アンチ・ヘイト多めだけど許してヒヤシンス。彼女の救済は4章になるんじゃ。
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2025/2/10 投稿時間ミスったので再投稿です。
俺は正義実現委員会の生徒によって厳重に守られた部屋へと辿り着いた。
もちろん、何の目的で来ているのかも分からん怪しい男子生徒を素通りするわけにもいかず、大人しそうな黒髪で目を隠した女の子に呼び止められる。原作知識持ちの連中は彼女らのことを『正実モブちゃん』と呼ぶらしいが、大和撫子感あって普通に美人さんだ。コレでモブと呼ばれるとは、キヴォトスの美的基準って高すぎやしないだろうか?
「すみません、ここから先は立ち入り禁止でして……」
「予約していた島津です。セイアから話は通ってませんかね?」
「し、島津さん!? しょ、少々お待ちくださいっ」
わーっと正実モブちゃんが数名集まって書類やらスマホやらを確認し始める。マジで同じようなビジュアルで、本当にモブなんだ……と内心は戦慄する。
数分ほど待たされた後、一つ目の部屋に通された俺は、金属探知機らや何らかの機材を持ったモブちゃん2名に案内されてテーブルの前に立たされる。
空港の保安検査場のようだな。
「ミカ様との面会では銃の所持が禁止されております。申し訳ございませんが、こちらで預からせて貰う形になりますので、ご理解とご協力をお願いします。面会終了後にお預かりしたものはお返しします」
「了承しました。えっと……爆発物やらナイフ類もアウトになりますよね?」
「はい」
そりゃあ銃ダメって言ってんだから、爆弾短刀がダメなのは分かり切ったことではあるが、正直に言って今から武装全解除するのが面倒だと思った故の質問だった。
俺は小さくため息をつき、机の上に武装を次々と置いていく。
懐に入れていたハンドガン、腰のベルトに挟んでいるナイフ、防弾チョッキのポケットに忍ばせていた閃光手榴弾を数個、同装備別ポケットのマガジンを数個。
そして──防弾チョッキ背部の裏側に隠していた予備のハンドガン。同じ場所のナイフを数本。ブレザーの裏側に縫い付けてあった部分を引き剥がそうとして、面倒何でブレザーごと預ける。何なら防弾チョッキを外して隠してあった日本刀ごとテーブルに置く。カッターシャツの裏に縫い付けていた小型ナイフを数本。靴を脱いで、底に隠していた小型ナイフも預ける。スラックスの裏側にもナイフあったので渡す。
「……島津さんは武器商人か何かでしょうか?」
「そうっすか? 仲間内だとまだ少ない方なんですけど」
「……どうぞ、お入りください」
終了時間が近づけば教えてくれるとの事だったので、俺は彼女らに礼を言って中に入る。今から風呂でも入るんかってくらい軽くなったので、比例して足取りも軽くなる。
聖園さんが監禁されていたのは、普通の部屋の一室。あくまでもトリニティ基準の『普通』であって、調度品やらテレビやら、お菓子でさえも取り揃えており、一瞬だがVIPルームに間違えて通されたのではないかと錯覚する。しかし、ソファーに悠々と座っている桃髪の少女を視認し、間違っていないことを知らされる。
「やっほー☆」
あっけらかんと元気そうな少女に、俺は笑みを作って返した。
「お久しぶり、聖園さん」
♦♦♦
確かに普通の部屋にも見えたが、内側から部屋を見渡して気付いたことがある。格子で窓やら扉やらが張り巡らされており、容易に内部から脱走しないように施されている。
あくまでもココは身分が高い者専用の牢なのだろう。まぁ、ティーパーティーの重鎮だった彼女の経歴を鑑みれば、当然の処遇ではあるんだろうけど。彼女が今後どのような流れを辿るのかは知らんが、俺が矯正局にお世話になるまでの辛抱だと思ってほしい。
「「………」」
ところで、この重苦しい雰囲気をどうすればいいんだろう?
最初こそは、差し障りのない上っ面だけの言葉のキャッチボールをしていたのだが、徐々に彼女からの口数は減っていき、今では俺の様子を窺うように沈黙してしまった。対して、俺も彼女から呼び出された理由というものが分からず、一度だけ聞いてみたが世間話ではぐらかされてしまい、お手上げの状況でもある。
俺も別に彼女に用事があるわけでもないので、こうやって互いが黙っているだけで時間は過ぎていくばかり。
このまま正実モブちゃんから面会時間の報を聞くのを待つんだと思っていた矢先、聖園さんから呼び出しの件でようやく口を開いた。
「私がオウカくんを呼び出した理由、だよね?」
「あぁ。是非ともお聞かせ願いたい」
「その理由、なんだけどさ……」
「うん」
「忘れちゃった☆」
「そうっすか」
その反応に「えっ、それだけ!?」と逆に驚きをあらわにする聖園さん。
俺は涼しい顔で、目前に用意されていた紅茶を口にする。基本的にはコーヒー派な俺なんだが、最近は紅茶しか口にしてないような気がするのは俺の記憶違いだろうか? 主にナギサのせいだが。
「今さら聖園さんが俺と面会する必要性がないし、興味本位で道楽的に呼び出した可能性も視野に入れてたからな。それが当たってだけの話。驚く必要もないかと」
「私が理由なく呼んだこともお見通しってわけ? まるでセイアちゃんみたいだね」
「俺は彼女ほど聡明でも先見の明もない」
どこぞのチート未来視フォックスと一緒にされても困る。
そう思い嘆息しながら俺はジト目を彼女に向けていた。
「私としてはオウカくんが察してくれたのは助かるかな。ほら、昨日はナギちゃんやハナコちゃんが来てさぁ、私がどうしてナギちゃんを殺そうとしたのだとか、真実がどうとか、私が事件を起こした理由を推測するとか言ってさ。しかも、私の目の前で。野暮だと思わない?」
「……ノーコメントで」
「その点、オウカくんはそういうの邪推しないでくれるから助かるなー」
ホストと露出狂のせいで、俺の株が相対的に上がっている気がする。
好意的にケラケラ笑う彼女の姿に、背筋がぞわっとした。
原作知識持ちから『聖園 ミカはどういった人物なのか?』と訊ねた時に、返ってきた言葉が『おしゃべりで直情的でメンヘラ気質でお姫様を夢見るタイプの腕力アイリス』だった。
なので脳をフル回転させて好感度調整を行う。
「大前提として、俺は聖園さんとは赤の他人だし、セイアからの要望でクーデターの鎮圧を行っただけの一般トリニティ生に過ぎん。聖園さんの動機とか、現場指揮官だった俺が知る必要はないだろう?」
「そうそう、それだよ! オウカくんもナギちゃんやハナコちゃんにも言ってくれないかな? 私はゲヘナが嫌いでクーデターを起こそうとしただけの人殺し。それ以上でもそれ以下でもないって。本当のこと言っても誰も信じてくれないんだよ?」
「彼女らの職務の関係上、仕方のないんじゃねぇかなぁ。それに、動機を知ったところで……ってのもある」
そこまで言い終えた俺は、まっすぐと聖園さんを見据える。
この部屋に入ってから今まで、ここまで直接的に目を見て顔を向けられたことがなかったせいか、聖園さんは少し頬を赤面させてそっぽを向こうとする。
逃がさんが。
「──だって、聖園さんは自身のやらかしたことを自覚できてないじゃん」
フッ、と彼女の雰囲気が変わる。
相変わらず笑みを浮かべたままだが、瞳孔が開いており、彼女の怒りが俺に伝わってきた。俺は気にする様子もなく、テーブルのマカロンを口に放り込むだけ。
「……私は自分がやったことを理解してるつもりだけど?」
「理解
厳しい言い方になるが、彼女は自身のやらかしたことの大きさを直視できず、受け入れているように見せかけて逃げているだけである。
その証拠に、彼女の言動は『事を起こした昔の自分』と『軟禁されている今の自分』を分離して考えているじゃないか。彼女の自虐は反省じゃない、本当に反省しているならそんなことを言わない。
ホストと変態才女には同情するよ。そんな人間に動機を聞いたところで、そもそも現実を受け入れきれてないんだから真実が見えて来るはずもなく。
勘違いしないで欲しいが、彼女の『逃げ』を『悪い』と俺は思ってない。いわゆる、一種の心の防衛機能みたいなものだ。セイアが生存している事実が彼女をギリギリで引き留めたが、それまでに行った罪科の数々が消えるはずもなく、その重さに耐えられるほど彼女が強くなかったってだけの話。クーデター未遂が起きてから数日しか経過しておらず、彼女には事を受け入れる時間が必要なのだろう。
内心ではそう弁護したが、彼女に言うつもりはない。
付け加えるのなら、今の彼女に必要なのはメンタルケアじゃねぇかなぁ。アリウスが襲撃に来るであろう調印式を前にして、誰も彼女のケアまでする余裕がないだけで。適任の先生も大忙しだし。いや本当にマジで人手が足りないっす。
「……言葉が過ぎた。聖園さんが自身の罪を自覚していると明言するのであれば、それが真実なんだろうよ。無礼な男子生徒の戯言と流してくれると助かる」
「……私のことはオウカくんには関係ないんじゃないの?」
「まったくもってその通り。申し訳ございませんでした」
彼女のあからさまな失望の表情を一瞬だけ確認しながら、俺は深々と頭を下げる。
つか直情型の猪突猛進が、いざ馬鹿やらかしたとて、素直に受け入れられるはずがないんだよな。感情が優位になってんだから猶更。
そんな知識を好感度調整に使う俺自身が嫌になってくる。こうやって余計なことを言わんといけない可能性もあったから、聖園さんとの面会は断りたかったんだよ。
自身への嫌悪感は表情には一切出さず、俺は自然な流れでスマホの時計を確認した。彼女を突き放した理由に、帰る口実を得たかったのもある。
「さて、このようなデリカシーすらない男に、聖園さんの貴重な時間がこれ以上消費されるわけにはいかねぇ。せっかくの面会を不快な思いにさせて、本当にスマンかった。それでは失礼する」
「あっ……」
俺はそそくさと部屋を立ち去る。
彼女が呼び止めようと口を開いた気がしたので一瞬だけ歩みを止めるが、特に何の反応もなかったのでそのまま退室する。
正実モブちゃんズから装備を受け取り、足早に聖園さんがいた部屋から距離を置こうとする。装備を全回収して重くなった身体だが、いつもより前へ前へと足が動いたのは気のせいだろう。
外は晴天、雲一つ存在しない。
日差しが非常に眩しく、俺は思わず目を細めた。
「自分は人殺し、か。人を殺すことを『悪いこと』って思えている時点で、聖園さんは立派だと俺は思うけどなぁ」
聖園さんも、アズサもそうだ。
彼女らは重要な『一線』というものを超えていない。前者は未遂ではあるが致命的な手遅れにならずに済んだ。後者は自身で引き返すことを選び、それ以外の方法を模索することを選んだ。
銃弾が飛び交うキヴォトスにおいて、引き金が軽すぎるとキチガイ共は笑い飛ばしたことがあるが、対して俺たちはどうだっただろうか。あまりにも──
彼女たちの葛藤が懐かしい。
あぁ、そうだ。
いつからだろうか?
俺が、俺たちが。
「──何とも思わなくなったのは」
♦♦♦
私は誰もいなくなったソファーに喋りかける。
「やっぱりダメだったかなぁ。そもそもオウカくんもナギちゃんの味方だし? 私のことを分かってくれるかも……なーんて期待する方が間違ってるよね。あーあ、どうして期待しちゃったんだろ?」
私は誰もいなくなったソファーに喋りかける。
「結果から見て判断して欲しいよね、ホント。私がセイアちゃんを殺そうとした事実に変わりはないし、ナギちゃんも消そうとアリウスと結託したのも事実。真実、真実って。他人の心を勝手に代弁しようとするとか、しかも間違ってて笑っちゃうんだけど」
私は誰もいなくなったソファーに喋りかける。
「自覚してないってホントに失礼しちゃうよ。自分が取り返しのつかないことをしたなんて、私が一番よく分かってるよ。でも、どうしようもないじゃん。セイアちゃんとの面会は禁止されてるし、本人に直接会って謝れないんだし。どうしろって言うの?」
私は誰もいなくなったソファーに喋りかける。
既に立ち去った
「どうしろって……言うの……?」
私は誰もいなくなったソファーに喋りかける。
彼は最後まで『私』を見ていなかった。言いたいことだけ言って、痛いところを的確に突いて、自分には関係ないからあとは考えろと言わんばかりに。
彼は──
「誰か、教えてよ……」
私がやったことがダメなことって分かってるのに、セイアちゃんを殺そうとしたことは分かってるのに、ナギちゃんの信頼を踏み躙ったことは分かっているのに、分かっている……はずなのに。
それを受け入れることを『心』が拒否して、受け入れることが怖くて。
でも──このままじゃダメなのに。
「私、分かんないよ……」
でも、誰も私に教えてくれない。
【簡単な自己紹介】