次々回はカイザーPMC理事が大活躍する回です。
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エデン条約の調印式まで、あとわずか。
物見遊山で調印式の会場に足を運んでいる俺だが、トリニティとゲヘナの生徒が、式典会場の設営に奔走しているのを確認できた。準備に右往左往する生徒たちがエデン条約に賛同しているか否かは分かりかねるが、真面目に物資の運搬や機材の設置に勤しんでいる。
彼女らの努力が報われるのか。それは『神のみぞ知る』……この場合の『神』ってのは、誰のことを指すんだろうね。
そんな彼女らを尻目に、俺はスマホを耳に当て遠方と会話している。
相手が誰なのか。そりゃもちろん──俺たちの上司よ。
「──という方向で進めて下さい。予算はミライのド阿呆を叩けば出してくれると思いますので、カイザーコーポレーションとの交渉は頼みましたよ」
『まままま、待ってちょうだい! え、私がカイザーコーポレーションと交渉するの!? あと、わざとらしい敬語は止めて! 普通に怖いから!』
「いえいえ、我が社のトップは社長なのですから、畏まるのは当然の事でしょう? 私はしがない一社員に過ぎませんので、こうやって社長のお声を拝聴するだけでも光栄でございます」
『雇われ社長ってだけで、実際のトップは貴方でしょ!?』
スマホの先に居るのは『シマヅ警備保障会社』のトップに君臨する若手社長、泣く子も黙るゲヘナ出身の生粋のアウトロー、陸八魔 アル社長である。元々は『便利屋68』の社長をしていたが、俺との継続雇用の契約によってシマヅの社長も兼任されている。
他の便利屋の方々も役職そのままで採用させてもらってる。便利屋唯一の平社員待遇の
キチガイ共の役職は経理係長扱いのミライを除き、全員が平社員で登録されている。俺たちは諸事情により役職を持つことが出来ないからだ。特に俺。
あくまでも便利屋の皆さんは名前を貸してもらっているだけだし、全責任はミライに丸投げするって算段よ。
余談だが、俺は警備会社に所属する生徒から『お館様』と呼ばれている。
平社員なのにね。
「んじゃお言葉に甘えて。……カイザーとの交渉は任せるって言ったが、実際にはミライも同行させるし、既に内容は決まったものを、正式に契約を結ぶだけだから、交渉は既に終わってるようなもんや。社長に移動や面会以外の手を煩わせるつもりはねぇから安心しな」
『そ、そうなの……? よ、良かったぁ』
「そう情けない声を出しなさんな。アウトローらしくないぞ」
『さすがの私でも、今まで土地の購入って大きな買い物なんてしたことないから仕方ないでしょ! しかも元はアビドスの土地って聞いたんだけど……だ、大丈夫なの?』
今回俺たちが購入するのは、元はアビドスの土地。借金返済の足しとして前生徒会がカイザーに売り払ったものを、俺たちが買い取る構図となっている。場所はアビドス高等学校が校舎近辺以外で唯一自治権を持つ商業区に隣接する土地。
普通に考えれば、今は正式に生徒会の権限を引き継いだ『アビドス廃校対策委員会』から猛反発を食らう行為。社長は彼女らと衝突することを危惧したのだろう。便利屋はアビドスさんと交友あるからねぇ。
俺は社長の心配は杞憂だと説明する。
だってアビドスには話し通してるし。
「アビドスにはホシノとミライ経由で話はしてる。買った土地もアビドスに返還するし、社長が気にすることは何にもないぜ。あとはアウトロー風を装ってカイザーにカチコミ行けばOK」
『なななな、なっ、何ですってーーーーー!!??』
ノルマ達成。
『買った土地をあげちゃうの!?』
「元の所有者はアビドスやしな。俺たちが持ってても仕方ないだろう?」
ちなみにだが、アビドスの面々からも同じ反応をされた。
たかだか土地の所有権を渡すだけじゃん。
「前回の『トリニティ春の
『……最近入社してくれた……えっと、アリウス?の子たちよね。前にアビドス商業区に建てた社員寮のキャパシティじゃ足りなくて、個室を3人で使っている状態よ。改善しなくちゃってのは分かってたけど』
電話越しの社長から悲痛なため息が聞こえる。
それでもアリウス出身の新入社員から不満などは一切なく、むしろ感謝の言葉をすれ違うたびに貰うほど。これはアリウスの生活環境がどれほど過酷だったのかの証明でもあり、最低限の衣食住や安定した収入が貰える環境への素直な感想なのだろう。
しかし、それが改善しない理由にはならない。個室に年頃の女の子を3人押し込めるとか、島津の名が泣くわ。
「ウチは新しい寮を建てる場所が欲しかった。まだまだ増える余地もあるからさ。でも、俺が欲しいのは建てる場所であって土地の領有権じゃねぇんだわ。だから土地の管理等、面倒なことは元の所有者であるアビドスに帰属してもらうわけ」
『彼女らを住まわせるだけの土地は、今の商業区にはないものね……』
「タダで『はいどうぞ』ってのはアビドス側も困るだろうから、適当に『贈与した区域で、こちらが行う一切の免税』を確約してもらった。カイザーもアビドスの土地を早く手放したかったらしいからね。三方にとっても良い買い物だと思うよ」
利権はあるのに手を出せない土地をカイザーは売ることが出来る、アビドスは失った自治区を一部取り戻すことが出来る、俺たちは該当地区で自由に物件を建てられる。
カイザーが所有したままだと交渉が毎回面倒だし、それなら土地ごと買った方が楽。アビドスも自治区の回復は喜ばしいことだから、率先して管理を請け負ってくれるだろう。交渉もこちらが土地を買った手前、ウチが気持ち優位に交渉できるってコト。
「寮の建設も赤冬……レッドウィンターの工務部に依頼している。少しの間はデモが発生するだろうが、そこら辺は適当に無視しといてくれ。社員一同にも通達を」
『どうしてデモが発生する前提なの……?』
工務部のトップは権力者批判を生きがいとしている生粋の革命家だからな。俺も様々な人間と出会ってきたが、対象を問わないデモやストライキが趣味の人間なんざ聞いたことがねぇ。そんで、ウチは代々資本家側の人間なので、彼女の批判対象なわけだ。
勘違いしないで欲しいが、俺は彼女の批判対象だが交友関係はそんなに悪くはない。この前なんて工務部の皆さんのためにプリン作ったからな。人数分。邪悪な権力の犬がせっせこプリン作りに励んでいるぞ。
だから彼女らは『労働者の権利をちゃんと保証してくれるが、それはそれとして資本家だからデモはする』で、俺は『ちゃんと仕事してくれるなら義理は果たすし、デモも好きにやってくれ』という歪な関係だ。俺も心のどこかでおかしいとは思ってるよ。
俺たちを
「っと、すまん。これから用事があるから、詳細はミライに聞いといてくれ。んじゃ」
『え? え、えぇ……』
そこで調印式を訪問しているであろう先生の姿を目視したので、半ば強引に話を切って終了させる。俺はモモトークでどっかの誰かさんにメッセージを送りつつ、目的の彼に近づいた。
「──先生、こっちですよー」
♦♦♦
“あと少しで調印式だね”
「そうっすね、双方とも良い感じにピリピリしてますよ」
“良い感じ……?”
緊張感があるのは良いことだと思うが、先生の意見は違うのだろうか?
まぁ、先生にとっては『平和条約が結ばれる喜ばしい日』なのかもしれないが、俺にとっちゃ『アリウス分校を再起不能にする日』だからな。根本的に心構えが違うのだろう。
“そういえばアズサから聞いたんだけど”
「はい」
“……サオリたちがエデン条約調印式を襲撃して来るって話は本当なの?”
彼の表情は苦悶に満ちていた。大事な生徒であるアズサの言うことは信じたいが、それは逆に同じく大事な生徒である錠前さんたちが武力を用いて攻めてくることを受け入れる必要がある。
どっちも先生から見れば守るべき対象、だから仕方ないか。
そう先生に同情しつつ、俺はアズサの情報に同意する。
アズサの情報元も俺だし。
「俺としては連中が攻めてこないのが理想ではありますが、
“そっか……”
ロリコン野郎がキヴォトス三大校を中心とした個人のネットワークから情報を拾い、なんならアイツはアリウスの本拠地の目星すらつけていると言っていた。最近も武装物資の運搬が多いと聞いているので、これで戦争準備をしていないと考えるほうがどうかしてる。
ましてや、俺はアリウスに草を入れている。元アリウス出身でこっちに寝返った生徒を紛れ込ませているので、相手方にもそう簡単にはバレない……はず。少なくとも定時連絡は来てる。
「トリニティとゲヘナに被害が出ないよう、ティーパーティーやゲヘナ風紀委員会も調整しているようですが、あちらも土壇場で何をしてくるか分かりません。先生も十分お気をつけて」
“話し合いで解決……は出来ないのかな?”
「それが出来れば楽なんですが、相手が聞く耳も持つかどうか。一回ブン殴って話を聞く姿勢を作らないと、どうしようもないっすよ」
彼はそれでも『話す機会』を所望されるので、俺は「何とか作ってはみます」とだけ返す。砂糖より甘い考えだとは思うが、生徒との対話を諦めないのは先生の美徳でもある。教育者として、更生を諦めるって選択をしたくないのだろう。
アズサからもアリウススクワッドの助命を懇願されたから、考えを改めるかは別として、ひとまず話ができる状態には持っていこうと思う。
……本当は、本当なら、アリウススクワッド仕留めた方がマジで楽なんだけど。その方がトリニティとゲヘナの双方に被害が出ない、物凄く穏便な解決策ではあるんだけど。
ダメなんだろうなぁ。
そうだよなぁ。
「先生、前々から一つ疑問に思ってたことがあるんですが」
“どうしたの?”
「シャーレの固有戦力って持たないんですか?」
元SRTの惨事とかを目の当たりにしている身としては、連邦生徒会長直属の特殊部隊を引き継ぐ……とは言わずとも、連邦捜査部としての固有戦力って持ってた方が良いと思うんだが。シッテムの箱による防壁はあれど、聞き分けのない子供をチェストするだけの力は持って欲しいところ。
ほら、あれだ。想いだけでも、力だけでもダメってやつ。
その問いに先生は笑いながら首を横に振る。
“その方が良いのかもしれない。でも──それを私が持ってはいけないと思う”
「理由を聞いても?」
“その問題を解決をするのは、
「……あー、そっかそっか、なるほど」
確かに武力で解決するのなら固有戦力は必要って考えるのが常識的。
しかし、先生の考えは『問題』が起これば、それは大人である先生と『その問題に関わる生徒』で解決するべきであると熟慮されているようだ。確かに生徒に『お願い』するのと、シャーレとして『命令』するのとでは、問題に直面した生徒が解決したときの成長実感が違うんやろな。俺は知らんけど。
あくまでも『教育者として』、ね。
「分かりました。でも、それで先生が倒れちゃ元も子もないっす。いざって時は、薩摩のキチガイ共にご一報を。相手に『理不尽』を教えるのは得意ですから」
“あはは……”
「……話は変わりますが、先生も調印式での役割があるとお聞きしました。リハーサルとかはどうなってます? ちゃんと祝辞とか考えてます?」
“………”
「まぁ、お忙しいっすもんね。それなら──練習してみませんか? ほら、ちょうど
俺の視線の先に居たのは、ゲヘナで問題行動を起こしては風紀委員会から顔を隠して逃げ回っているカネサダ。しかも、最近ではカネサダとセットで見られるようになった金髪幼女……えっと、名前は何だっけな。苗字が思い出せないが、名前がイブキって子なのは覚えてる。
あとカネサダを鋭い目で監視している赤い髪の女の子は誰だろう。脳内に『ゲヘナアカモップ』って単語が思い浮かんだ。不敬ぞ?
先生も“練習に付き合ってくれるのは嬉しいよ”と快諾する。
こうして、俺やカネサダ、万魔殿所属の生徒さんとも協力しながら、先生は祝辞を完成させ調印式に備えるのだった。
【簡単な自己紹介】