またもや巻き込まれる事になる無人島鎮守府。
6時間後………
「那智は〜ん、何時まで付いて行くつもりや〜?」
「黙って付いて来い。目的が解るまでだ」
疲れた様子の龍驤の問いに那智がそう答える。
イ級を追尾し続けて6時間。那智以下、浜風、潮、神通、龍驤、羽黒の6人は何時・何処まで続くとも解らぬ追跡行を行っていた。
「羽黒、ここはどの辺りだ?」
「えーと……もうすぐ、パラオ鎮守府との担当海域境界線に入ります」
防水紙で防水パックに入った海図を見ながら羽黒が答えた。
「つまり、担当海域の端まで来たと言う事か」
「おかしいですね。罠なら、なぜここまで私達を連れて来たのでしょうか?」
「そりゃあ、ウチらを疲れさせてから一気に…」
「それなら、もっと出鱈目で振り回す様な動き方をする筈だ。だが、真っ直ぐに…まるで誘導するかの様にしか進んでない」
神通の問いに龍驤が答え、その答えを那智が否定する。
その後もイ級を追い続け………
「那智さん! 島が見えます!」
潮の報告に那智は視線を向ける。
すると、確かに島が見えた。
「羽黒、どうだ?」
「はい、確認しました。無人島のD1です。あの島から半分が境界線です」
「了解した。イ級もあの島に用がある様だしな」
イ級が真っ直ぐに無人島に向かうのを見て那智が呟く。
そのまま那智達は無人島の海岸沿いをイ級を追いながら進み、断崖の洞窟に辿り着く。
そこでイ級は洞窟の中に居た別のイ級と合流すると何処かに言ってしまった。
「…………ホンマに何がしたかったんや、あのイ級達は?」
「…洞窟だ。潮、洞窟の中を調べてくれ」
「はい!」
元気な返事と共に洞窟に入る潮は……暫くして声を挙げた。
「那智さん! 男の子が…男の子が倒れています!」
「な、なに!?」
7時間後……無人島鎮守府
「…で、そのイ級を追い掛けて行くのに夢中で定時連絡をするのを忘れた、と言う訳でありますか?」
「め、面目ない…」
その後、男の子を背負って帰って来た那智達。
男の子を羽黒達と鳳翔に預け、那智は能義崎へて報告に行き、あきつ丸に怒られていた。
「まったく…青葉殿でもあるまいし…那智殿らしからぬ失態でありますね」
「い、いや…本当に面目ない。すまなかった」
「まあまあ…イ級を攻撃しなかった件は置いておきましょう。今は男の子の事よ。それで、男の子の他に何かあった?」
「うむ…男の子が寝かされていた洞窟の中にあった。多分、救命浮き輪だと思うが…」
そう言って渡された浮き輪を調べた能義崎が苦笑を浮かべる。
「那智、あなた、とんでもない物を拾ったわね」
そう言って能義崎は船名の書かれた場所を見せる。
船名は……『サフラン号』と書かれていた。
「どう思う、那智?」
男の子の様子を見に行く途中で能義崎は那智に訊いた。
「なにがだ?」
「サフラン号と男の子こと」
「あぁ…まあ、男の子が偶然、物好きなイ級2隻に救われただけだと…」
「甘いわね」
那智の意見を止めるかの様な一言に那智も思わず黙る。
「あきつ丸、相棒なら言いたい事は解るわね?」
「はい。サフラン号の一件が深海棲艦の仕業に見せ掛けられた…で、ありますね」
「な、なにっ!?」
「御名答…あら、那智。意外って顔ね」
「当たり前だ! 深海棲艦以外に船を襲う者など…」
「海賊よ。パラオ近海なら可能性は更に大きいわ」
「か、海賊…い、居るのか、そんな物が?」
「憲兵隊に居た時、何度か聞いた事があるわ。今の海賊は支那系で、軍艦も現代艦ばかりよ。なにせ、大半が逃げ出した海軍軍人だしね」
「なんと言う奴らだ! 見付けたら、私自ら…」
「ですが、これはあくまで推測であります。また、海賊の闊歩するとなると、それなりの『実力者』が何とかしないといけないであります」
「……まさか、内部に…」
「これも推測よ。まあ、今は下手に動かない方がいいのかも知れないけどね。あっ、鳳翔さん、あの男の子の容態は?」
前から廊下を歩いて来た鳳翔に能義崎が訊いた。
「はい。命に別状はありません。ただ、意識が戻るのが何時になるか…」
「それは仕方無いわね。様子見をお願いします。さて、男の子の事だけでも横須賀に報告しないとね」
そう言って能義崎は通信小屋に足を向けた。
暫くして……東京 憲兵隊本部 捜査部
「う〜〜ん……疲れた〜」
捜査部の部屋の一角、元は能義崎が使っていた机と椅子には後輩の名嘉三美(なかみつみ)准尉が思いっきり背伸びをしていた。
今日も違反提督を捕まえ、その報告書を書き、漸く仕事から解放されたからだ。
「さてと、今晩は何を食べよう…」
かな?…と言いかけた時、机の電話が鳴る。
不機嫌な顔をしながら名嘉は渋々、受話器を取る。
「もしもし。こちら、憲兵隊…」
『あら、三美じゃあないの。久し振りね』
「能義崎先輩! お久し振りです!!」
『あい変わらず元気ね。また、那珂ちゃんでも追っ掛けているの?』
「むう、追っ掛けてません! まあ、新曲はダウンロード購入しましたけど…」
『それ、完璧に『追っ掛け』よ。それより、調べて欲しい事があるんだけど』
「いいですよ、先輩! あの鬼親父には内緒…あっ…」
上からスルリと受話器を取り上げられ、名嘉は唖然とした声をあげる。
「『鬼親父』がどうした? 能義崎少尉…いや、少佐、久し振りだな」
『お久し振りです、藤谷教官。それと、憲兵隊の階級は少尉のままですので』
それを聞いた能義崎の元上司兼教官だった藤谷佐武郎(ふじやさぶろう)大尉
はニコリと笑う。
「はっはっは、提督になって貫禄が着いたな。お前さんの代わりがこれで育て難くて仕方無いぞ。あぁ、それとラバウルの一件は聞いているからな」
『教官。それは私にも言ってませんでしたか? それとあれは偶然ですから』
「ほうほう、偶然か…それで、そんな事で電話をして来たのではないだろう?」
『はい。これは横須賀の上には報告済みで、その内、情報が回ってくると思いますが……サフラン号の生存者を救助しました』
「ふむ……サフラン号か。それで?」
『えぇ、それで……』
能義崎は藤谷大尉と名嘉准尉に経緯を話した。
「ふむ……深海棲艦の行動は置いておくとして、少し怪しいな」
『はい。あくまで推測ですが…可能性は高いと』
「よし、わかった。こっちからも探りを入れてみよう。但し、能義崎少尉…気を付けろ。いいな?」
『はい、教官』
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