ちゃらんぽらんトレーナーと被害者達の会 作:ウマ娘世界に転生したいだけの人生だった…
処女作
転生
気が付けば、俺はウマ娘がいる世界に転生していた。
実際にこんなことってあるんだなぁ。
前世の記憶を思い出したのは乳児期を過ぎた頃だったから、ママの乳を吸った記憶はねえぜ。
バッチリ下の世話はしてもらったけどな!
そんな赤さん時代の話はどうでもいいんだ。
ウマ娘ワールドに転生したってんなら、やることはアレしかねえよな?
というわけで、ちゃちゃっとウマ娘のトレーナーになったぜ。
所属は中央トレセンだ。当たり前なんだよなぁ……。
こちとら前世の記憶とチート持ちやぞ?人生一回目と一緒にしてもらったら困るってもんよ。
もちろん主席で合格してるのは言うまでもないよな。
まあ、チートなんてひけらかすもんでもねえ。
そもそもトレーナー資格試験では使う場面さえなかった。
某T大学と同等以上の難易度っていう割にそんなに難しく感じなかったが、俺は天才だから当然だな。
飛び級を重ねて18歳、最年少トレーナーとは俺のことだ!
これで人生何周しても金が余るくらいの豪遊三昧生活も俺のものだぜ!勝ったなガハハ!
担当さえ捕まえちまえば、こっちのもんだ。
俺のチートは、アプリゲームのステータス画面をより詳細にして、ウマ娘の身体情報と精神状況を事細やかに視ることができる。
トレーニングによる故障率やくじ引きの当選確率はもちろん、笹針を打つべき秘孔の場所と個々の性感帯や性癖、天気予報にレースの展開予測、本格化の開始から終了までの時期だって分かる。
スキルの効率的な習得方法や領域という名の固有スキルの発現方法も一から十まで把握している。
超絶スーパーウルトラスペシャルDXな能力なんだ。
ぶっちゃけ言っちゃえば、アプリではモブ以下の名前さえ出なかったスペック底辺ウマ娘にGIを勝たせることも可能だろうさ。
とはいえ、俺の至上命題は金稼ぎ。
第二の人生を面白おかしく生きるためにウマ娘を爪先から髪の毛の先っちょまで利用し尽くして、ドバイで左団扇な成金生活を送るって夢がある!
控えめに見て十年もあれば目標達成は余裕だな。
待ってろよ、ウマ娘達よ!
お前らに栄光をくれてやる。代わりに、金をくれ!
勝って勝って勝ちまくれ!
故障なんて時間の無駄無駄!無事これ名バの代名詞にしてやんよ!
歴史に名を残せ!
唯一抜きん出て並ぶものなしって言うだろ?担当トレーナーを最も稼がせたウマ娘を目指そうぜ!
大丈夫だって、心配するなよ!
仮にお前に才能が無くても、俺っていう最強装備があれば誰にも負けねえ無敵のウマ娘の誕生だ!
やろうぜ!勝とうぜ!稼ごうぜ!
今日この瞬間こそが、俺達の紡ぐ伝説の始まりだ!
◆◇◆
トレーナー資格試験で史上最高得点かつ実技や面接でも最高評価を得た者がいたとして、初年度からいきなり担当を持つことは許されない。
この界隈では当たり前の話だ。
歴史に名を連ねる偉大なトレーナー達も例外はなく、最低でも二年から長くても四、五年はサブトレーナーとしてベテラントレーナーの元で経験を積んでいる。
ウマ娘のレースでは事故怪我は付きものである。
トレーニング中の不慮の怪我なども残念ながらよくある話で、最悪の場合は一生に関わる大怪我だって過去に記録されている。
トレーナーとウマ娘の担当契約は三年から始まり、ウマ娘が引退するまで続くのが原則だ。
人生と比べて短い期間だが、一生を委ねるに等しいほどの大事な時期でもある。
トレーナーの中には人生を預かるという重圧に耐えかねて潰れた者、担当ウマ娘に対する罪悪感で病むような者が毎年何人もいる。
そのためのサブトレーナー制度であり、率直に言えばトレーナーとウマ娘の関係に慣れるための時間だ。
名家出身のトレーナーでも最低二年間は経験を積むのが通例────
トレーナー資格試験では史上最高得点を叩き出し、中央トレセン学園の理事長が直接対応した面接でも文句なしの合格として最高評価を得た。
そんな彼がサブトレーナーとして配属されたのは、国内最強と呼ばれるチームリギルの敏腕トレーナーこと東条ハナの元だった。
チームリギルのウマ娘と言えば、代表的な存在として例を挙げるならば『スーパーカー』マルゼンスキーと『皇帝』シンボリルドルフだろう。
この二人が国内最強を冠する最大の要因に違いない。
他にもデビュー前にも関わらず『女帝』と慕われている生徒会副会長のエアグルーヴ、同じく生徒会副会長のナリタブライアンもメンバーにいる。
美浦寮の寮長であるヒシアマゾンに栗東寮の寮長であるフジキセキだけでなく、将来の活躍を嘱望されるタイキシャトルにテイエムオペラオーまで在籍している。
文字で羅列すると分かりやすいとんでもチームだ。
対抗バとして『芦毛の怪物』が所属するチームシリウスが挙げられることも多かったが、オグリキャップのラストランと同時にシリウストレーナーが引退したことでメジロマックイーン以外のウマ娘はチームを抜けた。
チームシリウスを引き継いだサブトレーナーに、彼女達を引き留める求心力はまだ無かったのだ。
将来有望な櫻井トレーナーをリギルに預けた裏には、そのような理由があった。
東条トレーナーはベテランと呼ぶにはまだ若いが、実績と能力は誰もが認めるところであり、期待の新人にも劣るものではないというのが理事長及び秘書の認識だった。
実際その判断は間違いではなかった。
異次元の才能を持つ新人に潰されないだけの才能の持ち主であるという点に於いて、東条ハナ以上のトレーナーは数えるほどしかいなかったのだから。
結果として、櫻井トレーナーは半年でサブトレーナーの教育課程を終わらせてしまった。
その報告に理事長である秋川やよいは「仰天!」して、詳細を知るために両トレーナーを呼び出して話を聞いた。
「疑問!東条トレーナー!彼が教育課程を済ませたという話は事実か!?」
「事実です。櫻井トレーナーは本来のサブトレーナーに課される業務以上の仕事をした上で全ての教育を終えました。既に私から教えられることはありません。彼をこのままサブにしておくのは大きな損失であると愚考します。率直に申し上げれば、さっさと担当を持たせた方が宜しいかと思いますが如何でしょう?」
「驚愕!それほどまでか!ならばよしっ、来年度から担当契約を許可する!期待しているぞ、櫻井トレーナー!わーっはっはっは!!」
「理事長っ!?そんな軽いノリで決めないでください!」
簡潔にまとめると、こんな軽い感じのノリで例外が許された。
この会話があったのは十月の中旬頃である。
一ヶ月半の間に業務の引き継ぎや秋川理事長と秘書の駿川たづなを交えて、何度か面談の末に改めて担当契約の許可が下りた。
しかも、例外に例外を重ねても大して変わらないとの暴論により、初年度から五人まで担当を引き受けても構わない、むしろ少しでも多く担当してくれと要請されるほど。
最初は懐疑的だった駿川秘書も、面談を重ねるごとに態度を軟化させていった。
そして、本日遂にチームリギルから独立する日がやってきた。
ライトブラウンの髪に同色の切れ長な日本人離れした目鼻立ちの青年、櫻井孔明は対面の眼鏡美人の女性に勢い良く頭を下げた。
「東条パイセン!短い間……クソお世話になりましたっ!!」
まるで滂沱の如きの涙を流しながら感謝と離別の言葉を告げる感動的なセリフに似ているが、実態は一から百まで別物である。
その証拠に生真面目そうな女性、東条ハナは疲れたように溜め息を吐いて、手頃な位置にある頭を軽く叩いた。
「パイセンは止めなさいって言ってるでしょう。あと感謝が嘘じゃないことは分かるけど、無意味に茶化すのは貴方の悪い癖よ。これからは担当を持つようになるのだから、いい加減に改めなさい」
「うっす!以後気を付けます!」
「全然分かってないじゃないの…………
ふざけた態度を改めるつもりのない櫻井トレーナーの頭をピシピシ叩きながら、東条トレーナーは心配そうに彼の背後に佇む栗毛のウマ娘、サイレンススズカに尋ねた。
当の本人は何を心配されているのか分かっていなさそうな表情で首を傾げたあと、薄く微笑みながらゆっくりと頷いた。
「──はい。トレーナーさんがいいんです。東条トレーナーも今までありがとうございました」
「貴女がそれでいいならもう言わないわ。もしも、そこのバ鹿に変なことされたら私を頼りなさい。スズカの代わりに引っ叩いてあげるから」
「えっ、俺パイセンにビンタされるの?マジで?」
「ふふっ……はい。その時はよろしくお願いしますね」
「おーい、スズカもよろしくしないでくれ〜。パイセンのパワハラに晒される俺を助けてくれよ〜」
何度目か分からない溜め息を吐いた東条トレーナーは、リズム良く叩いていた手を止めて一歩離れる。
馴れ合いはこれで終わりという言外のサインに櫻井トレーナーも頭を上げて、スズカを促しながら東条トレーナーに背を向ける。
櫻井サブトレーナーは、これより正式に櫻井トレーナーになるのだ。
「よしっ、行くぞスズカ」
「はい、トレーナーさん」
櫻井トレーナーとスズカが扉の外に出ようとするタイミングで、その背後から声が掛けられた。
「……何か困ったことがあれば言いなさい。力になるわ」
振り返れば、恐らく腕を組んでそっぽを向いた東条トレーナーの姿が見れるのだろう。
櫻井トレーナーは振り向きたい欲望を抑えて頷いた。
「言質頂いたんで、いざという時にはバリバリ頼らせてもらいますね!お世話になりました、パイセン!」
そう言ったのを最後に、扉が閉められた。
これからチームリギルと櫻井トレーナーが作るであろうチームはライバル関係になる。
東条トレーナーも経験や今まで培ってきたノウハウで負けるつもりはないけれど、才覚という一点に於いて彼は異次元の存在である。
腐れ縁の男のチームが復活したという話も小耳に挟んでおり、今後のレース業界は一筋縄ではいかないだろうと、改めて気を引き締めた東条トレーナーは通常業務に戻っていった。
◆◇◆
チームリギルの部室を出た櫻井トレーナーはスズカを連れ立って、トレセン学園のグラウンドに向かって歩いていた。
「トレーナーさん、選抜レースを観に行くんですか?」
「そうそう、気になってるウマ娘がいてさ〜。とりまスカウトしてみっか!ってことで行ってみよう!」
一月には年間で四回開催されるトレセン学園の大イベント、選抜レースが行われる。
正確には昨日からの開催だが、櫻井トレーナーが気になるウマ娘は今日の選抜レースに登録していた。
スズカは本格化がまだなのでデビューはしない。
担当契約を許可された以上は、今年度にデビューできるウマ娘を一人はスカウトするのが筋というものだろう。
「ん?誰か知りたいって?仕方ねえなあ、教えてやるよ!」
「嘘でしょ……勝手に自己完結してる」
「多分お前も知ってるぜ。高等部一年の逃げウマ娘。家庭の事情でバイト三昧だが、限られた時間のトレーニングによって注目を集めいている。さて、だぁれだ?」
「逃げウマ娘、高等部一年、バイト三昧……それってまさか────」
答えようとしたスズカを遮るようにして、グラウンドの方角から歓声が沸いた。
顔を見合わせた二人は少し小走りで会場に向かうと、そこには出走の準備を終えたウマ娘達がゲートに入っていた。
そのうちの一人。サンバイザーを被った体操服姿のウマ娘に目を留めた櫻井トレーナーがニヤリと笑った。
「おっ、丁度今から始まるところだ!スズカも観ろ!」
「トレーナーさん、やっぱり。アイネスフウジン先輩ですよね?」
「そりゃ分かるよな。今のアイネスフウジンは視るからにトレーニング不足だが、芝マイル1600mなら悪くない走りができるだろうさ」
到着と殆ど同時のタイミングでゲートが開いた。
一斉にゲートを出て走り始めるウマ娘達だが、まだ未熟な彼女達は疎らなスタートになる。
アイネスフウジンはしっかり集中していたのだろう。
好スタートを切って加速していき、同じく逃げウマ娘のキュラキュラと競り合って快調に飛ばしていく。
「いいスタートですね。このあとの展開はどうなると思いますか?」
「スタートをミスってれば話は別だったが、このメンバーだとアイネスフウジンとキュラキュラの逃げ切り勝ちかな」
「じゃあ、その二人ならどちらの方が速いですか?」
「最高速度は似たり寄ったりだな。スタミナはキュラキュラ、他はアイネスフウジンの方が上ってところか。大した違いはないから展開次第じゃねえの」
「……私と比べたら?」
「
話しているうちに、アイネスフウジンが先頭に立つ。
内枠番のアイネスフウジンよりも外枠だったキュラキュラは競合いをしたことで、コーナーで余分に膨らんで走る羽目になってしまった。
冷静さを取り戻して一度引いたとはいえ、既に失ったスタミナは戻らない。
こうなれば、あとは単純なスペック差で勝敗が決まる。
中盤の直線を通って第3コーナー、第4コーナーを抜けて最終直線に先頭で現れたのはアイネスフウジンだ。
キュラキュラが必死に追い縋るが、スパートが遅れて離されていく。
隊列が縦に伸びていたことから末脚自慢の後続も上がってきてはいるが、気持ちよく逃げさせ過ぎた所為で番手のキュラキュラにも届かない。
『アイネスフウジン!アイネスフウジンだ!速いっ速すぎる!後続との差を広げて、そのままゴールインっっ!!!!』
結局は中盤からゴールまでアイネスフウジンが先頭で駆け抜けた。
キュラキュラが早めに先頭争いから引いて、最終コーナー辺りから好意抜け出しを狙えばワンチャンあったかもしれない。
後方脚質のウマ娘達も自由に逃させずにプレッシャーを掛けていけば結果も違っただろう。
能力的に頭一つ抜けていた二人を好き勝手走らせた時点で、後続のウマ娘に勝ち目はなかった。
「…………トレーナーさん?スカウトに行かなくていいんですか?」
「あ?大丈夫っしょ。アイネスフウジンのことなら多少知ってるし、いきなり担当契約は結ばないだろうからな」
「よく分かりませんけど、そういうことなら仕方ないですね」
「いや、挨拶だけはしておくか。そうと決まれば善は急げだ!行くぞっ、スズカ!」
「えっ!?あっ、待ってくださいトレーナーさん!」
スズカを置いて勇んで飛び出した櫻井トレーナーだったが、アイネスフウジンを囲む先輩トレーナー達の壁に遮られて結局スカウトはできなかった。
流石は百戦錬磨の中央トレセン学園の選ばれしトレーナー。
チート転生者はあっさりと敗北を喫したのであった。
「まあ、
「トレーナーさん?何か言いましたか」
「なんでもねえよ。ほら、俺達もトレーニングしに行こうぜ。今日は坂路走るぞー、坂路」
「はいっ!早く行きましょう今すぐ行きましょう!」
このあと(坂路で)めちゃくちゃトレーニングした。
作者の妄想の垂れ流し。
・櫻井トレ
チート持ちの転生者。
ちゃらんぽらんの割に能力だけは立派。
即断即決が座右の銘。
・サイレンススズカ
デビュー前のウマ娘。本格化はまだ先のこと。
基本的に走りたいだけだが、トレーナーのことは信頼してるらしい。
レースでは先頭を走ることに並々ならない執着がある。
・アイネスフウジン(スカウト中?)
マイル芝1600mの選抜レースで1着だった。
家庭の事情によってバイト暮らしをしており、トレーニング時間が少し不足気味。