新時代の逃亡者のトレーナー   作:223系新快速

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第1話 つまらない

俺はトレセン学園でトレーナーをしている喜田栄だ。30年間、数多くのウマ娘を勝たせ続け、中にはGIを獲る者もいた。

だけど、最近の担当ウマ娘の成績は右肩下がりだ。どうにも、俺の琴線に触れるウマ娘がいない。勿論担当する以上はきちんと面倒を見るし、それに応えてそこそこの成績は上げるのだが、そこから更に一皮剝ける、がないのだ。

これは、トレーナーとウマ娘の相性の問題だ。ウマ娘に実力があれば、中央のどのトレーナーでも重賞を勝たせるぐらいは出来る。だが、そこから先の三冠達成、海外GI制覇といった偉業、大偉業を成し遂げるには、どうしても相性の良し悪しが出てくる。ウマ娘の望む勝利と、トレーナーが目指す栄光が一致し、人バ一体と評される信頼関係を築かないと、限界を超える事は出来ない。

俺はまだトレーナーになって間もない頃に、そんなウマ娘と出会い、ティアラ路線でGI5勝を挙げ、4年連続でURAの最優秀ティアラ部門で表彰された。そんなウマ娘を再び担当したいという思いでトレーナーを続けてきたが、中々出会えず、最近どうもモチベーションが途切れ気味だ。それでも動いたのは、とあるウマ娘が入ってくるという噂からだ。

 

「オルフェーヴル以来の三冠は確実、か。是非見てみたいものだな。」

 

その為に、俺は選抜レースを見に来た。トレセン学園では、ウマ娘とトレーナーのマッチングの場として、選抜レースが年に4回行われる。バ場は芝とダート、距離は1200m,1600m,2000mの3つだ。それ以上の距離は、まだ体が出来上がっていないので存在しない。

件のウマ娘は三冠を目標にしているので出てくるなら2000mだろうが、他にも担当したいウマ娘がいる可能性がある事や、競争倍率の高さを考えて、他のレースをチェックするのは、トレーナーの間では常識だ。

昨日の短距離は特にめぼしいウマ娘はいなかった。だが、マイル第8レースにそのウマ娘はいた。

 

『ゲート開いて、今スタートしました。5番のパンサラッサ、グングンと速度を上げて先頭に躍り出る。』

『これは凄いハイペースですよ。』

「掛っているな、あれじゃ最後まで持たないだろう。それに、ストライド走法なのにマイルに出てくる意味が分からない。」

 

ウマ娘でも人間でも、一歩の幅を大きくして距離を稼ぐストライド走法と、脚の回転を早くして距離を稼ぐピッチ走法の二種類がある。基本的に距離が短いと加速しやすいピッチ走法が、中長距離だと着地回数を減らせるストライド走法が有利とされている。これくらいの事なら、少し調べれば分かるのに、マイルに出てきた。

ところが、意に反してそのウマ娘は垂れない。流石に最終直線では足が止まったが、根性で粘って2着になった。

 

「あれだけのハイペースで、しかもストライド走法で、最後まで粘った。声、掛けてみるか。」

 

だが、辿り着いた時には既にトレーナーに囲まれていた。選抜レースで暴走気味で1600mを逃げて2着に残すウマ娘が人気にならない訳がない。その身体能力を考えれば、掛かりを直せばGIだって狙えるのだから。

 

「君のスピードならGIだって取れる。」

「路線は?クラウン、ティアラ、それともマイル?」

「海外に挑戦するのも面白いと思わないかな?」

 

だけど、そのウマ娘は心底興味なさそうにしている。

 

「つまらないッサ。もっと良い口説き文句はないッサ?」

 

それを聞いて静まり返るトレーナー達。

 

「挙げられる方向性は提示したんだがな。」

「じゃあ、貴方は何がしたいの?言ってくれないと分からないわ。」

「パンは、大逃げをさせてくれるトレーナーが良いッサ!」

 

それを聞いて、他のトレーナーは一様に難しい顔をする。

 

「大逃げとは、また難しいものを…。」

「この手の気性難は、直せないのよね。」

 

あっさりと諦めて散っていくトレーナー達。

 

「あれ、パン、何かまずいこと言ったッサ?」

「ああ、言ったとも。大逃げが問題だ。」

「どうしてッサ?パンは大逃げ以外でレースを走るつもりはないッサ!走らせてくれないなら、トレセン学園を辞めるッサ!」

「やれやれ、こうなったら仕方ないな。」

 

 

「ほら、これでも飲んで気を落ち着かせろ。」

「どうもッサ。」

 

近くのベンチに連れて行き、ウマ娘の大好物、にんじんジュースを渡す。これを奢ってもらったら、大半のウマ娘の掛かりはまず解消出来る。そのウマ娘はにんじんジュースを一気に飲み干した。

 

「あっという間だな。」

「良いものは良いうちに堪能する、パンの身上ッサ!」

「そういえば、まだお互いに名乗っていなかったな。俺は喜田栄、このトレセン学園に勤めるトレーナーだ。」

「パンはパンサラッサッサ!」

「パンサラッサ、パンゲアの対となる(いにしえ)の大海の事か。」

「そうッサ。」

「それで、パンサラッサ、お前は何故大逃げに拘るんだ?」

 

それを聞くと、パンサラッサは少し俯き、次いで周りを見渡す。

 

「どうした、言いにくいなら無理に言わなくても良いんだぞ。」

「いや、パン自身に問題はないッサ。ただ、周りがどう反応するかが読めないッサ。だから、なるべく他人には聞かれたくないッサ。」

「何だ?」

「喜田トレーナーは、スローペース症候群って、聞いたことあるッサ?」

「!!」

 

その瞬間、俺の体には電撃が走った。そんな事を言い出すウマ娘なんて、これまで見たことも聞いた事もない。

 

「パンは、トゥインクルシリーズを見てきたけど、その看板に偽りありと思ったッサ。夢と希望を提示すると言いながら、誰も彼も似た脚質ばかり。おまけに最後の方までダラダラと走って、最後の切れ味勝負、そんなレースばかりッサ。たまに強い逃げウマ娘や追込ウマ娘はいても、単発で後が続かない。ドリームトロフィーリーグなら複数人いるッサけど、結果を残した人ばかり集めれば、そうなるのもある意味当然ッサ。」

「随分と辛辣な事を言うな、そう的外れでないのもまた事実だが。」

「そんな時、パンはツインターボ先輩のレース動画を見たッサ。主な勝ちレースがオールカマーにも関わらず、世代を超えて愛されている。そんなツインターボ先輩に憧れて、パンは大逃げを始めたッサ。」

 

随分と捻くれた発想をするウマ娘だ。勝つための最善策を取れば、大逃げが脱落するのは明白だろうに。とはいえ、これを言ったところで聞かないだろう。ならば、別の事を問うべきだ。

 

「理由は分かった。大逃げについては、今は詳しくは問わない。それよりも、ストライド走法でマイルを走る理由は何だ?」

「それ、どうしても言わなきゃ駄目ッサ?」

「言わないと駄目だ。チグハグな組み合わせが意図的なのか、全然理解していないからなのかで、トレーナーのやるべきことが変わる。」

 

パンサラッサは気まずそうに顔を俯け、それでも意を決したのか、口を開く。

 

「埋もれたくなかったからッサ。」

「埋もれたくない?」

「トレーナー達がどれだけ知っているかは分からないッサけど、今年の学年首席のコン…、コントレイルは、三冠を狙えると言われているッサ。コンは2000mを走るつもりで、パンもそこを走ったら相対的に埋もれてしまって、良いトレーナーに目を掛けて貰えないと思って、敢えてマイルに出てきたッサ。」

 

成程そういう事か。思ったよりも頭を使っているな。

 

「理由は分かった。ということは、ストライド走法とピッチ走法の違いや得手不得手は分かっているんだな。」

「それ位はパンも知っているッサ。」

「よし。さっきの走りで不可解な点は解決した。そしてお前が、その拘りを捨てなければ、偉業を成し得ることも。」

「じゃあ、契約してくれるッサ!?」

「それはまだだ。次の選抜レースでも走ってもらう。」

「な、なんでッサ!?今回のレースでパンの良さは分かったはずッサ!?」

「いーや、芝2000mを走って貰う。」

 

今後の事を考えても、絶対に走らせる必要がある。

 

翌日、芝2000mのレースで、コントレイルが走った。そのレースぶりは他のウマ娘を圧倒し、5バ身差をつけてゴールイン。当然争奪戦となり、最終的にコントレイルが運命を感じたとして、富永トレーナーと契約した。

 

 

数か月後、再び選抜レース。

 

『さあ第3コーナーから第4コーナーへ、ここで先頭を走っていた4番のパンサラッサは急減速、ズルズルと下がっていきます。』

『最初から飛ばし過ぎた反動でしょうね。』

 

パンサラッサは最初こそ大逃げで場を湧かせたが、最終直線前で力尽きて逆噴射。何とか最下位は免れたものの、二桁着順の惨敗だ。ふらつきながら戻ってくるパンサラッサを迎えに行く。

 

「やはりこうなったか。」

「こうなるの分かって、なんで出したッサ?」

「レースを舐めるんじゃない、パンサラッサ。」

「!?」

「お前のペースは、中距離以上なら確かに大逃げと呼ばれるだろうが、マイル以下なら普通のペースだ。それなのに中距離を経験しないというのは甘えだ。」

「ご、ごめんなさいッサ。でも、だからって大逃げは止めないッサよ。こうでもしないと、コントレイルに勝てないッサから。」

「随分とはっきり言うんだな。根拠は?」

「そりゃ、コンとは幼馴染ッサから。」

 

成程、それはこれ以上ない根拠だ。恐らく、何度も何度も走って、その度に負けて、それでも折れずにこの学園に来たのだろう。

 

「コンは、その身体能力もさることながら、勝負に関する執着心は異常ッサ。普段は優等生でニコニコしているけど、こと勝負になると凄まじい勝負根性を発揮するッサ。パンも、もう一人の幼馴染のウシュバ…、ウシュバテソーロも、コンの勝負根性には勝てずに、最終直線の豪脚に賭ける、これも極端な戦法で対抗することにしたッサ。もっとも、それでも勝てないほど、コンは突出していたッサけど。」

 

成程、だとしたらそのウシュバテソーロってウマ娘も見込みがありそうだ。勝負根性や、格上に負けても折れない心の強さは、それ自体が才能だ。簡単に身につくものじゃない。

 

「パンサラッサ、契約の前提条件なんか付けて、悪いことしたな。」

「そ、そんな事ないッサ。どうも逃げ腰になっていたのが、自分でも良く分かったッサよ。」

「そうか、なら契約だ。後で契約書に記入して正式に締結となるが、それよりも先に、さっき言っていたウシュバテソーロってウマ娘のところに案内してくれ。」

「もしかして、ウシュバとも契約してくれるッサ!?」

「ああ、そいつの才能次第ではな。」

「分かったッサ。確か、前回の選抜レースではトレーナーつかなかったって言ってたッサから、トレーナーが見ると言えば、喜んで契約するッサ。」

 

パンサラッサが電話する。だが、

 

「そ、そうッサか。無駄骨だったッサね。」

『良いって良いって~。パンがアタシの事考えてくれたことは事実だし~。』

「どうした?」

「トレーナーを見つけたッサ。」

「そうか。それなら仕方がないな。」

「随分と諦めが早いッサね。」

「俺は前回の選抜レースは、芝もダートも一通り見ている。お前の相手をしていた時間帯は別だが、それについても後から見返して、めぼしいウマ娘がないかチェックしている。だが、ウシュバテソーロというウマ娘は特に記憶に残るような走りを見せていない。それなのにスカウトされたなら、悪あがきするのはみっともない。」

「それがトレーナーの不文律ッサか。」

「ああ。ま、名前くらいは聞いておこうか。」

「分かったッサ。」

 

パンサラッサはウシュバテソーロからトレーナーの名前を聞き出す。

 

「立山トレーナーッサ。」

「成程。」

「立山トレーナーって、どれほどのトレーナーッサ?」

「メジロライアンやセイウンスカイを担当したトレーナー、と言えば分かるか?」

「凄い実績ッサ。はっきり上だっていえるのは、URAの生ける伝説、竹田トレーナーしかいないッサ。」

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