というわけでお姫様との対話回です。アンチヘイト多めなのでご注意を。
次回も色々とはっちゃけます。
高評価・感想ありがとうございます。励みになります。
ひとまず白洲さんがゲリラって引き連れてきた敵勢力の排除には成功した。
即席で作り上げた防塁のお陰か、こちらに被害等は出なかった。先生の指揮下にある生徒の戦闘力の向上を目の当たりにするのは何回かあれど、先生の有無は大きいことを痛感させられる。
「か、勝った……?」
「全員戦闘不能」
下江さんの疑問に白洲さんが答える形で、最初の難局を乗り越えたことを実感する。俺は大きく息を吐きながら、リロードして次に備える。
余談だが、防衛戦となるとアイリスに出番はない。せいぜい内側から外側に手榴弾を適度に投げるだけの存在と化す。あんまり働いてないように見えるかもしれんが、コイツには後の大一番で活躍していただかないとアカンから、ちょっとした休憩をしてもらったと解釈して欲しい。
たとえ暇そうに大きなあくびをしていても、だ。
ハナコ曰く、あとはアリウス分校の増援が来ることを予想しているが、トリニティの治安維持を担う正義実現委員会が来るまでの時間稼ぎを行えばそれでいいと語った。ティーパーティー傘下の正実が動けるのは、ティーパーティーの身に危険が生じたとき。既に桐藤さんからの定時連絡がない上に、下江さんが羽川さんに救援を依頼しているので、先生の指揮下なら幾ばくかの継戦が可能であることも鑑みて、ほぼハナコの思惑通りに動くだろう。
「……まぁ、そう簡単に行けば万々歳だがなぁ」
「………」
俺の不吉な独り言に、ハナコは目を細める。彼女とて今回の黒幕が誰なのか薄々だが理解しているだろうし、彼女も銃撃戦時は余力を残すように立ち回っていた。
体育館内部に築く簡易要塞で、ハナコは俺も今回誰の手引きでアリウス御一行がトリニティ観光に来たのかを察していると思ったはず。実際、チートのような情報提供で、今後の事すら知っている身だが。
ほら、んなこと言ってたらアリウス分校の増援が到着してしまった。
しかも体育館に入りきってないじゃねぇか。こちとら体育館の立地的に、セルフ背水の陣状態なんやぞ。
「……数が多い。大隊単位だ。多分、アリウスの半数近く、いや、それ以上の……」
「あうぅ……! これだけたくさんの方が、平然とトリニティの敷地内に……!?」
白洲さんの推測に、阿慈谷さんが小さな悲鳴を上げる。
どうやら俺たちは
正実も動く気配はない。
そりゃそうだ。
「それは仕方ないよ──だってこの人たちは、トリニティの公的な武力集団になるんだから」
“ミカ……?”
「やっ、久しぶり先生。また会えて嬉しいな」
アリウスの武力集団を引き連れて現れたのは、ティーパーティー『パテル派』首長、聖園さん。彼女はご丁寧にも、正義実現委員会には一切動かないように待機命令を下したのだとか。異様に学園が静かなのも、事前にアリウスを率いる自分にとって邪魔なものも片付けておいたと。
彼女こそが『真のトリニティの裏切り者』。全ては現ホストを弑逆するために。
……へぇ、正実は
それは好都合。
「というわけで、ナギちゃんをどこに隠したのか教えてくれる? 私も時間がなくってさ」
聖園さんは一泊置いて、無邪気に微笑む。
「まぁ、ここにいる全員を消し飛ばしてから、ゆっくり探してもいいんだけど。それは面倒でしょ?」
先生がどうして聖園さんがこんなバカげたことをしているのか問うが、聖園さんから語られる動機は「ゲヘナが嫌いだから」と、以前にミライのアホンダラから聞いた内容と一緒だった。
ゲヘナを根絶するためにアリウスと手ぇ組んで戦争するってよ。エデン条約をゲヘナと締結するなんて冗談じゃないし、角のついた連中は信用ならないと。身内から話を聞くのと、彼女の口から直接語られるのとでは印象が全然異なるなぁ。つか信用ならんって、桐藤さんに弓引いてる奴から言われてもなぁって感じ。
彼女にとってゲヘナは手を取り合って平和を共に享受する存在ではなく、憎むべき敵としか認識してない。故に、同じようにゲヘナを憎むアリウスの手を取ったってわけだ。アリウスの連中が、トリニティに対しても同等の感情を抱いているとは知らずに。
ぶっちゃけ今の俺には聞くに値しない戯言。
それよりも気にするべき点が他にある。
『行くよ行くよ行くよ行くよ行くよ! ほらほらぁ! 遅い遅い! そんな準備に時間がかかってちゃ、背負ってる薩摩十字が泣いちゃうよ!』
『
『準備出来た奴らから突入してもいいンじゃねェの? さっさと布陣しときたいわ』
周囲に声が漏れない俺の骨伝導のイヤホンから、ガチャガチャと慌ただしい音と指示が飛び交っている。各々が仕事していることは大変喜ばしいが、三者から共通する俺への報告は『とりあえず時間を稼いでくれ』の一点。
本当は俺の一声で即座に動けたはずだが、聖園さんがティーパーティーとして行った『邪魔者の排除』の範囲が広かった。故に、ギリギリまで鳴りを潜めていた弊害が、この惨事なのだろう。
つか時間稼ぎって。
こっちには武力が不足してるんだから、言葉でやれってコト?
えぇ……いや、まぁ、できることはやってみようとは思いますが。
「──トリニティの穏健派を追いやって、そこの席をアリウスで埋める。それで、新たな武力集団を得て再編されたトリニティが、ゲヘナに全面戦争を仕掛ける。そう、これが私の計画!」
彼女はただ無邪気に、直情的に、自身の計画を述べる。
民族浄化という、一族郎党皆殺しの算段を。
それを『先生』が許すはずもなく──俺は彼女と先生の会話に割り込むことで時間を稼ぐ。
「先生、なんて顔してるんすか」
“オウカ……?”
「夢を見るだけなら自由じゃないですか。現実が見えてない箱入り娘の大言壮語にしちゃあ、立派なこと言ってる風に聞こえるでしょう。ほら、彼女もトリニティの政治屋の一人ですし、できもしねぇマニフェスト掲げるあたりとか、むしろトリニティらしくないですか?」
「「「「“!?”」」」」
どっからどう見ても喧嘩を売っているようにしか見えない発言に、敵味方関係なくアイリス以外の全員が言葉を失う。アイリスは何かを察したのか、敵中突破ジャージを羽織り始める。
聖園さんはここで、ようやく
トリニティ唯一の男子生徒という肩書以外、特筆するような情報もない少年。そんな計算の外側にいた奴が、いきなり自分を罵ったんだから、そりゃあ見はするだろう。
「あはっ、そういえば
「杜撰で穴だらけの妄想日記は計画とは言わんのよ。こんなん下江さんでも分かるわ。どう考えたって──
「……私はゲヘナを滅ぼすだけで、他と戦争する気はないんだけど」
「それはつまりミレニアムを始めとした各校、ましてや連邦生徒会にも事前に根回しは済んでいると。そいつは失礼した。……少なくとも、ミレニアムにはそんな話は来てないと会長から直々に言葉を貰ったが」
俺の嫌味ったらしい発言に、ティーパーティーのホストの座を狙う少女は言葉を詰まらせた。彼女が派閥の長の立場であれど、そこまで頭が回らんかったかと俺は静かに嘆息する。
「聖園さん、アンタが大義名分の乏しい侵略戦争することの意味が分かってんの? いや、大義名分あっても難しいか。仮に戦争初めの段階で各校が静観を決め込んだところで、万が一にでもゲヘナが劣勢になったら、他の学校はゲヘナ側の肩を持つだろうよ」
「私とアリウスの目的はゲヘナを滅ぼすことだけだよ。あの角つきがいなくなったところで、誰も困らないじゃん。ちゃんと他の学校にもそう伝達するつもりだし」
「
勢力の均衡を崩すということは、他に多大な影響を与える。だからこそ連邦生徒会やら桐藤さんはエデン条約の締結に尽力したわけだし、このままいがみ合っても意味がないってことは彼女らも知っていた。
ここで聖園さんがゲヘナに対して全面戦争を宣言したら? そりゃあもう、第一次か二次か知らんが、キヴォトス大戦の幕開けだろう。まさかドイツモチーフのゲヘナに対して、ドイツのようなことをトリニティがやろうなんて想像もつかんかったが。ブリカスでもここまで馬鹿なことはせんぞ。
こっちの世界のちょび髭の方がまだ現実的やったぞ。
ましてや、仮に他校が関与しなかったとしても、ゲヘナの根絶は不可能と断言できる。
民族浄化は『戦争』ではなく『
それに、ゲヘナには例の風紀委員長様がいらっしゃる。先ほど記述した『作業』も、彼女なら全身全霊で抵抗するだろう。はてさて、それまでにトリニティの損害はどれほどになるのか。少なくとも、全面戦争を継続できるくらいにダメージを受けないとは限らない。
俺がパッと思いつくだけでもこの二つ。
キチガイ間での議論にあげようものなら、どれほどの指摘が入るのやら。
なんて話を軽く嘯いてみたところ、聖園さんは眉をひそめて不服そうにしている。アリウスの面々も、どうせトリニティを裏切る目論見であっても、もしかしたらキヴォトス全土が敵になりかねない行為をしているのでは?と不安が広がっている様子。
互いに目を合わせて落ち着きがないのがその証拠だろう。
こんだけ時間を稼げれば上出来だろう。
「正直言って、俺にとってはそこら辺の話はどーでもいいけど」
俺は話題を早々に変えるために、聖園さんからスケープゴート扱いされた白洲さんに話を振る。桐藤さんを排除し、その罪を白洲さん着せるつもりと箱入り娘のお嬢様は言っていた。
スパイまでやってくれた白洲さんに対して、あんまりな扱いじゃない?
「白洲さんに一つ面白い話を聞かせてあげよう」
「え、私?」
「『釣り野伏』って知ってる?」
俺の問いに彼女は首を振る。
トリニティの全てに精通したハナコすら聞いたことはなく、聖園さんも不思議そうに首を傾げていた。この場で知っているのはアイリスくらいだが、コイツの脳みそにインプットされているとは期待してない。
「囮部隊に敗走させてポイントまで誘導し、隠れていた他部隊で挟撃する戦術。超絶ざっくり解説すると、ただの待ち伏せ戦法と言っても差し支えない。古今東西、それこそ白洲さんも戦術単位ならやったことがありそうな、ありふれた作戦でもある」
別に珍しくもなんともない戦法であり、わざわざ固有名詞が与えられるような戦術でもないはず。しかし、ウチのお家芸と称されるのはワケがある。
この戦術、軍単位で行うとシャレにならんほど難しいのだ。囮部隊が敗走する前提だとしても、それが瓦解したら意味がない。囮部隊に相当の練度が必要とされ、それを率いる指揮官にも相応の技量が求められる。加えて、部隊と指揮官の信頼も重要だ。言うは易く行うは難し、をここまで体現する戦術も珍しい。
その『釣り野伏』を必勝の戦法と豪語していたウチの実家──島津家は、これを用いて数々の大名家を打ち破ってきた。しかも、この戦術って包囲殲滅戦術なので、一戦で負けた側が再起不能になるレベルの損害を受けることが多い。大友も、龍造寺も、長曾我部も、そうやって没落してしまった。
「『釣り野伏』の具体的な戦に関しては、明日以降の暇なときにでも話そうか」
「……それを今私に話した理由は?」
「ん? なんたって、そりゃあ──」
俺は言葉を切って聖園さんとアリウス御一行に笑いかける。
この笑みをどのようにとらえたのか、俺は彼女らの心境までは推し量らんが。
「聖園さんやアリウスを『釣る』のが、俺の策だったからなぁ?」
「……!?」
刹那、激しい爆音の嵐が体育館の外側を覆う。
体育館に入りきらなかったアリウスの増援部隊は、この激しい外部からの攻撃に逃げる場所はなく、応戦を強要されることとなる。しかしながら、圧倒的な装備と練度の差というものが、アリウスを絶望に陥れるのだった。
正義実現委員会は動けない。他のトリニティ内部の勢力でもない。
では──この攻撃は何なのか?
これには補習授業部のメンバー、先生すらも困惑する。
外がどうなっているのかをこの場で知るのは、被害状況を聖園さんに報告しに来たアリウス生のみだろう。
「──も、申し上げます! 包囲網の外側が攻撃を受けております! 敵は丸に十字の校章を掲げた属不明の勢力、数は歩兵だけでちゅ、
どうやらキチガイ共は包囲網を無事に形成できたようだ。
丸に十字の校章を掲げた属不明の勢力。アビドスで燻っていたヘルメット団や、元SRT特殊学園を再編した、キヴォトスで俺たちが立ち上げた会社──『シマヅ警備保障会社』の、ゲヘナ出身以外の全兵力を動員した結果がコレである。
寄せ集めと侮るなかれ、こちとらセイアの派閥以上に覚悟ガンギマリ集団やぞ。
俺は耳元を抑えながら、体育館に響かせんばかりの声で指示を下す。
指示というよりも、聖園さんに残酷な現実を突きつけるために。アンタの頼ろうとしている連中が、アンタの妄言を実行するに相応しい連中なのかを問うために。
「現時刻を以て、ティーパーティー『サンクトゥス派』首長の百合園 セイアの要請により、敵勢力排除の作戦行動を開始する。──全て、すり潰せ」
俺の指示は『『『遅ぇわ!』』』の総ツッコミを食らうことになった。
【簡単な自己紹介】
【次回】
・森の賢者VS神話生物
・舞い降りるペロロ様
・アバンギャルド君ジュニア×100
の3本です。お楽しみに。
Q.各話にサブタイトルって必要ですか?
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いる。そっちの方が見やすい。
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いらん。数字だけでOK。