次回は……アリウス視点かなぁ。
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ビルの屋上。大きな機械の前に待機する
ここにいないアヤネちゃんを除いて、それぞれが武器や弾薬の数を確認しながら、どことなく落ち着きのない様子だった。これから起こることを事前に伝えられているからこそ、私だって「うへぇ~」とか言いつつ、内心は緊張している。
……いや、ミライくんは違うかな。
対策委員会のみんなに見せる普段の雰囲気で、スマホで生中継を視聴していた。
なんて考えていると、私がまじまじと見ていたことが彼に知られたようだ。
イヤホンを外しながら「ホシノ先輩どーしたの?」と聞いてくる。
「おじさんたちはここで待機してていいのかなーって。ほら、これからアリウスが攻めてくるんでしょ? 屋上にいるよりも、下で迎え撃った方がいいんじゃない~?」
「そうですね。私たちも調印式の会場で待機した方がいいんじゃないでしょうか?」
これにはノノミちゃんも困ったように首を傾げ、その言葉にセリカちゃんやシロコちゃんも頷く。
前回のトリニティの一件でも裏方として協力した私たちは、今回の調印式の防衛戦のお手伝いも依頼された。前回とは違って遭遇戦の可能性もアリと聞いて、私が不注意にも「ドンパチ前提でおじさんたちを雇うなら高いよ~」と、オウカくんに軽口を叩いてしまった。
その冗談を知ってか知らずか、一方のオウカくんは表情を崩すことなく返してきた。
『一理ある。んじゃ、
『な、なに?』
『いくら欲しい? いくらなら受けてくれる?』
唐突に聞かれたセリカちゃんはテンパる。多額の借金を抱えた学校に所属し、バイトを掛け持ちしている貧乏学生な彼女は、いきなり報奨金の話題を振られた形になるわけだ。相場が分からないセリカちゃんはグルグルと目を回し、ツンデレ気質な後輩はキリの良さそうな数字を述べた。
『ご、500万よ! 一人当たり!』
『りょ。計2,500万な。後日口座に振り込んどくわ』
『……へ?』
あっさりと承諾されて、本当に振り込まれてたときの対策委員会は阿鼻叫喚だった。
こうして莫大な日当を支払ってもらった手前、その対価に釣り合わなさそうな対空ミサイル砲の護衛だけなのは非常に申し訳ない。
しかし、ミライくんは困ったように笑うのみ。
「おぉ、張り切ってる感じ?」
「わ、私も考えなしに金額言っちゃったから、せめてそれくらいの仕事はす、するわよ……」
「確かに頭のおかしい金額だけど、決定を出したのはオウカだからね。それにコレの護衛も重要で立派な仕事。──だって、コレやられたらゲヘナとトリニティで最悪死人が出るし」
彼の言葉は私たちの不安を吹き飛ばす一撃があった。
同時に緊張感も跳ね上がる。
ミライくんから聞いていた作戦であれば、確かに対空ミサイルは非常に重要だし、迎撃できなかった際の被害は軽く見積もっても最悪が予想される。
私たちへの信頼と実績、この場所の重要性、それらも吟味してオウカくんは金銭を切ったのだろう。……なおさら頑張らなくちゃ。
そんな会話で暇をつぶしていると、オウカくんとミナくんが姿を現す。
中はそれぞれの学校の制服だけど、共通して黒いジャージを着ている。ミライくんもそうだ。そのジャージに刻まれる丸に十字は、アビドスでやんちゃしていた不良にとってはトラウマを呼び起こすだろう。
「さて、
「アビドスの皆様に説明させていただきますと、相手方のミサイルは『エンジニア部』により開発されたこちらの砲──通称『カイザーPMC理事砲』で迎撃します。誘導弾ではあるので外す心配はないかと思われますが、物事に絶対はありませんので臨機応変に参りましょう」
ミナくんの説明に出て来た対空砲の名前に、私は思わず苦虫を嚙み潰したような表情になる。対策委員会のみんなもミライくんを除いて、同じように不満そうな雰囲気を醸し出していた。
既に終わったことを蒸し返すつもりはないけれど、私たちにとって『カイザーPMC理事』という名前は無意識に忌避感を覚えてしまう。アビドス高校の廃校を画策していた者、対策委員会をずっと苦しめてきた存在、私を騙した『悪い大人』……そんな印象しかない。
私たちにとって負のイメージを持つ名を冠する物体の護衛だなんて……オウカくんの頼みじゃなきゃ断っていたかもしれないなぁ。
その意図が彼らにも伝わったのだろう。
うーん、と顔を見合わせていた。
「でも、コレは『カイザーPMC理事砲』としか言いようがないぞ?」
「しかし、小鳥遊様が苦言を呈する理由も理解できます。配慮として名称を変更するべきでは?」
「そもそもの話。どうして『カイザーPMC理事砲』って名前──」
シロコちゃんが対空砲の名称の由来を問おうとしたところで、屋上の出入り口から「カイザーコーポレーションの者ですが、お届けに上がりました」という声を耳にする。
瞬時に脳がカイザー
「──はい、ちゃんと確認しました。さっすが天下のカイザーコーポレーション。目的のブツをちゃんと持ってきてくれるとは……こりゃあプレジデントさんには感謝しねぇと。よろしく伝えといてください」
「は、はいぃぃぃっっ!」
カイザーの社員たちは受け取ったかの確認をしたのち、そそくさと逃げるように屋上から姿を消す。
残ったのは最初からココに待機していた対策委員会、そしてミレニアム所属のミナくんと、トリニティ所属のオウカくん。
そして、
「──っっ!!! ──っっっ!!!!」
「「「「「………」」」」」
簀巻きにされた
必死にもがこうと身体をくねらせたり、飛び跳ねたり抵抗を続けている様を第三者が見れば、アビドス高校を廃校にしようと暗躍し続けていた『悪い大人』とは容易に信じないだろう。
「……えっと、これは」
「ん? 見ての通りカイザーPMC理事だぞ。彼がいないと今回の作戦は成り立たんからさ」
オウカくんは対空砲から少し離れた場所に視線を移す。
「そこに『カイザーPMC理事砲』に装填する迎撃用ミサイルがあるやろ? そんで先っぽ部分に大人一人分がすっぽり入るスペースが確保されてる。その棺お……ミサイルにブツを乗せて」
オウカくんは対空砲に視線を向ける。
「あれに入れて発射して敵の巡航ミサイルを撃ち落とす。だから『カイザーPMC理事砲』って名前なんよ。彼にはこれから『英雄』になってもらう」
男子組が最後まで抵抗するカイザーPMC理事を無理やりミサイルに押し込む姿を見ながら、私は前にミライくんが「『英雄』ってのは得てして非業の死を遂げるもんだよ」って言ってたことを思い出した。
コイツのしたことは許されないって気持ちは変わらないけど、なんか……こう、何とも言えない憐憫的な感情が湧き上がってくるのは何なんだろう。黒服もこうなることが分かってたのかな? それなら、あれだけ私の『神秘』に興味を持っていたアイツが、手のひらを返したかのように白旗を振ったのにも納得がいく。
彼らは協力してミサイルを運び、装填する。
あんまり機械とかには詳しくない私だが、さすがミレニアムの開発した対空砲だ。メカメカしい機械が音を立てながらミサイルを飲み込んで装填される。ミナくんが接続しているパソコンをカタカタと叩く。
その様子を眺めていたオウカくんに、シロコちゃんが近づいてちょんちょんと服の裾を引っ張る。
「ミサイルにアイツを入れる必要ってあった?」
「ねぇな」
即答だった。
だけど──と言葉を続けるオウカくん。
「まぁ、俺たちがカイザーに『アビドスの怒りは収まってないから、花火にしていい人身御供を寄越して。カイザーPMC理事ならベスト。他の役員でもベター』ってゴネてみたら、プレジデントさんがコイツを送料あちら持ちで送ってくれたんよ。アビドスに在籍している薩摩兵子を
「私たちもカイザーは許してない」
「カイザーとしても調印式襲撃を守ったってパフォーマンスは今後に使えるだろうし、別に悪いことだけじゃないんよね。あと、飛ばすのはPMC理事じゃなくてもいいって言ったら、重役どころか下っ端まで草の根を分けてまで探して縛って連れて来たんだとよ。笑ったわ」
カイザーコーポレーションの連中も、ミサイルに括り付けられて飛ばされたくないからね……。前に私たちもカイザーPMC理事をミサイルに括り付けて飛ばしたことはあるけど、あの時は理事へのヘイトが凄かったからねぇ。色々と問題が落ち着いて、こうやって冷静な視点になってみると、私たちって相当やばいことしたんだなぁって今は思う。
オウカくんたちは別にヤバいとは思ってないだろうけど。
「一度だけ耐久テストして大丈夫だった気はするから、理事も死にぁあせんと──ん?」
全然大丈夫じゃない発言をするオウカくんは、ふと明後日の空の方向を見る。
私たちもそれにつられて彼らの視線の先に顔を向け、よくよく目を細めてみると点のような
「おい、百合豚。話と違ぇぞ」
「こんだけ変われば、そりゃあ先も変わるって。にしても……いやー、こいつは参ったなー」
彼らがミサイルが飛んでくると情報共有し、あれがそのミサイルなのならば、3つの点は……つまりはそういうことなのだろう。いくらキヴォトス人の私達でも、ミサイルを数発受ければ死んでしまう可能性がある。
要するに──状況は最悪と言ってもいい。
私はミサイルが3発飛んでくることを告げて、アビドスのみんなに男子組を守るように指示する。確かにキヴォトス人でも耐えられるか分からないけど、確実に言えるのは『ヘイローを持ってない彼らは1発でも死んでしまう』ってこと。
アビドスは彼らに返しきれない恩がたくさんある。
せめて彼らを守るために──と、私はオウカくんの前で盾を構えようとして、
「ロリコン野郎、別方面の迎撃部隊も出すか?」
「………」
ミナくんは少し思案した後、カタカタとパソコンを叩いてはミサイルの方角を確認する。
……まさか。
「いえ、その必要はありません。幸いにも3発のミサイルは同時に発射され、並ぶように飛んできております。並んで飛ぶ3発の中央を撃ち抜き、左右を誘爆で破壊しましょう。既に修正は行いました」
そしてターン!とエンターを弾く音とともに、理事を乗せた迎撃ミサイルは煙をまき散らしながら飛翔する。
「巡航ミサイルが3発? その程度の誤差、撃ち落としてみせましょう」
理事入りミサイルは尾を引きながら敵のミサイルにまっすぐ飛んでいく。
ミライくんはどこから取り出した双眼鏡で追跡し、オウカくんもこぶしを握り締めながら行方を見守る。このわずかな時間で1発を迎撃するはずだったシステムを即興で書き換え、自信満々に理事を送り出したミナくんも不敵な笑みを浮かべる。
「さぁて、ミサイルの爆発音が開戦の合図よ。アリウスが言ってることが正しく、俺たちの足掻きが間違ってんのかもしれん。が、俺たちは別に正しさを証明するために戦うんじゃねぇ。あくまでも本来の目的は生存闘争」
「僕らの大将は言葉を選ぶのが好きねー。はっきり言えばいいじゃん。正しい奴が勝つんじゃなくて、勝った奴が正しいって。どんだけ御託や言い訳並べても、歴史がそれを証明してる」
「故に、
そう語る間にもミサイルとミサイルは距離を縮める。
それが双眼鏡を介さずとも、目を細めずとも、通常に目視できる段階まで迫ったところで──
「「「とりあえず理事はバラバラになれえええええええええええええええええええええええええええ!!!!」」」
呪詛とも呼べそうな男子組の叫びと共に、理事を乗せたミサイルは3つの敵ミサイルを巻き込みながら爆散した。良く言えば開戦の狼煙とも言える花火のように、悪く言えばおふざけで特に意味のなくカイザーPMC理事が木っ端微塵になっただけ。
ともかく、迎撃は成功した。
その様子に内心で息を吐いていると、オウカくんがボソッと言葉を漏らしたのが聞こえた。
聞こえてしまった。
「……あ、3つのミサイルの誘爆に耐えられるかテストしてねぇや」
──後にセリカちゃんはこう語る。
『私はカイザーPMC理事のことは大っ嫌い。けど、反面教師としては心底感謝してる。私は絶対に悪い大人にならない。汚い花火になりたくない』
シロコちゃんも銀行強盗強盗する回数が極端に減った。
【簡単な自己紹介】
カイザーPMC理事:黒服と共謀してアビドス高等学校を借金漬けにした張本人。とりあえず生きてる。後に、自身からキヴォトスの辺境への左遷を申し出る。キチガイ共への復讐よりも、何でもいいから関わり合いたくない。なお。