次回からは戦後処理を数話して今章は終了です。
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人の怨みつらみが幾ばくかの言葉で覆ることは稀である。たとえ彼女らが有する『怨み』が作為的なものだったとしても、『悪い大人』によって植え付けられた感情だったとしても、そう簡単に意識は変わるもんじゃない。
それは歴史が証明しており、何より
かの有名な『関ヶ原の戦い』で
そんで明治維新のあれこれでウチは会津の方々から怨まれてるんですけどね。
何が言いたいのかというと──
「……まだだ、まだ我々の憎悪は終わってない!」
こんな感じで、錠前さんがそう簡単に諦めることはないってこった。
そりゃあ彼女的には受け入れ難いだろうよ。
トリニティやゲヘナへの憎悪は、ベアトリーチェとかいう産業廃棄物によって昔から仕込まれたもの。世の虚しさを説くことを自身の指針とし、復讐の名の下にマダムの駒として生きてきた少女たち。
そんな彼女たちにとって、アズサの言葉は猛毒で劇薬であり自身の否定でもある。アズサの言葉を受け入れたら最後、彼女たちはこう思うわけだ。──あぁ、それならば
いやー、トリニティのクーデター事件の際に捕虜にしたアリウス分校の生徒たちを勧誘するのも大変だったわ。頑張って頑張って、なんとか説得してウチに入社してもらった。
今では立派なアリウスん兵子よ。
「アズサぁ……! 全て否定してやる! お前がトリニティで学んだこと、経験したこと、気づいたこと! 全て、その全てを! 全ては虚しいのだから!」
後ろの仮面の少女の静止を振り切って、彼女は再び憎悪の炎を瞳に宿す。
補習授業部のメンバーは警戒するように銃器を構え、対する錠前さんも再び獲物を手に取る。全てが虚しく、無意味であると謳った少女は、否定することに固執する。
俺は少し考えるそぶりをして口を開いた。
んな心境だったせいなのか知らんが、そんなに大きな声を出したつもりはなかったのに、薩摩のキチガイの独り言は双方の動きを止めた。
「……ふーん、まだ折れんか」
「……っ、す、全てが虚しいこの世界で、真実を思い知──」
「そうか、足りんか」
「──は?」
あくまでも自身の思考をまとめるために口にしているだけの言葉の羅列。しかし、錠前さんにとっては死刑宣告も同義の発言でもあった。
目前にいる
「何を磨り潰せばいい? 何を踏み躙ればいい? 何を穢せばいい? 人か? 場所か? ユスティナか?
「お、オウカくん?」
「……考えても仕方ないか。順に潰せばいいや。希望があるから人は足搔く、望みがあるから人は立ち上がる。なら、
おおよそ青春物語を目指す側の台詞とは思えないが、俺は懐のスマホを操作しながら錠前さんに問う。
何を察したのか、錠前さんは俺のスマホに向けて銃口を向ける。しかし、遅い。反射的に俺は彼女の銃を撃ち抜き、彼女の愛銃を遠くへ飛ばす。
既に彼女との楽しい楽しい殺し合いは終わりであり、あとは彼女たちに白旗を振らせるだけ。狂人のように騒いでいた俺が淡々と事を進める様に、アリウススクワッドのリーダーは言い知れぬ恐怖を無意識に感じとる。
「(俺の)時間がないから早急に終わらせよう。──アリウス分校の諸君、武器を捨てて速やかに投降せよ。これ以上の戦闘は無意味である。寛大な処遇を約束しよう」
「ふざけるなぁ! 我々はまだ──」
「
刹那、調印式の会場から大規模な爆発が連鎖的に発生する。
銃弾爆弾飛び交うキヴォトスなのは周知の事実だが、ここまで連続的に徹底的に炸裂する爆発音は、中々にお目にかかれないだろう。俺はこれを『卑遁・互乗起爆札の術』と呼んでいる。
バッと会場方向に視線を移した錠前さんの表情から察するに、アリウス分校の侵攻計画にあったシナリオではないのは明らか。耳をつんざくような音のする方角から、重要文化財だと思われる『古聖堂』が発生源であることは想像に難くない。
それこそ──
「な、にが……」
「さっすが温泉開発部。いい仕事をしやがる。──再度通達する。アリウス分校の諸君、武器を捨てて速やかに投降せよ。これ以上の戦闘は無意味である。寛大な処遇を約束しよう」
「まだ──」
「
錠前さんの言葉を発する前に、今度は古聖堂よりも遠くで爆発音が聞こえた。しかし、先ほどよりも爆破の音が長く続き、長距離で大規模な爆発が起こったのは、ここに居る全員が感覚的に察しただろう。
今度は温泉開発部は何を爆破したのか。
……さっさと古巣に帰れば、阻止できただろうに。
「おや、また爆発音。こりゃあ、
「待──」
「
俺は一つ息を吐き、青ざめた錠前さんを見据えながら冷徹に下す。
「
『『『『『──!!!』』』』』
ここにいる全員並びに原作知識を持つ者が聞けば「何言ってんだコイツ?」と疑問を浮かべる命令だが、当の命じられたユスティナ聖徒会の亡霊たちは、待ってましたと言わんばかりに不思議な雄たけびを上げ、反転しアリウス分校の軍勢に襲い掛かった。
アリウス側からすれば想像し得ない奇襲であり、劣勢の彼女らが拠り所としていた戦力だっただけに、それが唐突に裏切ったのだから大混乱だろう。
余談だが、ここだけではなくトリニティやゲヘナが有する戦線でも同様の事態になっており、各戦線のアリウス勢が白旗を挙げるのは時間の問題。
その惨状を目の当たりにしたアリウススクワッドのリーダーは茫然とし、怒りの矛先を元アリウス生の天使から俺に変える。
「何をした!? なぜユスティナが我々を襲う!?」
「さぁ? 俸禄と忠誠が足りなかったんじゃねぇの?」
すっとぼけたように彼女の疑問を鼻で笑うが、もちろん彼女らがユスティナへの賃金を払い忘れたわけでも、忠誠心が低くて寝返ったわけでもない。そもそもの話、んな次元の話じゃない。
原作においてアリウスが戒律を歪めて発足したエデン条約機構は、ヒフミをティーパーティーのホスト代行・空崎さんを万魔殿の議長代行と見立て、先生が連邦生徒会長の代理として新たなエデン条約機構を発足し、二つの異なるエデン条約機構の衝突でユスティナを無力化した。
しかし、それがまかり通るのであれば俺は思ったわけだ。
アリウスが戒律を歪める前にエデン条約機構を発足しとけば良くね?って。
軍事費用をチャラにすることで得たホストの代行権限を持った俺が、裏取引で議長の代行権限をブン獲ったカネサダと共に、先生と調印式のリハーサルをしたところ、面白いことにエデン条約機構が発足されてしまったわけだ。俺も半信半疑で成功するとは思わんかった。
そんでユスティナ聖徒会の権限は狂人の手に渡ったわけだが、事前に俺は亡霊たちに以下の命令を指示した。
一つ、一時的にアリウスが発足した戒律に従うこと。
一つ、上記は俺の命があるまで継続すること。
一つ、キヴォトス内における一切の不殺生。
簡単に説明すると、アリウススクワッドはユスティナを制御していたと思い込んでいたが、実際には最初から最後までキチガイの手の内だったわけだ。彼女らもトリニティとゲヘナを潰すのに尽力をしたんだろうが、準備段階から既に勝敗は決まっていたということである。
悲しいけどこれ戦争なのよね。
「最後。アリウス分校の諸君、武器を捨てて速やかに投降せよ。これ以上の戦闘は無意味である。寛大な処遇を約束しよう」
「──私たちの負けだよ、オウカ」
錠前 サオリという少女は一戦場単位での即断即決に長けた人物なんだろうが、戦略的に臨機応変に対応できる人間じゃない。有能な『将』の気質はあるが、少なくとも『王』の器じゃない。
まぁ、マダムの駒に戦局を見極める力があるとは思えんし、そんな不穏分子をマダムが許すはずがないし。
だからこそ、俺は彼女の前で盤面を矢継ぎ早にひっくり返した。彼女に思考する時間を与えてはならない。逆転の目を探させてはならない。大勢を決断できない者に、非常な一択を突きつけ続ける。俺が古聖堂と地下墓地を吹っ飛ばし、ユスティナで反転攻勢させたのは、彼女に正常な判断を下させない一点にある。
俺は錠前さんの最終判断を待とうとしたが、降伏を受け入れる言葉を下したのは彼女ではなく、彼女の後ろにいた少女だった。……錠前さんが最後まで白旗を振らなかった場合、討ち取ろうかとも考えていた『ロイヤルブラッド』の少女っすね。
「だ、ダメだ姫っ! 喋ると彼女が──」
「大丈夫、もう終わりだから。それに、もう私たちが挽回できる状況じゃない。オウカ、寛大な処遇を約束しようって言葉は嘘じゃないよね? 私たちはともかく、他の子たちは……」
「
「そっか、それは良かった」
傍若無人なゲヘナと慇懃無礼なトリニティに少しだけ不安を覚えたが、流石に双方のトップは無暗に彼女らへ危害を加えることはしない……はず。万が一、んな馬鹿なことをするのであれば俺が交渉に行くし、場合によっては
どっちにしろアリウスの中核が銃を捨てたのだ。
これ以上の戦闘は無意味だろう。
「この戦、我々の勝利である! 兵子らよ、勝鬨を上げよ!」
「「「「うおおおおおおおっっっ!!!!」」」」」
戦場に響く勝利宣言に、ウチの社員──とユスティナは雄たけびを上げ、各方面にも戦争の終結を告げる連絡を取ることで、此度の戦は静かに幕を閉じるのだった。
♦♦♦
って思った。
「──オーカ」
「んぁ? どしたんアイリス。こっちは身体に鉛玉を
アリウススクワッドのリーダーとの
そういった意味も込めたのだが、彼女は不意に背後から俺の腰に抱き着いた。
身長差的に俺の腰に彼女のふくよかな双丘が当てられるのだが、男としての役得感よりも今から起こるであろう不穏な予感の方が思考の大半を占める。
「みんな心配した。反省して」
「いやそれは分かったから少し待
「えいっ」
可愛らしい掛け声とともに、俺は彼女から渾身のジャーマン・スープレックスを受けることになった。錠前さんとの戦闘とは比にもならん衝撃が俺の全細胞を駆け巡り、衝撃波を以てして肩まで地面に俺は突き刺さった。
近くから「あなたがサオリ?」「……あ、あぁ、そうだ──ガッッッ!!??」と、似たようなオブジェが生成されたような気がしたが、確認するよりも先に俺の意識は暗闇に消えて行くのだった。
後に救護騎士団の団長はこう語った。
──救護に向かったら救護対象2名が地面から生えてた、と。
【簡単な自己紹介】
アイリス・ワルフラーン:キチガイ五人衆の一人。有言実行。
マエストロ:ゲマトリアのメンバー。今回出番なし。神秘を用いて自身の芸術を表現することを目的としている。なんか知らんうちに自身の芸術の失敗作が古聖堂の下敷きになってて唖然とした。