ハァハァ4兄弟   作:いちごケーキ

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天才

 

 

 

 

「良いかクソ案山子!オフェンスの時、テメーは進をブロックする事を優先しろ。基本的にはアイシールドを守れ」

「ふーん、あくまでランプレー*1メインっつう事だな。

良いのか?マトモなオフェンス枚数で言ったら、ワイドレシーバー*2にでも配置した方がマシなんじゃねーの」

 

 アメフトの基本は、オフェンスライン*3の中央突破。

 ついでにランニングバック*4とワイドレシーバーが左右から突破。

 

 だがド素人の一輝達がラインに配属されている以上、中央突破は使えねぇ。

 ま、同じくド素人の俺が言えた事じゃねぇけど。

 

 

 つう事は右の瀬那が突破するか、左の誰かが突破するしか得点を取る方法がねぇんだが、どうもワイドレシーバーはマトモに使えそうにねぇ。

 それなら俺を置いた方が幾らか勝算があるんじゃね?

 

 まぁワイドレシーバーが使えねぇってのは、体付きを見た感じのテキトーな推測に過ぎねぇし、実はスゲェ奴かもしれねぇんだが。

 でも悪魔本人が、他にはタックルは来ねぇって断言してるんだよな。やっぱパス回す気ねぇだろ。

 

 

「それはオレも考えた。考えたが愚策だな。

手薄な戦力を無理に分散するよりも、一極集中させる方が勝算が高けぇ。ま、場合によっちゃやらせるが」

「へー、ふーん」

 

 俺は別にアメフトに詳しくねぇんだ。このスポーツが好きそうな悪魔が言うなら、それがきっと正しいんだろう。

 

 まぁ別に、間違っていても構いはしねぇ。

 あくまで俺達は、脅されてやってるだけなんだからな。

 

 

「俺らは敵を倒しに来たんじゃねぇ、ぶっ潰しに来たんだ!___ブッッ潰す!ヤーハー!!」

『ヤーハー!!』

 

 それにしても掛け声がヒッッデ〜な。もうちょい上品な言葉を選べなかったのかよ?いや、悪魔には無理か。

 

 

 

 

 

 

 試合前のフィールドは、熱気と歓声に包まれている。

 もちろん会場中は王城ホワイトナイツを応援していて、俺達は完全にアウェーだ。全く、嫌になるぜ。

 

 各々が一抹の不安を感じながらも、名門ホワイトナイツとの試合が始まった。

 

 

 センターラインから、俺達デビルバッツの攻撃。

 

 

「良いかクソ案山子、1stダウン*5は俺のランで行く。今回は何もすんな、敵の行動をよく確認しとけ」

「ん?ああ、分かった」

 

 ヒル魔から耳打ちされた時、一瞬自分の耳を疑った。

 初っ端から無茶な奇策をしても、そう上手く行く訳もねぇからだ。

 進率いる名門校が、その程度の対策をしていない筈がない。そんな事、ヒル魔だって分かっているだろう。

 

 なるほどな……大方、相手の動きを見る為だろう。

 初っ端からの奇策に奴らがどう動くのかを見る為、一回の攻撃権を使うのだ。

 

 

___タタタ

 

 スナップ*6した瞬間、本当にヒル魔がランをした。

 どうも俺以外には作戦を知らせていなかったらしく、味方が棒立ちしている。敵を騙すには味方からって事か。

 

 

 つうか、おかしくね?フィールド上に40番が居ねぇ。

 アレを出さねぇ意味が分かんねぇが……ああ、そうか。俺達を完全に見下してんだな。

 

 まぁ戦略上、理屈は理解出来る。主力選手のスタミナ温存なんてどこのチームもやってんだろ、多分。

 まぁ俺、アメフトの事なんて全く詳しくねぇけど。

 

 

___ダンッ!

___ピーッ!

 

 当然、ホワイトナイツの奴らは騙されない。

 鉄壁の様なディフェンスラインは冷静にラインを潰し、クオーターバックのヒル魔にタックルをした。

 

 

「ケッ、やっぱ恋が浜戦みてーには行かねぇか。

___だがチャンスだ。全員うちを舐めてやがる。そこで、アイシールド21!奴らの度肝を抜いてやれ!」

 

 悪魔が口を釣り上げ、凶悪に嗤った。

 イかれてる奴だと、一目で分かる凶悪さだった。

 

 そんな奴が味方にいるにも関わらず、主務モドキ兼主力選手の瀬那がホワイトナイツへの恐怖と緊張でガクガクと震えている。

 これじゃ、上手くいくモンも行かなくなりそうだ。

 

 

 

 

 

 

「Set! Hut! Hut! Hut!」

「ヒイィィ!」

 

 

___ガシッ!

 

 2stダウンの攻撃が始まり、オフェンスラインとディフェンスラインがヒットしてもクソ主務は動かねぇ。

 完全に足が竦んでやがる、こりゃやっぱ駄目だな。

 

 

「走れェ!!」

「ヒエッ!」

 

 悪魔の叫びで正気を取り戻し、奴は慌てて走り出した。

 俺もタイトエンドとして奴を守る為に、追随して走っている。……つうかこの場合、俺がヒル魔からボールを受け取るべきだったのかもな。

 

 

___スタタタ、シュッ、スタタタタ!

 

 瀬那は意外な事に王城ラインを次々と爽快に抜き去っていき、エンドゾーン*7に近付いて行った。

 

 

「ウオオオォォ!!」

「うわあぁ!」

 

 60番の恐らく主将が、瀬那の走りを止めに来た。

 190cmを超える肉体の圧力に、主務モドキはビビって足を止めようとしている。

 

 

___ガシッ!

 

「行けっ!瀬那!!」

 

 確かに俺は奴に体格で負けているが、パワーまで負けたつもりはねぇ。

 しっかりと60番をブロックした後、アイシールド21に指示を出した。

 ったく、一々言わなきゃ走れもしねぇのかよ。コイツ。

 

 

___ピーッ!

 

「タッチダウン!!」

『おおおおお……』

 

 俺達が負ける事を望んでいる観客達が、予想外の展開を見てどよめいている。

 ザマァ!ド素人二人に裏をかかれるなんて、強豪校の名が泣くな、お笑い草だぜ!

 

 

「うわああぁ!ホワイトナイツ相手に、俺達リードしちゃったよ!!」

「さっすがぁ!二人で全部抜いちゃって!凄いよお前ら〜っ!」

「よくやった!……けどな、走る時の持ち方がおかしいだろうが!ボールの持ち方も知らねぇのか!」

 

「始お前、やっぱ天才だわ!」

「アイツらを止められるなんて思ってなかったぜ!」

 

 チームメイトに褒められた直後、瀬那が悪魔に鉄拳制裁されているのを横目で見ながら、俺は悠々とダチ達の元に帰った。

 ダチに褒められるのはやっぱり嬉しくて、柄じゃねぇニヤケ面を隠せねぇ。

 

 

「まっ、いちおー天才だかんな!」

 

 俺は天才だから一人の凡人をブロックするなんて楽勝なんだと、自分に酔うような軽口を叩いた。

 つっても一応、次はこんなに上手く行かね〜だろうと分かってはいる。

 

 

「あの40番が出てきたら話は別だけど」

 

 早々に得点を決められたこの場面、進清十郎は十中八九出てくるだろう。マジで面倒だ。向こうの監督がとち狂って、無理に温存してくれたりしねぇかな?

 

 

「誰もが予想していなかった事が起きました!

試合開始一分、なんと無名チームの泥門デビルバッツが先制しました!」

 

 リポーターの驚いている声が小気味良い。

 なんつうか、自己肯定感が満たされる感じだ。

 一番注目されてんのは瀬那だって分かっちゃいるが、俺もけっこう活躍したからな!

 

 

 

 

 

 

「よし、トライフォーポイント行くぞ」

「それってね、タッチダウンを決めたら出来るボーナスゲーム。キックでボールポストに決めたら1点、タッチダウンなら2点追加なんだ!」

「んじゃキック行くぞ……クソ案山子、テメーが蹴れ」

 

 いやいや、無茶振りすんなよ!10フィート*8の高さがある場所を蹴って狙うなんて、した事ねーぞ!

 練習したら話は別だろーがな、いくら天才の俺でも今やれって言われても無理臭ぇぞ!

 

 

「ハァ?!無茶言うな!」

「試しだ試し!端から決まるなんて思っちゃねーよ」

 

 正直、奴の言葉にホッとした。全く決められる気がしなかったからだ。

 それなら俺が蹴るんでもい〜や!決まんなくて怒られねーなら、マグレ狙いで蹴りゃ良いだけだしな!

 

 

 

 

 

 

「Set! Hut! Hut! Hut!」

 

 

___ズドンッ!

 

 俺は横長いアメフトボールを、サッカーボールを蹴る時の様に打ち切った。

 グラグラと不規則な回転を描き飛んでいき……なんか偶然成功してしまった。

 

 

___ピーッ!

 

 審判の笛が鳴り、1点追加。もしかして俺には、球蹴りのセンスもあるのかもしれねぇ。

 

 

「よっしゃ!ラッキー!」

『おおおお!』

 

 自然と喜ぶ様な声が出ていた。

 アメフトなんかにゃ興味ねぇ筈だったんだが、こうも上手くいくとけっこう気持ち良かったのだ。

 当然助っ人達も喜んている。そりゃそーだ。俺含めて、誰も決まるなんて思ってなかった訳だしな。

 

 こりゃヒル魔も笑ってるだろうと振り向くと、何故か複雑そうな顔をしていた。

 何でだよ?決まるとなんか、不都合でもあったのか?

 

 

「……これで7点。幸先いーじゃねぇか!」

 

 一瞬遅れて、悪魔が凶悪に嗤った。

 機嫌が悪そうに見えたのは気のせいだったか。そりゃそうだ、点数決まって何が悪いって感じだしな……多分。

 

 

 

 

 

 

「守備行くぞ!集まれ!!」

 

 ここから更にキツい、泥門デビルバッツのディフェンスが始まる。嫌だなァ、めっちゃキツいだろうしなァ。

 

 強豪校相手に攻撃を決めるのもキツいが、守備はそれの比じゃねぇだろう。

 オフェンスは天才二人で成り立ったが、ディフェンスはそう上手くは行かねぇだろうからな。

 

 

「素人ディフェンスで、王城を止めんのは無理だ!

パスもランも、100%止めらねぇ!」

「それじゃマジで、俺らどうしようもねぇじゃねーか」

 

 俺はつい、愚痴の様なものを零してしまった。やべぇ、悪魔に潰されてしまう。

 俺は内心ビビりながら奴を見たが、何故か意外にも怒ってはいなかった。

 

 

「そこでだ!長距離パスを誘発させる!」

「むっちゃくちゃだ!」

 

 栗田の言う事に、俺は全面同意した。

 だって普通に考えて、偶然相手がビックプレーを狙ってくるのを狙うなんてバカバカし過ぎるだろ!

 

 

「アメフトに偶然はねぇ!

___ラッキーパンチってのはな、狙って出すモンだ!」

 

 ヒル魔の言う事に、俺達は何となく納得してしまった。

 つまり偶然を狙わなきゃ勝ち目がねぇ状況って事だ、それなら神にでも祈って実行するしかねーだろうな。

 

 仕方ねぇから俺は、悪魔の口車に乗せられる事にした。

 

 

 

 

 ここまでは上手く行ったが……ここから先は、正直天才のキツい事の連続なんだろう。大勢の観客達の前で無様を曝す恐怖に、俺は少しだけ怯えていた。

 まあ俺がミスる前に、他の助っ人がミスってくれると思うけどな?それでも怖いモンは怖いんだよ。

 

 

 

 

*1
クォーターバックからボールを受け取ったランニングバックなどの選手が、ボールを持って走るプレーを指す

*2
攻撃ポジションで、クォーターバックからパスを受け取るのが主な役割

*3
ボール保持者を守る役割を担う。センター1人、ガード2人、タックル2人で構成され、ディフェンスから守る献身的なプレーで全てのオフェンスのプレーを支える。

*4
攻撃側のポジションで、クォーターバックからボールを受け取って走るのが主な役割。原作主人公のポジション

*5
攻撃チームに与えられた、4回の連続攻撃権の最初のプレー。それでで10ヤード以上前進するとファーストダウンになり、再び4回の攻撃権が与えられる

*6
攻撃チームのセンターが、クオーターバックの指示に従ってボールを出す事。この動作から攻撃を開始しないとルール違反

*7
ボールを持ち込んだり、パスしたボールを相手エンドゾーン内でキャッチしたりすると6点

*8
約3m




「進のプレーは全部取れよ」
「了解、桜庭はどうする?」
「バーカ、ジャリプロなんてどうだって良いっつうの!
つうかよ___ナニモンだ、あの99番」
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