十文字一輝、黒木浩二、戸叶庄三。
俺にとって大切なダチで、かけがえのない親友だ。
一輝は一見キツそうな性格に見えるけど、本当は仲間思いの良い奴だ。俺達のリーダーで、喧嘩は二番目に強い。
コイツが遊びに誘ってくれたお陰で、俺は道を踏み外さずに済んだんだ。一々言わねぇけど、凄く感謝してる。
浩二は卑怯がモットーと言いつつも、結局は情に厚い良い奴だ。ゲームがめっちゃ上手くて、俺と勝率は互角。
つまりプロ級の実力って事だ。俺、ゲームやってたら実業チームにスカウトされた事あるし。まだコイツらと遊んでたいから断ったけど。
庄三は俺達のブレーキ役だけど、乗る時は乗る面白い奴だ。将来は漫画家になりたいらしくから、応援してる。
俺がストーリーを考えてコイツが絵を書いた奴がなんかの賞に載ったらしくて、一緒に漫画家になろうって誘われてる最中だ。ブラック環境がキツそうだから、悩む。
「ホントに良かったのか?泥門なんてワザワザ低レベルな所に来てよォ」
庄三が、逆立ててる髪の毛を弄りながら聞いてきた。
おい、折角のセットが崩れちまうぞ。
「いーのいーの、後の事なんて!俺、天才だからさ!」
よくある厨二病でも無いし、痛い自信過剰でも無いつもりだ。
軽く喧嘩してるだけで全国体育テスト上位十人に入ってるし、そこそこ勉強しただけで既に最京大学A判定の天才だからな。
客観的に見て、普通に天才だろ。寧ろこれで謙遜する方が腹立たしく見えるね。
「はぁ〜、俺もそんな事言ってみたいぜ」
「つか、一輝こそ良かったのかよ?お前だって学力は悪くなかっただろ」
一輝も意外と頭は悪くねぇけど、俺ほどの天才じゃないからな。反抗期なのは分かるけど、もうちょい考えた方が良かったんじゃねぇの。
「俺がそんな、エリートみたいな事する訳ねぇだろ!」
『だよな〜』
まぁ別に有名企業に入る事だけが全てじゃないしな。最悪の場合、俺が有名になって仕事を斡旋すれば良いし。
入学初日、普通に自己紹介の時、俺はパシリに出来そうな奴を物色していた。
正直俺はパシリなんて要らねぇけど一輝達は欲しいから要るんだよ。弱気な奴を探すのは、けっこう得意なんだ。
「次、田中太郎」
「はい!よくある名前ランキング一位みたいな名前……」
こいつはパシリに向いてねぇ。自己主張が強ぇからな。
「次、佐藤晋」
「はい!佐藤晋です、趣味はランニングとゴミ拾い……」
コイツもパシリに向いてない。聞いた感じ普通に良い奴だから、絶対庇いやがる味方が出てくるだろう。
「次、鈴木優」
「優です!得意な教科は国語だけど、苦手な英語も……」
コイツも厳しいな。て言うか性格云々じゃなくて、異性をパシリにするのは普通にリスクが高いだろう。
「次、小早川瀬那」
「は、はい!ええと、名前は小早川瀬那です。高校生になったら中学の時みたいにパシリ……じゃなかった、消極的じゃなくて何でも積極的にやっていきたいと思います!」
狙いはコイツだな。気が弱そうで小柄だし、コミュ力も低めに見える。四人で掛かりゃ、誰も咎めはしねぇだろ。
お、アイツらも早速睨みつけてんな、分かってるぅ!
分かりやすくパシれる奴だ、逃がしゃしね〜よ。
「やぁ瀬那くん、俺十文字一輝ヨロシク」
「俺黒木浩二、今日から友達になるんだぜ?」
「戸叶庄三、気が合いそうだな俺達」
「伊川始だ、コレがどういう事か分かってんよな?」
四人で圧迫面接の開始だ。これに耐えられたら面倒な奴だからリリースするけど、まー無理だろ。
「早速だけど学食でクリームパン買ってこいよ」
「あの、そういうのはじゃんけん」
「ア?」
「アァ?」
「ア゙ァ゙ー?」
『アア〜ッ??』
「あや、何でもないです!!」
落ちたな、今回はめっちゃ楽勝だったぜ。あからさまに弱々しいもんな、イイヤツが見つけられたモンだ。
「三分以内に買ってこいよ、校舎の裏にいるからな?」
「遅れた〜ら〜どうなるか?」
校舎の裏で煙草を吸いながら待っていると、思ったより速くパシリが来た。俺でもギリギリ着くか着かないか位だぞ、本当に買ってきたのか?
いや、買ってきてねぇな。冷や汗かいてやがる。
「おっ、早えぇな」
「えっと、売り切れでした」
「ア?」
「アァ?」
「ア゙ァ゙ー?」
『アア〜ッ??』
爆速で浩二が瀬那を壁に蹴り倒し、ガシガシと背中を蹴り続けた。よっ、流石は卑怯をモットーにする男!暴力に戸惑いがねぇ!
「購買部まで行ってこんなに早えぇわけネーダロ!バーカ!アーホ!」
「ホントに売り切れてたんだってば!」
「俺達にそんな嘘が通ると思ってんの?こりゃ制裁だな」
「まーて、あのボロ小屋にしようか」
いや、この瀬那って奴は嘘を付いている気配が全くない。コイツ、マジでこの短時間に見に行ってやがる!
しかも、蹴られてんのにダメージを受けてる感じがしねぇ。意外とフィジカル強えぇ奴なんじゃねぇの、瀬那。
ま、気弱だから問題ねぇか。
ボロボロな、多分アメフトの部活の部室に、一輝が瀬那を放り投げた。段ボールにぶち当たって埃が舞って、若干ウザい。
積み重なっていた資料らしき物が、転んだパシリ君の頭に降り注いだ。いい気味だぜ。
三人で取り囲んでいる間、浩二がアメフトのユニフォームに着替えて遊んでいた。
ゴツいヘルメットが、なんか似合わなくてウケる。
「どだ?似合うか?」
『へっ、似合わねー』
「うっせ、コイツでタックルしてみっか」
「おーやれやれー」
俺も、無責任にダチを煽った。暴力を振るうのは好きじゃねぇけど、目の前でやるなら勝手にしてくれって事だ。
___ガラガラ
錆びた金属の扉が開き、巨漢のデブった男が出てきた。
コイツをKOするのは面倒そうだな。分かり辛いけど、内側にみっちり筋肉が付いてるのが分かっちまった。
『あぁ……?』
急に来たもんだから一輝までフリーズしちまった。
こりゃマズイと、俺は頭ん中をガチの戦闘態勢にした。
「チッ、仕切り直すか?」
「君らまさか……入部希望者ぁ?!」
「ハ?」
「ハァ?」
「ハァ゙?」
「はあ〜?」
寝ぼけた事を言うデブのせいで、少し緊張が解けてしまった。あーあ、ここから殺るのダリィな。
「何言ってんだ、使用中だ使用中」
「回れ右だ、ホレ」
話している途中、浩二が身体を前傾姿勢にした。
「ちょ止まれ!」
___ガシッ
ガッチリとホールドされた浩二を見て、俺は冷や汗を流している。どうすんだよコレ。ただでさえ面倒な相手なのに、人質を取られちまった。
「ん?!このっ、フヌヌヌヌヌ!」
浩二は悔しがり、デブを押し倒そうとしている。
バカ辞めろって、この機に及んで挑発するんじゃねー!
「ん?君はライン志望?」
「このっ!」
「豚マン野郎!!」
一輝も床三も加勢したが、当然の様に一歩も動かない。
俺は一輝が床に放ったボールを慌てて手に持ち、顔面を狙いに行こうとした。
「ブロッカー押す時はね、手の底で相手の脇を押し上げる様に___フンヌラバ!!」
「辞めろォ!!!」
俺が投球出来たのは、豚マンが後ろを向いた後。既にアイツらは勢い良く転がって行って、目を回しかけていた。
「イテッ、あああしまった!大丈夫かい君達?!」
『うわ、うわあああぁぁ!!』
撤退したアイツらを見て、俺も豚マンを抜き去って追い掛けていった。……全く、酷い目にあったぜ。
「アイツ……俺達の事を舐めやがって」
「これはきっちり潰さねぇとなァ?」
俺達は緊急作戦会議をしていた。
不良のメンツに掛けて、負けたままでは居られない。
それにコイツらは、負けたままで良いやなんて考える腰抜けでは無いのだ。
「つってもどうする?マジでやる喧嘩なら、俺一人でやっても良いぜ」
アイツの様なパワーと耐久力を持つ相手だと、大人数でかかっても有利にならない。
言っちゃ悪いが、ダチ達は足手まといになるだろう。
「そんなコト一人でさせられっかよ、喧嘩が嫌いな奴に」
「そーそ、やるなら俺達全員でやろうぜ」
「つか、一人で美味しいトコ持ってかれるのも嫌だしな」
「お前ら……!」
俺達は友情を確かめ合い、作戦を立てた。
豚マンを呼び出して警察も呼び出し、バットで殴られたと偽装工作する作戦だ。流石浩二、頼りになるな!卑怯な事を考えるのが上手いぜ!
放課後、俺達はパシリを見つけ出して恐喝した。
コイツのせいでダチがヤラれたんだ、腹は立つが使えるもんは使ってやる。
「奴の連絡先教えろ、そしたら逃がしてやる」
「バットで殴られたって事にして、アメフト部なんて停止させてやんよ!」
「あったまいー!」
「利口な選択しろって!お前はリリースしてやるしよ!」
パシリは、泣きながら俯いている。結局折れなさそうな気配を感じて、俺はゲンナリした。マジで身体に分からせてやらないと分かんねぇのかな、コイツ。
「殴るなら殴れよ!絶対に呼びに行くもんか!!」
『おっ!』
「じゃー身体に聞くっきゃねーな」
浩二がパシリの身体を拘束した後、一輝が携帯を奪い取って連絡先を確認している。
ダレながらも俺は真面目に周囲を確認していた時、奴が急に立ち上がって一輝に噛み付いた。
「アデっ!」
「てっめー!!」
浩二がバットで殴り掛かったが、奴は手すりに跳躍して回避しやがった。
「オ゙ラ゙ァ゙!!」
「イ゙ッ!」
地面に降り立つ瞬間を狙い、アッパーを決めようとしたが上手くいかず右手で防がれた。
チッ、やっぱ何かしらスポーツでもやってやがったか。
奴は小さい身体を活かし、狭い場所をスイスイ通って行きやがった。クソッ、俺は体格が良いから通れねぇ!
「ハァ、ハァ、ハァ……」
「駅に先回りすっぞ!」
『おう!!』
駅の近くで、何とか瀬那を発見した。
ダチとは二手に別れているから、今いるのは庄三と俺。
こんな町中でリンチしてやる訳にはいかねぇから、郊外に追い詰めていくしか無い。
___シュ、スタタッ!
奴が俺達を視認した瞬間、人混みをすり抜けるかの様に爆走しやがった!
「何だあの足?!」
「クソッ、追いつけねぇ……!!」
足の速さは恐らく互角程度。だが奴の方が小回りが利くせいで、ジワジワと距離が離されていく。
庄三は追い付けず、遥か後方に置き去りにしちまった。
駅の改札前、浩二と俺で挟み込んだ形にはなるが……
「オーシ止まれぇ!」
「そいつヤバいぞ!時間を稼げ!」
___クルッ、シュタッ!
奴は浩二の目前でターンして急に方向転換しやがった。
勿論アイツは止められず、むざむざと駅内部に侵入させてしまったのだ。
「待てゴラ゙ァ゙!!」
「わあああ、わあーっ!」
俺だけはギリギリ追いつけそうだったが、残念ながらドアは目前で閉まっちまった。
『うわ、いでででで!!』
「オマエら、大丈夫か?!」
抉じ開けてでも追い掛けるか悩んだ瞬間、ダチ達が階段から転げ落ちた。俺は慌てて三人の受け止め体勢に入る。
「いってて、あの野郎!」
「悪いな、逃がしちまったわ」
三人をどうにか受け止め、顔面から床に激突するのを防ぐ事に成功した。
だが代償として、パシリを逃がしてしまっている。
悔しいが、天才の俺でもこれが精一杯だった。
___バキッ!
「ターッチダウン!ヤーハー!!」
『ハァ?!』
突如として後方から、浩二をドロップキックしたヤベェ奴が現れた。
一目見て、俺は察した。___コイツには敵わないと。
一対一の喧嘩なら恐らく豚マンより楽に殺れるが、奴がそんな状況を許すとは思えねぇ。
ヤクザの大物ボスを見た時の様な、得体のしれない違和感を感じ取ってしまったのだ。
「コイツヤベェ!!逃げるぞ!!」
『ハァ?!』
俺は一輝と浩二の手を引き、一目散に逃亡した。
アイツと無策で戦うなんて、素手で熊と戦う様なモンだ。
十中八九、完全に潰される。
俺は納得していない仲間を強引に引き摺りながら、何とか逃亡を選択した。
次の日、コンビニで屯っていた時に偶然パシリを発見。
俺は悪魔が怖いから手を出したくなかったが仲間を置いていく事は出来ず、瀬那を取り囲むのを手伝っていた。
「昨日はよくもやってくれたじゃん」
「学校では悪魔が怖くて手ぇ出せなかったけどよ、今はそうじゃないって分かるよなァ?」
「抵抗しなきゃ、程々に済ませてやるよ」
俺は半分位、優しさで提案してやった。にも関わらず、奴はパシリの分際で睨み付けて来やがった。
___ゲシッ!
___バキッ!
暴力を振るいつつ、奴が持っていたチラシを踏み躙る。
「や、やめろ……!う、ぐ……!!」
瀬那は立ち上がり、逃亡の姿勢を見せた。
___シュタ!
一輝の蹴りを躱した後、わざわざ俺達の隙間を縫って逃亡しようと画策しやがった。
___バキッッ!!
「甘えんだよォ!!」
馬鹿だな。障害物も無しに、天才の俺を素通り出来ると思ってんのか?
___ガシッ
今度は逃げられない様に、全力で腰を掴んだ。
これで流石に、奴も逃げられないだろう。
「お前ら、殺れええぇ!!」
『オラァー!!』
こうして俺達は、瀬那を半殺しにした。
骨にヒビも入れてやったし、一ヶ月位はアメフト出来ねぇなろうな。
ザマァ見やがれ!俺達を舐めるからこうなるんだ!!
……つか、悪魔の事忘れてた。ヤベェな。
悪魔にロックオンされました。