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027 殺めることの罪悪
トリニティ総合学園はお嬢様学校ではあるが、あくまでも『キヴォトス』基準での『お嬢様学校』に過ぎない。銃を持たぬのは裸で歩くのと同義とまで言われる世界なので、一見おしとやかそうで虫すら殺したことがなさそうな美少女であろうと、懐に
銃弾一つが致命傷になり得る俺としては、とんだ世界に来てしまったものだと週に7回は痛感する。非力な一般人には辛い環境でもある──あ、懐の拳銃は護身用っす。刀も模造刀ですよ。シマヅ、ウソツカナイ。
「そんな品行方正、清廉潔白、謹厳実直なトリニティの模範生が、何でトリニティの各派閥から追いかけられてるんだって話だ。こういった問題はどこに抗議すりゃいいんかね?」
「追いかけられているというか、自派閥に取り込もうと躍起になっている……と言う方が正しいんじゃないか?」
「おい、アズサ。俺の真正面に立ってないで茂みに隠れろ。歌住さんや羽川さんに見つかったらどうする」
緑のついた木の枝を両手に持ちながら茂みにカモフラージュする俺は、俺の独白にツッコんできたアズサにも木の枝を渡す。アズサは素直に受け取り、俺の左隣で同じように茂みに紛れるのだった。
ここに不審者2名が生まれた。
「ちなみに誰から追いかけられてるんだ?」
「シスターフッドと正実とサンクトゥス派」
「凄い面々だ……」
「少し前までは俺の行動範囲ってトリニティ外が主だったから、補習授業部関連のこともあって、最近はトリニティの内部でも動くようにはなったんよ。そうなった途端、このザマよ。どないなってんねん」
トリニティの生徒にとって、俺は『必要最低限、姿しか見せない男子生徒』だったはずだが、今の俺のトリニティ内部での評価は『ティーパーティーの相談役』となっている。これが全ての元凶だろう。
上級生であるはずのセイアには度々絡まれて、ナギサとは2.3日に一回は茶をしばいている。権威主義とカースト意識の強いトリニティで、この両名と懇意にしている(ように見える)男子生徒がフリーなど、他派閥が放っておけるはずもなく。
部活単位ならティーパーティーの影を感じ委縮するだろうが、先ほど挙げた大派閥になると、さっさと囲ったろの動きが激しいわけだ。
ティーパーティーのお歴々も余計なことをしてくれたもんだわ。
「……確かに、アリウスを圧倒した戦力を保有するオウカを無視できないのは分かる」
「あれ同郷のキチガイ共と共同で作った会社で、今は
「そうなの?」
「……まぁ、俺が声かけたら大半はついてくるけど」
なんか知らんけどウチの会社に加入すると、もれなく全員に薩摩魂が点火して、勤勉かつ好戦的になるんだよなぁ。この現象に『神秘』がどうのこうのって理由で黒服さんが大変興味を示していた。
「そういや今日は先生がトリニティ来てたな。ナギサに用か?」
「シスターフッドのところに行っていた。前のクーデター未遂に関しての話をしに行ったんだと思う」
「ふーん……」
そこにハナコも話に参加しているとの事で、エデン条約の調印式の件かと思っていた俺は興味を失う。調印式云々の話であれば嬉々として話し合いに参加を申し込もうと画策したが、既に終わったことの摺合せってんであれば、俺は大人しく茂みの擬態に勤しむとしよう。
だがしかし、俺の反応をアズサは不思議に思ったのだろう。
先生に会いに行かないのか?と訊ねてくる。
「まぁ、俺にはもう関係ないし。シスターフッドと先生との話だって、俺がセイアから聞いた(ことにしている)内容とさして変わらんやろ。大事なことはハナコが先生に伝えるだろうから、わざわざ俺が首を突っ込む意味がない」
「セイアが私のことも言っていたの?」
俺は彼女の問いに一泊置いてから、控えめに頷く。
……あー、そういやセイアを襲った犯人ってアズサだったよな。確か夢の中で、セイアはアズサに対して『トリニティとゲヘナとの条約が締結されれば、いずれアリウスとの問題も解決できるはず。もし抗う意思があるのなら、君にその知恵を貸そう』と約束したと言ってたわ。それでアズサはセイアと結託して死を偽装したと。
アズサは他者を『殺す』ことを恐れていた。やはり無法上等のキヴォトスにおいても、明確に他者を殺めることは、キヴォトス人の中でも『やってはいけないこと』に位置しているんだろうな。彼女はセイアを立場上・任務上
俺は原作知識を有していないので、今のところ原作とどれほどの差異があるのか分からん。良くなっているのか、はたまた悪化しているのか。
だが、俺はアズサの行動は少なくとも『良い』と断言できる。
「俺はアズサの選択は『正しい』と思うぜ。引き返す選択をしただけじゃなく、抗うって選択までしたアズサはカッコイイよ。すげぇわ、お前」
「そ、そうなのかな……」
なんかアズサが照れてるが、俺は言葉を続ける。
「『人殺しは人殺しである』って十字架を一生背負って生きていく絶望感は相当なもんだと思うよ。他のキヴォトス人から知られた日にゃぁ、後ろ指を指されるのは分かり切ってる。誰にも相談できない、自分で抱えて生きていくしかない、その罪の重さたるや否や」
「………」
「しかもそれだけじゃない。自分の問題解決にね、『
アズサは優しい女の子だ。その選択肢が自然と手段に含まれていることに絶望し、
その罪過は、アズサには重すぎる。
「オウカは……その……」
「ん?」
アズサは言いにくそうに顔をしかめる。
言っていいのか、質問していいのか、でも質問すること自体が
なんて考えてそうな雰囲気を醸し出していたので、答えられる範囲であれば何でも聞いていいよと先に伝えておく。まぁ、どんな質問なのかは想像がつくが。
「オウカは──人を殺したことがあるの?」
そして、慌てて「もちろんしたことがあるからと言って、オウカが悪いだなんて私は思わない!」と早口で語気強めにアズサはフォローする。
本当に優しい子だなぁ。補習授業部に天使が2名いるんかよ。
「……さぁ、どうだろうね?」
「………」
「………」
……やっぱり湿っぽい空気になったじゃねぇか。
会話のデッキ選びをミスってしまったと後悔する俺。こんな真摯に質問してくれたアズサに嘘はつきたくないし、じゃあ本当のことをバッサリ言ったら言ったでアズサがめっちゃ落ち込むのは目に見えてるし。
くそぉ……あれもこれも全部セイアが悪い。(責任転嫁)
人殺し云々の話を振ったセイアが悪い。(他責思考)
「──呼んだかい?」
「呼んでねぇし、何でここが分かったんだよ病弱体質」
「私の能力を忘れたかね」
「んなしょーもない理由で能力使うなや」
俺の右隣ににゅっと現れるティーパーティーの重鎮に、俺はジト目を向けた。
原作によるとセイアは3章最後辺り……要するにエデン条約調印式後に目を覚ますと、推しを語るミナが熱弁していた。それまでは目を覚まさないくらい、彼女は病弱体質であると。
一方、実物はどうだ? 早朝に起きては木刀で木をペシペシ叩き、暇があれば俺のところに来て雑談し、救護騎士団から安静にしろと言われてんのに逃げ回る。病弱体質と書いて『わんぱく小娘』と読むのかと疑問に思う程度には、彼女は活発に動いていた。どういうことじゃんね。
余談だが、ミナがキヴォトスに来た段階でセイアはプレイアブルキャラクターとして実装されておらず、事前情報がそんなにないと泣き喚いてたのは覚えてる。なので、キヴォトスで生セイアに拝謁できる可能性があるなんて……と感涙してた。しかも日本語版だとCVも実装されてなかったらしいから、どんな美しい声色だろうとキモいオタクのように妄想を膨らませていたはず。
とりあえずCVは
「んで、用は?」
「用がないと君に会いに来てはいけないと? 随分と冷たいじゃないか。……ミカが君との面会を希望していたから、それを伝える目的もあったがね」
「聖園さんが?」
それを伝えるためだけに、わざわざセイアが来る必要もないのでは?と思わなくもなかったが、まさかの面会希望に俺は苦虫を嚙み潰したような表情になる。
「……それ断るのって失礼にあたるんかなぁ」
「露骨に嫌な顔をするね……拒否する権利はあるだろうし、私もナギサも君が拒絶するのであれば無理にとは言わない。が、そんなにミカと会うのは嫌かい?」
「嫌というか……敗残の将と会って話すことないやろ」
この答えにセイアとアズサが驚いたような表情を見せるが、正直に言うと今の聖園さんに会う必要性を感じないし、会ったところで何を話せばいいのか分からんし、会うメリットも思いつかない。
ましてや、聖園さん的に俺は『煽ってきた挙句に罠にハメて来た、いけ好かない男子生徒』って印象だろうから、余計に気まず過ぎて会う気にもなれない。あの時は戦闘中という高揚感でハイテンションになっていたことは否定しないが、割と失礼なことを彼女に向けて発した自覚はある。敵だったので謝ろうとは思わん。
「あと、アリウスの件に集中したいってのもある。風の噂によると、アリウスがエデン条約調印式で何かをやらかす腹積もりって聞いた。そんで残念なことに、リーダー格がアズサの身柄と俺の首を狙っているとも」
「さ、サオリが!?」
「ほぅ……?」
既に終わったことよりも、今から起こることに注力したいって意味で伝えたが、アズサにはリーダー格──錠前さんが俺を殺すつもりであることに驚いているようだった。セイアだって、原作の流れは大まかには知っているが、俺の命まで狙っている点は初耳だろう。
「だから俺は別にいいんやけど、アズサはアズサで気をつけてな」
「……私の戦闘知識はサオリから教わったものだ。おそらくアリウスの中では一番強いかもしれない。オウカも甘く見ない方がいい」
「俺は錠前さんを軽視したことなんて一度もないぞ。むしろ敬意を払って対するつもりだ。前回のクーデター未遂の比じゃないくらいに念入りに現在進行形で進めてるさ。
使える手は何でも使わんと相手に失礼……ってのが俺の持論だ。セイア暗殺も失敗し、クーデターすら未遂に終わってしまった彼女らは、調印式に死に物狂いでかかってくるだろう。もう後がないと、彼女らの持ちうる全てを以て挑んで来ると考えている。
であれば、俺たちも全力を出さない方が無作法と言うもの。
原作を知っている彼ら曰く、調印式の襲撃には巡航ミサイルがブチ込まれ、先生も腹部を撃たれ意識不明の重体になり、惨憺たる様相であったと伝えられた。たかだか『
だから、俺はアリウスを侮らない。
ウチの会社の兵力を総動員させ、便利屋68にも個別で依頼し、RABBIT小隊にも助力を頼み、アビドスにも参戦を要請し、ミレニアムの技術も用いて、ティーパーティーの協力も得て、万魔殿との交渉も秘密裏に行い、温泉開発部に頭を下げ、カイザーコーポレーションからも贄を提供してもらった。
「……必要はないが、後顧の憂いは断っとくべきか。あぁ、セイア。聖園さんとの面会の件だが、やっぱり会うことにするわ。そう伝えておいてくれ」
「分かった。面会の日時はオウカの都合で構わないよ」
これで聖園さんから驚きの情報とか出てきたら泣く自信がある。
作戦の修正的な意味合いで。
「……オウカは、サオリをどうするつもり? サオリは……その……私の『家族』なんだ。難しいことは分かっているけど、それでも──」
「約束はできないが、命まで取るつもりはないよ。だから──」
と、アズサの心配を取り除こうとしたとき、
『──見つけた! 島津 オウカがいたわよ!』
『サクラコ様の御心のままに!』
『正義実現委員会に入りませんかー!』
『うんにゃ、あたいどんで確保しもす!』
とうとうトリニティ生に見つかってしまった俺は、考えるよりも先に両名を脇に抱えて、声が聞こえた方向とは逆に逃走を図る。
完全に誘拐犯の構図だったが、追いかけていた生徒は後に「二人とも楽しそうだった」と供述していたそうな。
【簡単な自己紹介】