サオリ回です。可哀想に。
次回は補習授業部の回です。
感想ありがとうございます。励みになります。
おいは嬉しか。
ようやく我々の
長きにわたる我々の復讐が果たされる。
──しかし、この何とも言えない不快感は何だ?
「──……問題なし」
「は、はい! 終わりました、チェックもできてますし、色々と確認も……」
私の口から発せられた準備確認の有無に、ミサキとヒヨリが状況報告をし、アツ……姫は身振り手振りで問題がない旨を示す。トリニティとゲヘナに罪科の鉄槌を下す以上、いくら『彼』が用意した人形があれど、少しの不備が任務失敗の要因になりかねない。
……にも関わらず、肝心の私は問いながらもどこか上の空だった。
待てども私からの指示がないことを疑問に思ったのか、姫が私の肩を叩いてくる。そこで、私はアリウススクワッドの皆から怪訝な表情をされていることに気づいた。
「……何か問題があった?」
ミサキの問いに「何でもない」と答える私。
マダム曰く今回の作戦において、正義実現委員会の『ツルギ』、ゲヘナ風紀委員会の『ヒナ』、そして連邦捜査部シャーレの顧問たる『先生』。以上の面々が、トリニティとゲヘナを滅ぼすための最大の障壁になると伝えられていた。
両学園の最大戦力、連邦生徒会傘下の『先生』が我々の邪魔をしてくるのは容易に想像できた。だからこそ、巡航ミサイルで調印式会場を爆破したとしても、ヒヨリの部隊をヒナに、ミサキの部隊をツルギにぶつけ、
加えて、私はシャーレの先生を排除する。
これから長年の復讐に
この作戦を計画した『マダム』に対しての不満も、当然ありはしない。
けれども──ただ一点だけ、私は納得がいっていない。
『──島津 オウカ?』
『はい、聖園 ミカを扇動して起こした軍事クーデターを予見し鎮圧した首謀者です。裏切り者であるアズサの協力者でもあります。あの男は危険です。即刻排除するべきかと』
トリニティの軍事クーデターが失敗に終わったことを報告した際、今までノーマークであった男の存在とマダムに報告し、早急に始末することを提言した。
あの男を野放しにしておけば、後に障害になりかねない。
シャーレの先生以上に警戒するべき男であると。
『……捨て置きなさい』
『……っ!? ど、どうしてですか!』
マダムは少し考えるそぶりを見せたが、答えは「注視する価値無し」だった。
彼女の言うことは絶対である。しかし、この時ばかりは私は食い下がった。
『今回の計画における最大の不確定要素はシャーレの先生であり、
『で、ですが……!』
『
『………』
確かに百合園 セイアとの関りもあり、トリニティの一件にも
だが、所詮はヘイローを持たない子供。マダムの所属する『ゲマトリア』から名前を聞いたことはあれど、廃校寸前の自治区で少し暴れた程度の実績。トリニティやゲヘナの最高戦力のように警戒するような相手ではないとマダムは吐き捨てた。
それよりも、連邦生徒会長が呼び寄せた超法規的権限を持つ先生の方を野放しにする方が危険と彼女は語った。どのような力を持っているのか未知数で得体のしれない『大人』は絶対に排除せねばならないと。
マダムは『貧弱な子供』よりも『大人』を脅威と見なしている。
彼女の決定に従うしかない。
それがもどかしく──
「……リーダー? 大丈夫?」
「サオリさん、もしかして具合が悪いとか……?」
……どうやら熟考する時間が長かったようだ。
「いや、何でもない。──準備は整ったようだ」
「こ、これから辛いことになっていくんですね。みんな苦しむんですね……ですが、仕方ありません」
「……そう、それがこの世界の真実」
「………」
姫は私の顔をじっと見つめると、手を動かした。
彼女が何を言おうとしているのか、それは……。
『彼──オウカのことを考えてた?』
思わず目を見開いた。
「オウカ……って、あれだよね。トリニティの」
「前にサオリさんが言ってた男の子ですよね」
『今回の件も彼は出てくると思うよ。サッちゃんは彼を警戒してるんだよね』
ミサキとヒヨリは私が名前を出した程度の認識しかなかったが、喋ることなく手話で意思疎通をする姫は急に饒舌……舌?になる。いつもは簡単な手話でしか意志を伝えて来ない姫が、ここまで手を動かすのは初めて見た。島津 オウカへの警戒心を心なしか大きく上げる。
私は姫の質問に素直に答える。
「あぁ、あの男は油断ならない」
『そうかもね』
「? 姫はその人の事知ってるの?」
『ううん、遠目で見ただけ』
そこで姫は一瞬手を止めてから、再度手話で伝えてくる。
『でも──彼は止まらないと思う。どれだけ仲間を失っても、どれだけ逆境に立たされても、どれだけ世界が虚しくても、絶対に彼は
「そこまで分かっちゃうんですねぇ……」
『……うん、何となくだけど』
vanitas vanitatum. et omnia vanitas.
全ては虚しく、どこまでいっても虚しいだけ。
アズサも島津 オウカも、こんな空虚な世界に何を見出している?
どうして折れない、なぜ折れない。
「……どちらにせよ、トリニティとゲヘナは地図から消えることになる。アリウスを迫害した者たちが、自らが定めた戒律によって滅びる。アズサも、あの男も、止めることはできない」
頭を振って雑念を振り落とした私は、確認の続きを始める。
「巡航ミサイルの準備は?」
「既に3発を発射済。5分後にはターゲット地点に着地する」
本来は1発のみのミサイルだったが、想定以上にトリニティとゲヘナの展開している地点が広範囲であり、マダムの作戦の軌道修正により3発を爆破させることになった。
5分後に地上は地獄と化すだろう。
「チームⅡとチームⅢは?」
「つ、通路側で待機中です……時間に合わせて、作戦地域に突入する予定ですね」
「古聖堂の崩壊と同時に突入。ミサキとチームⅡはトリニティを、ヒヨリとチームⅢはゲヘナの方を頼む。チームⅡはツルギを警戒しろ。チームⅢの方はヒナに気を付けて動け」
「了解」
「は、はい! 分かりました! ひ、ヒナさんですね……!」
「チームⅠとチームⅤは──」
作戦行動を再確認し、私は地下から地上を見据える。
「では、散開」
トリニティよ、そしてゲヘナよ。
これまでの長きにわたる我らの憎悪、その負債を払ってもらうときだ。
我々アリウスが楽園の名の下に……貴様らを審判してやろう。
「──と、まぁ、あれだ。世の中ってそう上手くはいかねぇもんだよなって。ね?」
「……島津 オウカ!」
そして巡航ミサイルは3発とも迎撃された。
先の軍事クーデター時にアリウスは半数を捕虜にされ、こちらも各方面に回せる人員が不足している。
私も早急にシャーレの先生を討たなければならない。
それだというのに……私たちの前に立ちはだかるのは、黒目黒髪の男。
「俺は会ったことがないから、改めて自己紹介をさせて頂こう。俺の名前はトリニティ総合学園に在籍している島津 オウカってモンだ。以後お見知りおきを」
「……なぜ」
「せめてそっちも名乗れや。こっちも先生をみすみす
帰れるもんなら、なぁ?
そう言いたげに目前の男は右腕を上げる。すると後方で待機していた連中は、一糸乱れぬ動きでこちらに銃を構える。彼女らの目は異様なまでにギラギラと輝き、皆が多様な笑みを浮かべていた。私たちが嫌う『希望や未来を見据えたもの』ではない。そんな生易しい目じゃない。
ぞくりと背筋が凍る。何なんだ、コイツらは。
私は条件反射で引き連れていた
姫からの報告で、エデン条約の書き換え自体には成功し、現在ユスティナは我々の管理下にある。協力者たるゲマトリアの『マエストロ』という者が、動きに若干の違和感はあるものの、戦闘への投入自体には問題ないと語っていたとか。
不死の軍勢が傘下にあると知っているだけでいい。
トリニティやゲヘナ、そして目障りな
「……ほぅ? それがアイツらから聞いたユスティナ聖徒会のパチモン。確かに、ちと厄介な匂いはするな。ったく、死後に模倣されてテロリズムの片棒を担がされるなんざ、聖徒会の面々も地獄で泣いてらぁ」
「
「そもそも生かすつもりが微塵もねぇ癖に?」
それにさぁ、と島津 オウカは嗤う。
「不死の軍勢? 古今東西、盾が矛を凌駕したことは一度もない。何らかの不死性、防備性は必ずと言っていいほど綻びが存在する。神話が、歴史が、それを証明してんの。要するに──殺して死なないからって、殺し続けて死なない保証はどこにもねぇってコト」
黒髪の男は小銃を私たちに向ける。
満面の笑みを浮かべながら。
「さて、アリウス代表諸君。狂人に付き従う島津の戦友諸君。戦争をしよう。キヴォトスで最も面白く、キヴォトスで最もくだらない戦争をしよう。己が武を誇り、薩摩兵子の矜持を示してやろう。死んだり、死なせたりしよう。殺したり、殺されたりしよう」
「……狂人が」
「こいつは傑作だ、トリニティとゲヘナに喧嘩を売るような阿呆に狂人扱いされるとはなぁ。俺が狂ってる? 馬鹿が、何を今さら。指摘すんのが数世紀遅ぇよ」
ケタケタと狂人は嗤う。
ひぇっ、と私の後方から嗚咽が聞こえた。
トリニティとゲヘナと相対する覚悟を持っていたはずの私たちが、ヘイローを持たない男に言葉と表情だけで圧倒されているのだ。強大な敵に立ち向かう作戦を言い渡されただけで、狂気を撒き散らす手勢の相手をするようには言われていないから。
これ以上相手のペースに飲み込まれてなるものか。
自身の愛銃を狂人に向ける。
「最終勧告だ。そこをどけ。──殺すぞ」
「島津ん大将首、獲れるモンなら獲ってみ──」
狂人が答え終わるよりも先に、私は引き金を撃つ。
急所は防がれることを予見して腹部を狙って即座に撃ち、ヘイローを持たない貧弱な男は無防備な腹部を真っ赤に染めるが、そんなのお構いなしに嗤いながら突貫して来る。同時に、アリウスとシマヅの両陣がぶつかる。
私を守るようにユスティナのミメシスが間に入るが、戦狂いの男は突進の勢いのままミメシスの胸元に蹴りを入れ、仰向けに倒れたミメシスの両腕に足でそれぞれ踏んで反撃を防ぎ、そのままフルオートで弾を惜しみなくミメシスにブチ込む。弾切れを起こすと、手慣れたようにマガジンを装填し撃ち続ける。
ガガガガガガガガガガガガガッッッ!!と容赦なく放たれる銃弾を防ぐ術はなく、全てを打ち切ったあたりでミメシスは消えてなくなる。不死の兵が、文字通り死んだのだ。
「なぁっ──!?」
「あー、確かに耐久高そうやな。でも並みより硬いだけや」
他愛なし、と消えゆくミメシスには目もくれず、狂人はニヤニヤと嗤いながら私を見据える。
「会話中に撃つなんざ卑怯だぞ? 俺、そういうの好き」
ここに来て。
ここに来てようやく。
この男を目の敵にする理由を、言い知れぬ不快感を抱く理由を悟った。
私は島津 オウカが嫌いなのだと。
「死ね、島津」
「おう、自称健常者。かかって来いや」
【簡単な自己紹介】
ベアトリーチェ:ゲマトリア所属。アリウスでは『マダム』と呼ばれている。他者に敬意を抱かない本来の傲慢な性格、キチガイ共の情報統制、間者からの情報改ざん、黒服からの情報提供が皆無等の理由で、主人公たちを警戒していない。