ハァハァ4兄弟   作:いちごケーキ

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主務モドキ

 

 

 

 

 試合に出る直前、俺は一人でグチグチ言っていた。

 悪魔の嫌がらせなのか、一輝達とポジションが少し離れてるから一人で突っ立ってなきゃいけねぇんだ。

 隣の奴の事、名前すらマトモに知らねぇし。

 

 

「あ〜あ。何で校内で銃ぶっ放してる奴に、ちょっとした暴力で通報なんて脅されなきゃ行けねぇんだよ」

 

 だって通報とか、マジで理屈が成り立ってねぇだろ。

 普通に考えて、骨折程度の暴行よりも銃器所持の方が犯罪レベルが高い。

 なのに、何でこんな事で脅されなきゃいけねぇんだよ。

 

 しかも今更になって、浩二が骨を折ったって事が間違いかもしれなくなったしな。

 アイツも不良だが、大怪我レベルの暴力を積極的に振ることは少ないんだ。そこまで攻撃しなくても、大半のパシリは怯むしな。

 だから弱っちい奴を殴ったら、つい折っちまったと勘違いしても仕方ねぇ。

 

 例えば、折ったのは骨じゃなくて携帯だったとかな。本当にそうなら、流石に気付いて欲しかったが……

 

 

 そうだったら、マジで骨折り損のくたびれ儲けだぞ。

 ハァ。ここまで来たらやるしかねぇけどよ、本当に悪魔は悪魔的手法を使うぜ。

 何なら、アイツが手下のパシリをコンビニ近くまで差し向けて来た可能性まであるしな。

 そしたら俺達が、暴力行為を働くと確信してよ。

 

 

「ケッ!バレたらヤバい悪事を働く方がバカなんだ、俺は対策してるに決まってんだろ。

テメェに細かけぇ判断力なんて期待してねぇ。テメェの恵まれたフィジカルで___フィールドを捻じ伏せろォ!」

 

 地獄耳の悪魔に、独り言を聞かれてやがった。

 悪事を働く方がバカって意見には同意出来なくもねぇが……俺みたいな天才でも、ダチとバカをやりたくなる事はあるのは仕方ねぇだろ。

 

 

 

 

 

 

 キューピッドのキックオフ。

 キッカーが蹴る瞬間の足を、俺は冷静に眺めていた。

 

 足を振り上げる瞬間、俺はパスを捨てて走り出した。

 ボールがヒル魔の方に飛ぶと、確信したからだ。

 

 

___シュ

 

 ボールは天高く舞い上がり、エンドゾーン付近に落ちていく。

 

 

『取らせるかあぁ!!』

 

 恋が浜は必死で取ろうとしているが、届く訳がねぇ。

 天才の俺の身長は186cm、更にジャンプも高けぇ。

 お前ら凡人なんか、束になっても敵わねぇんだよ!

 

 

___バシッ!

 

『わあぁ!!』

「行け!ハジメ、走れえぇぇ!!」

 

 ヘイデビルレーザー*1が前方で待機していた俺に通った。

 もちろん俺はエンドゾーン*2まで駆け出し、誰にも止められる事はなくタッチダウン。

 

 

___ピイイィィ!!

 

「ヤーハー!!」

 

 

 俺達の勝利を告げる、主審の笛が鳴った。

 会場は、割と大きな盛り上がりを見せている。

 

 

「デビルバッツ初勝利ー!!」

 

 栗田は大げさに喜び、助っ人達を上空に投げている。

 無駄にビビらせてるから、次からも助っ人に来てほしいならやめてやりゃ良いのに。

 いや、アイツは怖がらせてるのに無自覚だな。馬鹿だ。

 

 

「何とか勝てたな」

「いやこれ、勝ったらまた試合出なきゃいけなくなる奴じゃね~の?」

『ハァ……』

 

 一輝と浩二が、嫌そうにため息を吐いた。

 それもそうなんだよな。勝ち続ける限り、俺達は面倒なアメフトの試合から逃げられねぇ。

 ま、こんな助っ人ばっかの部活だ、心配しなくてもすぐ負けるだろうけどな。

 

 

 

 

 

 

 一週間後、俺達はまたアメフト会場に来ていた。

 勿論理由は、あの悪魔からの呼び出しだ。俺達は不良なだけあって、その辺の弱小運動部よりは身体も強えぇ。奴からの命令も聞くしかねぇし、さぞ良い駒だろうぜ。

 

 いや寧ろ、俺からすりゃ練習に来いって脅されなかったのが意外な気もするが。何でだろうな?

 

 

『桜庭くーん♡桜庭くーん♡』

 

 会場には大量の桜庭ファンが詰めかけて大盛況。

 まぁアメフト本体をを見に来てる奴は少ねぇだろうけど、アメフト協会さんはチケット代けっこう儲かったんじゃねぇの?

 良いな、試合の記念にサイン貰っとこっかな!後でプレミア付くかもしんねぇし。

 

 

「なんで地区大会にこんな人がいるんですか?」

 

 主務モドキが不思議そうにしている。

 耳付いてんのかよ、桜庭く〜んって声がそこら中から聞こえてんじゃねぇか。

 

 

「だ~よなぁ、アメフトってそんな人気だったっけ?」

「さぁ?知らねぇ」

 

 浩二と庄三も胡乱げな顔をしていた。

 ……だよな!アメフトが日本で流行ってるかなんて知らねぇよ、マジで不思議だな!

 

 

「王城の桜庭くん目当てだね、ほら!」

「ああ!あのアイドルの。それにしても、王城の選手って沢山いるんですねぇ」

「うん、なんたって名門だからね」

 

 主務モドキと栗田が平和ボケしたような顔で話してやがる。試合前だぞ?

 ……自分を誤魔化すのは止そう、現実を直視するんだ。

 

 

 

 

___あの40番、アレ何なんだよ?!

 

 俺と同等の速さながら、王者としての威圧感が滲み出ている足捌き。バケモンだって、一目で分かる動作だ。

 

 

___シュタタタタ!!

 

「うわぁ、凄い今の人!」

 

 主務モドキも漸く、奴の異常さに気付いたらしい。

 会場に来てすぐ気付けよ、少し見りゃ分かんだろうが。

 

 

「王城のエース、進清十郎って言ったでしょ?彼、凄い選手なんだよ!」

 

 進清十郎ねぇ?やべぇ、一発で名前を覚えちまったぜ。

 まあ俺は天才だから、そもそも一度聞いた事は早々忘れねぇんだけどな。

 

 

『キャー桜庭くーん♡♡』

「すっごい歓声ですね!みーんなエース桜庭さん率いる、ホワイトナイツへの歓声ですよ!」

「別に、俺が率いている訳じゃ。うちの本当のエースは」

「またまた謙遜しちゃって!可愛い~!」

 

 進清十郎をボケッと眺めてたら、アイドルがリポーターに取材されていた。

 やべ、しまった。サイン貰う機会逃しちまった。

 

 

 

 

 

 

「今日の試合は、この前とは訳が違う。あっんなままごとフットボールじゃねぇ、戦争だ!!」

 

 悪魔が、自信満々にそう言い切った。

 戦争て、意味分かんねぇ……とは言えねぇな。あの進清十郎が居るんだ、周りの奴らも相当ヤベェんだろうよ。

 つか、戦争っつうより虐殺されんじゃねぇの?

 

 

「てか進が出てくるんだろ?俺マジ帰りてぇんだけど」

「あぁ。去年の練習試合、思い出したくもねぇよ!」

 

 助っ人達が相当に怯えている。俺達が不良行為してる時の比じゃねぇよ、どんだけヤベェ奴なんだよ。

 

 

「去年、何があったんですか?」

 

 そう思っていたら、瀬那がボケッとした顔付きのまま栗田に聞いた。正直ナイスだ。

 今更聞いてもほぼ意味ねぇが、心構えは出来るからな。

 

 

「去年の練習試合、二人骨を折られたの」

「うわあぁ」

「は?」

「はぁ?」

「ハァ」

『はあぁぁ?!!』

 

 ダチ含めて、一年生が完全に青ざめた。

 薄々分かってはいたが、聞いてねぇよそんなん。一輝達の骨も、もしかして折られちまうんじゃねぇの?

 ヤベェよ、そんなん聞いてねぇよ!ふざけんな!!

 

 

「だが安心しろ、ボールを持つのはハジメとアイシールドだけだ。進のタックルは、全て奴らに行く」

『良かった~!』

 

 マジで良かった、それなら一輝達は傷つかねぇな。

 俺は耐久力にも自信がある、体重の籠った一発を食らっても、早々骨までは行かねぇだろう。

 

 今回だけは感謝するぜ、悪魔。

 俺のダチ達には、怪我をさせないでくれたんだからな。

 

 

「ええぇぇ!!あぁ……」

 

 主務モドキは口を大きく開け、へたり込んだ。

 つうことは暫定、あいつが悪魔からアイシールドって呼ばれてるんだな。

 まさか主要選手だったとは……生贄かもしれねぇけど。

 

 

 チッ、こりゃヒル魔をマジで怒らせてたのかもしれねぇな。危うく今大会で戦力外になる所だったんだからよ。

 

 これじゃ暫くは、奴の気に障る行動なんて出来ねぇな。

 瀬那の骨がホントは折れてねぇのはほぼ確定してるが、悪魔を刺激するよりは試合に出る方がいくらかマシだぜ。

 

 

 俺達は結局、暴行の証拠を奪い返せても居ねぇんだ。

 このまま放っといて、ダチ達は怪我をしないままの方針で行こう。

 

 

「そうだよ、やれるだけやってみようぜ!」

「始とアイシールドさん?が居れば、何とかなるかもしれないな」

 

 助っ人達が話している最中に、主務は逃げ出した。

 一瞬の隙を縫われたもんだから、天才の俺ですら捕まえる事が出来なかった。

 つかマトモな口実がねぇから、一旦頑張って捕まえた所で会場に縛り付けられねぇし。

 

 まさか奴のせいで、ダチ達が前線に立たされる事にはなんねぇだろうな?

___そうなったら恨むぞ、小早川瀬那!

 

 

「おい始、大丈夫か?」

「あ、ああ」

「流石の伊川でも、二人骨折野郎は怖えぇか」

「いや、うん……そうだな」

 

 そういう事にしておいた。コイツらを無駄に怖がらせる必要はねぇし。

 それに、あながち間違ってねぇしな。

 

 

「オイ、あのクソ主務どこ行った」

「逃亡」

「くそ主務とは何よ!瀬那ならビデオテープ買いに行きました!サボってるみたいなこと言わないで!」

「ビデオテープだぁ?あのガキ___逃げやがったな!!つうかクソ案山子!分かってんなら止めろ!!」

 

 やべ、俺にまで追求が来た。

 知らねぇよ!何で契約外の事まで察して動かなきゃいけね~んだ!テメェの都合なんか知らねぇよ!!

 ……やっぱ、無理にでも追いかけるべきだったか?

 

 

「一瞬だったんだよ!つか、そこまで知らねぇし!」

「チッ、ケルベロス!!あのクソ主務を……」

 

 悪魔は苛立ちながら、厳重な檻から凶悪な顔つきをした犬を解放した。

 小早川セナと書かれたビニールの中の匂いを嗅がせている。

 つまりこの犬に探させるって事かよ。マジか、勢い余って噛み殺したりはしねぇだろうな?

 

 

「食ってこい!!」

「嘘だろ?!」

「うわああぁぁ……」

 

 逃亡時刻の割に、近くに潜伏していたらしい。主務モドキは一瞬で引き摺られて来た。

 食い殺されなくて良かったな。これでダチ達も無事だ。

 

 

「アイシールドさんだ!」

「おお、凝った登場の仕方だな」

「ホワイトナイツに、目にもの見せてやってください!」

 

 馬鹿助っ人達は、妙に盛り上がっている。

 何で逃げ出そうとしてたって気付かねぇんだよ。普通に考えて、犬に引き摺られてんのはおかしいだろ。

 

 

「瀬那くん、帰っちゃったのかと思ったよ」

 

 ぼそぼそと栗田が声かけた。おい、割と普通に聞こえてんぞ。良いのか。

 瀬那は、気まずそうに頭をかいて苦笑いをした。

 

 

「いやぁ、あはは。皆がせっかくやる気になってるのに、逃げちゃったはまずいかなって」

 

 

___ゲシッ!

 

「うわぁ!」

「よし、集合」

「何で怒られたの?!」

 

 

 そして瀬那が唐突に蹴られて、俺はちょっとビビった。

 悪魔的な手腕を発揮する上に唐突に制裁する奴とか、怖くて仕方ねぇからな。

 いや、普通に考えて、逃げた事への制裁か。猛犬を嗾けても、まだ足りねぇのかよ!

 

 

「気合い入れたつもりなんだよ」

 

 栗田が嫌に優しい声で言った。意味分っかんねぇ!

 蹴られて気合いが入るとか、瀬那はドマゾじゃね~んだからよ。多分。こいつの癖なんて知らねぇけど。

 

 

 

 

*1
超長距離パス、確実に競り合う事になるので、キャッチする人の実力などが重要。拮抗していれば運任せに近い。

*2
相手のエンドゾーンまでボールを持ち込んだり、パスしたボールを相手エンドゾーン内でキャッチしたりすると六点




伊川は耳が凄く良いので、無自覚に盗み聞きしています。
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