キチガイ共の蒼い空   作:十六夜やと

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 どっかの誰かさんのせいで、今回は薩摩色強めの回です。
 前半はセイア視点、後半はミカ視点です。
 ん、コハルとミカのエンカウントシーンを潰した作者は責任取って切腹すべき。

 次回はブルアカ宣言かなぁ。そろそろサオリが可哀そう。
 余談ですが、分からない台詞があっても特に問題はないです。雰囲気で察していただければ。




 感想・高評価ありがとうございます。励みになります。
 誤字報告ありがとうございます。おいは恥ずかしか。



037 暴走する薩摩概念

「……セイアさん」

 

「どうしたんだい、サクラコ」

 

「私たちは動かなくて大丈夫なのでしょうか……?」

 

 

 場所はトリニティ総合学園。

 調印式では未曾有の大混乱に陥る中、私と歌住(うたずみ) サクラコは茶会を楽しんでいた。実際には苦楽云々の話ではないのだが、第三者から見れば吞気に構えているようにも見えるだろう。

 アリウスの襲撃にてティーパーティーのホストたるナギサは最前線で防衛戦の総指揮を強いられ、正義実現委員会もユスティナの鎮圧に総出で対応している。本来なら無関係であるはずのトリニティ所属の男子生徒は、血だらけになりながらも身体を張って襲撃を食い止めており、それはメディアを通じて放映されている。

 現場はまさに阿鼻叫喚。そのような状況下で、動く兆しすらない私に対して、シスターフッドのトップは私の対応に眉をひそめて遠回しに批判の視線を浴びせてくる。

 

 ……話は大きく逸れるが、私は今まで彼女のことを勘違いしていたようだ。シスターフッドの秘密主義・前身の歴史等のフィルターも相まって、彼女のことを『裏で権謀術数を巡らす残忍な長』だと思っていたが……私の協力者が言うには全然そんなことはないらしい

 その前提知識を持って話をしてみると、私は彼の言葉が正しかったのだと悟る。彼女の認識のズレと天然な性格が、立場と言い回しでここまでミスマッチを起こすのか。

 

 そのようなことを考えながら、私は彼女の問いに答える。

 

 

「あぁ、問題ない。現場のことは現場に任せよう」

 

「しかし、戦線は拮抗していると伺っています。ましてや『無関係』のオウカさんも重傷を負っていると耳にしました。事態収拾の為にも増援を送るべきです」

 

「心配はいらないさ。彼のことも……あー……ミネ団長がオウカの救援に向かっているらしい。それに、ここで私と君が動くことの方が、さらなる混乱を生むだろう」

 

「さらなる混乱……?」

 

 

 彼女の疑問に私は短く嘆息する。

 私とてシスターフッド、サンクトゥス派も動かして救援に向かいたい。戦力が拮抗しているのであれば、頭数を増やせば押し切れると考えるのが普通だろう。

 

 だが、私は動かない。()()()()

 ……まさか、私も島津 義久(彼の御仁)と同じ苦悩を味わうとは思いもしなかった。

 

 

「我々トリニティが一枚岩であれば、私も君の意見に賛同したのだがね。エデン条約への不満を持つ一派が明確となっている以上、トリニティを空けることはできない」

 

「……パテル派、ですか。ミカさんが軟禁状態となって、主戦派は鳴りを潜めていると聞きましたが」

 

「トリニティのホストと自警組織が外部で慌ただしくしている中、それは対ゲヘナを推進するパテル主戦派としては絶好の機会だとは思わないかい? 空白となっているトリニティの中枢を押さえ、ミカを旗頭にしてゲヘナに宣戦布告し、なし崩しに対ゲヘナとの戦争状態へと移行する。それくらいのことは、彼女らも考えるだろうよ」

 

 

 あまり賢い選択とは言えないがね、と言葉を付け足しておく。

 さも持論を展開したように見えるが、実際にはオウカを経由して『原作』の流れを知っていただけの話だ。何も知らない第三者から見れば『いつもの予言』に見え、中身は『カンニング』の結果である。

 本来の筋書きでは私も療養中で、ナギサは巡航ミサイルで意識不明。指揮系統が喪失したところを、ティーパーティーに潜むパテル主戦派がミカを解放してゲヘナへの宣戦布告を画策していた。幸いにもミカの興が乗らず、先生と未来の正実のエリート君が何とかしてくれたが。

 

 今回は私とナギサが機能しているとしても、ゲヘナへの不満を持つ彼女らの燻りが消えた訳ではない。十分に警戒はするべきだろう。

 それは協力者……いや、薩摩の異邦人たちも同様の見解を述べていた。アリウスの襲撃は自分たちで抑えるので、私はトリニティでどっしりと構えていて欲しいとお願いされたくらいだ。

 ……うら若き乙女に『どっしりと』とは、少々傷つくぞ。

 

 

『戦国最凶の引きこもりニート大名と謳われる義久公。九州南部から出たことがない彼が『引きこもり』である所以の一つに、動かなかったんじゃなくて()()()()()()……って説があるんよ』

 

『元々は国衆の内乱で薩摩一国まで衰退した島津家(ウチ)だから、そんな血気盛んな国衆を武力(暴力)で頭押さえつけて再統一したわけ。反乱分子を切り崩す暇もなく領土拡大を目指す中、本拠地たる薩摩の地を離れた日にゃあ、反旗を翻される可能性もゼロじゃない。ってか、確実にやられる。だから義久公は薩摩を離れずに背後で目を光らせてたって背景もある』

 

『そして非常に残念ながら……今のトリニティはウチと非常に酷似している。言わば、今のパテル派は隙あらば離反を企てる国衆みたいなもんや。アリウス云々のどさくさに紛れて、再度クーデターを企てるだろう。俺が主戦派ならそうする』

 

『つーわけで、セイアはトリニティに残ってくれ。出来ればシスターフッドにも協力を仰ぎたい。こっちが前線で(タマ)駆けてる最中に、後方が内乱で盤面を返されたんじゃ話にもならねぇ』

 

『……ミライとミナの野郎。これ知ってて俺をトリニティに推挙したわけじゃねぇだろうな? ったく、各派閥(国衆)をまとめてた経験があるからって、島津(ウチ)も好きで我の強い連中の重りをしてたわけじゃないんだけど』

 

 

 薩摩の協力者が語る苦々しい体験談(歴史)は、私たちにも他人事ではなかったよ。私とサクラコのいる場所はシスターフッドが守りを固め、学園内部はサンクトゥス派が警邏に当たっていた。

 正義実現委員会にとって、私の派閥が自警の真似事をする様は不快だったと思われるが、調印式の会場にいる今の彼女らなら不満を口にすることはないだろう。その証拠として、今のトリニティに正義実現委員会の面々は一人も存在せず、最前線で死力を尽くしている。

 

 

「その証拠に──これが、現段階での報告書だ」

 

「拝見します。……既に学園内部でパテル派とサンクトゥス派による武力衝突が十数件?」

 

「被害報告のあった箇所から鑑みて、おそらくはパテル主戦派による攪乱だろう。彼女らの目的は、パテル派首長であるミカの解放。ミカを錦の御旗にして、ゲヘナへの宣戦布告を行うつもりなのだろう」

 

「……すぐにミカさんの『警護』の増員を」

 

「その点も心配いらない。サンクトゥス派の幹部が向かっている」

 

 

 私は彼女に微笑みかけて、そして明後日の方向を向く。

 その余裕の態度にも見える流れに、この場で私たちの護衛についていた他のシスターフッドの少女たちは「さすがセイア様……」と私に対して尊敬のまなざしを向けてくる。

 

 そう、私はサンクトゥス派の幹部をミカの下に派遣した。

 ……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「……オウカ、君の忠告の意味をようやく理解したよ」

 

 

 私がトリニティを卒業した場合、誰を次期首長に任命したとしても、サンクトゥス派は完全に武闘派集団になるんだろうなぁ、と。示現流とチェストの魅力に憑りつかれたサンクトゥス派幹部全員を思い出しながら、私は現実逃避を図るのだった。

 

 

 

   ♦♦♦

 

 

 

「──今こそゲヘナを消し去るチャンスかと!」

 

「あなた様が望んでいた通り、ゲヘナとの全面抗争を……!」

 

「さぁ、今すぐトリニティ全域に戦闘命令を!」

 

 

 私はゲヘナが嫌いだ。

 明確な理由はなく、私が過去に何かされたってこともなく、知人友人が酷い目に遭ったというわけでも……遭ったことがあるかもしれないけど、キヴォトスで酷い目に合うなんて日常茶飯事。ゲヘナの連中からやられた数よりも、トリニティ生同士のいざこざの方が多そう。

 とにかく、私はゲヘナの連中とは根本的に相いれないと思っている。

 だからアリウスと結託してゲヘナを滅ぼそうとした。ゲヘナは嫌いだけど、アリウスとならもう一度手を取れると思ったから。……アリウスも結局はトリニティ(私たち)を恨んでたんだけどね。

 

 そんなゲヘナが大嫌いな私だけど──私の目の前でゲヘナとの開戦を後押しする連中3名を、どこか他人事のように眺めている自分がいた。自身の体温が急激に下がるような、ヤル気がごっそり削がれるような、興味関心がスゥッと冷めていくような、そんな感覚。

 

 私はわざとらしく大きくため息をつきながら、スマホでクロノススクールの生中継を見ていた。

 報道に写されているのは私が嫌いな二人の死闘。一人は私を利用する腹積もりで手を組んでいたサオリ、もう一人は私のクーデターを失敗させてノンデリ発言までしたオウカくん。

 どっちが倒れようが私は関係ないけど、何とも思わないけど、全然何とも思わないけど。……何でだろう、オウカくんが血だらけになっても戦っている姿を見ると、どうして胸が苦しくなるのかな?

 

 

「私は確かにゲヘナが大っ嫌いだけどさ、今はあんまりそういう気分じゃないんだよね。だから悪いんだけど、帰ってもらえるかな?」

 

「き、気分……?」

 

 

 彼女たちは面を食らったように言葉を反芻するけど、私はその表情を確認することなく生中継に目を向けている。状況を分かっているかと詰問されている気がするけど無視。

 

 喚き散らしている彼女らが欲しいのは『私』ではなく、『パテル派首長』であり『大義名分の代表者』であり『全ての責任を取ってくれる生贄(スケープゴート)』なのは私でも理解できる。確かに、今私が全力で動いてセイアちゃんや……シスターフッドもいるらしいからサクラコちゃんもかな? その全てを抑えれば、ナギちゃんが前線で身動きが取れない今、なし崩しにゲヘナとの全面戦争を布告することも出来ないわけじゃない。

 でも、戦争状態になったとして、勝てるなんて思ってない。オウカくんも言ってたじゃん、相当な根回しをしなきゃ全方位が敵になっちゃうって。あの時の私は出来るって思ったけど、改めて冷静に考えてみると無謀だったなーって痛感する。

 

 ……ってのを、彼女たちは理解してないんだろうなー。

 そこを指摘して説明をしてあげるほど私はお人好しじゃない。

 でも、そろそろ本気で邪魔だと思ったので、

 

 

「私が『気分』でゲヘナが嫌いなんだから、その気分が乗らないんだから帰って欲しいの。それとも何? 何かあったときに責任を押し付けられる相手がいないと、あなた達は宣戦布告する度胸もないの?」

 

「……何だと?」

 

「言わせておけば……っ!」

 

 

 私の言葉が図星だったのか、返って来たのは暴力()だった。

 いきなり三方向から殴られて、思わず体勢を崩して倒れ、持っていたスマホは明後日の方向に飛ぶ。

 

 

「世間知らずのお嬢様がっ!」

 

「わざわざ牢から出してあげようっていうのに!」

 

「調子に乗って……!」

 

 

 私が反撃しないことをいいことに彼女らは私を殴って、蹴って。

 ……あぁ、もう。

 痛いなぁ。

 

 

「自分の立場を理解しろ!」

 

「もうティーパーティーから解任前の身で!」

 

「わざわざ来てあげたってのに、それを……!」

 

 

 うるさいなぁ。

 一応は反省中の身だから反撃しなかったけど、このまま黙って殴られ続けるのもアレだし、ナギちゃんにまた怒られるかもしれないけど──()()()()()()

 私は身体を起こして目の前の連中を、

 

 

 

 

 

「ないごてけぇっ!?」

 

「「「「!?」」」」

 

 

 

 

 潰そうとしたところで、他の生徒たちが私の反省室にドシドシと侵入してくる。私に暴行を加えていた彼女らは鬱陶しそうに侵入者へ目を向け、目を極限まで見開く。

 

 そこにいた人たちに、()()()見覚えがあった。確か、セイアちゃんの派閥の人たちで、サンクトゥス派の幹部を担っていたはず。

 一応は、って言葉を付け足したのは、その風貌に若干の面影はあるけど──筋骨隆々のゴリゴリマッチョで制服がパッツンパッツンに様変わりしていたから。何なら正義実現委員会のハスミちゃんよりも背が高いサンクトゥス派の幹部たちは、ギラギラと瞳孔を鋭く光らせながら私たちに近づく。

 幹部ちゃん(?)は私の姿を一瞥して、ぎろりとティーパーティーに所属するパテル主戦派を問い質した。

 

 

「……ミカどんをちんがら()ったくったのは、おまんさぁらじゃっとな?」

 

「え、なんて?」

 

「おまんさぁらがごいとけいたくるっと()ちょい!」

 

「何言ってるのか全然分かんないけど……部外者が口を挟まないで!」

 

 

 とりあえずニュアンスで、私に対して暴行したのは誰なのかを聞いた……んだと思う。本当に何を言ってるのか全然分からないから、主戦派も怒りを含む口調で遠回しに肯定した。

 

 その肯定したのがマズかったんだと思う。

 犯行は自分たちであると自白したのを確認した幹部ちゃんたちは怒気を露わにして、

 

 

「おまんさぁらないしちょっとね! やっちょっことが(げん)のねのか! 食らわんねチェストおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!」

 

 

 主戦派の生徒を殴り飛ばした。

 殴られた生徒は勢いのままに壁を貫通し、回転しながら先の壁をも粉砕し、どこかにか見えなくなった。

 他の二人は突然のことに反応できずにいたけど、

 

 

「おまんもチェストおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!」

 

「え、ちょ──」

 

「チェストおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!」

 

 

 最初の子のように壁の向こう側に消えて行った。

 彼女らを問い質した幹部ちゃん以外のメンバーは消えて行った主戦派を回収するために、破壊された壁の向こうへ探しに行く。残った幹部ちゃんは落ちていた私のスマホを拾い、自身のハンカチで汚れを綺麗に拭き取り、蹲っていた私の前で膝を折りながら返してくる。

 

 

「怪我はなか?」

 

「……え? あ、うん」

 

「壁ば破壊しっせぇ、でいなこつしもしたっ」

 

 

 スマホを私に渡した少女(?)は、律儀に頭を下げて破壊された壁の奥に消えて行った。

 

 

「……え?」

 

 

 取り残された私は、ただただ呆然とするだけだった。

 

 

 

 




【簡単な自己紹介】

百合園(ゆりぞの) セイア:ティーパーティーの『サンクトゥス派』のリーダー。血気盛んで好戦的な幹部連中を抑えるのに四苦八苦している。彼女らの発する言語が薩摩弁なのを最近ようやく知ったが、だからと言って内容が分かるわけじゃない。

歌住(うたずみ) サクラコ:シスターフッドのリーダー。最近のトリニティでは『チェスト』が流行っていると知った。さっそく学ばなければ。

聖園(みその) ミカ:『パテル』派のリーダー。今回の被害者。コハルと先生とのエンカウントルートが消滅したので、彼女のストレスが全然緩和されてない。ヤバい。





(パテル派)主戦派ちゃんズ:ティーパーティー所属で『パテル派』の主戦派。後にサンクトゥス薩摩武士団に根性を叩き直されて改心する。そっか、ゲヘナとか関係なく無礼(なめ)てきた連中を己が手でチェストすれば良かったんだ。

(サンクトゥス派)幹部ちゃんズ:サンクトゥス派の幹部。示現流とチェストと薩摩に神秘を侵食され、ヘイローが丸に十字になりつつある。薩摩弁を介するため、一般トリニティ生には何を言っているのか理解されない。一般トリニティ生にあるまじき勤勉さと誠実さを兼ね備えた模範生()。日々の鍛錬により某サイヤ人みたいな肉体を得た。どういうことだってばよ。
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