家への侵入する人材捜しにとてつまなく苦労してようやく一人見つけ出したのだ。まあ奴はもしもの時にしか動かない本当に最終手段だが、これによりあちらの情報をこちらに送ってくれている。

 

 ちなみ「彼女」を見つけ出したのは私だ!

 

 2段階目、人類生存圏に人として魔物を潜入させること。

 

 いくら魔法国家という所が危険地帯だからと言っても我々の本来の目的は人類の撲滅だ。そのため現在の人類全体のことも把握しなくてはならない。そこで私の部下の憑依型の魔物を人類に共生させる形で解き放っている。彼らは別に肉体の主導権を奪っている訳ではなくどちらかというと報告の時まで何もせずにいるのだ。

 

 また、勿論、人間に成り代わっているものもいる。こいつらは精鋭であり、完璧に入れ替わり時々こちら側のサポートを陰ながらしてくれている。(時々ばれて処分されている)

 

 3段階目、魔法少女と直接関係を持てる国家公務員となり現地の魔法少女の信頼を得る裏側で反魔法少女の組織を支援し良質な関係を築く。

 

 これが本当に大変だった。魔法少女側に潜在的スパイは作れたが人類軍側の場合は数も多くそれなりの地位に就く者でありなおかつこちらを裏切らない。そういう存在を送り込むにはあまりにも多くの関門があったのだ。

 

 という訳で奥の手だが、以前私が使っていた皮を使い、それを側近に使わせることで代用した。色々あってそれなりの功績と階級がついたまま行方不明状態にしていたのでそれなりに未だ使えたのだ。まあ、正体がバレれば終わりなので私の右腕であり私の次に力を持つ「側近」にこの任務についてもらった。未だに全くバレる気配がない。まあ、データ改ざんしてゲート(魔物かどうかも判別できる特殊な装置)を通れるようにしたのだが・・・はあ、あれで結構こちらの優秀な奴がこぞって処分されてしまったのだ・・・。痛すぎる。

 

 それにそいつの設定上大手を振って行動も出来ないし、行動には常に監視がついているのだ。本当に使いにくい!

 

 だがまあ、何故だかあの「トキ」との連絡が成功して信頼の獲得が出来てしまったのだが・・・。

 

 側近何したんだ?

 

 4段階目、魔法国家に魔将である私が入り混む小さな抜け道を作り上げる。

 

 魔法国家に入るにはまあ、功績と実績。そして魔法少女が必要だ。何しろ魔法少女は魔法国家の国民扱いであり、その他の国家からの干渉を拒絶されるのだが全員が魔法国家に入れる訳では無い。何せ、あそこは魔法少女が兵器利用されないために作られた国であり内部情報は本当にトップシークレットだ。我々のスパイが一人いるが彼女はここぞと言う時に使う強力できない切り札だ。無駄撃ちはできない。よって、他でどうにかしなくてはならない。と言う訳で昔の私がしていた皮を使った「側近」に私が入れるようデータ改ざんの依頼を出したのだが・・・なんか出来たらしい。

 

 え?マジでうちの側近凄すぎない?

 

 5段階目、内部への潜入及び工作を行い暗殺を実行する。この計画の成功を以て大侵攻をかけ我々は人類に勝利する。

 

 ああ、ちなみに私と私の部下の正体はまあ、客観的に見れば「スライム」である。

 

 その特性は憑依と掌握。要するに他人に憑依し掌握しなりすます。当然元々の人物のトレースも可能であり、その能力の幅は魔物としてのランクが上がれば上がるほど向上していくのだ。(最低級の魔物はただ張り付くことしができないので人間からしても無害である。)

 

 まあ、スパイ活動こそが我々の能力を発揮する場なのだ。

 

 この魔将エスメルの特殊技能の乗っ取りが鍵になる。私とその部下の本体はスライム状の体であり、相手の体に侵入、内部を捕食し死亡させ、その機能を自らの体で模倣する。その際、脳を食べることでその者の記憶、性格、生活習慣を完璧にトレースすることで築かれる事無く潜入する事が出来る。

 

 この方法の利点は潜入したとしてもよほどの観察力がない限り人相手にはばれない点である。反対に欠点は魔物の探知レーダーのような電子機器にはばれしまうためこの方法が採れるのは探知に引っかからないようにステルス機能のある機器の所有が必須条件になってしまうことだ。人間側はエルメスのような存在がいることをよく理解しているためその対策がされるようになっており、細心の注意を払う必要がある。だが「側近」によりエルメスのことは精密機械を通しても魔物だと判定されないよう工作に成功した。

 

 これから私が出向くのは敵の総本山にして最も危険な地。見つかれば私といえど逃亡も勝つことも不可能。加えてもう同じ手は使えない。全てはマザーのために。必ずやり遂げなくてはならない。

 

「待っていろ。時の魔女。」

 

 エスメルは己の支度を済ませ、地上に出る準備を整えた。ちなみに普段は魔物達と共に巣の奥底にこもっており、「マザー」の護衛をするのがエスメル達魔将の最重要任務だ。まあ、一部は全く参加していないのだが・・・。

 

 俺達魔将でさえ勝つことができない彼女の暗殺及び無力化。これができなくては何をやろうとひっくり返される。必ず潜入し内側で殺す。陰謀、策謀は私の十八番だ。貴様の相棒と同じように殺してやる。

 

「ゲート」

 

 エスメルは魔法を発動した。そうすると丸い黒い球が現れエスメルを飲み込み地上、それも人類生存圏付近へと素早く転送された

 

「さてと、まずは。・・・うん、あいつでいいな。」

 

 そう言ってエスメルは一匹の野良猫に目を付けた。

 

 ちなみ人類生存圏とは人類が籠城している特別区であり、その外にもちらほら人類の街が存在している。そこにも人は住んでいるのだが、彼らは人類生存圏で暮らすことが許されていない。俗に言うスラム街そのものである。

 

 だからまあ、ここで人が死のうが、猫が消えようが気付かれる心配はほぼ存在しない。

 

 魔将エスメルは8体の魔将の一匹でありその能力、魔力量も通常の魔物と比べるのであれば比較にすらならない。しかし、戦闘力と言う点、またその経験も他の7体と比べれば最弱である。なぜなら彼の、いや、彼らの本領は「暗殺」にこそ、その本領を発揮するものだからだ。

 

「それじゃあ、イタダキマス。」

 

 エスメルはスライム上の見た目にもかかわらず目にもとまらぬ早さで路地裏の猫を

 

 

 これで大丈夫。何故だか知らんが人類はこの4足歩行の動物になるとどこに入っても意外と怪しまないことはデータで出ている。

 

 まずは部下に会わなければ。私は4本足で悠々と人類生存圏へと足を伸ばした。

 

 

 さあ、任務スタートだ!

 

 

◆◆◆

 

 

「申し訳ありません。エスメル様。」

 

「予定していた乗っ取り先である魔法少女が死亡しました。」

 

 ・・・な、んだと?

 

 人間生存圏に住まわせていた部下2人が猫私を抱き上げながら報告する。

 

 ここは旧日本。現在は人類生存圏「極東」と言われている場所である。2人は対象魔法少女の観察を任せていたのだ。

 

「原因は!」

 

 私が寄生もとい擬態しようとしていたのはB級の魔法少女。全6段階S、A、B、C、D、Eの魔法少女の中でもBにカテゴライズされた戦闘に向いた魔法少女であり簡単には死ぬことはない。

 

 ・・・ク、一体何が!

 

「どうやら、ミリアム様に殺されたようです。」

 

 ・・・え?

 

「ミリアム様。荒れてました。」

 

「あんの~!脳筋がぁーーー!!」

 

 思わず声が出た。出てしまった。猫なのに。

 

「あいつは計画を知らないのか!!」

 

 そしてふと思い出した。

 

「・・・・いや、知らないな。て言うか省いたの私だったな。」

 

 なんということだ!

 

 我らの崇高で莫大な時間と仲間の命の上に成り立っていた作戦が!

 

 集大成が!

 

 報告・連絡・相談のミスで瓦解した、だと・・・。

 

「・・・・・・」

 

 魔将ミリアムとは外見は可愛い少女だが中身は脳筋の魔将(バカ)である。彼女は怒れば怒るほど強くなる能力をもち、スペックだけなら魔将最強と言えるだろう。そのため奴を止めるとなればS級の魔法少女が複数が必要だ、普通に考えれば・・・。

 

 だが、奴にはその圧倒的スペックを奴の「馬鹿」と言う才能はその全てを帳消しにしてあまりあるものなのだ。

 

 要するに、奴は不定期で地上に降り立ち人間を皆殺しにする。

 

 しかし、脳筋だ。

 

 どれだけ可能性の塊で理不尽な性能を持とうがその力を理解する脳が無ければ意味が無い。包囲されて魔法少女にドカドカ撃たれれば負ける。ミリアムの正体とは可憐な少女の外見をした常に怒る3歳児なのだ。誰も相手にしたくない。私もだ。

 

「ミリアムは?」

 

「いつ通り、S級出てきて包囲されてボコボコにされて部下を盾にして逃げました。」

 

 取りあえず最悪の事態ではない。しかし、その魔法少女も不憫だ。ミリアムは急に現れて力でねじ伏せるパワースタイルだ。攻撃をまともに受ければ原型を留めることは不可能だ。

 

 ただまあ、こちら側としては人間側に被害がでて良い事なのだが、・・・盾にされる部下が不憫だ。だがまあ彼らはそれが仕事だし喜んで盾になっているからまあ、いいか・・・。

 

「よくねえよ!」

 

 思わず自分で自分を突っ込んでしまった。

 

「全く良くない!」

 

 正直言ってここまでの苦労が全て泡となった言っても過言ではない。

 

「どうすんだよ!計画始まったと同時失敗したけど!クソがぁぁぁぁ!」

 

 私は溢れる魔力を必死に抑えながら空を見上げるしか無かった。

 

「エスメル様、エスメル様」

 

「どうかお冷静に。」

 

「はあ、はあ、はあ。」

 

 そうだ、落ち着け。私は魔将だ。

 

「ミリアムは後で殴るとしてどうするか・・・。」

 

 

「いつも通りのエスメル様だ」

 

「切り替え早いですね-」

 

 乗っ取り先の魔法少女は死亡。クソッタレ!

 

 魔法国家に入れる魔法少女はそう多くはない。彼女達は魔法国家の国民だが彼女達は各国において魔法少女として在籍を命じられている。各国に支部があるためバックアップは万全であり、何かあれば魔法国家から高ランクの魔法少女が駆けつけるのだ。

 

 つまり魔法国家内に入るには各国の窮地に立ち向かえだけの能力と実績をもち、なおかつ信頼を得る必要があるのだ。魔法国家はブラックボックスであり内部がどうなっているかは他の国も知る事が出来ず内部にどれほど強力な魔法少女がいるのかが不明なのだ。今回死んだ魔法少女はどのごく一部の者になった者だっただけに惜しい。

 

「予備の魔法少女は?」

 

「は!次点の候補となっていた魔法少女スノーは入国を辞退。そのまま現地組となり今年の入国者は0となります。」

 

「クソ!魔法国家に魔法少女以外が正面から入ることは不可能だ。」

 

 ついてない。魔将全員揃ったとしても時の魔女に敗北するの関の山。だからといって来年まで待てば苦労してした小細工もシステムアップデートともにより白紙になりかねない。こちら側の小細工がばれかねない。時の魔女め!あいつさえ。あいつさえいなければ!!

 

「こうなったら・・・。私が魔法少女になり、入国入りを果たすしかない!」

 

「エスメル様?」

 

「正気ですか?」

 

「あぁ。もう計画は止められない。時間をかければかけるほど私の部下がした工作が無意味になりかねない。予定より遠回りになるが私が魔法少女となり魔法国家入りを目指すしかないだろ。」

 

「しかし、今年の入国はもう不可能では?」

 

「方法はもう一つあるだろ。」

 

「「!!」」

 

「S級入りだ。」

 

「確かにエスメル様の魔力保有量は彼女達のカテゴライズでもS級以上ですが・・・。」

 

「ああ。分っている。用意されている期間があまりにも短すぎる。」

 

 今の魔法少女の組織はそれほどまでに堅牢な造りをしている。今は仲間により私が魔物というようには識別されないような小細工を入れているがそれも後1年もすればその小細工はアップデート共に消えてしまう。よって求められるのは「成り上がり」それも異常名ほどのスピードをもってだ。

 

「でしたら我々が!」

 

 部下の片方が自ら立候補してきたがそれは採用できない。

 

「無理だ。貴様らでは早々に見つかりかねん。例え私達の能力が潜入工作に特化しているとしても我々は魔物、日常生活ならいざ知らず、魔法少女の行くような戦場ではバレずに生き残るのは至難だ。」

 

「ですが、魔将たるあなた様まで失えば、我々の悲願が・・・。」

 

「元より、そのつもりだ。私が全てを賭けてあの魔法少女を滅ぼす。その後の事は側近に託すしかあるまい。」

 

「「・・・・・・」」

 

「よって私はマザーのためにこの作戦を命をかけて果たす!」

 

「・・・了解しました。」

 

「どうかご武運を。」

 

 二人の部下は姿勢を整え頭を下げた。

 

「いいだろう。まずは魔法少女捜しだ。なりたてを私に知らせろ。精霊の出現ポイントは魔将エルクに聞け。奴なら調べてくれるだろう。ただし招集係の魔法少女に先をこされたのなら放っておいてかまわない。先に見つけた者のみ教えろ。くれぐれも早まるなよ。行け!」

 

「「は!」」

 

「「全てはマザーのために!!」」

 

 二人はゲートを作り消えて行った。さて、私も頑張るか・・・。

 

 まずはミリアムを殴りに行こうと心に決めつつ私もゲートを開いた。

 

 全てはマザーのために。

 

 

 マザーあなたの願いは必ずや私達が・・・。

 

 

 

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