次回からエデン条約編2章になります。
感想お待ちしております。
人の記憶というものは自身が思い出せないだけで、思い出せない記憶も脳にはインプットされていると、どっかの書物で見たことがある。実物を見れば「あー、あれね」と思い出すことがあるだろう。それだ。
例えるなら、超巨大なコンテナを記憶領域と仮定して、そこから人が物を取り出すにしても、抱えて持っていけるものには限度がある。それが人が思い出せる分の記憶であり、コンテナに残されたものが思い出せないが脳には刻まれている記憶……と説明すれば分かりやすいか? 俺も学者や研究者じゃねぇから、言語化するのが非常に難しい。
深層意識に眠っている記憶……と言うべきか。
記憶力を鍛えれば覚えておける分は多くなろうが、それでも『全て』を『完全に』という話になると、それ以上は生まれ持った才覚であっても非常に厳しいと言わざるを得ない。
……ミレニアムには、自身の見聞きしたものを完全に覚えている人物がいるとの噂。羨ましいと思う反面、その人なりの苦労もあるかと思われる。人には忘れたい過去など大小あれど持っているのだから。
んな難しい話されても困るぜよ……と思う人もいるだろう。
重要なのはここからだが、上記の前提知識を踏まえたうえで、
「………」
「やぁ、おかえり。先にくつろがせてもらっているよ」
難しい例え話をしてまで俺が伝えたかったのは、ここに俺の深層の記憶を読み漁るセクシーフォックスが存在するという悲しき事実。彼女が俺の大事な大事な記憶領域を、異世界の図書館扱いしている点だ。
いつもの夢の中。
俺の記憶が生み出した家の一角にある自身の部屋を模倣された空間で、俺の記憶にあるモッフモフのオフトゥン(ベッド)でゴロゴロしながら、俺の深層の記憶で作られた書物を読む百合園さんに、俺はチベットスナギツネみたいな目を向ける。
彼女は本当に俺の部屋だったか疑わしいレベルで、模倣された俺の記憶の中を満喫していた。掛け布団の上でうつ伏せになり、枕を二つ折りにして顎を置き、足をバタバタさせながらルンルン気分で漫画を嗜んでいる。付近に積まれた本の山は、今から読む予定の本なのか、既に読んだ本なのか判断しかねるぜ。
「……楽しそうっすね」
「素晴らしい、としか言いようがない。トリニティの古書どころかキヴォトスでも知見することが不可能な『知識』の宝庫。それを他者に邪魔されずに貪ることができるのだから、外に出ることが困難な私が常駐するのも無理はないだろう?」
それに自身の記憶を自由に覗いても構わないと言ったのは君じゃないか、という彼女の言葉に、俺は苦虫を嚙み潰したような表情をするしかなかった。
病弱体質な上に襲撃を警戒せざるを得ない環境下で、ベッドで寝たきり状態。突発的な観測能力で夢と現世の区別が曖昧になり、能力の半強制的な行使も相まってメンタルをガリガリ削られる日々。そんな女子高生が味わうには余りにも悲惨な生活状況に、俺の記憶に常駐する時は負担がかかるどころか、常駐してた方が体力的にも精神的にも落ち着くと言ってたので、お好きな時に記憶ん中に来てもいいっすよと許可したのは俺だ。二言はないので撤回するつもりはない。
でもさ。でもさぁ!
夢と現実が曖昧ってレベルじゃねぇぞ。
比率が反転してんじゃん。
「……ん? あぁ、気にする必要はない。元々が病弱体質なのも功を奏したのか、ほぼ眠っている状況でも救護騎士団に怪しまれることはない。君との逢瀬もバレてないさ」
「俺が気にしてるのはそこじゃねぇ……」
「今はここが私の
俺の記憶を『七つの古則』の5番目しないで欲しい。
「それと……君はハナコを名前で呼んでいるだろう? 私も君のことは名前で呼ぶから、私のことも今後は名前で呼んで構わない。私と君の仲だ、遠慮しなくていい」
「どういった風の吹き回しで? ……まぁ、こっからはセイアって呼ばせてもらうが」
「……同世代の異性から名前を呼ばれるのはこそばゆいな」
だが悪くない、とセイアはお気に召した様子。
俺は自室にあった座布団を引き寄せ、セイアの近くに座りながらため息をついた。
「まぁ、見られて困るもんは記憶にないだろうから、好きにする分には一向に構わん」
「私は君のベッドの下は覗いてないぞ」
「……お気遣いどうも」
そっか、俺の記憶に焼き付けた
同世代の女子の前で読むほど、俺はその領域に達していないので断念するが。
「とりあえずミライから聞いて来た。本当には原作に詳しいミナに聞きたかったが……なんかアイツは
「聞かせてもらおう」
セイアは読んでいた本に栞を挟み、ベッドの上で姿勢を正す。低身長、非常に整った顔つき、狐のような耳と尾の関係で、美少女フィギュアがちょこんと座っているように錯覚する。
少なくとも年上かつ学園の上澄みに抱いていい感想ではないだろう。
「まず目下の課題は補習授業部の全員合格──ではなく、
最終的に
あの百合豚野郎、あんまり本編に影響がでないように……とか言って、小出しにしか情報渡さんのよね。
まぁ、キチガイ共って友達じゃなくて戦略的互恵関係みたいなもんだから、原作知識そのものを交渉材料として保持してんのかもしれん。こっちも貰う側だから強くは言わんし、いざというときは百合の暴力で黙らせる予定。
今回のだって阿慈谷さんと白洲さんの勉強風景の写真を送って、身も心も浄化されたミライが吐いた情報だもんな。この
「セイアへの襲撃事件……桐藤さん的に言うのなら『トリニティの裏切り者』だな。それにあたる人物は聖園 ミカさんだってのは以前に話したよな?」
「まったく……馬鹿なことをしてくれたよ、彼女は」
「最初は軽い嫌がらせ程度を計画していたらしいが……」
俺はアホンダラとの会話を思い出す。
『今の時系列って……えーと、先生がミカちゃんと会ったんだっけ?』
『知らん』
『そんじゃ近いうちに先生と彼女が接触するだろうから、それを過程としてゲロるね』
ミライは小さく肩をすくめる。
『現段階での彼女の目的は──追放されたアリウス分校と和解し、ゲヘナと絶滅戦争を行うこと。それにナギサちゃんが邪魔だから、アズサちゃんに罪を擦り付ける形でホストを
『絶滅戦争とは物騒な。なになに、聖園さんってゲヘナそんなに嫌いなん?』
『好ましくは思ってないんじゃないかなぁ』
『……は? その程度の感情で民族浄化するつもり?』
彼女の率いる『パテル派』って選民思想激しいんかな?
そんな感想を抱くくらいに、彼女の目的としていることは過激かつ極端であり、無謀で考えなしの行動としか思えなかったからだ。対ゲヘナ戦を想定した指針を掲げトリニティを内部掌握するのかなとも考えたが、マジでゲヘナを潰す予定なのだとか。割と感情的な性格と聞いたのだが、限度と言うものがあるだろうが。
『本人は本気も本気、アリウス分校の戦力も合わされば、ゲヘナを地図から抹消できると妄信している頃なんじゃないかな』
『無理だろ。常識的に考えて』
『そう、無理なんだよ。普通なら。でも今のミカちゃんは
先述した通り、彼女の最初期はセイアへの嫌がらせを考えていた。
反ゲヘナの思想を少なからず持つ彼女は、それよりも仲違いをしているアリウスとの和睦こそ優先事項だろうとティーパーティーで話題に挙げたらしい。しかし、他のティーパーティーからの返答は
しかし、彼女は知らないが、アリウス分校は
『セイアちゃんは本当は死んでないけど、それは表向きには隠されている。要するに、軽い脅し程度の襲撃で、ミカちゃんの軽はずみな目論見のせいで
『……彼女視点だとそうなるか』
『そんで現実逃避。本当はゲヘナを滅ぼすなんて考えてなかったのかもしれないけど、セイアちゃんを殺めた以上、ゲヘナを言い訳にしないと精神を保てない状況下にあるわけ。止まるに止まれなくなっちゃったんだねぇ。そう──幼馴染であるナギサちゃんを排してでも』
『桐藤さんにとっては悪夢そのものだな。幼馴染を守るために行動してんのに、その幼馴染に裏切られた挙句、命まで狙われるなんて』
そこまで考え、俺はふとある可能性に至る。
……え、この猪突猛進やらかし女の罪まで抱え込んでヴァルキューレにお縄になる予定なの? まぁ、少しでも罪が重くなるんならそうするけどさぁ。なーんか納得いかねぇ。
『敵はパテル派大将、聖園 ミカ。トリニティ最強格と謳われる正実の委員長レベルの猛者だ。援軍としてアリウス分校の半数のオマケ付き』
『……俺なんか悪いことしたっけ。ハード過ぎんやろ』
『さぁ、オウカ。相手に不足はないよ。どう
ミライから与えられた情報を可能な限り『サンクトゥス分派』の長へと伝える。伝え零しがあろうとも、彼女であれば勝手に俺の深層の記憶という名の書物を読み漁るんだろうが。
彼女の愚行をセイアが想定していたのか分かりかねる。
狐耳の少女は眉間を指で揉みながら小さく息を吐き、懇願するかのように、助けを求めるように、小さな声で俺に質問を投げかけてくる。
「……もしかして、私が死を偽装したから、ミカは暴走しているのかい?」
「部分的にはそうっすね」
責任の所在を問うのであれば聖園さんとアリウス分校の名を即座に挙げるが、要因を探すのであればセイアも一端を担っているだろう。観測能力があったとしても、これを想定して動けと言う方が無理がある。
コミュニケーション不足でここまで因果が拗れると、渦中に放り込まれている身としては、乾いた笑いが自然と発生するものだ。
今からでも部外者になりたい。
「俺としては原作の流れで行こうと考えてる」
「……私が表に出る必要はないと?」
「再度ミライと細部はすり合わせるつもりだが、原作通りの布陣で来るのであれば、そっちの方が楽なんよね」
確かに最強格と互角レベルの力を有する聖園さんは脅威、加えてアリウス分校の半分を相手にすると、骨が折れるのは想像に難くない。
故に、俺は笑う。
「無論、約束は忘れてないぜ。聖園さんを救い、白洲さんを助け、アリウスを救済し、エデン条約を締結させる。今回はその下準備。まずは聖園さんの目ぇ覚まさせんといかん」
「そして私は『トリニティ・ゲヘナ・アリウスの罪を君に着せる』ことを手助けする。恩人になるであろう君の罪をでっちあげるのは気が引けるが、オウカの望みであれば微力を尽くそう」
だが、とセイアは心配そうに尋ねてくる。
「相手はミカだ。本当に……大丈夫なのか?」
「面倒であるが、そう難しいことじゃない」
本心ではないとはいえ、彼女はゲヘナと戦争がしたいらしい。
戦争すらロクに経験したことのないド素人が、随分と大言壮語を吐くもんだと感心するが、そんなに戦争がしたいのなら前哨戦のお相手をするしかないだろう。
はてさて、聖園さんは気づいているのだろうか。
「セイアさんにも少し協力してもらうよ。そんじゃ──キチガイの軍略をお見せしよう」
こうして、トリニティの裏切り者と──アビドス自治区からカイザーの名を消したキチガイとの戦争が始まるのだった。
【簡単な自己紹介】
次章適当予告
疑心が渦巻くトリニティで、補習授業部のメンバーは二次試験に向けて猛勉強し、着実に学力をつけていく。
歩みを止められなくなった黒幕、裏で暗躍するアリウス分校、疑心に支配されたティーパーティーのホスト、頭薩摩になり始めるセクシーフォックス──そして、来たるべき戦争に備えるキチガイ共。
各々の想いは交錯し、お姫様は補習授業部&キチガイ共と対峙するのだった。
次章『エデン条約編2章 ~薩摩兵子の証明~』。
「……出たな、『飯を食うじゃんね☆』」
「私一度もそんなこと言ってないよ!?」
裏切り者は知る。人は神話生物には勝てぬ、と。
Q.各話にサブタイトルって必要ですか?
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いる。そっちの方が見やすい。
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いらん。数字だけでOK。