キチガイ共の蒼い空   作:十六夜やと

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 前半はイロハ視点、後半はサオリ視点です。
 これ実質的にサオリ虐やろ。主人公はサオリを解放しろ。
 次回は……どないしましょ? あと2.3話でブルアカ宣言に持っていく予定です。




 感想・高評価ありがとうございます。励みになります。
 誤字報告ありがとうございます。おいは恥ずかしか。


036 死屍累々

『──イロハ、あの男を監視しろ』

 

 

 そう命じられた私は、自分でも珍しいと自嘲するほど、その任務を忠実にこなしていた。必要最低限の仕事を早急にこなし、隙を見てサボれるときは十二分にサボる。不真面目であることは自認していたが、今回ばかりは真面目に仕事をこなすしかなかった。

 これは私だけの問題じゃない。万魔殿の……いや、イブキの為だった。

 

 私の任務は『伊集院 カネサダを監視する』こと。

 最近になってゲヘナに編入してきた、キヴォトスでも珍しい、ヘイローを持たない男。性格は極めて粗暴で野蛮……と言いたいところだが、ゲヘナの大半の生徒が()()なので、この男が特別悪いとは言えない。個人的な偏見である。

 そんな男の監視任務に、どうしてそこまで意欲的なのか。

 

 

「──わーい! お目目がグルグルするー!」

 

「しっかり捕まっときなァ、チビっ娘──オラオラァ! ヘイロー持ってねェオレを殺すことすら出来ねェのかアリウスの雑兵共がァ!」

 

 

 ──我々のイブキを肩車しながら戦闘行為(危ないこと)をするコイツが、個人的に気に入らないだけである。

 普段ならイブキに変な虫がつかないように目を光らせている万魔殿だが、カネサダという男は私たちの与り知らぬうちにイブキと仲を深めていた。気づいた時には手遅れで、我らが議長が発狂していたのは記憶に新しい。

 

 イブキ云々を抜きにしても、万魔殿でこの男を好意的に見る者の方が少ないだろう。

 私が命じられる少し前。この男は風紀委員長の『空崎 ヒナ』を伴って現れ、あろうことか『万魔殿(生徒会)の代行権限を一日だけ貸せ』と言ってきたのだ。

 ただでさえ不遜な態度に腹を立てていた議長だったが、伴ってきた人物が決定打となった。万魔殿と風紀委員会のトップの仲の悪さ(こっちが一方的にだが)はゲヘナで知らない者はいないだろう。

 最初、私から見れば『交渉下手では?』の感想のみ。

 

 

『──断る!』

 

『……あっそォ。じゃあ、いいわ』

 

 

 予定調和というか何と言うべきか、議長のマコト先輩は一考にすら値しないと断った。その権限を欲するのも『エデン条約を面白くしたいから』という馬鹿みたいな理由だったため、当然の対応とも言えよう。同伴してきた風紀委員長ですら呆れていたのは、個人的には面白かったが。

 そして、その男子生徒も素直に引き下がった。何をしたかったのか分からないほどに。

 

 ……そう、話は終わった。

 ()()()()()()()()()()()

 

 この男の電話での会話を耳にするまでは。

 

 

 

 

『──オイ、百合豚野郎。やっぱ無理だったわ。……まァ、普通に無理わな。……ンなわけで、交渉材料にするはずだった……あァ、なンだったか? 『雷帝の遺産』だったか? もうオレらで使っちまおうぜ』

 

『『──っ!?』』

 

 

 

 

 その言葉にマコト先輩と風紀委員長は驚愕し彼を呼び止めた。

 どこが彼女らの心情を動かしたのか私には分かりかねるが、彼の言葉を聞いた二人の様子は異常だった。()()マコト先輩が一度は一笑して放棄した交渉のテーブルにつく程には。

 

 

『……ンじゃ、改めて建設的な話し合いと洒落込もうか』

 

 

 こうなることを見越していたのか、ゲヘナ唯一の男子生徒は小馬鹿にしたような笑みを浮かべながら、最終的に自身の要求を全て通すことに成功した。代行権限を得た当日、先生と雑談するばかりで目立った動きがないことも、私の不信を加速させる。

 私は彼の評価を『馬鹿で交渉下手のゲヘナ生』から『得体の知れない狡猾な男』に上げるのは当然のことだろう。無論、上げたのは警戒心である。それはマコト先輩も同じだったようであり、ほぼ無名だった男子生徒に対して、議長権限の有効期限が切れた後も『監視』を命じた時点で察することが出来る。

 

 そして、エデン条約の調印式当日。

 調印式は謎の武装集団により混沌と化し、マコト先輩の乗っていた飛空船は炎に包まれながら地に落ちた。ゲヘナの風紀委員会を中心として戦線の構築に成功し、若干の優勢を保ちつつはあるけれど、既に迎撃されたミサイルが落ちていれば結果は逆転していたであろう。

 イブキが怪我をする要因が消えたことにホッとすると同時に、この襲撃を()()()()()()カネサダへの不信は増えるばかり。

 

 それでも、彼はヘイローを持たない、先生と同じ外の人間。

 不本意ながら、非常に不本意ながら、勝手に倒れられてイブキが悲しむ姿を見たくはないので、もしもの時は彼の身を守ることも頭の片隅には考えてはいた。

 

 

『アハハはははハハハはハはッッッっっ!!! 馬鹿をハメて殺すのも楽しいがよォ、やっぱ戦は白兵戦が一番だよなァ!? あァ!? もっと殺し合おうぜアリウス分校ォ!』

 

 

 この男は私の警戒心をどこまで上げるつもりだろうか?

 銃弾が一発でも当たれば致命傷になりかねない身体で、ならば一度も当たらなければ問題ないと言いたげに、伊集院 カネサダという男は無茶苦茶に戦場を荒らした。

 ……その戦闘スタイルが荒々しく、『戦場を荒らした』と表現してみたものの、他のゲヘナ生徒の邪魔になるような立ち回りは見受けられなかった。むしろ、風紀委員のアシストもしながら、肩車したイブキを守りつつ、この男は縦横無尽にアリウス分校の生徒や、異様なガスマスク集団を狩り続ける。

 片手に銃、片手に短刀という、キヴォトスでは珍しいスタイルで他を圧倒する。時に銃弾を撃ち込み、時に短刀で銃弾を逸らし、足蹴り殴りは変則的に、倒れているアリウス生を盾に突進し、嗤いながら戦闘を()()()戦闘狂(バトルジャンキー)

 

 つまり、この男は無駄に頭が回るだけでなく、それなりの戦闘力も有していることになる。風紀委員長ほど理不尽の塊ではないにせよ、これを万魔殿の戦力だけで拘束することを考えると……あまり考えたくはない。集めた情報の中には、彼がキヴォトスで頭角を現し始めた軍事会社とも繋がりがあるらしく、私は戦闘中にも関わらず大きくため息をついた。

 ……そう、戦闘中に、である。

 背後を敵に取られたにも関わらず。

 

 

「──っ!? オイ馬鹿後ろォ!」

 

「……あ」

 

 

 振り向いた先に居たのは、高威力の銃(ロケットランチャー)を構えるアリウス生だった。その引き金を引く動作がスローモーションで確認できたが、自身の身体もスローモーションで避けることは不可能だった。

 私は脳で「痛いだろうなぁ……」とは思ったが、結局はそれだけ。自身の身から出た錆であり、死にはしないが相応のダメージは覚悟していた。……いや、本当に死なないだけで、もしかしたら救急医学部送りレベルの重傷を負いそうだなぁとは思う。

 痛いのは嫌だが、仕方ないだろう。

 

 脳は冷静に、しかし手は僅かに震えて、痛みを想定して目をギュッと(つぶ)った。

 しかし、私を包み込んだのはロケット弾の爆風ではなく、温かくも力強い抱擁だった。何事かと目を開けると、イブキを地面に下ろした監視対象の男が全速力で走り、私を抱きしめながら転がってロケット弾を回避したのだ。

 

 

「──がァっ!? くっ、そがァっ!!」

 

 

 カネサダも私というお荷物を有したままで、爆風だけは回避しきれなかったのか、悲痛な呻き声と共にアリウス生に弾丸をバラ撒きながら障害物の陰に隠れる。

 抱きしめられた反動で腰に手を回していたことを思い出し、パッと手を離し──手がなぜか湿っていることに気づいた私は、

 

 

「──ぇ?」

 

 

 その手が赤く染められていたことに思考を停止させる。

 私に痛みがないということは、この血は私を助けてくれた彼のものになる。つまり──

 

 

「イロハせんぱいっ、カネサ──カネサダ!?」

 

 

 遅れて私たちの下にやってきたイブキは、彼の名を叫ぼうとして目を見開いている。私からは彼の正面しか見えないが、イブキは立ち位置的に彼の背後を見ることが出来る。その彼女の反応から鑑みて、出血を伴う怪我を負ったことは想像に難くない。

 当の怪我人(仮)は、イブキの悲鳴に鬱陶しそうに返す。

 

 

「……うっせェなァ。イブキ、そこのアカモップとココに隠れろ」

 

「うぇっ? でも、怪我したカネサダが……」

 

「はッ、たかだか背中の皮が(めく)れた程度で(わめ)くな。こちとら楽しい楽しい戦争(虐殺)の途中なんでなァ。ガキと戦ン中で考え事するような一般人(カタギ)は引っ込ンどけ」

 

 

 そう吐き捨てた彼は、私やイブキの言葉は待たずに場を後にした。

 また戦場で暴れるのだろう。背中の血を滴らせながら。

 

 ……監視対象を行かせてしまったが、彼の言う通り私は足手まといになるだけ。むしろ、彼が「ここに居ろ」と言っているのだから、言葉に甘えてサボる(休む)のが得策だろう。ここに戦車(虎丸)がない以上、戦力的に私が手伝えることは皆無。

 助けてくれたお礼は……後にしよう。イブキを誑かすような男に頭を下げるのは癪だが、身体を張って守ってくれたことは事実なのだから。

 

 そういえば、マコト先輩は無事だろうか?

 思いっきり飛行船が墜落してたが……まぁ、何だかんだ生きているのが我らが議長だし、普通に大丈夫だろう。

 

 

「イロハせんぱい、具合悪いの?」

 

「……大丈夫ですよ、イブキ」

 

 

 私は安心させるように微笑みながら、近づいて来たイブキを安心させようとする。実際に私に怪我はないのだから、彼女の心配そのものが杞憂であることは事実。

 ──そう、全くもって、私自身に不調はない。

 

 

 

 

 

「──でも、お顔が赤いよ?」

 

 

 

 

 

 ……この苦しいくらいに鼓動する心臓が、どれだけ時間が経っても落ち着くことがない点を除けば、だが。

 

 

 

   ♦♦♦

 

 

 

 双方ともに数を徐々に減らしつつ。

 攻防は膠着状態に陥り。

 時間だけが過ぎていくが、相手は増援を望めるのに対し、我々は今ある戦力で対応しなければならない。時間の経過はアリウスの首を絞め続ける。

 

 つまり、早急に決着をつけないといけない。

 分かっている、分かっているが……。

 

 

「……技のキレが落ちてんなぁ。動きもどこかぎこちねぇし、銃の照準もブレが多い。どうした? このまま出血死待ちか? 強者故の余裕ってやつ?」

 

「黙れ黙れ黙れ黙れっ! 黙れぇっ!」

 

「図星だからってカッカすんな。カルシウムちゃんと取ってる?」

 

 

 血だらけの狂人はケタケタ笑う。

 このまま治療もせずに戦い続ければ死ぬことが分かっているはずなのに、島津 オウカは一切の迷いなく私に挑んで来る。撃たれても臆せず、何度も立ち上がり、何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も!

 私自身もここまで長時間戦ったことは稀であり、傷も増え、肩で息をするくらいには疲労している。この男の言う通り、初戦のように動くことは難しいと言える。

 

 しかし(だが)、それだけが私の銃口を震わせる理由にはならない。

 理由は別のことろにある。

 

 彼は狂い嗤いながら、何度目か分からない突撃をする。

 私は銃口を向け、引き金を引く。いくら手が震えていようとも、私が放った銃弾は狙った位置を大きく外れるが、彼の腹部を貫通させる。血と肉の破片が飛び散り、べちゃっと鮮血が地面に落ちる音が耳にこびりつく。

 それでも狂人は止まらない。撃たれながらも彼は私に向けて弾丸を飛ばし、それは私の心臓の位置を正確に捉える。彼のように血を流すことはないが、

 

 

「殺意が足んねぇぞおい! 俺を殺す気あんのかアマぁ!」

 

「……っ! どう、して……っ!」

 

 

 私は今まで人を殺したことはなかった。

 マダムの下で『それを想定した訓練』を積んできた身であれど、前にこの男が叫んだように、私自身に人を殺した経験は皆無だった。アズサに命じた私自身が、人を殺したことがなかったのだ。

 故に、血が、肉が、飛び散る音が、滴る音が、自身の放った弾丸が人を貫く音が、私の精神をガリガリと蝕んでいく。一発撃てば終わりじゃなかったのか。一発撃てば死ぬんじゃないのか。撃つたびに、私の脳が悲鳴を上げる。

 

 

「お前は死ぬつもりか!? なぜ撃たれても立ち上がる!? 何がお前をそうさせる!? 死ぬのが怖くないのか!?」

 

「薩摩兵子に死の恐怖を問うなんざナンセンスだぜ?」

 

 

 あと一発撃てば、あと一発、今度こそは、その願望も虚しく、島津 オウカは私の前に立つ。

 

 

「お前らが散々虚しい虚しい喚いてんのに、死を恐れる理由を聞くとはな。俺? そんなん──後続がいるからに決まってんじゃん」

 

「……は?」

 

「俺がココで死のうが、あのキチガイ共は事を成すだろう。あの馬鹿共は俺を大将と祭り上げるが、所詮俺は島津の功名餓鬼よ。だから、俺は命懸けて無茶ができる。俺の後を託せる奴らがいるから、俺は死に物狂いで舞える。島津家(俺たち)は、戦武者(俺たち)は、そうやって血を繋いで今がある。」

 

 

 死なんざ一々考えるかよ、お前らにはちと分からん感性だろうがな、と島津は嗤う。

 言葉の意味は理解できるが、私にはその考えが理解できない。

 

 でも、これだけは断言できる。

 

 

「さて、そろそろ俺も疲れてきた。もうちょっと付き合えや」

 

 

 私はもう、この男を撃ちたくない。

 全ては虚しいとしても、どうか。どうか。

 誰か──私を助けてくれ。

 

 

 

 




【簡単な自己紹介】

島津(しまづ) オウカ:今作の主人公にして、キチガイ五人衆の一人。サオリにめっちゃ撃たれているが、それにも理由は一応ある。救急医学部と救護騎士団がアップを始めました。

伊集院(いじゅういん) カネサダ:キチガイ五人衆の一人。ヒナには『自身が黒いヘルメットの男であり、協力してくれるのであれば温泉開発部や美食研の悪事に関与しない』と約束し、マコトとは『雷帝の遺産』とは別口で密約を交わしている。

(なつめ) イロハ:万魔殿の戦車長。イロハを誑かしていると思っているカネサダを敵視するが、アリウスからの襲撃を救われて以降は態度が軟化する。なお、カネサダは主人公と同等のクソボケとする。

丹花(たんが) イブキ:万魔殿のマスコット。11歳の飛び級1年生。経緯は不明だがカネサダと仲良くなる。最近はイロハせんぱいもカネサダと仲良くしてくれるので嬉しい。

錠前(じょうまえ) サオリ:アリウススクワッドのリーダー。銃弾で相手の血肉を吹き飛ばすことがトラウマになりつつある。アズサはよ来てくれサオリのSAN値が限界やぞ。
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