次回辺りで本章は終了予定です。そこから幕間数話挟んで、パヴァーヌ編かなぁ。今回よりは早めに投稿したいです。
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2025/5/27 会話内容を一部修正しました。
2025/5/28 サブタイトルを変更しました。
未曾有の調印式襲撃事件から数日が経過した。
アリウススクワッドの降伏により組織的抵抗力を失った分校の生徒は白旗を掲げ、トリニティとゲヘナの勝利と言う形で終幕を迎えた。巡航ミサイルやユスティナ聖徒会の戒律を使用されたにもかかわらず、奇跡的に死者がなく負傷者も少数だったのは不幸中の幸いだろう。
戦後処理として、投降したアリウス分校の生徒はトリニティで預かることになったらしい。元々はトリニティ側の勢力であったこと、ゲヘナ側が即座にアリウスの捕虜を引き渡したことが要因だろう。曲がりなりにも被害を受けた万魔殿の議長も、よくもまぁ素直に引き渡したもんだと感心するばかりである。本当に何でだろうねぇ。(すっとぼけ)
捕虜となったアリウスの生徒も必要最低限の生活は保障されているのだと聞いた。トリニティ内部から捕虜の扱いに関して寛容すぎないか?と批判的な声も上がったが、「降り兵の首は恥じゃ」と物理的に一蹴されたらしい。要約すると、投降した兵を無暗に嬲るのは良くないってことである。
後は……アリウスの本拠地の件か。トリニティのクーデター未遂・調印式の襲撃で大幅に兵力を失った『マダム』率いるアリウス分校の残党は、最後の生命線である
そんで今回の襲撃事件の一番の負傷者たる俺は、トリニティの救護騎士団が根城としている病院の一室で惰眠を貪っていた。
先に言っておくが入院するほど俺は重傷を負ったわけじゃない。世間一般からすると、ヘイローの宿ってない身体に数十発……下手すると3桁かもしれない銃弾を浴びたことは『重傷』にカテゴライズされるかもしれんが、どっかの四足歩行の変態に心臓の真横に刀をブッ刺されたときよりは全然マシである。
しかし、俺は腕と足に包帯を巻き、ゴロゴロしている。
なぜかというと──
「──失礼します。お見舞いに……あら?」
「ハナコさん?」
俺専用と化した病室に顔を出したトリニティの才女──ハナコは、予想外の人物と予想外の場所で出会ったことに目を見開く。対するティーパーティーのホスト──ナギサも、まさかの来訪に茶をしばいていた手を止める。
双方の脳がフル稼働して現状を把握しようとしているのを、俺は状況をフル無視して来訪者に声をかけた。
「うーっす、お見舞いお疲れさん。もう退院してOK?」
「あらら、オウカくんにはあと2.3カ月は入院して欲しい……というのが
「はははっ、冗談にしては笑えんなホントにマジで」
「本心です♡ ……ところで、ナギサさんはなぜここに?」
訝しげな表情を自校のトップに向けるハナコ。まるでナギサがここにいることを非難しているようにも聞こえるが、
変態才女が言いたいのは──わざわざ茶会セット一式を丸々持ち込んで、トリニティの長としての仕事をしながら病室に居座ってんのはどうしてなのか、と言うことだろう。忙しい彼女が時間を割いて見舞いに来ているのであれば分からんこともないが、完全にここをキャンプ地としているのは普通に考えておかしい。
その問いを投げかけられたナギサは静かに微笑む。
疑問は想定内と言いたげに。
「トリニティのホストとして、調印式襲撃事件の功労者を労うのは当然のこと。ですが、今はトリニティ内外が非常に慌ただしく、慰撫する時間を設けることが非常に困難な時期でもあります。だからと言って、オウカさんの献身を軽んじることはあってはなりません。故に、苦肉の策としてオウカさんの病室で私はホストとしての仕事を遂行しているんですよ。オウカさんの経過を観察しつつ、トリニティの雑務もこなすことが出来る。一石二鳥だと思いませんか?」
「……本音のところは?」
「最近全然オウカさんとの時間が取れなかったので、セイアさんに無理言って来ました」
おかげさまで俺がスヤァすると、夢ん中でセイアが延々と愚痴を吐き出してくるんすよね。
「つか、本当にいつまで俺は入院せねばならんの? 十分な睡眠と十分なタンパク質(お肉)があれば、今頃は完全復活してたんやが。病院食は質素過ぎて治りが遅い」
「前々から思ってたんですけど、オウカくんの身体ってキヴォトス人とは別ベクトルで頑丈じゃないですか?」
曲がりなりにも薩摩兵子やからな。
まぁ、脳天ブチ抜かれたら死ぬんすけど。
「あー、早く
「……オウカさん」
「んな悲しそうな顔すんな。俺も脱走自体が無駄だって知ってっから」
この病室自体に監視の目はなく、そのため補習授業部の面々がローテーションで見舞いに来ることで、俺が無茶をしないように牽制しているのは薄々勘付いていた。なんなら、ナギサがここで仕事している時点で、バレずに逃げ出すことは不可能に近い。
……いや、ね? やろうと思えば全員を振り切って逃げ脱すこと自体はそう難しいことじゃないんよ。
そう、
「な?
「当然です」
「「──っ!?」」
会話の途中で虚空に同意を求めると、スッと姿を現す蒼き天使。救護騎士団の団長──
先生曰く、自身が怪我をしたときにTPOガン無視で救護騎士団のナースが救護しに来ると聞いて、先生は愛されてるんすねーと軽く流したことはあったが、こうして同じような現象に出くわすと有難さよりも恐怖が勝るのは何故だろうか。まぁ、普通に考えて背後に転移するような芸当をされれば、さすがの俺らも驚くわ。
「オウカさんの身体に残っていた弾丸は全て摘出しました。失われた分の輸血も滞りなく終わり、多少出歩く分には問題ないでしょう。……ですが、私はあなたを信用しておりませんので」
「こりゃ手厳しい」
「自身の身体を蔑ろにするような戦い方をするあなたを、救護を司る者として看過できません。ベッドに縛り付けないだけでも温情だと思って下さい」
ヘイローを持たない貧弱な怪我人に対して、救護騎士団の長は冷めた視線を向ける。調印式襲撃事件で一番血を流したであろう人間に向ける鋭さじゃないと声高にしたいが、俺は彼女の言葉に肩をすくめるだけに留めた。
俺も彼女の名前だけは聞いたことがある程度の認識であり、どっかの馬鹿共からの情報も少ないため、実際にこうやって話をしたのは襲撃事件以降が初めてだったりする。
トリニティ総合学園の3年生で、救護騎士団の団長を務める
正義感と使命感が強く、実直で真面目な性格をしており、頑固で思い込みが激しい面もある少女。まさに
救護活動に対して狂気じみた思想をお持ちで、何ならどこぞのナイチンゲールみたいに「ブン殴ってでも助ける」を有言実行するとかなんとか。噂によると、『ミネが壊して騎士団が治す』という格言もあるらしく、彼女の奇行と周囲の評価がこれだけでも理解できるはず。
話が通じない系の看護師な彼女だが、ご覧の通り俺との性格相性は死ぬほど悪い。それこそ某子ウサギ公園でデモしている某RABBIT小隊の小隊長よりも悪いと思う。
そりゃそうだ。ブン殴ってブッ壊してでも『救護』を遂行する彼女と、『命惜しむな名を惜しめ』を掲げる薩摩兵子が相性良いわけがなく。怪我の治療よりも元凶を取り除くことに趣を置く彼女にとって、俺は『存在そのものが救護対象』なのだ。
ここだけの話だが、退院を巡って2.3回は彼女と(物理的に)衝突している。俺も頑固な自覚はあるが、彼女も大概だと思うぜ、うん。
終始一貫、行動全て筋が通っている彼女は俺的に好印象なんだが、彼女的には俺って嫌いなタイプなんだろうなぁ。まぁ、俺も万人に好かれるような人間じゃねぇし。
……むしろトリニティという毛色の違うお嬢様方から好印象持たれていることにビックリするんやけど。
「……ミネ団長と仲が良いんですね」
「ナギサ様、これは必要な『救護』なのです。この命知らずの頑固者に必要な『救護』を提供するには、こうやって四六時中監視することが必要であると私は悟りました。他の団員には荷が重すぎる故、こうして私がオウカさんの担当医をしているわけです。仲が良い、とは違いますので訂正をお願いします」
「どうしたナギサ。仕事し過ぎて正常な判断が出来なくなってきてるぞ? またドライブ行く? どっからどう見ても、過保護なまでに監禁するイカれナースと健常者の構図だろうが」
「「………」」
チベットスナギツネでも、ここまで疑心暗鬼な視線を向けて来ないだろうよ。
疑いの目を向けてくるハナコとナギサに、俺は無理矢理話題を変えることで換気を行う。本当の事しか言ってないが、どんだけ言葉を重ねても無意味だろうとなんとなく分かる。悲しいね、バナージ。
「そういや話が360°変わるんやが、調印式んとき本丸……学園側は大丈夫だったん? セイアからは一応無問題って聞いてたんだが、なーんか歯切れ悪いんよな。本当に大丈夫やった?」
「一回転して戻ってませんか? ……私の方でも確認しましたが、特に問題等は起こらなかったと伺ってます。一部クーデターの機運も話にありましたが、サンクトゥス派で滞りなく鎮圧したと」
ティーパーティーのホストが言っているのだから本当に問題なかったんだろうけど、その彼女も何か思うことがあるのか表情を曇らせる。
そして、助けを求めるように上目遣いで問うてくる。
「私の見間違いでなければ、なんですが。セイアさんの派閥の幹部の方々が……えっと、少し……少し? 雰囲気が変わられたような気がします。何と言いますか、銃よりも素手の方が得意な姿になられた気が」
「そういえばコハルちゃんも言ってましたね。サンクトゥス派の問題行動の内容が少し変わった、と。いじめや政争から、直接的な殴り合いでの暴行事件に移り変わった気がするとの事です」
「サンクトゥス派の変化は私も把握していましたが、救護する程の事でもないので気にはしてませんでした。それに、彼女らの朝に行う鍛錬は、むしろ健康的に良いかと思います。私も『チェスト』なる朝の鍛錬に参加させてもらっていますよ」
「オウカさんは何かご存知ですか?」
「いや、知らないっすね」(即答)
ホストの質問に脊髄反射で答える
サンクトゥス派の変化はセクシーフォックスの管轄なので、俺は知らぬ存ぜぬを押し通すつもりだ。全ての責任は示現に魅入られた首長の責任であり、俺に非は一切ない。そう思ってないとやってられん。
俺もセイアから「幹部連中のガタイが良くなり過ぎてる」だの「キャプテン翼の頭身になり始めた」だの「これティーパーティーが何かやらかしたら
黒服さん曰く、神秘の侵食が……理性ある反転が……みたいな話だったが、俺はその道の専門家でもないので彼の言っていることは分からんかった。百合豚やロリコン野郎なら分かるかもしれんが、アイツらにバレると俺がロリコン野郎に殺される。(チェスト錬しているセイアやミネ団長を横目に)
「っと、失礼」
サンクトゥス派の惨状について語り合うホストと団長と変態に断りを入れて、ちょうどスマホの着信が鳴ったので貰う。相手はアビドスのキチガイだった。
「っす、どないした?」
『退院まだ? まだ? まだ?』
「せやな。救護騎士団の団長が許してくれへん」
『四肢繋がってれば事実上は無傷でしょ? そんなことよりアルちゃんが仕事に押しつぶされそうだから戻ってきて欲しいんだけど。早急に。オウカの仕事まで引き受けちゃってんよ、あの娘』
「いや、お前がやれよ」
『僕の座右の銘は「定時退社」なんだけど?』
座右の銘とか知らんがな社長死んじまうぞ、つべこべ言わずサビ残しろやアホンダラ。と言いたくなったが、これ退院の口実になるんじゃね、と言葉を飲み込む。
「了解した。ちょっと相談してみ──」
「失礼します」
などと言ったが運の尽き。
ひょいと通話中だった俺のスマホを取ったミネ団長は──そのままスマホを真っ二つにへし折った。一瞬のことで俺の脳はフリーズし、再起動したときには後の祭りだった。
「……
「『救護』に必要だったので折らせてもらいました。申し訳ございません。こちらが替えのスマホです」
まるで弁償すれば大丈夫だと言わんばかりに、その堂々とした立ち振る舞いを目の当たりにしながら、俺はキヴォトスで初めて『畏怖』の感情を他者に抱くのだった。
あとスマホの連絡先にミネ団長の番号だけが登録されており、ハナコとナギサが某探偵のうさみちゃんみたいな目を俺に向けていたのは遺憾だった。
【簡単な自己紹介】