もうひとつの人魚姫、その後の話   作:香散見

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003 × 試験会場到着

 

 ザバン市

 

「最後に寝たの、船が最後ってことは試験では不眠で一週間くらい耐える必要あるのかなあ」

「やなこと言うなよ」

「ロゼは飛んでいる最中寝ていなかったか?」

「あ、バレてた。ゴンは疲れてない?」

「平気だよ! オレもちょっと寝ちゃってたし……」

 

 嵐の後一睡もしていないことになるので、だいたい一日ほど寝ていないのと一緒なのだ。僕よりも凶狸狐(キリコ)を追いかけて走り回っていたゴンの方が疲れているだろう。いくら体力が人より桁違いに多かったとしても。

 

「ツバシ町の2の5の10は……と、向こうの建物だな」

 

 そんな僕らの会話を他所に、ひとりだけ案内人(ナビゲーター)として残り今は人の姿に化けた凶狸狐が住所のメモを持って歩くのを四人で追いかけている。

 他の三人はどうやら先に帰ったようだった。彼らが今回の試験で案内するのは僕らだけだったようだが、試験官としてずっと待っていたことを考えると後始末としてもやることがたくさんあるのだろう。だというのに最短距離で行けるよう夜通し連れてきてくれたのだから感謝しかない。そんな風に考えていると、彼は急に立ち止まりそう言った。

 

「あれが会場か」

「うわーーたっかーい、凄い立派な建物だね!」

「ここに世界各地からハンター志望の猛者が集まるわけだな」

「――おいそっちじゃないよ、こっちだよ」

 

 全員が感慨深く思いながら向こう、と示された先にある背の高い建物を見上げていると、否定の言葉とともに示し直された建物は先程まで見上げていたそれらしい建物と違い――極々普通の定食屋。

 

「……どう見てもただの定食屋だ。冗談きついぜ、案内者(ナビ)さんよ。まさかこの中に全国から無数のハンター志望者が集まってるなんて言うんじゃねーだろ」

「そのまさかさ。ここなら誰も応募者が数百万人とも言われてるハンター試験の会場だとは思わないだろ?」

 

 それはまあ、そうだけども……。同じことを思った四人で顔を見合わせる。

 

「バスで行ってたとしてもここだとは思わないよね」

「いつまで言う気だよ、悪かったよ」

 

 ついそう揶揄(からか)えばレオリオが握り締めた拳を震わせながらそう言った。おっと、やりすぎると殴られそうだ。このくらいにしておこう。

 

「いらっしぇーい!! ご注文はーーーー?」

「ステーキ定食」

 

 元気良く迎えてくれた声とは反して偏屈そうな店主の表情筋がぴたりと止まり、凶狸狐の目を真っ直ぐと見る。

 

「焼き方は?」

「弱火でじっくり」

「あいよーー」

「お客さん奥の部屋どうぞー」

 

 どうやら今の言葉が本来の客と受験者を区別する〝合言葉〟のようだ。女性の店員が慣れた様子で扉の中にもうひとつ扉がある個室へと案内してくれ、そこでは鉄板で焼かれている肉がジュージューと良い音を立てている。部屋に充満している匂いも肉を焼いている、嗅いでいるだけでお腹が空く匂い。……本物? 店の方も良い匂いだったけどさ、ここまで凝るもの?

 

「一万人に一人。――ここに辿り着くまでの確率さ。お前達新人にしちゃ上出来だ。それじゃ頑張りな、ルーキーさん達」

 

「ありがとう!」

「お前らなら来年も案内してやるぜ」

 

 突然呟かれた言葉へ四人揃って疑問符を頭に浮かべた(のち)、ゴンは(いち)早くそれが別れの言葉だと気付いたようだ。ゴンと凶狸狐が握手しているのを見て、僕も手を差し出した。快く握手してくれる凶狸狐はいっそ人より優しいまである。

 激励とともに別れ際にそう告げられ、彼によって閉められた瞬間部屋ごと下っていくような柔らかな浮遊感を感じた。

 

「……食べて良いのかな?」

「良いんだろ、たぶん。食って頑張れってことじゃねーか」

 

 昨夜の時点で腹が減ったと言っていたレオリオはさっさと椅子に座り、置いてあったナイフとフォークで肉を切っている。ぼうっと立っているにしては匂いがあまりにも凶悪なので、僕らも(なら)って食べることにした。

 

「に、しても。失礼な奴だぜ、まるでオレ達が今年は受からねーみたいじゃねーか」

「三年に一人」

「ん?」

 

 先程の凶狸狐を真似るように唐突に呟いたクラピカの顔を三人で見る。先を促すように問いかけたレオリオに(ひと)呼吸して、

 

初受験者(ルーキー)が合格する確率、だそうだ」

「そんなに少ないんだ!」

「――新人の中には(あま)りに過酷なテストに途中で精神をやられてしまう奴、ベテラン受験者の(つぶ)しによって二度とテストを受けられない体になってしまった奴など()()らしい」

 

 ある程度聞いてはいたけれど、そう言われると昨夜クラピカが言っていた通りここへ辿り着いたのはあくまでも始まりに過ぎないのだと実感する。それにしても、

 

「新人潰ししてる受からない人たち色々残念すぎない?」

 

 それはまあ……となった二人にそれまで無言で肉を食べていたゴンが、

 

「みんなそんな大変な目にあってまでハンターになりたいんだね」

「確かに……? 途中で棄権を選ばないってことは命より大事ってことだよね、資格の方が」

 

 そう口にしたところで改めて考えると僕も疑問が浮かぶ。二人して首を捻っているとレオリオもクラピカも驚いた顔をしていた。

 

「お前ら本当に何も知らねーでテスト受けに来たのか!?」

「う……」

「プロハンターに話は聞いて来てるよ」

 

 そんな、人を考えなしみたいに。ゴンはゴンで思い当たる節があったのかちょっと気まずそうだけど。あとクラピカが驚いてるのは勢いよくゴンに詰め寄ってるレオリオに対してもだったりしない?

 

「「ハンターはこの世で最も(もう)かる/気高い仕事なんだぜ/なのだよ!!」」

「……気が合うというか、合わないというか」

 

 二人揃ってハモりながらも大事なところが真反対な彼らの主張に呆れてしまう。今も被ったようで被らなかった意見にお互い睨み合っている二人は船で出会ってからここまでまったく思想が交わらない。性格的な相性は良くともお互い譲らないためその度に喧嘩のようになってゴンとともに宥めていたりしたのだ。その苛烈さは僕もゴンもいなかったらこの二人、ここまで辿り着けなかったのではないかな……と思ってしまうほど。

 

 レオリオの主張は、

 

「正式なハンターだけが(もら)えるライセンスカード!! これがあればほとんどの国はフリーパス!! たいがいの公共施設はタダで使えるんだぜ!! 世界大富豪ランキングのベスト100にはハンターが六十人も名を(つら)ねてる!! 売るだけで七代遊んで暮らせると言われてるこのカードは富と名声の象徴だ!! そしてこのカードを使えるのはこの世でプロのハンターだけなのさ!!」

 

 クラピカの主張は、

 

「人と自然の秩序を守るのがハンターの本当の仕事だ。動物を狩り、宝を漁るというイメージは二流(アマチュア)のハンターのそれでしかない!! 一流(プロ)のハンターは貴重な文化遺産や希少な動植物を発見した場合、その保護を第一に考える!! その他にも指名手配犯や無資格の悪質なハンターを取り締まるのもハンターの重要な仕事だ!! これら全てをこなすためには深遠な知識と健全な心身、強い信念が必要なのは言うまでもない!! ハードだがやりがいのある仕事なのだよ!!」

 

「ええかっこしいめ!」

「金の亡者め!」

 

 お互い主張をほぼ同時に言い終わると、器用にも言いながら聞いていたのか睨み合う。そしてその矛先は当然――

 

「どうだゴン!!」

「ゴンはどっちのハンターを目指すんだ!?」

「どっち……って、言われてもなァ~~」

 

 ゴンへ向かうのだった。あれだけ長い主張を息継ぎもなく一気に吐き切ったというのにゴンに詰め寄る元気があるのだから恐れ入る。

 

「まあまあ二人とも、それを見つめる機会が試験でもあるんだしその辺で……」

「そういうロゼは?」

「そういや世界を旅したいとか言ってたな」

「えっ」

 

 ゴンのフォローしようと思ったら飛び火してしまった。

 

「僕、は――」

 

 二人の考えどちらも合っていて、どちらも違うと思うと言ったなら話が長くなりそうで言葉に詰まる。

 だってハンターは、資格問わずそうとしか生きられない人がなる職業(もの)だろう。未知のものを知りたいという欲求、得たいと形振り構わず追いかける好奇心。それがたまたま後世へ残り偉大なる功績とされ、資産を生み出しているだけなのだ。

 

 どうしようとゴンと顔を見合わせていたら、救いというべきかこのタイミングで会場に着いてくれたらしい。

 

「着いたらしいな……」

「話の続きは後だ!!」

「いやもういいよ。それよりレオリオ、あーん。残りの肉食べて」

 

 部屋の動きが止まり入ってきたドアとは違う扉が開くとすぐ出ようとする彼らを制止し、残った肉を(まと)めてフォークへ突き刺す。

 

「お前が食え!」

「えー、じゃあゴン」

「ロゼは食べなくていいの?」

「もうお腹いっぱいだよ……」

 

 元々食べる量が少ないのと、陸の食べ物なら肉よりも果物の方が好きだった。いくらお腹が空いていてもこれは多すぎる。ゴンが口を開けてくれたのでその中に慎重にフォークを入れると想定より豪快に食べられてしまった。ひ、ひとくち。食べやすく切ったとはいえ纏めてしまったのに。

 

 開いた扉から外へ出た僕らに一斉に視線を向けてきた大勢。その中で不穏さを感じた数は――六つほど。

 

「それにしても薄暗い(ところ)だな」

「地下道みたいだね。一体何人くらいいるんだろう」

「君達で406人目だよ」

 

 ゴンの僕らへの会話というよりも呟きに反応して上から降ってきた声。振り返るとどうやら発言者は今目の前に降りてきたこの小さくてふっくらとしたおじさんのようだ。

 

「よっ、オレはトンパ。よろしく」

 

 左胸には〝16〟の数字。

 

「ハイ、番号札」

 

 なんだろうと思っていたらこの番号は受験者全員に配られているらしい。スーツを着ているハンター試験の運営(サイド)らしき人から僕が貰った番号札は〝406〟――つまりトンパ、という人は随分と早くここへ辿り着いていた、ということになる。

 403、レオリオ。404、クラピカ。405、ゴン。そして最後に406、僕。

 

「新顔だね、君達」

「わかるの?」

 

 確定した物言いに不思議そうにするゴン。船といい初対面の人間と親しく話せる彼の長所はこちらからすれば少しはらはらする。クラピカも同じことを思ったのかじっと彼らの様子を眺めていた。そういえばついさっき新人潰しの話をしてくれたのは彼である、警戒するのも当然だった。

 

「まーね! なにしろオレ十歳からもう三十五回もテスト受けてるから」

「三十五回!?」

「まぁ試験のベテランってわけだよ、わからないことは何でも教えてあげるよ!!」

「ありがとう」

 

 自慢気に胸を張るトンパに素直に感謝するゴンの様子は微笑ましいが、僕は気付いてしまった。

 

「ん……? 四十五歳ってこと?」

「それ以上はいけない、ロゼ」

威張(いば)れることじゃねーよな、それだけテストに受からねーってことだから」

 

 クラピカの小さな窘めの声に続いてレオリオがどこか呆れたような声色でこそこそと僕らへ伝えてくる。クラピカと顔を見合わせて確かにと頷いてしまった。

 諦めが悪いのも美点、と言えなくもない――かもしれない。

 

「じゃあここにいる人達みんな知ってるの?」

「当然よ! よーーし、いろいろ紹介してやるよ!」

「……いいの? 紹介しちゃって。その人たちに恨まれない?」

「ハハッ、そういう情報戦も込みで試験だからな」

 

 ゴンの素直な反応へ気を良くしたのかそう言うトンパへストップをかけるも、杞憂だったらしい。ふうん、と相槌を打つ。彼がいいと言うのならその言葉に甘えて教えてもらおう。今後どんな試験が待ち受けているか分からないけど、いつか何かで役立つかもしれない。

 

「103番、蛇使いバーボン。あいつは非常に執念深いから敵に回すと厄介だぜ。

 76番、武闘家チェリー。体術においては右に出るものなし!

 255番、レスラートードー。パワーはダントツだし意外と頭もキレる。

 191番、武術家のボドロ。年は取っているが武術において右に出るものなし。

 197~199番アモリ三兄弟。絶妙のコンビプレイで常に好成績をあげてる。

 384番、漁師ゲレタ。吹き矢と棍棒(こんぼう)であらゆる生物を仕留める(スゴ)腕だ。

 ――と、まあここらへんが常連だな。実力はあるが今一歩で合格を逃してきた連中だ」

 

 胸につけてる番号札のおかげで分かりやすくて僕としては助かるが、それでいいんだろうか? 運営側も管理しやすくしてるのかな。

 ふんふんと頷きながら四人で聞いていると、

 

 ぎゃあぁ~~っ

 

 突然悲鳴が聞こえ、その場にいた全員の視線が声のした方へ向き――

 

「アーーラ不思議♡ 腕が消えちゃった♤ タネもしかけもございません♧」

「ぉ゛、ォ、……オ……オオレのォォ~~~~」

「気をつけようね♢ 人にぶつかったら謝らなくちゃ♧」

 

 切った側である人間は僕らに背を向けていて見られないが、被害者の胸につけられた番号札は58。彼の両腕は血とともにどこかへ消え、消し飛ばした張本人はあくまでも手品だと主張しているらしい。

 

「……きれいな切断面、血も吹き出さなければ床どころか服すらも汚れてない。ホントに手品みたい……、手品とピエロってなに?」

「気になるところはそこだけか?」

 

 クラピカに呆れた顔をされたけれど、腕が消えたことはともかくぶつかって謝らないのは自業自得だから仕方ない。ハンターを目指す人間が優しくて安全な人たち――な、わけがないことをここに来ている時点でよくよく分かっているだろうし。この世において、自由には責任が伴うのだ。……もっと呆れられそうだから言わないけど。

 

「ちっ……、アブない奴が今年も来やがった。

 44番、奇術師ヒソカ。去年合格確実と言われながら気に入らない試験官を半殺しにして失格した奴だ」

「…………!! そんな奴が今年も堂々とテストを受けれんのかよ」

「まぁ殺された試験官が悪いとも言えるよね、僕たちはあくまでも受験者なんだからプロがアマチュア以下に負けるなんてあり得ない。残念だけど試験官としての実力がなかったってことだ。……にしても、帽子もつけてたらもっと奇術師っぽいと思わない? 今だとピエロっぽさが強いじゃん」

 

 トンパの言葉にレオリオが焦った顔をして、クラピカが厳しい顔をした。レオリオがハンターライセンスに実利を求めるのであれば、クラピカは名利を望んでいる。その事実が分かりやすい反応だった。

 にしても興味本意で受けたわけではなく、二度受けているということは彼も本気で資格が欲しいのかもしれない。となると少し、厄介――否、危険かもしれないな。前回のような失敗はしないよう今回はどんな手を使ってでも受かろうとするかもしれない、ということだ。

 

「当然さ。ハンター試験は毎年試験官が変わる。そしてテストの内容はその試験官が自由に決めるんだ。その年の試験官が〝合格〟と言えば悪魔だって合格出来るのがハンター試験。

 奴は去年試験官の他に二十六人の受験生を再起不能にしている。極力近寄らねー方がいいぜ」

 

 今年四百人以上いる受験者の中で去年の二十六人が多いのか少ないのか分からないが、先程の被害者のように腕を切られたりした人間がそれだけいると思えば多いかもしれない。彼の格好は目立つから彼から積極的にそういった行動に出たのではなく、さっきの主張のように応戦しただけの可能性もあるけど。

 

「他にもヤバイ奴はいっぱいいるからな。オレがいろいろ教えてやるから安心しな!」

「うん!」

「――おっと、そうだ」

 

 若者に得意ぶって気持ち良く話すトンパからしてみれば素直に返事をしてくれるゴンはさぞや良い相手だろうなあと半眼(ジトめ)になっていると、突然思い出したように彼が鞄から取り出したのは缶ジュース。

 ……まさかこの場にいる全員分を鞄に入れてたのだろうか。まさかね。ギリギリあり得そうなのは推定新人分? だとしてもだいぶ重い気がする、何してるんだろうこの人。他にも余計なものを持って来てて、そのせいで荷物が多くて毎年落ちてる……とか? 顔からは想像つかないし似合わないけど、もしかしてすっっごい心配性?

 

「お近づきの(しるし)だ、飲みなよ。お互いの健闘を祈ってカンパイだ」

「ありがとう!!」

 

 ゴンが受け取り、次にレオリオ、クラピカまで受け取っていた。正直〝彼ら〟が水辺が近くにないとは思えないほど騒がしいので受け取る気はなかったのだが、三人がそうするのならと大人しく受け取る。ここでわざわざ波風立てなくとも飲んだふりでもすればいいか、と思っていたら――僕が行動に移すよりも先に、トンパに続いて飲んだゴンがすぐさま口から吐き出してしまう。

 

「トンパさんこのジュース古くなってるよ!! 味が(ヘン)!」

「え!? あれ? おかしいな~~?」

「……はい、タオル。水もあるけど口(ゆす)ぐ?」

「ありがとう、ロゼ」

 

 缶をリュックの中に入れ、ゴンにタオルを渡す。水筒を出して彼に渡している間に他の二人も中身を外へ出していた。

 

「あ……ぅ……」

 

 当然だが慈悲はない。

 というか、開いた形跡のない缶に何かが入ってる疑惑が出るのとてつもない大問題じゃない? デザインに覚えがないから彼オリジナルのものかもしれないけど。

 

 

「申し訳ないっ!!」

「いいよ、そんなに謝らなくて。トンパさんはお腹大丈夫?」

「えっ、ああ……! 平気、へいき」

「ゴンのおかげで誰も飲まなかったしねえ」

 

 状況を把握してすぐ下手な言い訳をせず両手を合わせて深く頭を下げるトンパと、彼を許し更に心配までするゴンの寛大さに合わせてフォローする。故意でない、わけがない――けれど。ゴンにそれを伝える必要があるかについては、要らなそうである。

 

「うん、オレが最初に飲んでみて良かった。山とかで(いろ)んな草や芽を試し食いしてるから大体味で変なものがわかるんだ」

「……周りから教えて貰ったよりも試し食いで学んだ比重の方が多そうだね……」

「い、いや~……本当によかったよ。悪かったな、それじゃあ……また……」

 

 思ったよりもゴンが向こう見ずだった。

 気まずかったのかトンパは始終申し訳なさそうな様子を僕らに見せつつ他の受験生へ混ざっていく。彼による被害者が出てないといいけど。

 

 

 ジリリリリリリリリリリリリリリリ

 

 突然アラームのような爆音が流れる。いつの間にか上に――トンパが先程まで座っていた場所と同じくらいの高さにスーツの男性が立っていた。全員の視線が向くと不思議なセンスをした、人の顔のようなアラームを止める。

 

「大変お待たせいたしました、只今(ただいま)(もっ)て受付時間を終了いたします。――ではこれよりハンター試験を開始します、こちらへどうぞ」

 

 ふわりと音なく地上へ降り立つと丁寧にこれから向かう先を案内される。真っ暗でまったく見えないが、一本道のようだった。

 

「さて一応確認いたしますが、ハンター試験は大変厳しいものもあり運が悪かったり実力が乏しかったりするとケガしたり、死んだりします。先程のように受験生同士の争いで再起不能になる場合も多々ございます。それでも構わない、――――という方のみついて来てください」

 

 当然誰も引かない。にしても受験生同士の(いさか)いはやはり咎めないんだな。

 

「承知しました。第一次試験405名、全員参加ですね」

 

 僕らの後に入ってきた受験者はいない。そして最後に受け取った僕の番号は406。先程奇術師に腕を切られた受験生以外は、試験を受けることになる。

 

「当たり前の話だが誰一人帰らねーな、ちょっとだけ期待したんだが」

「受かる人数が具体的に決まってるわけでもないみたいだし、減る=良いこととも限らないんじゃない?」

 

 多ければ多いほど危険な人間のターゲットが多くいるということでもあり、自身がそうなる可能性は減る。そもそも危険な人間はこんな理由で辞退などしなそうだから、一番減って欲しいそっちが減ってくれるとは考えられないし。

 

 

「……おかしいな」

 

 クラピカが呟いたのとほぼ同時に、動き出した試験官に続いていた団子のような人の塊が大きく乱れ始めた。

 

「おいおい何だ? やけにみんな急いでねーーか?」

「やはり進むペースが段々早くなっている!」

「前の方が走り出したんだよ!!」

 

 クラピカに続きレオリオもゴンも気付いていく。当然僕らより後ろにいた人たちも。

 

「レオリオ、もし首にカバンかけたかったら教えてよ。丈夫な(ひも)貸してあげる」

 

 クラピカがそうしてるみたいに、と両手で示す。僕はゴンと同じリュックなので両手は空く。スーツなのも気になるが、さすがに服はどうとも出来ない。レオリオは怪訝そうな顔をして、しかし悪意ある言葉ではないと思ったのか曖昧に頷いた。……ゴンの体重を支えられた紐だから信頼性はあるのに。

 

「申し遅れましたが私、一次試験担当官のサトツと申します。これより皆様を二次試験会場へ案内いたします」

「二次……? ってことは、一次は?」

「もう始まっているのでございます。二次試験会場まで私について来ること、これが一次試験でございます」

 

 多くの人間が息を呑む。最終確認としてベルトとホルスターを確認し、その場で軽く飛んだ。走ると分かっていたら軽くストレッチをしたけれど、ハンター試験とはそういうものである。

 

「場所や到着時刻はお答えできません。ただ私について来ていただきます」

「なるほどな……」

「変なテストだね」

「でも四百人越える人数を振り落とすって考えると合理的ではあるかも」

 

 試験会場へ辿り着いた者は合格、それ以外は不合格と言えば良いだけなのだから。

 

「さしずめ持久力試験ってとこか。望むところだぜ、どこまででもついて行ってやる」

 

 レオリオが意気込んだところでガーッと、地面を何かが引っ掛かるような、あるいは何かを引き摺るような音が後ろから前へ通りすぎていった。

 

「おいガキ汚ねーぞ、そりゃ反則じゃねーかオイ!!

 

 音の正体はスケボーで、それ(スケボー)に乗ったゴンと同い年くらいの少年が通りすぎていくところへ食いかかる。レオリオなら言いそうだなあと思ったけども。本当に血の気が多いなと頭を抑えれば同じような行動をクラピカもしていた。

 

「何で?」

「何でっておま……こりゃ持久力のテストなんだぞ」

「違うよ、試験官はついて来いって言っただけだもんね」

「あーあ、柔軟な子どもと頭の固い大人の違い……」

「ゴン!! ロゼ!! てめどっちの味方だ!?」

 

 こんなことでどっちの味方もあるかい。

 

怒鳴(どな)るな、体力を消耗するぞ。何よりまずうるさい。テストは原則として持ち込み自由なのだよ!!」

 

 クラピカは毎度言い方はあれだけど、正論なのでレオリオもどれだけムカついても反論らしい反論は出せない。まあああいう言い方は僕やゴンにはしないけど。……もしかして年上が嫌いなのかな?

 

「ねェ君、年いくつ?」

「もうすぐ十二歳!」

「ふーん…………、やっぱオレも走ろっと」

「おっ、かっこいー」

 

 ゴンの年齢を聞いて対抗意識を感じたってことは同い年か、彼の方が年上なのかもしれない。スケボーを蹴り上げて片手でキャッチする彼を素直に賞賛するゴン。

 

「オレ、キルア」

「オレはゴン!」

「オッサンとアンタの名前は?」

 

 ゴンと並走し始めた彼の後ろをレオリオとともに追いかける。

 

「僕はロゼ」

「オッサ……これでもお前らと同じ十代なんだぞオレはよ!!」

「「ウソォ!?」」「えっ」

あーーーー!! ゴンまで……!! ひっでー、もォ絶交な!!」

 

 どうやら僕の小さなえっ、はゴンとキルアの叫び声に負けて聞こえなかったらしい。離れようとするクラピカへレオリオに気付かれないよう手を振る。気付いた彼が控えめに、目元だけで微笑んでくれた。二次試験会場で会えることを、お互いに祈って。

 にしても絶交って二十代手前の人間が言うか?

 

 

 ――首にかけていた時計を見ると開始から三時間。スポーツ選手でもない素人が走っていると考えれば確かにハイペースでは、ある。

 

「大丈夫?」

「カバン持とうか?」

 

 隣から聞こえる息遣いが荒い。僕が思ったのだから当然ゴンも気付いたようで心配そうに振り返る。乗じて手を差し出すも、返ってくるのは片手のグッドサイン。しかしその状態も長くは続かず、ついに足を止めてしまった彼を追いかけるように二人で足を止める。キルアはゴンが止まったのを見て走るのを止めた。

 

「レオリオ!!」

「ほっとけよ。遊びじゃないんだぜ、ゴン。ロゼも」

「……まあそう、だけど……」

 

 ……確かにここで下りるなら、まだ来年受けられる可能性がある、とも言える。怪我をしているわけではないのだし。

 

……ざけんなよ。絶対ハンターになったるんじゃーーーー!! くそったらァ~~~~!!

 

 勢いよく――否、がむしゃらに? うおおおおお! と叫びながら走り出したレオリオに見捨てられたカバンはゴンが釣竿で回収。

 

「おー、かっこいいー。後でオレにもやらせてよ」

「スケボー貸してくれたらね」

「ゴン、カバンちょうだい」

 

 レオリオのカバンをゴンから受け取り、持っていた紐を結び付けて肩からかける。よし、二次試験会場に辿り着いたら多少格好はつかないかもしれないがこの状態で渡そう。今後もこのタイプの試験が続くのなら、両手は空けておいた方が良い。

 




原作ベースに新アニメ要素を混ぜてます。
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