対策委員会編の話が出てきます。カイザー可哀そう。
感想、ツッコミお待ちしております。
013 チェストカイザー
私は夜のアビドス自治区内を歩いている。
日は完全に落ちたので、電灯の明かりだけが道を照らしている。活気を徐々に取り戻しつつある商店街や、空き家の多い住宅地から少し離れているせいか、人っ子一人見当たらない。
それでも私は軽い警戒を解くことはなく、足取りは軽くても左右を見渡しながら歩みを進めていた。
未だにカイザーコーポレーションが所有している土地ではあるが、警邏はアビドスに所属する私たちが行うもの。土地の所有権のみ持ち管理しないアイツらの代わりに、私が夜のパトロールをしているのだ。
最近はカイザーの連中どころか、不良集団ですら見なくなったが、それでも私は──
「ちょりっす」
「──っ!?」
ふと背後から声をかけられて、私は振り向きざまに足蹴りを繰り出しながら声の主を牽制し、装填済の愛銃たるショットガンを構え──
「パトロールっすか? お疲れ様です」
相手がアビドスの恩人である少年であることを認識し、冷や汗をかきながら警戒態勢を解除する。自身の行いを少し恥じたが、夜道でいきなり真後ろから声を掛けられたら普通びっくりするでしょ?
それに──軽い警戒だったとはいえ、私の背後まで近づかれたのに察知が出来なかった。ましてや、足蹴りも見事に回避され、私に銃を突きつけられているのに、何事もなかったかのように話を続ける胆力。
なので私の口から出てきた言葉は言い訳じみたものだった。
「びっくりした~。いきなり声かけられたら、流石の『おじさん』も腰を抜かしちゃうよ~」
「すみません、悪気はありました。次回からは気を付けます」
彼は悪びれた様子を一切見せなかったが、詫びと言わんばかりに自身の持っていた袋を私に渡してくる。中を開いてみるとスポーツ飲料が数本入っていた。最初から差し入れをするつもりだったのだろう。
どうしてアビドス自治区に?と聞いてみると、
「ちょっと便利屋の面々と会う予定があったんすよ。彼女らの事務所って、今んところはアビドスの商業区にあるでしょう? そこに俺たちの仮拠点もあるんで、行く途中で小鳥遊さんを見つけた感じっすね」
「ん~? おじさんのことは他人行儀で話さなくてもいいって前に言ったでしょ?」
「でも『おやっどん』って呼んだら不評だったじゃないすか」
「……おじさんの乙女心を少しは考慮してよ」
自分のことを『おじさん』と言ってるのが悪いと心では理解していても、言葉の響きで明らかにザ・オジサン感溢れる名称を出されると、自身にもまだ女の子らしい部分が残ってたんだなぁと実感した。
同学校の後輩であるミライくんの話によると、彼の言う『おやっどん』はかなり親しみと敬意をこめての発言だと大爆笑しながら説明してくれた。後輩の説明と行動に矛盾があった気がしなくもないが、シロコちゃんも真似し始めたので恥ずかしすぎて辞退した。
……普通に名前呼びでいいじゃん。
モモトーク越しだと話題にすら上がらなかったが、今一度抗議してみよう。
「名前で呼んじゃって全然OKだよ~」
「……もしかしてなんですが、3年生の間でソレ流行ってるんですか?」
フレンドリーな3年生が多いんすね、と笑うオウカくんに詳細を聞いてみる。
彼の言い分だと、私以外の別高校の3年生にも同じことを言われたらしい。彼が所属するトリニティだろうか? それとも別の高校? 呼び捨てなのかな? もしかしてタメ口で話してるのかも?
そこまで考えたら、何でか分からないけど胸の奥がチクリと痛んだ。
「他の人にも言われたのかな?」
「そうっすね。個人的には目上の相手に名前で呼ぶどころかタメ口なんて使いたくはないんですが、ミレニアムの会長と、ティーパーティーの一部から他人行儀は嫌と言われて。前者はあくまでも雇い主って体なんで断りましたが、後者は……まぁ、対等の協力者的立ち位置だったので」
「呼び捨て? タメ語?」
「んなこと聞いてどうするんすか? ……遠慮はいらないって話だったので、素で話してます」
……よしっ。
「じゃあ、おじさんのこともティーパーティーの子と同じ感じでよろしく~」
「さすがに他校の先輩を呼び捨てタメ語はちょっと……んな不服そうな顔をしないでください。……あー、わかったよ。ホシノって呼べばいいん?」
「所属する学校は違うけど、オウカくんはアビドスを助けてくれてるからね。ほら、なんならミライくんと話す感じに気楽に接しても大丈夫」
「え? ホシノの尊厳やら地雷やらを全力で踏み躙っても構わんと?」
「お互いの為にも普通でいこっか!」
……ミライくんとオウカくんって本当に友達だよね? 例の事件の時は協力してたように見えたけど、本当は仲が悪いのかな? それとも、これが男子同士の友情?
おじさんには分からないや。(思考放棄)
引きつった笑みを浮かべながら内心悩む私と、「俺たちの関係って特殊だからなぁ」と呟く彼は、歩幅を合わせながら夜の街を並んで歩く。彼の方が身長が高いので、彼が合わしてくれている形になるけど。
何を話そうか話題を選んでいると、彼の方から話を振ってきた。
「アビドスのみんなは元気にしてる?」
「元気いっぱいだね~。シロコちゃんは銀行強盗を禁止したら銀行強盗強盗をし始めてるし、ノノミちゃんはミライくんをショッピングデートに連れ回してるし、アヤネちゃんはミライくんと学校の点検で仲良く徘徊して、セリカちゃんはミライくんと紫関ラーメンでアルバイトしてイイ感じだよ」
「ミライの野郎、ちゃっかりアビドスに馴染みまくってんなぁ。楽しそうだ」
「でもミライくんは……ちょっと一歩引いてる気がしなくもないかなぁ。会議の時とかもおじさんたちの輪に入ろうとしないし、一歩引いて白米飯を食べてることが多いね」
「会議の百合シーンをおかずに飯食ってやがる……」
「アヤネちゃんも『ミライ先輩も対策委員会の一員ですから、一緒にお話をしたいです』って困ってたなぁ。セリカちゃんも気にしてたよ」
私からの内情を聞いたオウカくんは「ミライん野郎に対策委員会の一員の自覚を持つよう、それとなく促しとくわ」と、対策委員会で発生している小さな問題解決に協力する姿勢を見せてくる。特に編入生の彼と関係を進めたい後輩たちにとっては重要なことだから。
「借金とかは大丈夫そう? カイザーやヘルメット団からの横やりは?」
「どっちも問題ないかな~。みんなで
「そいつは上々。散々暴れた甲斐があったってもんだ」
彼は何でもなかったかのように笑うけど、私──いや、私たちにとっては忘れることのできない『大事件』だったのは言うまでもない。私が馬鹿やって『悪い大人たち』にまんまと騙されて、大切なアビドス高等学校を失いそうになったとき、先生と一緒にカイザーから救ってくれた話。
アビドスにある今は無き生徒会が抱えていた約9億の借金、それが全てカイザーコーポレーションによるものであり、私はそれも気づかずにアビドスを助ける見返りとして、実験材料として自身を差し出し、結局は反故にされてしまった。カイザーに囚われていた私を助けてくれたのが後輩たちであり、先生であり、彼だった。
廃校寸前のアビドスになぜ固執するのか、トリニティに所属しているにもかかわらず、なぜ
『俺? 小鳥遊さんにアビドスを任されたから。以上』
『確かにお前らを信用してしまった小鳥遊さんに落ち度がないとは言わん。ちょっとは悔い改めてほしいと思わなくもない。だが──それは彼女がアビドスを本気で守りたかった結果でもあり、彼女の『アビドスを守ってほしい』って純粋かつ真摯な願いこそ、
『先生のように『大人の責任』なんて立派な題目はない。が、小鳥遊さんの『想い』が間違いだなんて絶対に言わせねぇ。そのために俺は刃向けてんだよ』
……彼の言葉にときめいてしまうあたり、私って思っている以上にチョロいのかなぁ? 利害どころかトリニティの所属でカイザーに結果を売るリスクは大きなものであり、だからこそ彼の言う『私の純粋な願いの為に』って理由が真実味を帯びて……顔を赤くしたのは今でも恥ずかしい。
その後の行動のインパクトが大きいのも理由だけどね。
『で、だ。カイザーさん、3億の委託金の話はナシにしてくれない? あと借金は返すのが筋だから別にそれは良いんだけど、不当に発生した約1億くらいの利息もチャラにしてほしいなぁ、って』
『あ、駄目? そっか』
『じゃあ、穏やかじゃない解決方法で話そうか』
その言葉の後、ミライくんや、ミレニアムに所属するミナくん、ゲヘナに編入したカネサダくん、同じトリニティのアイリスちゃんを引き連れて、アビドス自治区に存在するカイザーコーポレーションに属する会社を襲い始めたのだ。一つ一つ丁寧に、漏れがないように、店の商品を略奪しながら。
『誤チェストにごわす。こや、目当てのカイザーじゃなか』
『またにごわすか!』
店を一つ潰す度に、彼とミライくんのわざとらしい棒読みの会話をし、次の店へとダッシュで駆けだす。それを何回も、何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も行うのだ。
店から奪った武器弾薬を惜しみなく使って破壊し、止めに来たカイザー傘下の軍事会社の援軍を蹂躙し、仕留めた警備員や兵士(※機械生命体)の首をわざわざ獲って並べて晒す。その過激さには私を助けに来てくれた便利屋68の人たちや、覆面の『ファウスト』ちゃんですら青ざめていた。セリカちゃんは半泣きだった。
流石に晒首は先生も止めようとしたけど、
『え、でも連中は俺たちを殺す気で撃って来るんすよ? こっちは心臓や頭を撃たれたら死ぬのに、あちら側は頑丈設計の身体。むしろ、そんなイージーゲームで俺たちを殺せないカイザーサイドが悪くないっすか?』
嫌なら俺たちを殺せばいいんすよ、と笑いながら誤チェストを続ける様は、すれ違った不良集団をも怯えさせる『狩人』の目だった。
そして、彼らは続けた。
『誤チェストにごわす。こや、目当てのカイザーじゃなか』
『またにごわすか!』
『誤チェストにごわす。こや、目当てのカイザーじゃなか』
『またにごわすか!』
『誤チェストにごわす。こや、目当てのカイザーじゃなか』
『またにごわすか!』
『誤チェストにごわす。こや、目当てのカイザーじゃなか』
『またにごわすか!』
『誤チェストにごわす。こや、目当てのカイザーじゃなか』
『またにごわすか!』
『誤チェストにごわす。こや、目当てのカイザーじゃなか』
『またにごわすか!』
『ククク、先生、お久しぶりです。そして、
『ふーん、まぁ、いいや。あ、アビドス自治区にあるカイザーコーポレーション系列の店の場所とか詳しいところ知りません?』
『ダミーの会社のデータも含め、こちらに』(スッ
『これ以上の狼藉は止めて頂きたい』
『ん? 利子の免除に応じてくれます?』
『は? 貴様ら廃校寸前の雑魚と交しょ
『誤チェストにごわす。こや、目当てのカイザーじゃなか』
『またにごわすか!』
『誤チェストにごわす。こや、目当てのカイザーじゃなか』
『またにごわすか!』
『誤チェストにごわす。こや、目当てのカイザーじゃなか』
『またにごわすか!』
『誤チェストにごわす。こや、目当てのカイザーじゃなか』
『またにごわすか!』
『誤チェストにごわす。こや、目当てのカイザーじゃなか』
『またにごわすか! ……あれ、これペロロじゃ──ペロロ様じゃね?』
『せやな。グッズの転売してたんじゃおい馬鹿やめろファウスト迫撃砲で店を先に壊すな略奪してからああああああああああああ
……と、カイザーコーポレーションの重役が直々に交渉に来るまで、127店舗を破壊しつくし、アビドス高校のブラックリスト登録を解除し、利子の免除を無理やり捥ぎ取ったのだった。
やり過ぎであることは明白であり、カイザーコーポレーションからの報復も警戒したが、結局のところそれすらもなかった。アビドス自治区からカイザーコーポレーション系列会社は完全撤退し、ヘルメット団等の不良集団も逃げるように消えた。
アビドス自治区の土地のほとんどは未だにカイザーが握っていたが、柴関ラーメンがある商業地区だけは買戻しされ、最盛期ほどではないにせよアビドス自治区基準で言えば活気づいているね。
連邦生徒会からの介入・支援もようやく届き、今はアビドスのみんなで借金の返済を頑張っている。
そこで、私は今まで気になったことを聞いてみる。
「先生も不思議に思ってたんだけど、カイザーの連中が仕返ししてこなかったのはなんでなんだろ? もしかして、オウカくんが手を回してたり……?」
「確かにカイザーとは
カイザーとオウカくんが仲良し。
……怯えたカイザー側が、無理矢理笑顔のオウカくんと手を握らされている姿が目に浮かぶなぁ。
「一番の理由が、俺たちが冗談じゃすまないレベルで暴れたからだと思う」
「カイザーの方が兵力も潤沢なのに?」
「アビドスの事件におけるカイザー側の最大の弱点って、大事にされて連邦生徒会から介入されたらアカンところにある。アビドス高校が勝手に廃校になるのは百歩譲って、ただの企業が
故にカイザーも高利貸しで連邦生徒会に介入されない程度に、アビドスをじわじわ侵略した。砂漠にある『宝』が目的だとしても、アビドス高校の存在は邪魔になってくるのは事実であり、本当なら私達を追い出して自然と廃校になるのが理想だったのだ。想像以上に私たちが粘ったせいで、武力を用いてまでアビドスを獲ろうとした時点でカイザーの負けであるとオウカくんは説明する。
「だから全力でカイザーの店を完膚なきまでに破壊しつくしてやったのさ。大兵力は連邦生徒会に勘付かれる可能性があるから送れない、でも小規模だと俺たちに喰われる、このまま野放しにすればカイザーコーポレーションの損失が大変なことになる。そんで──連中は
なので、わざわざ
私たちの要求は、委託金3億の撤回と、ブラックリスト追加に伴い増えた利子約1億の免除、ブラックリスト解除の3つ。その要求を聞いたカイザー連中は、ただそれだけの為に……と困惑してたのは記憶に新しい。
しかも、略奪した分は全て無償で返還してたので、プレジデントは頭を抱えていた。
「カイザー側の思惑として、面子は丸つぶれではあるのは事実だが、それよりもアビドスと敵対し続けた場合の損失を重視したんだろうよ。ポイントは、これ以上店を壊されたら再起不能にされかねんと相手に思わせること。だって──俺たちの侵攻方向って
「うわぁ……」
「あと俺たちが暴れ過ぎたんだろうな。
黒服の奴がオウカくんに誠心誠意の対応を見せたのも、これが理由なのだろう。彼に『敵』と認識されたら、何をされるのか分からない。カイザーコーポレーションから早々に引いたのも、敵意を向けてほしくないから。
こうやって『悪い大人』を対等にやり合う姿を見ていると、私は少し彼のことが羨ましく思ってしまう。これだけの力があれば……私は先輩を守れたかもしれないのかなぁ。
「まぁ、俺が言いたいのは一つ」
「うん?」
「大人子供関係なく、悪いことする奴って、もっと強大な『悪』に喰われんのよ」
だから『良い大人』になりたいよね。
オウカくんが私に向けた微笑みが、なぜか
【簡単な自己紹介】
カイザーコーポレーション:キヴォトスの悪徳大企業。今回の被害者。社内で主人公のことを『鬼島津』と呼び畏れている。
アビドス高等学校:元マンモス校。今は在籍生徒6名。不良集団から「アビドス自治区に手を出したら『暁のホルス』と『薩摩兵子』が首を狩りに来る」と噂されている。
Q.各話にサブタイトルって必要ですか?
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いる。そっちの方が見やすい。
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いらん。数字だけでOK。