キチガイ共の蒼い空   作:十六夜やと

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 セイア回です。どうしてこんなことに。
 次回はストーリー進めます。




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015 チェストセイアですまない

 俺は縁側に座り中庭を眺める。

 カツーン、カツーンと、一定のリズムで響く木で木を打ち付ける音が鼓膜を震わせ、どこか哀愁と懐かしさを彷彿とさせる。

 

 最近は聞かなくなった音だ。

 それは俺の幼少期、まだ未熟者だった俺が響かせた音。

 この木を打ち付けるととが何千、何万、──何億と増えるたびに、この音は力強く、雄々しく、そして様になるように変化するのだ。この弱弱しい音は、その『初心』というものを教えてくれている気がする。

 

 

「──難しく、考えていたのかもしれない」

 

 

 ガラスのように儚げな声色が新たに追加される。

 

 

「エデン条約を巡るトリニティの失態は、トリニティの頂点に位置するはずの為政者が、過度な不安・不信を胸に抱えたが故の過ちだ」

 

 

 カツーンと音が鳴る。

 

 

「ナギサも、ミカも、──私も、互いが互いを()()()。ナギサはミカの安否を、ミカは私との対話を、私は双方を襲撃犯と、疑った。信じなかった。確かに互いが背負う派閥は違えど、歩み寄るべきだったんだ。意見をぶつけるべきだったんだ。他者を欺き謀ることが当たり前で、肝心なことを忘れていた。君の記憶に触れなければ気づかない私の愚かさが腹立たしい」

 

 

 カツーンと音が鳴る。

 

 

「故に、私は君の記憶から学んだ。私たちが必要なものを。いや、トリニティに必要なものを。私たちは知らなければならない。対話を試みること、意見をぶつけ妥協点を見つけること、そして──」

 

 

 カツーンと音が鳴る。

 

 

「示現は全てを解決することを」

 

「いや、その理屈はおかしい」(確信)

 

 

 中庭にて赤樫(あかがし)製の木刀で、横に固定された木を打ち付けるセイアに、俺は真顔でツッコミをする。縁側に山積みになった示現流を扱った古書や漫画が乱雑に置かれているあたり、相当読み込んだんだろうなぁと現実逃避したくなる。

 余談だが、示現流にはいろんなパターンがあるのだが、それを口にしたらセイアがマジでラーニングしかねんから黙っておく。

 

 俺が就寝すると案の定、セイアが俺ん家(記憶)に住み着いていたのだが、俺がINしたときから彼女は見よう見まねで示現流の訓練を行っていたのだ。どういうことだってばよ。

 低身長の女の子が通常の木刀よりも太く長い獲物を振り下ろすアンバランスさは目を惹くが、キヴォトス人なら現実世界でも出来そうだとは思う。必要性はないと強く主張したいが、なんか知らんがセイアは頭薩摩剣術に何かを見出したらしい。どういうことだってばよ。

 

 

「ナギサは自身が倒れることで、ミカにも凶刃が向くことを恐怖した」

 

「んぁ? まぁ、流れ的にはそうやな」

 

「襲い来る敵を全員チェストする気概があれば、そんな風に考えることもなかったはず」

 

「トリニティのトップにあるまじき心構えだな」

 

 

 確かに他からの襲撃を異様に恐れる姿は、衆を束ねる長としては心許ない。突発的なアクシデントに怯えるのではなく、即対応できる臨機応変を持って欲しいし、その心構えがあれば補習授業部が生まれなかったんじゃないかと思わなくもない。

 長たるもの、どっしりと構えてほしい的な?

 まぁ、10代後半の少女に求める統率力じゃないのは重々承知しているので、俺も『思う』だけに留めたのだが、セイアは「薩摩魂があれば起こることはなかった」と仰る。どういうことだってばよ。

 

 

「ミカは私の死で狂ってしまった。後には引けないと、逃避してしまった」

 

「憎悪をゲヘナに向けちゃったわけだ」

 

「考えが甘すぎる。私を襲う時点で()ることも想定して欲しい」

 

「まさか聖園さんも『襲うなら()る気で殺れ』って思われてると想定を強要されるとは思わねぇだろうな。可哀そうだと思うのは俺だけか?」

 

 

 自身の軽はずみな行動が最悪の事態を引き起こしたと、今の聖園さんはそう思っており、ゲヘナへ憎悪を向けてないと正気を保ってられないレベルに追い込まれているのだ。その時点で正気ではないのだが、正してくれる人が近くに居らず、代わりに『パテル分派(反ゲヘナ思想)』に囲まれている状況が不幸を加速させている。

 上記の点では、俺も彼女の暴走に同情を示す。

 まさか被害者のセイアが「半端な覚悟で襲ってくるな。全身全霊で来て欲しい」と仰っている。どういうことだってばよ。

 

 

「そして、私も……」

 

「セイア……」

 

「体力と筋力と薩摩魂(いっだましい)があれば、凶刃に倒れたなどと思われることもなかった……!」

 

「ティーパーティーの重役の心に薩摩魂(いっだましい)はあったらアカンのよ」

 

 

 彼女は自身の『観測する能力』によって、病弱体質であったと前に語っていた。その体質故に、襲撃=死んだと思われても不思議ではなく、死を偽装しなければ再度襲われる可能性もあり、ミライ曰く原作では正体不明の黒幕に怯えてたんじゃない?的なことを言っていた。ぶっちゃけ、体力・メンタルを削る能力を持っている時点で、彼女に落ち度があったとは考えにくい。

 敵としても弱っているトリニティの頭脳なんぞ格好の的だろう。

 しかしながら、当の本人は「能力のせいと甘えず、日ごろから体力をつけて日々鍛錬していれば、無礼ら(襲わ)れることはなかった」と仰る。そうはならんやろ。

 

 いや、ね? セイアの真意も分らんことはないのよ。

 トリニティの陰湿で陰険がデフォルトで、トップも同じように別派閥を謀るのが日常茶飯事な環境を、んな腹の探り合いなんかせず真正面からぶつかってりゃ起こらんかったと言いたいんだろう。

 自身の自信のなさも、自衛力があれば回避できたかもしれないとも。

 

 でもね。でもですよ?

 ナギサ・ミカ・セイアがナギサ(薩摩)・ミカ(薩摩)・セイア(薩摩)になったら、それはそれで別の大問題が発生することは確定的なんよ。ゲヘナ(大友)を泣かす気か? あそこに居たのは雷帝であって雷神(立花)じゃねぇんだぞ。

 

 

「君の言いたいことは分かるし、別に思考を放棄しているわけではないと弁明しておこう。私が示現を推す理由も無論存在する」

 

「是非ともご教授願いたいもんだな。由緒正しきキヴォトス3大校が一つ、トリニティ総合学園に示現流が必要だと狂った結論に至った理由を」

 

 

 ここでようやくセイアは木刀で打ち付ける作業を止める。

 

 

「最初に聞いておきたいのだが、補習授業部の開設時にアズサが正義実現委員会に拘束されていた理由を知っているかね?」

 

「数時間立てこもって籠城戦してたんやろ?」

 

「確かに後半だけを切り取ればそうなる。前段階として、彼女は某トリニティ生の『いじめ』を武力で止め、加害者側がアズサを通報し正義実現委員会と衝突したわけさ」

 

「ふーむ?」

 

 

 なるほどなぁ、アズサはいじめ加害者からの報復紛いの通報で、正実相手に徹底抗戦したわけか。彼女の性格から鑑みて、理不尽で不当な拘束には抗うタイプの人間な上に、説明下手なことがある。その結果が、ゲリラ戦知識をフル活用した籠城戦をしてたわけね。

 俺的には「あー、ね」と納得したわけだが、セイアが問題視したのはその前。

 

 

「トリニティは多くの火種を内に抱えている。生徒間による陰湿ないじめ、派閥間の政治抗争──本来なら生徒会たる我々が解決すべき、しかしながら『トリニティの風潮』として無視され続けてきた問題。今回の騒動、それが無関係だったとは私は思えない」

 

「まぁ、解決すべきことだが、どっから手ぇつけたらいいか分かんねぇ問題でもあるよなぁ」

 

「だが解決するための思考を止めてはいけない。知りながら突き進み、解決法が分からぬと逃げ、その果てにあるのはトリニティの内部崩壊」

 

 

 ここでセイアが木刀を掲げる。

 

 

「ここで示現流だ」

 

「異次元の点と点を線で結ぶな」

 

「正確には薩摩隼人の心構え……郷中(ごちゅう)教育、だったか」

 

「おまっ……!」

 

 

 俺は苦虫を嚙み潰したような表情を、ティーパーティーのトップに向ける。

 セイアも俺の記憶にある歴史書を読み込んだのだろう。しかし、トリニティの体質はそう簡単に変わるものではなく、セイアが声を上げようともウチの教育方針が全部受け入れられるはずがない。

 当然俺が『無理』と判断を下すのであれば、彼女は最初からそう考えていてもおかしくはない。

 

 つまり彼女の狙いは別にある。

 

 

「ミカもそうだが、体力があるから馬鹿なことを考える余裕が生まれる。その余裕が削がれた時、果たしてトリニティ生は『他者をいじめる』という無意味なことをするだろうか?」

 

「完全にはなくならんだろう」

 

「だが、減りはするはずだ」

 

「………」

 

 

 彼女は自身を「別に頭薩摩に侵食されたわけではない」と言っていたが、ミナから聞いた彼女の印象と比較して、かなり力技みたいな解決方法を提示してきたなぁと感想を抱く。

 これがマジで俺のせいなのか、それとも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なのか微妙に分らん。良し悪しで語るのであれば、俺はまず間違いなくセイア推しだったロリコン野郎にチェストされる。

 

 

「しっかし、トリニティは三頭政治体制。セイアがどんだけ声を上げたとしても、桐藤さんや聖園さんが受け入れるとは思えん。ましてやお嬢様学校に薩摩武士の教育形態を持ち込むなんて、他が許しはしないだろう」

 

「既に『サンクトゥス分派』には通達してある」

 

「俺はどこに菓子折り持って謝罪に行けばいいん?」

 

 

 このクレイジーフォックス、まずは自分の傘下に郷中教育を適用しやがった。

 そんで卑しいことに、彼女は聖園さんからの襲撃で死んだことを隠しているが、その偽装死も桐藤さんの緘口令によりトリニティには広まってない。なので、彼女がゴリラ剣術を自身の派閥に広めたところで、桐藤さん的には『彼女は入院しているだけで生きている』ことの証明みたいに扱うしかなく、ホストには止める術がない。

 ただマジで全員が混乱するだけで。

 

 

「だ、だが生粋のお嬢様であるトリニティ生が、あの剣術を真面目に受け入れるとは到底思えん。セイアのトリニティに対する変革の意志は十分に伝わったからさ、別の切り口にしない?」

 

「心配する必要はない。既にサンクトゥス分派の幹部には『私からの予言』の一言で、明日の朝4時から鍛錬が開始される手筈になっている。全ては無理だとしても、私の派閥から文武両道、礼を尽くし忠義に励む心意気を学ぶ者が現れれば、いつかはトリニティも変わるだろう」

 

「変わるだろうよ。とんでもねぇ方向にな」

 

 

 絶対にうまくいかない未来しか見えないはずなのに、どうしてこうも胸のざわめきが止まらないんだろう。おそらく、億が一にでも変わってしまったら、それはもうマジで洒落にならないくらいに大変なことになると容易に想像できるからだ。

 薩摩ホグワーツ並みのドデカい一石を投じるなよ。

 株式会社Yostarに五体投地しないといけない俺の身にもなれ。

 

 エデン条約編の一切の責任を負う覚悟はあったけど。

 俺、これは無関係を貫くからね?

 

 

「……記憶の中で稽古したとしても、現実の肉体には反映されないはず」

 

「普通に考えりゃそうやな」

 

「現実世界にいるときも木打ちをしないと」

 

 

 救護騎士団から「とうとう頭まで……」と心配されるだろう。

 まず間違いなく。俺ならそうする。

 

 

「セイアが考えてんのは、示現流とかいうクッソ激しいゴリラ剣術の鍛錬で体力を削り、他者を無暗に害する思考の隙を与えないこと。そんで彼女らが体力を付ける過程で、信義礼節を重んじる精神を鍛えようって魂胆か。……剣道やら柔道やら、他にも選択肢があっただろうに」

 

「君の記憶の中で、武道として完成された『手本』がそれだけだった。君の有する示現や『タイ捨』は、剣道柔道とは別物なのだろう? より正確な見本を参考にするのは当然のこと」

 

「……もっと日本の武道を学んでおけばよかったと後悔する日が来るとは」

 

 

 薩摩のキチガイの脳内を参考にしたのなら、そりゃ示現流がトップに躍り出るわな。

 余談ではあるが、セイアが参考にしたであろう示現流、通常の剣術とは異なり型が少ないので、ある意味では敷居の低い剣術でもある。鍛錬も難しいこと考えず木刀でペシペシやってりゃ、それっぽくはなるからだ。セイアがコレを取り入れたのも、そういった手軽さも理由に含まれるかもしれない。

 単純な剣術故に、日々の鍛錬が練度に直接出るため、敷居は低いが使い物になる基準がバカ高い剣術ではあるんだがな。まぁ、相手を真っ二つにするためではなく、心身の鍛錬で用いるのであれば、武の実用性を考える必要はないだろう。

 

 

「もう、好きにしたらいいんじゃね? 期待はしないが応援はしとく」

 

「せっかく君から貰った『知識』だ。成功は保証できないが、意味があるものにしてみせる」

 

 

 セイアが現実世界に戻った時への予習だと言いたげに、彼女は再び木打ちに戻る。弱弱しくも、芯があるように聞こえる『カツーン』という音が、武家屋敷の中庭に響き渡るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……示現流(ゴリラ剣術)が『サンクトゥス分派』どころか、トリニティ全体に留まらず、アリウス分校にも飛び火する未来を知っていたのであれば、必死になってセイアを止めたのにな。

 

 

 

 




【簡単な自己紹介】

島津(しまづ) オウカ:今作の主人公にして、キチガイ五人衆の一人。セイアに余計な知識を授けた張本人(無意識)にして、覚悟ガンギマリ集団『サンクトゥス派』を作り出したすべての元凶(無関係)になる。

百合園(ゆりぞの) セイア:ティーパーティーの『サンクトゥス派』のリーダー。悲しいことにセイア(薩摩)になる。



サンクトゥス派:百合園(ゆりぞの) セイアを長としたトリニティの派閥の一つ。他二つの派閥とあまり違いはないが、エデン条約が締結される前辺りで長からの方針転換により、『示現流』と呼ばれる独自の武道形態を是とした戦闘集団となる。特に幹部にあたる生徒は訛りのある独自の言語を用いるとか。品行方正、目上の者には礼節を尽くすが、『いじめ』に関しては集団で抗する結束力を持つようになる。余談だが、彼女らの言う「だいやめすっど!」は「お茶会を開きましょう」の意。

Q.各話にサブタイトルって必要ですか?

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  • いらん。数字だけでOK。
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