瀬那をボコボコにした直後に俺の携帯が鳴り、俺達は悪魔に呼び出された。マジで最悪だ。
俺達はまだ、アイツへの対抗策を考えられていない。その上、悪魔の手下の可能性がある奴に手を出している。
この際、パシリが本当に身内であったかどうかは関係が無い。悪魔としてのプライドを保つべく、確実に潰しに来るだろう。
「どうする?無視しても良いが、後が面倒そうだ」
「ケッ!あんな奴の事なんて知らねーよ!!」
庄三の意見は短絡的だが、ご尤もだと思う。
怖いからって他人の言う事を聞いている様じゃ、不良なんてやってられねぇ。
俺は、リーダーである一輝の方をチラリと見た。
「聞くだけ聞くか、んで舐めた事言うなら切っちまえ」
「おーよ」
俺は勇気を出して、悪魔からの電話を取った。
「ケケケ、うちの主務への暴行シーンが手元にある。
___三分以内に部室に来なきゃ、分かってんな」
「……」
「は?」
「はぁ?」
『ハアァ〜?!』
完全に負けた。完敗だ。
俺達は、柄にもなく全力で走って学校に向かった。
「___テメェら、遅かったじゃねぇか」
鋭い眼光で睨みつけられている俺達。
ダチは、震え上がっている。
俺も正直、尻尾を巻いて逃げてぇと思うが、無理だ。コイツらが殺った証拠が握られている限り、逃げられねぇ。
「証拠を警察に突き出せば、少年院行きで終わりだな」
「ケッ、そんな程度で俺が怯むかよ!大体、初犯じゃそこまで行かねーし。せいぜい退学位じゃねーの」
俺は自他共に認める天才だ。不良をするに当たって、やっちゃ行けねぇラインは見極めている。
まさか住宅地の防犯カメラが使って、たかが骨にヒビを入れた位で警察に突き出されるとは思っていなかったが。
それでも、別に俺にとっては致命傷じゃねぇんだ。俺なら漫画家でもホストでも、起業したって良いんだからな。
「ほうほうほう、そう言っちゃう?伊川クンはそうかもしれねぇナー。でも、大事なお仲間はどうなるでしょうね」
『…………』
やはり、悪魔は俺のアキレス腱を付いてきたか。
俺一人が生きていくだけなら簡単だが、流石に直ぐに未成年を三人も養うのは厳しいだろう。
絶対に見捨てられねぇ以上、俺はある程度の要求は飲むしかねぇんだ。
「チッ」
俺は舌打ちし、同意するしか無かった。
俺がパシリへの暴行を止めなかったばっかりに……数分前の行動を、今は後悔するしか出来ない。
「クソッ!!俺達に何させようってんだ!!」
一輝が絶叫した。こんな悪魔に証拠を握られたら、慌てふためくしか無いだろう。寧ろ、話を聞く気力が残っているだけ精神力がある方なのだ。
「ケケケ___200万円分、少なくとも高校生活の間はキッチリ働いて貰うぞ。アメフト部のパシリって事な」
『はい……』
ギリギリ、寸前の所で許容範囲内な条件を提示され、俺達は項垂れるしか無かった。
「クソッ、この荷物重すぎるだろ!」
「三人で運ぶモンじゃねー!」
「つか、何が入ってんだコレ?」
「順当に考えりゃ、アメフトのユニフォームじゃね」
俺達は重い荷物を引きずりアメフトの会場へ向かっている。仕方ねぇ、あの悪魔に目を付けられたのが悪い。
マジの犯罪に加担させられなかっただけ、マジだったと思うしかないのだろう。
「セナくん、東京都大会のトーナメント表ある?」
「あ、はい!今日の一回戦の相手、強いんですか?」
そして何故か、昨日暴行した相手と一緒に行動する羽目になっていた。もちろん、悪魔が見ているから下手に出るしかねぇ。
つかコイツ、肋骨折ったのに何で歩けてるんだよ。
右の腹を庇ってはいるが、割と普通に歩いてやがる。
もしかして、怪我は思ったよりも軽いんじゃ……証拠も無しに指摘する訳にはいかねぇけど。
「いや、かなり弱小のはず。もしかして勝っちゃうかもね!デビルバッツ、初勝利!」
「勝っちゃうじゃねぇ、勝つんだよ」
チッ。この悪魔、偉そうにしやがって。
こんな助っ人ばかりのチームが勝ち上がれる程、スポーツってのは甘くねぇだろ!天才の俺を使い潰す気か?!
「いくつ勝てば、関東大会なんだろう?」
「お、見せろよその紙」
アメフトなんか興味ねぇが、やるからには勝ちに行くっつうのが前提だ。
脅されて参加してようが、それは変わらねぇ。それなら勝ちたい相手位は知っとかなきゃ行けねぇしな。
___ボオオォォ
紙を奪い取ろうとした瞬間、ヒル魔がガスバーナーを向けて来やがった!慌てて手を引っ込めた瞬間、文字が読めない位盛大に燃やされた。
「そんなの関係ねぇ!今の試合に勝つ、それだけだ」
『お、おう』
俺は、ヒル魔の逆鱗に触れない事にした。今時パソコンなんかでも調べられるが、そこまでする意味はねぇ。
「はい、あーん♡」
「あーん、おいちー♡」
試合会場に付くと、相手のベンチメンバーはラブラブカップル達が占拠していた。
「良かったぁ♡ママに教えて貰って初めて作ったんだ♡」
あまりにも堂々としているカップル達に、助っ人達は苛立ちが隠せない様だ。俺は恋人を作る願望は特にねぇが、ある奴にはキツいんだろうな。
「恋が浜キューピッド、メンバー全員彼女持ちで?必ず試合に連れて来るって有名らしいな」
___パシッ!
ヒル魔が試合に関係ねぇ事を解説している最中、わざわざボールを俺達の方に投げてキャッチした奴がいた。
「おお、悪いね。こっちの声援は黄色くて」
『キャー!八上く〜ん!!』
「八上くん♡」
「コイツがどうしても応援に来たいって聞かなくて。あれ?おたくはぁ??女の子が一人もいなーい!」
「ぜってぇ倒す!頑張ろうぜ!!」
『ウオオオォォ!!』
なんか、やる気もない筈の助っ人達が纏まっていた。
まさかコレが、ヒル魔の狙いだったのか?
助っ人達が燃えている中、俺一人だけがヒル魔に呼び出されていた。何を言い出すつもりか知らねぇが、面倒な事になっちまったぜ。
「ルールとルートツリー*1は覚えてきたんだろうな」
「メールに書かれてた奴はな。つっても、流石に公式戦で咄嗟に動けるのかは全然自信ねぇぞ」
昨日の放課後送ったメールを、俺が一夜漬け出来ているかの確認だったらしい。これ、普通の奴は一日で覚えられねぇだろ。無茶振りしやがって。
「覚えたんだから出来んだろ!うちの公式メンバーを一人潰したんだ、代わりはキッチリ果たせ」
「公式メンバー?あいつ、主務じゃなかったのか」
言われてみると意外な様な、そうでも無い様な感じだ。
瀬那の足の速さを考えてみりゃ、試合で使いたくなるのは当然なのかもしれない。
多分、今言われてなくても途中で気が付いてただろう。
そんな事、俺にとってはどうでも良いが。
「足の情報持ってるんだ、ちょっと考えりゃ分かんだろ。
口外したらキッッツイペナルティだかんな!」
「うっす」
言われなくても、わざわざ口外したりなんてしねぇよ。
コイツに喧嘩を追加で売るなんて、面倒で仕方ねぇ。
当然ダチに頼まれたら、話は別になるが。
「てか、俺がやるのはタイトエンド*2とディフェンシブエンド*3……に見せかけて、緊急時は敵の隙を付いてセーフティ*4見てぇな動きをするんだよな。
そのポジションって瀬那と違うだろ。良いのか?代わりの俺をそこに使って」
俺は妥当な事を言ったつもりだったが、ヒル魔に鼻で笑われた。一応助っ人として真面目に考えてやったのに。マジで腹が立つ奴だぜ。
「ハッ!クソ案山子とクソ主務は身体の作りがちげぇだろ。同じコトさせたら劣化版になるだけじゃね〜か。
___俺がお前を使い熟してやる、一発で合わせろよ」
「へいへい」
俺は適当に返事をした。だって、天才の俺を使い熟せた奴なんて今まで居ないのだから。
俺と言う人間は、フィジカルもブレインもかなり良く、一見何でもやれそうに見える。
でも、決定的な弱点があるんだ。
……それは、自由意志で物事を判断出来ねぇって事。二択を出されても、どっちが良いかなんて選べっこねぇ。
ダチの考え方を判断基準にして選ぶ位は出来るけどな、流石にそんなのアメフトには応用出来ねぇよ。
「テメーは次の試合で秘密兵器として使う。
が、負けそうになったらワンプレーでも出すからな」
「そっすか」
今日は試合に出ない可能性が高いなんて知らなかった。クソ、それなら一夜漬けする必要無かったじゃねーか!
「良いかテメェら。負けたら終わりの試合、良い試合しようなんて思うなよ!ぜってぇ倒す、それだけだ。
___ぶっ潰す!ヤー!!」
『ぶっ潰す!ヤー!!』
恋が浜のオフェンス。相手のクォーターバック*5は、パスを選択しようとしている。
「フンヌラバ!」
「来させんな!デブ止めろォ!!」
___バシィィ!!
その瞬間、豚マン……じゃなかった、栗田がディフェンスを吹き飛ばし、クオーターバックにタックルを決めた。
「すっげぇラッシュ!」
「また栗田が決めたぞ!!」
正直、ここまで豚マンのディフェンスが強いとは思っていなかった。俺は、これは確かに関東大会の出場も有り得るのかもしれないと感じたのだ。
次はデビルバッツのオフェンス。
悪魔はパスを選択し、普通に成功したと思われたが……
___バッ、コロコロ……
「うわああぁ!!」
「パス、インコンプリート!*6」
残念ながら、今回は決まらなかった。ヒル魔はキレて地面を蹴飛ばし、失敗した奴に砂を掛けている。
第四クオーターになり、遂に拮抗が崩れてしまった。
相手がキック*7を選択した場面、栗田が抉じ開けた空間を助っ人が通り、クオーターバックに飛び掛かろうとしたが間に合わなかった。
「クソ案山子!出番だ!」
「うい〜っす」
俺は仕方がないので、試合に出る事になった。
こんな重要な場面で出されると面倒だが、自分の巻いた種だ。やり切って悪魔からの追及を躱すしか無い。
「おや?あれや有名芸能人の桜庭春人くんかな?」
『キャー♡♡』
___ドドドドド
なぜか悪魔は有名芸能人の観客を指差し、敵チームの彼女達を突撃させた。何故なのか、意味が分からねぇ。
「よーし!クソ案山子、やる事は分かってんな?」
「あぁ。ヒル魔の指示通り、パスかランで独走すりゃ良いんだろ」
「そうだ!ディフェンスの事は気にすんな、泣いても笑ってもラストワンプレーだ!
キューピッドのキックオフから始まるから、隙を伺え。俺がキャッチ出来たらパスで、出来なかったらテメーがキャッチしてそのままランだ!六対三、逆転勝利!!」
ヒル魔は無茶振りをしている。こんなの実質、俺一人で十一人を相手にしろと言う事だ。
確かに俺は天才だが、そんな事が出来るのか……?まぁ、たとえ出来なくてもやるしかねぇんだが。
「クソ案山子!___テメェが勝負を決めるんだよ」
「……分かった、全力で戦ってやるよ」
ここまで来たら仕方ねぇ、博打に付き合うしかねぇな。
あーあ、これでミスったら何されるやら。最悪だ。
蛭魔妖一 40ヤード走5秒1
伊川始 40ヤード走4秒4
小早川瀬那 40ヤード走4秒2