ハァハァ4兄弟   作:いちごケーキ

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気まぐれ

 

 

 何も言わずに進が去っていった後、ヒル魔が唐突に大声で騒ぎ始めた。

 

「次はロングパス行くぞー、ロングパース!」

「伊川が行くのか!」

「あいつ、やっぱワイドレシーバーも出来るのか。」

 

 助っ人達がどこか納得したような空気を出している。

 確かに俺は天才だから、キャッチングも卒なく熟すが……ヒル魔が態々、宣言した意図が読めなかったのだ。

 

 普通に考えたら相手を錯乱する為だが、逆にそう思う事を見越して本当にロングパスを通すかもしれない。

 ま、どちらにせよ俺は悪魔の指示に従うだけだから、考える必要はない。そうと分かっていても一瞬だけ戸惑ってしまったのだ。

 

「なぬー、パスだとぉ?!進、パスらしいぞ?そう思わせて裏をかいてくるかもな!って、その裏を……?」

 

 早速、悪魔の手腕に引っかかったのは60番。奴は絶対に何かして来るという思いが、ホワイトナイツの奴らを惑わせているのだろう。

 ……いや王城は、ヒル魔を含めて俺達なんざ眼中にねぇか。気のせいだったわ。

 

「憶測は無意味です、目の前の動きだけ信じましょう。何時もの布陣で、いつも通りに――ホワイトナイツのディフェンスが破られることはありません。」

「ん?やっぱお前が入ると締まりが違うわ~っはっはっは!」

 

 馬鹿が騙されかけてくれた(いや、悪魔の手腕がやべーのか?)瞬間、嫌に冷静な目つきをした40番が訂正を入れやがった。

 

 ――瞬間、王城の空気が変質。

 東京王者(多分、知らんけど)としての誇りでも思い出しやがったのか、俺達に14点も無様に先制された事を忘れたような顔をしてやがる。

 

 そーいう冷静な判断が1番困んだよな。俺達の手駒は、天才の悪魔と俺とオマケで主務モドキと、パワーの豚マンしかねぇんだからよ。

 まっ、正直ジリ貧じゃね?俺はどうしよ~もねぇと思うが……どうなんだ、悪魔。

 

 

 

 

 奴は、頑なに右の瀬那で行く命令を出した。

 

 瀬那がモブエリートを抜くのは前提。

 俺が、自称天才の俺が、本物の天才(天才エリート)に食らいつく……?

 

「Set! Hut! Hut! Hut!」

 

 仕方ねー、やるっきゃねぇんだ!

 自称天才の俺が、本物の天才40番を止める!!

 

 瀬那が走り出した!

 俺は、おいてかれねーように食らいつく!

 

「栗田来るぞ!使え!」

 

 マジで素人かよコイツ!混戦の中、エリート共をすり抜けやがった!

 これが、天才の証!

 それなら俺は、同じルートを通るだけ!

 

 けど、栗田は40番に負けた!スピードが違い過ぎる!

 でもそれは、ヒル魔の想定内!

 

「突っ込め!40番は、俺が止める!!」

 

 更に加速して突っ込んでく瀬那に、立ち向かう40番。

 来るぞ、スピアタックル!

 

――ガッ、ミシッ!

 

「……ッ!いってぇなァ!!」

 

 俺は青天されちまって、無様にグラウンドに突っ伏した。

 でもよ、このワンプレーは――俺達の勝ちだ。

 

――ピイイィィ!!

 

「タッチダウン!!」

 

 今回は奇襲が決まった。

 それも、俺にムカつく理由で。

 

 薄々、ヒル魔に脅される前から察してはいたが……俺は初速が遅い。少なくとも、瀬那よりは。

 そして、それを40番に察されたんだ。

 まぁ逆に、終速なら勝てるかもしれねーが……俺の最速は多分、アメフトじゃ出せねぇだろーな。

 

 そんな俺の事情なんざ知らねー今回の40番は、俺が追い付かない前提のタックルをした。

 だから、ド素人ディフェンスの俺が食らいに行けたんだが、なぁ……やっぱムカつく!

 

 どちらにせよ、俺の感情なんざ勝負に関係ねぇ。

 

 次の奴は、修正を完了させてくる。

 これは悲観じゃねぇ、事実だ。

 

――ズドンッッ!!

――ピーッ!

 

「21―0!圧勝だぜ!ya-ha!!」

 

 今は、俺達が勝ってるが、圧勝なんて有り得な……いや、今は悪魔の軽口を信じるしかねーよな。

 

「メーモン様ざまぁ〜!日本一の守備だか知らねーけどよ、俺らに何回抜かれてやがる!ざーこざーこ!!」

「何だと?!!」

 

 俺に出来んのは基本、守備と煽る事だけ。

 ま、それでもさ。俺達、1割くらいは勝てっかも?

 

 ……なんてな。

 冗談にしては笑えねーし、バカバカしい。

 

 

 

 

「クソオオォ!泥門如きになんてざまだぁ!」

 

 向こうの監督らしきジジィが、資料らしき紙を叩きつけて切れている。

 うっわだっさ!負け惜しみしてんじゃねーぞ!……俺も気をつけよ。身に覚えがあり過ぎる。

 

 ……つーか俺、なんでこんなにアメフト真面目にやってんだっけ?あほくさ。

 

 俺は、正気に返った。

 危ねー、なんか熱血スポコン野郎になるトコだったぜ。

 俺が爽やかな青春を送るなんざ、にっあわねー!

 

「監督、自分が間違っていました。」

 

 40番の声は対してデカくはねーが、俺の耳には無駄に入ってきやがる。

 

 そりゃそーか。ひっさしぶりだぜ、こんなに危機を感じたのはよ。

 今日だけで何回ブッ飛ばされるんだろうな?俺。

 

「40ヤードを4.5…いや、4.4*1と思われるスピードに超人的なカット……彼は恐らく、長年に渡り走力の特殊訓練を施された人物です。*2

「むぅ、なるほど……」

 

 俺と違って世間様に評価されている向こうのエースが、妙な……だが、俺からすれば納得出来る様な気もする仮説を言っている。

 

 確かに、主務モドキの速度は可笑しい。

 俺と奴に才能の差、いや、初速適性の差があるにしても、日本最強にド素人が追い付けるって考える方が間違ってんだろ。

 

 例え瀬那が世界最高の資質を持っていると仮定しても、国内最高クラスの才能を研磨した天才と同等クラスの加速を叩き出すなんて――ありえねぇ。

 

「オイ、アイシールド21。お前……走力の特殊訓練なんざ受けてたりすんのか。」

「えっ?ああえと、特殊かは分からないけど、小学生くらいの頃から――」

「次、とっととディフェンス行くぞ!奴らが狼狽えてる隙にな!いいか豚まん、テメーは大田原とテキトーに1人を止めろ。

 クソ案山子、テメーはクォーターバックを本気で!狙え。スタミナ残そうなんざ100年速えぇんだよ。」

 

 あ〜納得。主務モドキは、一応ガチ系のスポーツマンだったってコトか。そりゃ、悪魔に期待される訳だ。

 俺がいくら天才でもよ、才能のある奴に努力されちゃ、敵わない事だってあるわな。良かった良かった。

 

 ま、俺が負けてるカラクリが分かったからって、試合の勝敗とはあんま関係ねぇけどよ。

 

「うぃーっす。でも、次からどうすんだよ。次はあんな上手く行かね〜だろ。」

 

 進へのブロックが決まったのは、マグレと初見って所がデカい。つまりどう考えたってよ、次も決められる確率は低い。

 悪魔なら、説明しなくても分かるだろーが!

 いや、意外と分かってなかったりするのか……?

 

「だろうな。けどよ、向こうが32点入れる前に1回決めりゃ勝ち目はあんぞ。*3

「え、そんな決められても良いのかよ?」

 

 そんなに決められちゃ、俺達が負けてんじゃねぇの?

 その後にマグレで決めたって、そこから先で点を取られ続けちゃ負けんだろ。

 

「良くはねー。だが、可能性は残るっつー話だ。つーか、いいか案山子!テメーのやるべき事はな、状況判断なんかじゃねー。

 勝ち目がある時は、勝つ事だけを考えろ!1%の勝ち目があるなら、奪い取りに行くんだよ!」

「…………」

 

 俺は、悪魔の理論に、感情では納得出来なかった。

 奴が本気で言ってると気付いちまったせいで、尚更。

 

 だってよ……何を言おうがこの勝負、最後はどうせ勝てねぇだろうし。

 

 その事実は、どんな軽口を叩いたって変わらねぇ。

 運良く21点を先取したって、向こうは本気で対策を練ってくる。こっちはジリ貧だ。

 

 いや、まだ16点入れられる前になんて言われてたら気持ちは分かる。勝ちたいから冷静さを失って、可能性に縋ってんならな。

 

 でも――ヒル魔はそうじゃねぇ。

 冷静に勝てる確率を計算して、勝ち目が薄い事を理解して。それでも1%を追い求めるってんだから、振り回されてるコッチは溜まったモンじゃねぇよ。

 

 クソッ――本当に格好いいコト言いやがって!!

 面倒くせぇし、痛ぇしアメフトなんてダッセーし、やらない理由ばっかなのに……この試合を、勝たせてやりてぇと思っちまった。

「分かった。今日だけ……嘘に騙されたが、乗っちまったから、な。」

 

 だから――分かったよ、仕方ねぇな。

 お前は嫌いだけど、今日だけは!!

 

「――今回だけ、お前の言う事に全部従ってやんよ。マジで感謝しやがれ!」

 

――ゲシッ!

 

「ってぇな!」

 

 ちぇっ、せっかく乗ってやったのに蹴りやがって!

 ……蹴らなくても、気合い入れてるっつーの。

 

 

 

 

 一輝が珍しく神妙な顔で、こっちに近付いてきた。

 黒木も戸叶も、不思議そうな顔をして隣を歩いている。

 

「……おい始、騙されてるってどういう事だ?」

 

 えっ?試合前に瀬那が、へたり込んでただろ。それで気付いてなかったかのか……?

 いや、運良く俺が気付いてたのに、説明しなかったのが悪りぃや。

 

「知らなかったのか?」

 

 ダチ達には今回、申し訳ねーことしちまったな。

 更にこっから、俺の都合に巻き込ませてくれって頼むんだから……ヒデェ奴だ。俺は。

 

「えっと、悪い、気付いてないと思わなくてよ……今回だけ、遊びに付き合ってくんねぇか。」

 

 親友達の顔が見れなくて、俺は芝生に話し掛けている。

 

 ……俺は頭脳もフィジカルも天才だけど、こいつらと同等の人間なんて思い上がっちゃいねぇ。

 俺は底辺育ちの盗人で、こいつらは光の道を歩み続けた人間なんだ。

 ちょっと今はヤンキーしてっけど、そんなのは俺のやらかしからしたら誤差の範囲だしな。

 

『いいぜ。』

「えっ……?」

 

 ダチ達は何の躊躇いもなく、俺の願いを叶えてくれた。

 まるで、最初から――俺と一緒に試合に出るって、決めてくれてたみたいに。

 

 そんな筈はない。

 

 だってコイツらも、アメフトなんて興味ねぇから。

 俺みたいに、親友だけが好きなわけじゃねぇんだから。

 

「観客で囲まれてる今逃げたらよォ〜舐められんだろ。」

「そーそう、ここで勝ったら自慢出来るし?」

「それに、始の頼み事なんて珍しいからな。」

「そーそう、アメフト選手でも目指したいワケ?」

「良いんじゃね、伊川は天才だしな。」

 

 ダチ達は、普段みたいに漫才をしながら、俺の気まぐれに付き合ってくれるみたいだ。

 俺はそれが、試合の勝ち負けなんかより大切で……

 

「――ありがとう、一輝、浩二、庄三。」

 

 笑み崩れないように、泣かないように堪えながら、俺は普段通りの顔を作った。

 

 

 

 

 

 

――バキッ!メキッ!

 

『ギャーー!!』

「タッチダウン!!」

 

 ダチ達を含むラインが崩壊して、一気にエリート様達に決められた。

 それはそれとして(友情は嬉しかったけど)、やっぱり勝てる気はしねぇな……

 

 

*1
=高校最速。瀬那の本当の速さは4.2だが、アメフトの技術が無いため0.2低く見積もられている。原作では4.6と思われていたが、伊川のフォローによって弱点が露呈しにくかった。

*2
大体合ってる。近所の天才少年に走り方を教わってから、彼は何年も努力を続けていた。

*3
同点に追い付かれるまでに、1回のブロックを決めたい。現時点で21点も勝っている。2回に1回、こちらの攻撃が成功するとして、追い付かれるのは向こうが32点決めた時。ガバガバ計算。




身長

金剛阿含 175cm
伊川始  186cm
栗田良寛 195cm
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