前半終了で、21-8。点数的には爆勝ちだが、正直油断と隙を突いたとしか言いようがねぇ。
こっから先は、あの進清十郎と俺のタイマンになる。
天才とはいえ素人の俺じゃ、鍛え上げられた天才相手に勝てっこねぇと思うんだが、もうやるしかねー空気なんだよなぁ……
こちとら、主務モドキが全部抜き去るのを、狙うっきゃね~んだからよ。ったく、めんどくせ~な!しかたね~からやってやるよ!
「アイシールドさん、マジ速いっすね~!」
「そうそう、あのホワイトナイツから、一度もタックル食らってないし✨」
「うっ、ウンんん。いや、この得点は皆の力さ。
君達のブロックが無ければ、最後まで走れはしなかった」
『おおおお……!!』
「うちの始の活躍も、忘れんなよ?」
「そ~そ~、それと俺らもな。」
「うん……君たちも、凄い選手だ。」
試合に出てる奴らは、ベンチで休憩を取っている。
が、俺は1人で佇みながら、何となく思いついた策の検証に入っていた。
失敗して、接戦で負けて、悪魔に恨まれるリスクはある。
それでも、勝つ確率を上げんなら、それしか無いような気がした。
後半開始直前、俺は蛭魔に向かって指をピストルの形にして指した。
奴が俺を見た瞬間、俺は指を俺に指し直した。
「なんだ、言え。」
「次のディフェンス――俺を
悪魔は、口裂け女みてぇに嗤ってから、俺に近付いてきた。
「策があるんだろ?――言ってみろ。」
奴は耳元で、どす黒い声色で囁きやがった。
クソみてーな案だったら、許さなぇと脅されているのだろう。
俺は、40番にタックルされた時よりも冷や汗をかきながら、それでも虚勢を張って嗤った。
「あのクオーターバック、見てたら
「……試してみる、価値はあんな。」
蛭魔はそう言い、俺に背を向けて、威風堂々とグラウンドに歩いていく。
俺はなんつうか、コイツに勝てる気がしぇねと思った。
……マジで、二度と喧嘩を売りたくねぇぜ。ダチの為なら、するけどよ。
後半戦、王城ホワイトナイツからの攻撃。
俺は普通のラインバッカーより、1ヤード後ろを陣取った。
多少到着が遅くても、俺の足なら追い付けるからな。
「SET!」
向こうのクオーターバックが言った瞬間、両ガードが前傾視線の予備動作をし、目線がダチ達ディフェンシブラインに固定されている。
多分、中央パスが来るな、こりゃ。
SETから0.18秒後、クオーターバックのハムストリングス*1が収縮。ランニングバックへのハンドオフが濃厚。
同時に、ランニングバックの右ふくらはぎが一気に張った。明らかに前方直進を意識している。
恐らく、次の瞬間にラインは粉砕して、相手ランニングバックは中央右寄りを突破する。
つまり俺は、味方の崩壊と同時に、相手ランニングバックをブロックすりゃいい。
0.42秒後、ランニングバックの肩が見えた。
カット動作無し、俺は直進する。
0.68秒後、味方ディフェンシブラインが、豚マン以外崩壊。
敵ランニングバックの、左足ハムストリングが完全収縮→次の踏み込みでトップスピードに入る。
もう俺を隠す必要はない。敵に全力で突進する。
0.80秒後、衝突寸前。
俺の肩を、相手をぶっ壊すように配置。
敵は防御姿勢を取っている。壊しきれない可能性大。
0.90秒後、本気タックル。予測通り、味方ラインから1.5ヤード奥でヒット。
天才の馬鹿力で、ランニングバックをぶっ壊そうとした。
「2ヤードゲイン!」
「おおぉ……」
残念だが、慣性の法則と防御姿勢に勝てなかったが……次こそぶっ壊す。
それとどうでもいいが、おっさんのうめき声がキモイ。
司令塔の悪魔が近づいて来て、耳を俺の口元に寄せた。
大方、再現可能なプレーかを聞いて来るんだろ。
「始――今の、どうやった。」
「筋肉の動きなんざ、見たら分かる。そういう事だ。」
尖った耳が至近距離にあって、ウザい。
だけど俺は、淡々と今のやり方を説明した。端折ってるが、奴なら分かんだろ。
奴は目をかっぴらいて、瞬間、イかれた顔で……笑った。
「分かった。
「おう、やってやろうじゃねーか。」
後半は、徐々にホワイトナイツに巻き返される展開。
そりゃそ〜だ。見えてる範囲の数人だけ、どこ動くか分かってたって、止められね〜時は止められね〜よな。
いくら天才でも、物理法則にゃ勝てね〜し。いや、場合によっちゃ勝つやつもいるかも?知らんけど。*2
俺は、オフェンスでは瀬名の盾、ディフェンスでは40番を0.5秒止める役だ。
アイツの腕を、身体全体の力を使ったタックル*3、マジで痛えんだよな。もう何十回食らいに行った?痛ってぇなクソ野郎!!
イライラしてたら、遂に同点まで追い付かれて、暫くの時間が経過。同点延長が見えてきてるが、そしたら俺らの負けだ。
主戦力もダチたちもザコも、既に満身創痍。
疲れてねぇのは俺くらいだからな。
マジムカつく。ここで負けたら、これだけバカスカ痛い目に遭った意味がねぇじゃねぇか!……あれ?そういや、脅されて渋々参加したような……?
「よーし、さっきと同じで行くぞ。アイシールド21がラインの右側を抜けていく。つーかライン共!しっかりブロックしやがれ!」
ヒル魔がキレながらダチと助っ人に指示を出している。
んな事言ってもなぁ、競技をマトモに知らないんだから無茶だろ。俺みたいな天才じゃねーんだからさ。
「そんな事言われても、パワー差あり過ぎるし」
「伊川が上手くやったじゃねーか、それで良いだろ」
モブ共とダチ達が、妙に仲良くなり始めている。
ずりぃぞ、俺をハブらないでくれよ!
「完璧なブロックなんざ期待してねぇよ。
0.5秒!各々、俺の指示したターゲットを足止めしろ。
その間に___アイシールド21が抜く!!」
『おおーっ』
俺達は何となく関心して相槌を打った。
なんか上手く行けそうな気がしてきたからだ。
「クソ案山子!テメーはキッチリ止めに行くんだよ!」
「えー……ういーっす」
俺は0.5秒の時間稼ぎじゃ駄目らしい。チッ、面倒な事言いやがる。
そう思いつつ、渋々俺は了解するしかなかった。
「ドンマイ伊川!」
「キツそうだが……頑張れよ」
「おー」
悪魔の指示に従い、俺達は指定位置に向かおうとした。
何故か、瀬那と栗田は動いていなかったが。
一瞬俺達は、何事かと思って立ち止まってしまった。
「うわぁ、うわあぁ……!」
「瀬那くん、瀬那くん!ホワイトナイツのディフェンスは、多分日本一だよ。一人で抜こうとしたら大変だけど……だけど僕達ラインや伊川くん達を、盾だと思って!
僕達は君を守る盾になる。だから安心して走って!」
「た、盾。栗田さんとか伊川くん達が、盾……」
なんかアイツら、こんな時に青春してやがる。そんな事言ってもさ、マトモにブロック出来る訳がねぇのによ。
……それにしても、盾か。
仲間を守るっつうのは、ヤバい喧嘩の時と似てるな。
まぁ、主務モドキはダチじゃねぇけどよ。
残り九秒で、キックオフ時点から65ヤード*4進まなきゃ行けねぇ。俺の足がどれくらいの速さかは知らねぇが*5、直線に進めりゃ14秒位だな。*6
大分押し込まれてんのに、無茶言うなよな。ヒル魔。
つまり俺がボールをキャッチ場合、絶対に三秒以内に拾わなきゃなんねぇ。キックの時間を加味してだ。
逆にヒル魔が拾っちまえば、アイツがミスらねぇ限りは絶対に勝てる。俺が走って行った所に、アイツが投げこみゃ良いんだからな。
「Set! Hut! Hut!!」
「フンヌラバ!」
――ガシッ!
オフェンスラインが衝突し、瀬那が走り出した。
なんつうか、奴の走りから恐怖が消えている感じだ。
40番が、うちのエースに向かって突進しようとしている。
俺を視界に収めながらも、瀬名だけを見ている。
瀬名は相手ディフェンスの隙間を見据えているだろう。
今までの傾向と大腿四頭筋の動きからして、右前3ヤード、左1ヤード、右前5ヤードのディフェンスを抜けていき、成功させるだろう。
但し、右前5ヤードのディフェンスを囮にした、40番が瀬名に肉薄する。
俺はそこで、0.5秒の盾になれば良い。
ヒル魔はもっと止めろとほざいてるが……俺はこれが限界だ。それに、こんだけ止めりゃ、アイシールドが抜く。
――ピイイィ
「33ヤードゲインッ!」
「オラアアァァ!!」
ゴールまで残り28ヤード、秒数は残り4秒、相手は歯を食いしばって悔しそうな顔をしている。
ザマーミロ、俺達を舐めるからだ!
「飲まれるな!怖いのは99番と21番だけだ!」
――ガシッッ!
俺は瀬那に向かって突っ込んで来た60番をブロックし、まるで奴が本当にボールを持っているかの様に見せかけた。これで相手ラインで2番目に怖えぇ奴を封じれたんだ、上手くやれよ、ヒル魔!
「泥門、8ヤードゲイン!」
『ヒイイイィィ!!』
決まった!!ここで選択すんのは一択、俺のキックしかねぇ!!1点でもありゃ勝てんだ、+5ヤードくらいなら、決められる可能性はある!
残り2秒しかねぇんだ、俺がやるしかね〜んだよっ!!
「ヒル魔っ!分かってんだろうな!」
俺は咄嗟に、悪魔に向かって叫んだ。
奴は何故か、苦悩の表情を垣間見せている……キック、俺に蹴らせたくねぇんだろうな。妙な思い入れでもあるんだろ。多分。
奴は目を瞑り、ギラギラした表情をして俺に叫んだ。
「――決めろよ!案山子!」
ホルダー兼任のヒル魔が、ボールを支えている。
軸も固定されている。風向きを考慮もしている。
――悪くねぇ。これなら、今回も行ける!
「せ、」
モブが叫び始めた。
その瞬間、俺はキックのモーションに入る。
「セット!」
ヒル魔がボールを離した瞬間、俺は―――
――ズドンッッ!!
――ピーッ!
主審が両腕を天に突き上げる。
「フィールドゴール成功!」
観客席のどよめきが大きくなる中、今度は腕を水平に交差させた。
「試合終了!」
『おっしゃーーっっ!!』
「俺たち勝っちゃったよ!あのホワイトナイツに!!」
「やーーっべ、マジで感動したわー!」
ケッ。めーもん様、ザマァ見やがれ!俺たち雑魚の勝ちで〜す♪来年出直してくださ〜い♪
……ん?もしかして、まだ、試合が続くのか……?
俺、やっちまったかも!!
1秒未来視チート(瞬間予測視覚?)の制約
見えている範囲のみ。しかも数人まで。
但し、アメフトは1ターンで6秒くらいまでなので、十分すぎる。