最強魔法使いの転生失敗? 作:待雪草
ユリウス・ヴァン・レヴナント──弱冠、10歳の身でありながら世界を混沌の底に落とした魔王との戦いに勇者の仲間の魔法使いとして参加し見事、仲間達と共に討ち倒し、生きて戻ってきた後も優れた魔法への適性と見識を活かして数多くの魔法を生み出し、時代を押し進めてきた誰もが知る稀代の天才。
「ゲホッ……ゴホッ……ううん。儂もそろそろ死ぬのぅ」
だが、そんな天才を押し寄せる歳の波に抗う事は出来ずに丁度、100歳を迎える日にベッドの上で横になっていた。
かつてはその美貌を用いて、数多くの女性を魅了した顔も今ではシワとシミばかりとなり艶やかな肌は乾き、元より多くなかった筋肉は痩せ細り肋骨が浮かぶ様な状態になっている彼は一つだけ、この世に未練を残していた。
「まだ見ぬ魔法、儂の次代が紡ぐ新たな魔法を知らずに終わりたくないなど我ながら知識欲があり過ぎるなぁ……」
この世界の誰よりも魔法を愛し、愛されていたユリウスは自身の死期を悟っていてもなお貪欲に魔法を追い求める知識欲を抑える事が出来ずやがてその手は震えながらもベッドの近くに置いていた杖へと伸びていく。
驚く事にこの様な死に体となっている今も彼の魔力だけは衰える事を知らず、むしろ長生きをすればするだけより強く深く精錬されていった魔力は彼が抑えようとしてもなお、溢れ出す魔力だけで歴戦の魔法使いが負けを認めるほどであった。
「──死に際になったが故に編み出したこの魔法を使う時が来たか」
杖をしっかりと握りしめた枯れ枝の様な老人に見合わないほどの活力に満ちた瞳で自身の杖を見つめると、魔法陣を視線の先に作り出すとその魔法陣は幾何学模様を幾重にも描きながら大きくなり、部屋全体を怪しく照らし出す。
「ゲホッ!!……死後の浄化に抗い、我が魂は続く。『転生魔法』発動」
魔法陣が一際強く輝き、世界から一つの強い魔力が完全に消え去る──残されたのはもう、息をしていない老人の死体であった。
そして、時は流れて百年後、世界はより魔法が広く知れ渡り程度の差はあれど誰もが魔法を使えるようになった──そんな、大魔法社会に一人の落伍者が居た。
「クソッ……」
相当な金を蓄えているのであろう立派なお屋敷に相応しい一室で、高熱に苦しむ少年が一人。
名をウィレーム・ユグド・ウォルシュタインと言う彼を襲う高熱は原因不明であり、本来であれば体調の変化を見逃さない為に誰かが常に側に居なければならない状態なのだが、この部屋には彼一人しか居らず時折近くを通るメイド達の声を拾えば以下の様な評価を得る。
『魔法を使えない三男』
『この時代に剣に執着する変わった子供』
そして、『父親から見放された哀れな子』と。
誰もが魔法を扱える世界、それこそ産まれたての子供が癇癪を起こすだけで小規模の魔法が発動するこの世界で彼は全くと言っていいほど魔法を扱う事が出来ないという致命的な欠陥をもっているせいか散々たる扱いを受けていた。
「……俺は……まだ死にたくねぇ……」
それでも死にたくないと呟く精神力の強さを持つウィレームであったが、大量の汗を流し呼吸がどんどんと浅くなっていく姿は誰が見ても死期が近づいており、このまま死ぬのは誰の目にも明らかであった。
『ふむぅ……このままでは不味いな。仕方あるまい、何故こうなったのかは後で解明するとして今は此奴を助けるとしよう』
視界に半透明の爺さんが映り込むまでは。
苦しむウィレームを横目に半透明の爺さんは杖をかざし、槍の様に尖った先端を彼の心臓へと向けると淡く緑色に輝き始めその光が強まっていくと共に彼の苦しさが嘘の様に消えていき、魘される程の高熱は何処かへと消えていった。
『よし。こんなもんじゃな。さてと、どうして転生魔法が上手く働かなかったのか原因を』
「……ジジィ、誰だ?」
『ジ、ジジィじゃと!?儂はまだまだピチピチのってお主、儂が見えるのか?』
「……熱で魘されてたかと思えば、今度は半透明のジジィが目の前にいるとかなんの悪夢だ?」
『悪夢とは失礼な!!儂はお主の命の恩人じゃぞ!!……まぁ、もしかしたら?ほんの少しだけ、いや一欠片だけ自作自演かもしれんのじゃけども』
目の前で髭を蓄えた爺さんが目を逸らしながら、両手の人差し指をクルクルと回している光景のなんの色気が無いことか。
尤も、雑な扱いを受けているウィレームにとって目の前の爺さんが絶世の美女であろうとも思う事は何一つ変わらなかっただろう──即ち、なんだこの悪夢はと。
『ンンッ、まぁ良い。儂はユリウス・ヴァン・レヴナント、お主の様な子供でも聞いた事ぐらいはある名前じゃろう?』
「……あぁ、なんか昔の凄い魔法使いの名前だろ」
『雑すぎん?儂、結構有能で有名じゃったと思うんだけど?』
「興味ない。魔法が使えないんだからな」
『ほぅ?』
──魔法がありふれた世界で魔法が使えない少年と、そんな時代を作り上げた最強魔法使いの爺さんの会合がこの世界にどんな波紋を作り出すのかそれはまだ分からない。