次回、黒幕登場と、主人公が裏で動いていた計画の全貌が明らかになります。
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私──
極度のストレスによる弊害なのか、緊張で味覚すらおかしくなっているのか。実際に、本来なら護衛を任せている正義実現委員会の生徒は、補習授業部の第三次試験の会場を完全封鎖する任務を任せており、私自身は必要最低限の護衛のみ連れてセーフハウスに身を隠しているのだから。
私の命を狙っているであろう『トリニティの裏切り者』。
限りなくクロに近い監視役の少年からの報告はなく、補習授業部を任せていた先生からの協力も得られず。しかし、補習授業部の三次試験を乗り越えれば、全てが終わるはずなのだ。予定通り『シャーレ』の超法規的権限で彼女らを退学にすれば、エデン条約の最大の懸念点は解消される。
幼馴染である彼女の身を守ることもできる。
そう──全ては終
コンコンッ。
「……紅茶でしたらもう結構です」
おそらく外で待機している護衛の者だろう。
私は静かに言い放ち──返答が帰ってこないことに疑問符を浮かべる。紅茶の件でないのだとしたら、何か問題でも発生し
「……可哀そうに、眠れないのですね」
「っ!?」
聞いたことのある声に驚きつつも、扉の方に視線を向けると、そこには薄いピンク髪の少女──
正義実現委員会がほとんどいない状態は不安になりますよね?と、カツカツとアイリスさんを伴って近づいてくる。金髪の少女は仏頂面であり、虚ろな瞳が何を考えているのか想像もつかない。
「ハナコさん……!? それにアイリスさんまで……どうして、ここに」
「
「……っ!?」
「特に心が不安な時は、ここの秘密の屋根裏部屋に隠れることも♡」
「なっ……」
完全に全てを把握されている。私の行動の癖も、情報も。
思わず立ち上がりそうになったが、
「──動くな」
鋭利な刃を彷彿とさせる、冷たい言葉に再度硬直する。
背後を取られ、銃を突きつけられていることだけは理解できた。
ハナコさんの「ここに来るまでの間の護衛の方々は片付けさせていただきました」という声すら遠く感じる。文字通り、生殺与奪の権を相手に握られている。
そこで、背後から声色で、誰なのかを察した私は声を絞り出す。
「
答えは人を小馬鹿にしたような笑い声だった。
「……ふふっ、単純な思考回路ですねぇ♡ 私もアズサちゃんもアイリスちゃんも、ただの駒に過ぎませんよ。指揮官は別にいます」
「そ、それは誰ですか……!?」
脳裏に浮かぶのはトリニティ唯一の男子生徒。
彼ならこの状況下を作り上げた『裏切り者』だと言われれば納得も行く。
まさか彼だけではなく、他三名も共犯だとは思わなかったが。
「その前に一つナギサさん……ここまでやる必要、ありましたか?」
「………」
彼女は、『シャーレ』を動員してまで、今回の補習授業部の設立はやる必要があったのかを私に問う。怪しかった自身やアズサさんならまだしも、一見すると怪しく見えないヒフミさんやコハルさん、アイリスさんまで退学前提の部に在籍させる意味はあるのか、と。
特に、私とヒフミさんは仲が良かったじゃありませんか、と。ヒフミさんの傷がどれほどのものだったのかと、ハナコさんは静かに詰問する。
確かに仲が良かった──それこそ私の数少ない友人であった少女。
彼女のことを疑うことは非常に辛かった。心苦しかった。
しかし──私は
「ヒフミさんには悪いことをしたと思っています。しかし、後悔はしていません。全ては大義のため。確かに彼女との間柄だけは守れればと思っていましたが、私は──」
「ふふっ♡ では改めて私たちの指揮官から、ナギサさんへメッセージをお伝えしますね」
彼女は含みのある笑顔と共に、言い放つ。
「『あはは……えっと、それなりに楽しかったですよ。ナギサ様とのお友達ごっこ』……とのことです♡」
「……っ!? ま、まさか、ということは……!?」
それは
「か、彼──オウカくんはどうし」
「もちろん、ちょっと静かにしてもらいました」
目の前の少女は、さも当然と言わんばかりに先生と同じくヘイローを持たない彼が、文字通り『静かになった』ということ。
最悪が容易に想像でき、サッと血の気が引くのを感じる。
「そういえば彼からもメッセージを預かってました。──『桐藤さん、依頼を果たせず死ぬことを、お許しください』だそうです♡」
「……う、あ……」
彼との会話が脳裏を過る。
最初から最後まで怪しいと睨んでいた少年は、最初から最後まで私の味方だった事実。その彼の言葉を信じられず、挙句の果てには私の愚かな采配で死なせてしまった。
取り返しのつかない事実に手が震え、背後の銃も気にせず椅子から崩れ落ちて地べたに
私は仏頂面で待機しているアイリスさんに叫ぶ。
そうでもしないと、頭がおかしくなりそうだった。
「アイリスさん、どうして……、どうして彼を裏切ったんですか……! 彼はあなたの……!」
「? オーカは言ってなかった?」
彼女は蹲る私を見ずに言葉を吐く。
私など見るに値しないと言いたげに。
「人は裏切るときには裏切る。親でも、トモダチでも、
「……あ、あぁあ」
私はズキズキと刺すように痛む頭を抱える。心のどこかで違うはずと信じていたヒフミさんも、彼に懐いていつも後ろをついて行っていたアイリスさんでさえも、全てが『トリニティの裏切り者』だった。
彼女らが裏切り者ならば、私も『始末』されるだろう。
死ぬのが怖いが、それよりも──残されるミカの安否が。彼女だけは。彼女を一人にし
──人は裏切るときには容易に裏切る。
──肉親でも、友人でも、幼馴染でさえも。
「──ぇ」
なら、
私が必死に守ろうとしていた者は、目前の仏頂面の少女のように、簡単に裏切らない保証がどこにある。幼馴染とはいえ、彼女もトリニティの『パテル派』を率いる首長。心変わりしないと誰が言える?
なら、私は、誰を──
「……おう、か、さん」
そう、彼は最後まで味方だった。
彼を信ずるべきだった。
でも、彼はもういない。
私が彼を信じなかったから。
──その結論に至った私の視界はぐるりと暗転した。
「──というわけで、今までの仕返しも込めて、ナギサさんには少しショックを受けてもらおうかと♡ ……少しやり過ぎた気もしますが」
「ちったぁ加減しろ馬鹿」
♦♦♦
「──っと、こんな感じか? いや、もうちょい強化しといたほうがいいか。下江さん、そこんバリケードにあそこの資材を追加しといて」
「……体育館をこんな勝手に改造しちゃっていいんでしょうか?」
「今からアリウスのメンバーが鬼のように押し寄せてくるんだぜ? ヘイロー組はまだしも、俺と先生は銃弾一発で致命傷になりかねないんやぞ」
ハナコと白洲さんとアイリスが桐藤さん所に遊びに行っている中、俺たちは体育館内で防塁を築いていた。奥に会った机や椅子、固そうなガラクタを積み上げて、今から来客してくるであろうアリウス分校御一行を歓迎するためのパーティー会場を丹精込めて作る。
白洲さんから分けてもらったトラップの数々も体育館近辺、内部にも設置済。仕掛けている場所も補習授業部に共有しているので、ある程度は数に抗することができるだろう。
俺は下江さんの作業を横目に、先生と一緒に物資を
まさか俺が墨俣一夜城の真似事をする日が来るとはな。
「どう? 火器弾薬はそれで足りそう?」
「うぇ!? あ、どこまで持ちこたえるか次第だとは思いますが、救援込みで考えるのなら、十分耐えられる数だとは思います」
弾薬管理をしていた阿慈谷さんに声をかけると、おどおどしながらも報告してくれる。まぁ、今から不特定多数の敵を相手に籠城戦するのだ。不安にならん方がおかしいか。
こんなこと言っている俺も、こと防衛戦という分野に自信はない。ウチの家系やキチガイ共の面子を見て頂ければ察すると思うが、俺たちは基本的に野戦向きの思考回路してるから、守りなんてあまり考えはしないんよ。できないわけではないが、打って出た方が楽だったりする。
流石にこの面子で野戦は悪手だからやらんが。
俺は持ってきた物資の中から、携帯食料を漁って食す。
一見するとカロリーメイト風の固形型だが、味にバリエーションもあり、なおかつ美味い。飯の美味さは士気に直結するのは世の常であり、ここの会社が作ってる携帯食料は
これチョコレート味。口パッサパサになるから水分必須やけど。
「……今からアリウスとの戦闘なのに、オウカくんは全然動じてないですね」
「俺も結構緊張してるけど?」
「アビドスの時もそうだったですが、全然緊張しているようには見えませんよ? こういうときに動じてない人が近くにいると、物凄く頼りになると言いますか……」
劣勢での戦闘前に堂々としている、そういった余裕そうな雰囲気に、自称凡人なのにブラックマーケットを火の海にした『ファウスト』は憧れるらしい。
動じないっつーか、動じれないというべきか。
「ハナコの依頼で指揮官に命じられたからな。隊の長である以上、情けない姿なんて晒したら士気にどんだけ影響が出るか。それに、こうやってドンっと構えることが、俺の数少ない取り柄みたいなもんだし」
「取り柄、ですか?」
「そそ。俺は他のキチガイ共に比べると『凡人』に過ぎん」
他者から過大評価されることが多いが、本来は背伸びをしているだけの凡夫。ある意味で、ハナコとは対極の存在とも言えよう。
カネサダのような卓越した戦闘技術があるわけでもなく、ミナのような情報・諜報に長けた収集操作能力があるわけでもない、ミライのように息を吐くが如く財を倍々に増やすような経済力もない、アイリスのような埒外の暴力を振るうこともできない。
それに──我を通すには相応の『実力』が必要となってくる。『血筋』以外に誇れるのもがないんすか、と馬鹿共に煽られないためにも、俺には日々の成長が求められているのだ。その焦燥感に比べたら、この程度の『試練』なんぞ不安に値しないわ。
なんて軽く口にしてみると、反応は芳しくなかった。
聞いてた阿慈谷さんはチベットスナギツネみたいな顔してるし、先生も何か言いたげな表情だが明後日の方向を向く。そんな対応されるようなこと言った?
「……オウカくんが凡人? 今日ってエイプリルフールでしたっけ?」
「なんか言ったか?」
「な、なんでもないですよ。あっ、ハナコちゃんとアイリスちゃんが帰って来ましたよ!」
視線の先には、帰って来たハナコが下江さんの前で防塁に『ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲』を追加して、死刑判決を下されていた。完成度たけーなオイ。
アイリスもまっすぐに防塁を通過し、いつもの仏頂面で手のひらを差し出してくる。
視線の先に俺が食っているもんがあったので、チョコバーを数本献上すると、満足したのか無言でポリポリとリスのように頬張る。
「なにかヒフミちゃんが面白そうな話をオウカくんとしてた気がします♡」
「オウカくんが自分のことを『凡人』って言ってたので……」
「あら、何かの冗談でしょうか?」
人をからかうような口調だったハナコが、阿慈谷さんの発言にガチトーンで返す。寝言は寝て言えと仰らんばかりのハナコからの視線に、思わず俺の方が目を逸らしちゃったじゃねぇか。
作業を終えた下江さんも交え、戦闘前の栄養補給として粗末な茶会を楽しんでいると、体育館の外から銃声やら爆音やら賑やかなBGMが流れ始める。
「ほーら、団体客のお出ましだ。死なねぇように頑張ろう」
「「「「はいっ」」」」
すると白洲さんが脱兎の勢いで体育館に侵入し、鮮やかにトラップの数々を足軽によけながら、陣地内に帰宅を果たす。さすがゲリラ戦の達人、校内のアリウス分校の生徒を全員釣って来るとは。
俺は手元にあった名称も分からんアサルトライフルを構える。
「先生、ヘイロー組へのシッテムの箱での戦術指揮、お願いします」
“うん”
アビドスで見たシッテムの箱を介在とした戦術リンク、その恩恵を受けたヘイローを持つ生徒の戦闘力の向上値は既に調査済。その値と今回築き上げた一夜上の耐久と、トラップの数々を計算しながら、適度に指示を下す。
こんなのは序の口。
まだ
「さぁて、前哨戦の開始だ」
【簡単な自己紹介】
アイリス・ワルフラーン:キチガイ五人衆の一人。ナギサに見向きもしなかったのは、アズサが持ってたカンペを読むのに集中してたから。
Q.各話にサブタイトルって必要ですか?
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いる。そっちの方が見やすい。
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いらん。数字だけでOK。